テクニック “だけ”を教える国語指導が、お子さんの「読む力」を奪う?

2026年度入試も落ち着いたところで、ここまでの入試問題を振り返りつつ近年のトレンドをふまえ、これから中学受験を目指すご家庭が、国語とどのように向き合い、どのように学ぶべきなのか、今私が感じていることをまとめました。

「選択肢は本文と照らし合わせて、言い過ぎを消す」「理由の記述は”〜から。”で終わる」「抜き出しは傍線部の近くを探す」

こうしたテクニックを塾で教わってきたお子さんは多いと思います。教わった直後はスッと正解できることもある。お子さん自身も「国語、分かってきた」と手応えを感じているかもしれません。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。お子さんは本当に文章を「読めて」いますか?

◆今の入試で、どんな文章が出ているか

2025年から2026年にかけての中学入試で、以下のような印象的な出題がありました。

竹端寛さんの『能力主義をケアでほぐす』。2026年度入試では市川中や昭和学院秀英中で出題されています。タイトルだけ見ても、大人でも一瞬考え込む。この文章を理解するには、戦後の日本企業が年功序列で動いていたこと、90年代以降、欧米式の成果主義が流行したこと、そしてコロナ禍を経た現在、行き過ぎた能力主義を見直そうという動きが出てきていること。この大きな流れを頭に入れておかないと、筆者が何を問題にしているのかすら掴めません。

榎本博明さんの『自己肯定感は高くないとダメなのか』も、2026年度の専修大松戸中や淑徳与野中で出題されました。「自己肯定感は高いほうがいい」「とにかくほめて伸ばすことが正義」。世の中ではほとんど常識のように語られています。その常識に対して「本当にそうか?」と問い返す内容です。前提を覆す文章を読み解くには、まず「世の中がそう信じている」という前提そのものを理解しなければなりません。

物語文でいえば、佐藤いつ子さんの『透明なルール』。2025年度入試では早稲田実業や吉祥女子、城北、栄東など10校以上で出題され、物語文として最多でした。女の子のグループの中で「なんとなく決まっている序列」に苦しむ主人公の葛藤が描かれます。特に男子にとっては、日頃意識することのない女子特有の人間関係――ちょっとした視線の動きや、LINEの既読スルーに込められた意味――を読み取ることが求められます。

◆入試問題は「社会の鏡」である

こうした文章が選ばれるのは偶然ではありません。

能力主義の功罪、自己肯定感の捉え直し、同調圧力と個の尊重。どれも今の社会で議論されているテーマです。入試の素材文にこうしたテーマが増えているということは、出題する側がそれだけ「今の時代に通用する読解力」を見ようとしているということです。

入試国語は、単なる得点を取るゲームではない。「あなたはこの社会の複雑さを、どこまで読み解けますか?」という問いが、そこにはあります。

◆説明文の壁、物語文の壁

この「読む力」には、二つの異なる壁があります。

ひとつは説明文の壁。筆者の主張を理解するために、その背景にある社会の文脈を知っている必要がある。年功序列がなぜ生まれ、なぜ成果主義に移行し、なぜ今それが見直されているのか。この流れを知らない子どもにとって、文章はただの文字の羅列になります。「自己肯定感は高くなくてもいい」と書かれていても、「え、高いほうがいいに決まってるじゃん」で止まってしまう。筆者が何と戦っているのかが見えないのです。

もうひとつは物語文の壁。自分とは異なる立場の人間の気持ちを想像する力です。『透明なルール』の場合、女の子の4人グループ内の空気を読み取る必要がある。登場人物の何気ない一言や、目を合わせなかったという描写の奥にある感情。これは消去法では解けません。自分とは違う他者の内面に踏み込む想像力が問われています。

◆ テクニックでは超えられない壁

誤解のないように言えば、テクニック自体が悪いわけではありません。選択肢の消去法も、記述の型も、使える場面はあります。

ただし、それは文章が読めているという前提があっての話です。

本文の主旨を掴めていない子が消去法を使うとどうなるか。選択肢の言葉だけを見比べて、本文を読み返すことなく答えを出す。正解していても、文章の中身は頭に残っていません。

厄介なのは、テクニックには即効性があることです。教わった直後は解けた気になる。子ども自身が「国語、できるようになったかも」と感じる。保護者もテストの点を見て安心する。でもそれは、初見の複雑な文章に出会ったとき、あっさり崩れます。模試で偏差値60前後を取っていたのに、本番で見たことのないテーマの説明文が出た途端、大問まるごと失点する。そういうケースを、私は何度も見てきました。

◆テクニック先行になりがちな事情

では、なぜテクニック中心の指導が多いのか。

これは個々の講師の力量の問題というより、国語指導そのものが抱える構造的な難しさだと感じています。

テクニックは教えやすい。「消去法のやり方」は一斉授業で伝えやすく、子どもも「なるほど」と反応してくれます。授業として形になりやすい。一方で、本文をじっくり読ませて「筆者は何を言いたいのか」「この登場人物はなぜこう行動したのか」を考えさせる授業は、時間がかかります。しかも子どもの理解度はまちまちで、目に見える成果が出るまでに時間が必要です。

集団授業では特に、一人ひとりの「読み」に丁寧に向き合うことが難しい。限られたコマ数の中で、保護者からは「点数が上がる方法を」と期待される。すぐに使えるコツを渡したくなるのは、ある意味自然なことです。

一方、個別指導の場合、経験が浅い講師は入試トレンドが追えていなかったり、ベテラン講師でも人によっては10年以上前の指導法をアップデートしないまま化石のようなテクニックを引きずっているなど、個人差が激しく、表層的かつ普遍的なテクニックのみを身につけていくといったケースも多々あります。

だからこそ、保護者の側にも知っておいてほしいことがあります。テクニックは道具です。でも、文章を読み解く地力がなければ、その道具を使う場面すら正しく判断できません。

◆ 「読む力」は、どこで育つのか

最後に、保護者としてできることをひとつだけ。

お子さんが取り組んでいる国語の文章を読んでみてください。大人であれば10分もかからず読める内容です。その上でお子さんに「どんな内容だった?」と質問してみてください。内容をざっくりとでも自分の言葉で説明できるなら、読めています。「えーと、なんか自己肯定感がどうとか……」で止まるなら、答えは合っていても読めていない可能性があります。

正解したかどうかより、読めたかどうか。

入試本番で初めて目にする文章は、テクニックだけでは通用しない未知の世界です。そのとき頼りになるのは、消去法のコツではなく、「何が書いてあるか分からないけど、食らいついて読んでみよう」という粘り強さと、他者の考えを想像する力。それは一朝一夕では身につきません。だから今のうちから、点数の裏側にある「読めているかどうか」に目を向けてほしいのです。

国語の基本はコミュニケーション。親子で共通の文章に触れ、その内容について話し合うことが国語を伸ばす第一歩です。

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