内容:庭の夏蜜柑の木と果実の「処理」について
✅ 「果実カレンダー」を作り、週末の時間を確保している
今回は四谷大塚5年生の第8回組分けテストの国語を解説していきます。物語文と随筆文の2つの文章が出題されており、どちらも中学受験で頻出のテーマを扱っています。設問の解き方とともに、文章の読み取りポイントをしっかり押さえていきましょう。
小学5年生の実利果(みりか)は、不思議な喫茶店「純喫茶クライ」を訪れた日の夜、両親がけんかしそうな険悪な雰囲気の夕食の席で、いつものように明るく振る舞って場を和ませようとします。
その夜、喫茶店のマスターが警察官の格好で現れ、実利果を「ごきげんとり」の罪で逮捕。タブレットに映し出されたのは、両親のけんかを防ぐために先回りして機嫌を取る実利果の姿と、両親から溢れ落ちる「感情」という宝石が実利果の胸に吸い込まれていく様子でした。
マスターは「感情は宝物。自分の感情は自分で引き受けるべきもの」と諭します。未来の映像では、妹は夢を叶えて自立しているのに、実利果は大人になっても両親の機嫌取りを続けていました。
最後にマスターから渡された白いドロップキャンディーを口に含むと、ミルクセーキの味がして、実利果は自分の本当の感情「悲しい」に気づくのでした。
| 登場人物 | 人物像 |
|---|---|
| 実利果(わたし) | 小学5年生。両親のけんかを恐れ、常に先回りして場を和ませようとする。明るく振る舞うが、本当の自分の感情を見失っている。自己犠牲的な性格。 |
| 千里 | 実利果の妹。自分の夢や目標を持ち、将来は自立して生きていく。姉の苦しみに気づいているような描写あり。 |
| 父・母 | けんかが多い夫婦。互いの感情をぶつけ合う前に、実利果の機嫌取りによって中断されてしまう。 |
| マスター | 不思議な喫茶店「純喫茶クライ」の店主。実利果に「ごきげんとり」の罪を自覚させ、本当の感情の大切さを教える。 |
| 表現 | 種類 | 解説 |
|---|---|---|
| 💬「ねえねえ、みんな聞いてよー」 | セリフ(明るい口調) | わざと明るく振る舞い、場を和ませようとしている。本心ではない「から元気」 |
| 😊「すっごくおもしろくて」 | セリフ(強調表現) | オーバーなリアクションで両親の注意を引こうとしている |
| 表現 | 種類 | 解説 |
|---|---|---|
| 😰「なんとかしなくちゃ。早くしなくちゃ」 | 心内語(焦り) | 両親のけんかを防がなければという強迫観念に駆られている |
| 💔「わたしの中で、もうひとりのわたしがあせってる」 | 心理描写 | 本当の自分と演技している自分の分裂を感じている |
| 😔「話し始めて、わたしはすぐに後悔していた」 | 心理描写(後悔) | 自分の行動が空回りしていることに気づいている |
| 😢「妹の千里が、あわれみをふくんだ目でわたしを見ていた」 | 情景描写(他者の視線) | 妹に哀れまれることで、自分の惨めさを自覚している |
| 😭「それでも、わたしは、から元気をやめられない」 | 行動描写+心理 | 無意味だとわかっていても止められない依存状態 |
| 😨「けんかしてるのが、この世でいちばんきらいなの!」 | セリフ(感情の吐露) | 抑圧されていた本音が爆発している |
| 😞「千里みたいに、やりたいことが、わたしにはない」 | 心内語(喪失感) | 自分を見失い、何も持っていないという空虚さ |
| 表現 | 種類 | 解説 |
|---|---|---|
| 💎「感情は、宝物なんです」 | セリフ(マスターの言葉) | 感情の大切さを教えられる重要な場面 |
| 🍬「白いドロップキャンディー」 | 象徴的小道具 | 実利果唯一の「自分の感情」の象徴 |
| 😢「悲しい……」わたしは、ぽつりとつぶやいた | セリフ+行動描写 | ようやく自分の本当の感情に気づいた瞬間 |
| 😭「いつのまにか、わたしは声をあげて泣いていた」 | 行動描写(涙) | 抑圧していた感情が解放され、自分と向き合えた |
| 表面(行動) | 内面(本心) |
|---|---|
| 明るく話しかける、はしゃぐ | 焦り、不安、後悔、虚しさ |
| から元気を出し続ける | やめられない、止まらない強迫観念 |
| 両親の機嫌を取る | 本当は両親のけんかが怖くて仕方ない |
| 比ゆ表現 | 解説 |
|---|---|
| 「きらきら光るなにか」 | 両親の「感情」という名の宝石を象徴。感情が目に見える宝物として表現されている |
| 「宝物を盗んできた」 | 実利果が両親の感情を機嫌取りによって奪ってきたことの比ゆ。感情を持ち去ることを「窃盗」に例えている |
| 「白いドロップキャンディー」 | 実利果唯一の「自分の感情」の象徴。ミルクセーキ(自分で選んだもの)の味がする |
他者の感情ばかりに気を取られて自分を見失っていた少女が、本当の自分の感情の大切さに気づき、成長する物語
解説: 「ねえねえ、みんな聞いてよー」と明るく話しかける実利果ですが、その前に「なんとかしなくちゃ。早くしなくちゃ」と焦っています。これは両親のけんかが始まりそうなのを察知して、わざとはしゃいで場を和ませようとしている場面です。
❌ アは「けんかが始まってしまった」とあるが、まだ始まっていない
❌ ウは「夜ごはんのおかず」が原因となっているが、本文では「地雷は夜ごはんのおかずじゃなかった」とある
❌ エは「返事がない」からけんかになると予想しているが、実際は両親のピリピリムードを察知している
解説: 実利果は「そんな、だって、わたしが先回り行動をするから、ふたりのけんかはひどくならないのに」と反論しています。つまり、自分が先回りして機嫌を取っているからこそ両親のけんかが激しくならずに済んでいると考えており、それを「罪」と言われることに納得できないという心情です。
解説: 実利果が両親のけんかを「この世でいちばんきらい」と思う理由は二つあります。
理由①(ア): 「ふたりが、お互いのことをみとめないってことは、わたしも千里もいらない子ってことじゃん」(65〜69行目) → 両親が互いを認めないことは、子どもの存在意義の否定につながる
理由②(エ): 「わたしがなにかまちがったことをした。だからふたりは、けんかしてるんじゃないか」(99〜101行目) → 両親のけんかが自分の責任ではないかという罪悪感
❌ イは「腹いせに自分を否定してくる」という記述なし
❌ ウは「近所の人に聞かれて恥ずかしい」という記述なし
❌ オは「暗に責めている」という被害妄想的な内容で本文にない
解説: マスターは「自分の感情は自分で引き受ける。それによって、次になにをしたらいいか教えてもくれますからね」と述べています。つまり、感情はその人だけのもので、きちんと向き合えば行動の指針にもなる大切なものだという考え方です。
✅ ウが正解:「その人だけのもので、その後の行動の指針にもなる大切なもの」
❌ アは「コントロール」という視点が主で、「宝物」という価値づけの理由として不十分
❌ イは「絆を生み出す」という点に焦点があるが、マスターの主張は「自分で引き受ける」こと
❌ エは「内省して過ちに気づく」という限定的な説明で、「行動の指針」という前向きな側面が欠けている
模範解答例: 「両親の仲が悪いことを心配しているばかりで、自分のことを考えていなかったから。」(40字)
解説: 実利果はマスターから「お父さんとお母さんのことばかりで、自分のことを考えていなかったからだ」と指摘されています。両親のけんかを防ぐことに必死になるあまり、自分の夢や目標、感情を見失ってしまったのです。
採点ポイント:
解説: 白いドロップキャンディーを口に含んだ実利果は、ミルクセーキの味(純喫茶クライで自分で選んだもの)を感じ、「悲しい……」とつぶやきます。そして「声をあげて泣いて」いました。
これは、ようやく自分の本当の感情(悲しみ)に気づき、抑圧していた感情が解放された瞬間です。
正解の選択肢(推定):「自分の感情を見失っていたことに気づき、ようやく本当の自分の感情と向き合えたことで、涙が溢れてきた」という趣旨
筆者の家には前の持ち主が植えた夏蜜柑の木があり、収穫と加工(マーマレード作り)は大変な重労働です。
筆者の母は学童疎開で飢えを経験した世代で、幼い頃から食べられる野草を教わって育ちました。そのため「身の回りに食べるものがあると安心だ」という観念が染みついています。
庭には様々な果樹があり、それらを「処理」(ジャムや梅干しなどに加工)する時間を確保するために「果実カレンダー」を作り、3月から6月の週末には出張を入れないようにしています。
ある時「どうしてそこまで大変なことをするのですか」と聞かれ、不意に**「自分に負荷を掛けたいから」**と答えました。
ワープロや検索の普及で、漢字が書けなくなり、記憶ができなくなりました。脳はコスパを追求するため、検索すればわかることは覚えなくなります。
しかし筆者には**「そんなに楽をすると大切な何かを失うに違いない」**という信念があります。ソクラテスは文字の発明を「記憶力を退化させる」と戒めました。便利な技術を得れば、何かを失います。
筆者は仕事柄、最先端のAI技術を使います。だからこそ、仕事を離れたときには、なるべく機械に頼らず、野性の勘を研ぎすませていたいと考えています。
包丁で夏蜜柑の皮を切るのは重労働です。「それでも、そうしたい」。そうしておいたほうが「身のため」のような気がするのです。
内容:庭の夏蜜柑の木と果実の「処理」について
内容:母の学童疎開体験と食への安心感
💡 ポイント:筆者の行動の原体験を説明
きっかけ:「どうしてそこまで大変なことをするのですか」と聞かれた
💡 核心:便利な技術に頼ると何かを失う
論拠:ソクラテスは文字の発明を「記憶力を退化させる」と戒めた
立場:仕事柄、最先端のAI技術を使う
💡 ポイント:便利さと不便さのバランスを取る姿勢
| 便利な技術(デジタル) | 手間のかかること(アナログ) |
|---|---|
| ✅ 効率的、コスパが良い ❌ 記憶力・身体感覚が退化する ❌ 野性の勘が鈍る |
❌ 重労働、時間がかかる ✅ 能力を維持できる ✅ 感覚を研ぎ澄ませられる |
| • ワープロ(漢字が書けなくなる) • 検索(記憶しなくなる) • AI技術 • ペットボトルのお茶 |
• 手書き • 記憶 • 包丁で切る作業 • 急須で淹れたお茶 |
この文章は「個人的な体験」(夏蜜柑の加工、母の教え)と
「感想や意見」(便利さへの警戒、負荷を掛ける必要性)が
交互に登場する説明文的な随筆です。
※ 物語風ではなく、論理的に自分の考えを述べる説明文型の随筆文として読み解くことがポイントです。
| 対比される概念A | 対比される概念B |
|---|---|
| 便利な技術(デジタル) | 手間のかかること(アナログ) |
| ワープロ、検索、AI | 手書き、記憶、包丁で切る |
| コスパが良い、効率的 | 重労働、時間がかかる |
| 何かを失う | 能力を維持できる |
| ペットボトルのお茶 | 急須で淹れたお茶 |
解説: 筆者が「自分の庭に作物が育ったり、果実が実ったりするのはうれしい」と感じる理由は、母の影響にあります。
本文には「母は学童疎開で飢えを経験した世代で、私は幼い頃から食べられる野草を教わった」「『身の回りに食べるものがあると安心だ』という観念が染みついたのだろう」とあります。
正解(推定):母の疎開体験の影響で、身近に食料があると安心するという感覚が身についたから
模範解答例: 「庭に植わっている果樹がつけた実を食べられるように加工すること。」(35字)
解説: 「それら」が指すのは「庭の果樹」です。「処理」とは、本文の前後から「ジャムにしたり、梅干しにしたり」「マーマレード作り」といった、食べられるように加工する作業を指します。
採点ポイント:
解説: 「果実カレンダー」とは、本文で「果物が熟す三月から六月の週末は出張を入れないようにしている」と説明されています。
つまり、果実の時期に合わせてスケジュールを調整し、果実の加工作業ができるよう時間を確保していることを表しています。
解説: ワープロが普及したことによって起こったことは、本文では「漢字が書けなくなった」とあります。
選択肢の中で、ワープロの普及と直接関係がないもの、または本文で述べられていないものが「適切ではない」ものとして正解になります。
解説: 文脈を追うと、
A の前:「脳はコスパを追求する」 A の後:「検索すれば秒でわかることは覚えておかなくてもよい、となる」 → 因果関係なので「だから」が適切
B の前:「私には『そんなに楽をすると大切な何かを失うに違いない』という信念がある」 B の後:ソクラテスの警告、便利な技術への警戒 → 逆接ではなく、信念を補強する内容なので「けれども」が文脈に合う(文脈によっては他の接続詞の可能性もあり)
解説: 「何十年、何世紀もかけてその代償を支払う」とは、便利な技術を使って楽をした代わりに、長い時間をかけて気づかぬうちに失い続けるもの(能力や感覚)のことを指します。
ソクラテスの「記憶力を退化させる」という警告と同じで、便利さの代償として人間の本来の能力が失われていくという意味です。
解説: 「それでも、そうしたい」の理由は、本文の流れから読み取ります。
筆者は「仕事柄、最先端のAI技術を使う。だからこそ、仕事を離れたときには、なるべく機械に頼らず、野性の勘を研ぎすませていたい」と述べています。
正解(推定):便利な技術に頼らず自分に負荷を掛けることで、野性の勘や身体感覚を維持したいから
包丁で夏蜜柑の皮を切るのは重労働だけれど、それをすることで人間本来の能力を保てる「身のため」になると考えているのです。
どちらの文章も、表面と本質のギャップがテーマになっています。物語文では「明るく振る舞う実利果」と「本当の悲しみ」、随筆文では「便利な技術」と「失われるもの」という対比です。
こうした二項対立の構造を意識して読むことが、中学受験国語の読解力向上につながります。
小5の学習もいよいよ終盤。ここまで学んできた多岐にわたる情報を整理して、安定した読み解き方ができるようにトレーニングをしましょう。
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