サピックス6年5月マンスリー確認テスト 国語
大問3・大問4 徹底解説
サピックス6年5月マンスリー確認テスト国語の読解2題について、本文の読み取りポイントと全設問の解説を行います。大問3は視覚障害をもつ研究者と聴覚障害をもつ研究者の共著による説明的文章、大問4は中学受験をあきらめた中学生が主人公の物語文という、いずれも「自分の人生をどう受け止めるか」というテーマでつながる興味深い組み合わせです。
- 大問3:筆者の「障害」観と「耳学問」の本質的意味
- 大問4:主人公・海斗の心情変化と倫太郎との対比構造
- 全18問の模範解答とその根拠
- 記述問題で減点されないための要素分解
大問3|広瀬浩二郎・相良啓子「よく見る人」と「よく聴く人」
本文の概要と筆者の立場
本文の筆者は広瀬浩二郎さん。13歳で視力を失い、盲学校から京都大学に進学した宗教史・触文化論の研究者です。本文は、視力を失ったあとに小学校の通常学級で過ごした体験から、「耳から得る情報」が「目から得る情報」と本質的にどう違うのかを語った内容になっています。
筆者は、視覚情報に頼れないからこそ「集中力と想像力・創造力」を働かせて世界を捉えてきました。そして、現代人があまりに視覚情報に支配されている現状を見て、「耳学問」「耳による読書」というあり方を提案しています。「目で読む」ことと「耳で聴く」ことの違いを、自分自身の体験を通じて読者に伝えていく構成です。
本文は「個人的な体験」を語る随筆風の文章ですが、最終的に「現代人の生活がいかに視覚情報に支配されているか」という社会一般への提案につながります。体験談の中から、筆者の「考え方・価値観」を見つけ出すことが読解のカギです。
読解の重要ポイント|逆接・打ち消し・筆者の持論
本文では、筆者の主張を読み解くための「サイン」が3種類仕掛けられています。逆接、打ち消し、そして 「僕の持論」という主張の宣言。それぞれ働きが異なるので、混同せずに分けて捉えることが大切です。
2ページ12行目あたり:「客観的に、熱心に勉強するタイプではありませんが、集中力で勝負していた」
→ 「が」は前と後ろを反対方向に転じる逆接の働き。前半「熱心ではない」と後半「集中力で勝負」がぶつかり合い、後半の「集中力」こそが筆者の真意だと示します。逆接の後ろに筆者の主張が来るのが基本パターンです。
傍線③付近:「『かわいい』『美しい』などを見かけで判断することはありません」と打ち消し、続いて「その代わり、根拠の9割以上は喋り方、声の質です」と強調。
3ページ2行目:「表情やしぐさにひかれたのではなく、独特の存在感、色気ある歌声に魅了された」
→ 「ではない」「ありません」は事柄を打ち消し、「その代わり」「〜ではなく、〜」のような表現とセットで、本当に強調したいものを後ろで示します。逆接の「が」と違って、「Aを否定して、その代わりBを示す」という構造です。
3ページ4行目:「集中力とともに、障害者が生きていくためには想像力・創造力は不可欠だというのが僕の持論です」
→ 筆者自身が「これが僕の持論だ」と宣言している部分は、本文全体の核心です。「集中力+想像力+創造力」という3要素セットが、筆者が世界をとらえる方法であり、後半で「耳学問」「耳による読書」につながっていきます。
3種のサインはそれぞれ働きが違うので、分けて意識しましょう。
・逆接=「が」「しかし」「けれど」(前と反対の方向に転じる)
・打ち消し=「ではない」「ありません」「〜ではなく」+「その代わり」(否定して別を強調)
・主張サイン=「私は考える」「〜と思う」「持論」「主張」(筆者の意見の宣言)
本文を読みながらこれらの語句に印をつけておくと、傍線部・記述問題で本文を探し直す手間が大きく減ります。
段落構成図
対比構造図|「目学問」vs「耳学問」
本文の中核には、「目で得る情報」と「耳で得る情報」の鋭い対比があります。筆者は決して目を否定しているわけではなく、両者の特性の違いを明確にしたうえで、現代人が見落としている「耳の世界」の豊かさを訴えています。
- 一目で内容をつかめる(手元に残らない)
- 主体的にならなくても自然と頭に入る
- 強弱や抑揚がつかず、一様に把握される
- 受け身の姿勢でも情報が得られる
- 分かった気にはなるが、身体に刻まれにくい
- 集中力と手間がなければ取り逃がす
- 主体的に情報に向き合う必要がある
- リズムやメロディーで身体に刻まれる
- 想像力・創造力を働かせる
- 内容把握に至れば深く理解できる
大問3 設問解説
問1|接続語の選択(A・B・C)
接続語の問題は、前後の文の関係を見極めることが最優先です。Aの前は野球の話、Aの後ろは「視力が0.05あれば、野球はそれなりに動ける」と話題を整理し直しています。話題転換の「さて」が入ります。Bは「一度慣れれば、ほんとうに快適です」と「目をつぶしても本が読める」が並べられており、選択的な並列の「あるいは」が入ります。Cは前後が逆接の関係(目で得る情報は受け身的だが、それでも本人の心を動かす)になっており「それでも」がふさわしいです。
問2|「いつの間にか『広瀬ルール』ができていました」のはなぜか
傍線①の直前にあるとおり、子どもたちは「障害」について何の知識も持っていません。だからこそ、視覚に障害を抱えるということ自体を意識せず、筆者も楽しめるような野球になるよう柔軟に対応できたのです。その自然な発想と工夫の積み重ねが、いつの間にか「広瀬ルール」として定着した、というのが本文の流れです。
イ・ウのように「優遇しなければならない」「思いやって」というニュアンスは、本文の「偏見のない自由な発想」と矛盾します。エのように「違いを意識することなく」も近いですが、ルールが「できた」理由を直接説明しているのは「柔軟な対応ができたから」と書かれているアです。
問3|「集中力で『勝負』していた」とはどういうことか
傍線②の少し前に「客観的に、熱心に勉強するタイプではありませんが、集中力で勝負していた」とあります。「熱心ではない」と逆接「が」で結ばれた後ろにある「集中力で勝負」こそが筆者の主張です。視力に頼れない筆者は、授業を受ける際、人一倍集中して先生の話から情報を聞き取ろうとすることで、視覚の不足を補っていました。聴覚で先生の話の内容を取り込み、内容把握につなげていく学び方こそが「集中力での勝負」の中身です。
ア「人一倍黒板や教科書を見る」は視覚で見ることになるので筆者の状況と矛盾。イ「勉強への意欲があまりない」は文意と合いません。エ「目の不自由な筆者が資料を見て」も視覚情報に頼る話になります。「先生の話から情報を聞き取る」と書かれたウが、本文の構造と合致します。
問4|「『かわいい』『美しい』などを見かけて判断することはありません」の説明(記述)
- 情報源:聞こえてくる音の情報を頼りにする
- 手段:想像力と創造力を働かせる
- とらえるもの:対象の持つ雰囲気や性質
筆者は視覚で「かわいい」「美しい」を判断するのではなく、声や音から相手の雰囲気をつかみます。「視覚で判断しない」という否定だけでは不十分で、「では何をどう使って判断するのか」という肯定的な内容まで書き切ることが重要です。
・「『かわいい』『美しい』などを見かけて判断することはありません」(傍線③直前)→ 視覚的判断の打ち消し
・「その代わり」→ 打ち消しを受けた強調の合図
・「根拠の9割以上は喋り方、声の質です」→ 聞こえる音の情報を頼りにする(要素①)
・3ページ「集中力とともに、障害者が生きていくためには想像力・創造力は不可欠だというのが僕の持論です」→ 想像力と創造力を働かせる(要素②)
この「僕の持論」が筆者の主張の核であり、記述問題で「想像力・創造力」のキーワードを落とすと大幅減点になります。
問5|「教科書は『音の塊』として僕の頭、身体に刻み付けられました」とはどういうことか
筆者は母の音読する声を「音の塊」として体に取り込み、リズムやメロディーで記憶しました。文字や色から得る情報のように一目で頭に入るのではなく、主体的に情報に触れていくことで、強弱に意識が向かい重要な部分を把握し、強調表現に意識が向かい内容が頭と身体の両方に刷り込まれていきました。「文字情報のように受け身では得られない」「リズムや音の強弱で身体に染み付く」という両面をとらえた選択肢を選びます。
問6|「目学問」と「耳学問」の違い
本文の対比構造をそのまま問うた設問です。「目学問」は一目で分かったように錯覚させるが、「耳学問」は集中力・想像力・創造力をもって情報に触れれば、情報が身体に刻み付けられる学び方であると述べられています。これは前述の対比構造図と一致する内容です。
問7|「音の読書にトライする」のは現代人がどのような生活をしているからか(5字以上10字以内・抜き出し)
- 大まかな内容を推測:「現代人の生活」がどのようなものかが問われている。筆者は「耳学問」「音の読書」をすすめる立場なので、現代人は逆に「目(視覚)に頼っている」と批判しているはずだと予想する
- 大まかな場所を特定:「現代人の生活」というキーワードが直接登場する箇所を探す。本文4ページの冒頭1〜3行目あたりに、「『百聞は一見に如かず』ということをたくさん経験してきました。スマートフォンが汎用化し、現代人の生活は……」と展開している部分がある。傍線⑥(4ページ中盤)よりも前の段落にあるので、傍線⑥の周辺だけ見ていると見落としやすい。「現代人の生活」が直接話題になる場所まで戻る意識が大切。
- 条件に合う部分を抜き出す:その位置で「現代人の生活は視覚情報に支配されています」を発見。「5字以上10字以内」に合わせると「視覚情報に支配されて」(10字)が正解
本文全体をいきなり探し始めると時間がかかります。先に「答えはこういう方向の内容のはず」と仮説を立ててから、関連話題が論じられそうな範囲(傍線部の前後、序論や結論部)に当たりをつけて探すのが基本。設問条件の字数(ここでは5〜10字)も指で必ず数えること。「視覚情報に」(5字)では足りず、「視覚情報に支配されて」(10字)でぴったり合います。
問8|「耳から身体に拡がる『発見』」とは
「音の読書」によって得られるものは、音から入ってきた情報を元に、耳に神経を集中させ主体的に作品を理解しようとすることで、まるで作品の中に入り込んでいるように感じられる、作品世界で生きているような臨場感です。さらに「目による読書」と比較すると、自分が聴覚から得た情報を客観的にとらえ直すことで、想像力により一層ふくらんでいって作品世界との一体感が生まれます。「主体的に作品に入り込み、再現される実在感・没入感」をとらえている選択肢を選びます。
問9|「お先真っ暗 人生の開幕です!」とはどういう効果か
通常「お先真っ暗」は将来の見通しが全くつかないことを指す否定的な表現です。しかし、ここでは筆者の目が見えないという状態にかけて、あえてこの表現を使うことで、目が見えないことも含めて表現することで、人生は楽しいものであると筆者が楽観的にとらえている思いを示しています。目が見えないことと先の見通しがつかないことをかけながら、自分なりの生き方を示しています。ここから新たな人生が始まるとすることで、目が見えなくても決して悲観することなく困難を乗り越えてきた筆者のたくましさを表しています。
本文は「障害」を否定的にとらえず、視覚情報に頼れないからこそ磨かれた集中力・想像力・創造力を、現代人にこそ取り戻してほしいと提案する文章です。受験生にとっては、「目で読む」だけでなく「耳で聴く」音読・朗読・録音図書の価値を見直すきっかけにもなるでしょう。
大問4|草野たき『マイブラザー』
本文の概要
大問4は草野たきの長編小説『マイブラザー』からの抜粋です。主人公の海斗は、もともと難関私立中学(倫太郎と同じ志望校)を目指して受験勉強に励んでいましたが、父が大手企業の研究職をやめてパン屋を始めるという家庭の事情で受験を断念。今は近所の中学校に通いながら、多忙な母に代わって5歳の弟・総也の世話をする毎日を送っています。
この場面は、保育園時代の友人たちと再会した後、かつての受験仲間・倫太郎と二人でマクドナルドに入ったところから始まります。倫太郎の話を聞きたくない海斗は逃げ帰りたいと思いますが、倫太郎は健吾の家庭事情や、彩音のダンス留学、自分自身の進学校での苦しさを次々に打ち明け、最後には「お前はそういうのチャラになる決断をしたんだ」と海斗を称え、「打ちのめされたよ」と告げます。
この場面は、海斗の側からは「逃げたい・混乱する」気持ち、倫太郎の側からは「海斗に感心している」気持ちが交錯します。読み取るときは「誰がどの立場から何を感じているか」を一段一段確認することが重要です。
人物相関図
受験あきらめ
弟の世話で逃避
難関中合格
夢を見失う
「逃げてないか?」
海斗に問いかけ
ダンサー志望
NY留学予定
世話される存在
心情変化表|海斗の感情の揺れ
本文を通して、海斗の心情は何度も揺れ動きます。とくに倫太郎との会話が進むにつれ、最初は逃げたい気持ち一色だったのが、徐々に自分自身と向き合わざるを得なくなっていく流れを押さえましょう。
逃げの自覚が芽生え、平穏が崩れる → 「総也のことを利用して逃げようとしていたことに気づく」
断れない自分への動揺が深まる → 言葉を探しながら本心では避けたいまま
やりたいことのない自分への失望 → 倫太郎の苦笑にこの自覚が込められている
事実と違う評価への居心地の悪さ → 倫太郎は誤解しているが反論できない
過大評価される側のつらさ → 自分の本心(逃げ)を知られたら軽蔑されると予感
軽蔑される予感の中で何も言えない → 「ここに来たときとは違う意味で、逃げだしたかった」
本文の海斗の心情はほとんどがマイナス方向に動きます。しかし③④⑦の「±混在」が重要で、ここで海斗は「自分は逃げているだけだ」という新しい自覚に揺さぶられます。中学受験の物語文では、こうした「自分の本当の姿に気づいてしまう瞬間」が問題化されやすい部分です。
大問4 設問解説
問1|「今すぐ自転車に乗って、逃げ帰りたかった」のはなぜか(50字以内)
- 状況:父の仕事について聞かれること
- 内容:中学受験をあきらめた事情について
- 嫌な理由:勝手な想像で同情されるのが嫌
傍線①の前後を読むと、倫太郎は海斗の事情を知らずに、自分の話をしようとしています。海斗は弟の世話をしなくてはならない自分について話を聞かれることで、以前健吾に指摘された自分の弱さをもう一度痛感させられてしまう。現実と向き合いきれていない自分に耐えがたいことを「逃げ帰りたい」と表現したのです。
「〜について聞かれ、〜について〜されるのが嫌だったから」という形にまとめると、3要素がきれいに50字に収まります。「同情されるのが嫌」というニュアンスを「軽蔑される」「劣等感を刺激される」と書き間違えないよう注意。
問2|「海斗はいやだと思った」のはなぜか
傍線②のあと「どうせ、将来は医者じゃなくて、弁護士になろうと思うとか、そういう自慢話的な相談に決まってる」とあります。それが理由で倫太郎の話は聞きたくない、と海斗が思っていることがわかります。なぜ海斗にとって倫太郎の将来の自慢話が苦痛なのかというと、海斗にとって倫太郎は「誰よりも優秀で、だからそんな輝かしい未来しかない」と考えている人物だからです。対する海斗は受験を断念しており、何か目標を持って毎日を過ごしているわけでもありません。しかも、弟の世話をすることを口実にして、そんな現状と向き合えていない自分には耐えがたいから「いやだ」と思っているのです。
問3|「ますます混乱した」のはなぜか
海斗は友人の健吾から、弟の世話を理由にして逃げていないかと指摘されています。そして傍線③のあと海斗は「もしかしてそう思われるのだろうか?」「いつもの手が使えない」と考えてしまい、いつものように言い訳をしようとしていた今まさに、自分は総也を利用して逃げようとしていたことに気づいたのです。健吾の指摘が的外れだったから今でも腹立たしいわけではなく、健吾から指摘されたとおりに自分が振る舞っていることに混乱しているのです。
問4|「ますます混乱した」のはなぜか(傍線④)
傍線④の「ますます」の中身を明らかにしていきましょう。倫太郎にも迷いが生まれていたかもしれないと、海斗を混乱させており、頼みを断るにあたって「いつもの手が使えないなら、どうしたらいい?」と悩んでいる姿が見えます。断るためのいい案が浮かばないまま「まあ、ちょっとなら……」と答えてしまい、「倫太郎のホッとしたような笑顔」を見たことで、肯定的な返事をしたのだと気づき、混乱が深まったのです。
問5|「あの頃は、希望の中学に行ったら、よっちゃんみたいに、そのまますすめると思ってた」(10字以上15字以内・抜き出し)
- 大まかな内容を推測:傍線⑤を発言したのは倫太郎。「あの頃は……と思ってた」と過去形で語っているので、現在の倫太郎は当時の夢や希望から離れた状態にあるはず。設問の空欄を含む文「今は、[ ]から」を考えると、「目標がない」「夢を失った」「空っぽ」「失望」などマイナス方向の心情表現が答えになると予想する
- 大まかな場所を特定:傍線⑤の少し後で、海斗が倫太郎に「将来、医者になりたいって夢はどこいったんだよ」と尋ねる場面がある。その後に本文12ページの15〜18行目あたりで「だけど、倫太郎は完全にその夢を手放したようだったよ。そして……」と倫太郎の現在の様子が直接描かれているので、ここを集中的に探す
- 条件に合う部分を抜き出す:本文12ページの17行目あたりに「そして、空っぽの自分に失望しているようだった」とある。「10字以上15字以内」の条件に「空っぽの自分に失望している」(13字)がぴったり合う
本文では倫太郎を描写した一文ですが、海斗自身も「やりたいことがない=空っぽ」を抱えていることが、続く問6・問7・問8で次第に明かされていきます。本文中で倫太郎と海斗の心の状態が重なる表現が抜き出しの形で問われているのが、この設問の核です。
問6|「倫太郎の笑いを含んだ声が聞こえた」のときの倫太郎の様子
傍線⑥に続く、倫太郎自身は以前抱いていた医者になるという夢について「オレの夢じゃなかった」とし、「他人にスゲーって言われたいから選んだ夢」であると述べています。医者を志していたのは自身の心底からの望みではなく、他者からの評価を得るためであったことを思い出し、やりたいことが空っぽな自分を改めて自覚して自嘲しているのです。
問7|「そういうのチャラになる決断」とは
まず「そういうの」の中身を明らかにしましょう。傍線⑦の直前に「受験して、いい学校に受かったのに」とあることから、合格を目指して努力してきた過程や、合格という形で得られた結果を指しているとわかります。「チャラになる」については、傍線⑦の直後にある「無駄になる」という内容があてはまります。倫太郎は、海斗が受験の成果を捨ててまで(弟の世話=海斗にとっての「夢」だと誤解して)新たな道を選んだ、と勘違いし、その「努力した過程や得た結果を捨てる」決断をしたとみなしているのです。
倫太郎の認識は実態とずれています。海斗は実際には「夢を追って受験をやめた」のではなく、家庭の事情と弟の世話という現実から「逃げる道具」として受験をやめただけです。この誤解こそが、後の海斗の自己嫌悪につながります。
問8|「オレ、打ちのめされたよ」とはどういうことか(記述)
- 対比の起点:相手(倫太郎自身)への自己評価=マイナス側
倫太郎は、心から望む夢を持てず、自分を変える勇気もない中途半端な自分にマイナスの評価を下している - 対比の対象=原因:相手から見た「自分」(海斗)の姿=プラス側
海斗は家庭の事情を受け入れ、受験をやめてまで弟の世話をするという決意を見せている。これが倫太郎にはとてもできない=「打ちのめされた」と感じさせた直接の原因 - 結論:心情の中身
海斗と比較して自分はかなわない、勝ち目がないと感じている=「打ちのめされた」というマイナス心情の正体
「打ちのめされた」という言葉から、まず結論(③)として「どんなマイナス心情か」を考えます。それは「相手(海斗)に比べて自分がいかに劣っているか、価値がないかを感じている=かなわないという思い」です。次にその原因(②)を探すと、海斗が家庭の事情を受け入れて受験をやめ、弟の面倒を見るという決意をしている部分にぶつかります。これが倫太郎には到底できないことなので、「打ちのめされた」直接のきっかけになっています。そして、原因が効いてくるためには対比の起点(①)が必要で、それが「夢を持てず、自分を変える勇気もない」と自分自身を評価している倫太郎のマイナス自己評価です。
答案にまとめるときは、①→②→③の順で並べます。
「①夢を持てず自分を変える勇気もない自分とちがって、②海斗は家庭の事情を受け入れて受験をやめ大変な弟の世話をしているので、③とても自分はかなわないと感じたということ。」
倫太郎の認識は「事実」ではなく「倫太郎から見た海斗」です。記述では「倫太郎が(海斗を)どう見ているか」という主観を書き、海斗が実際に逃げのために弟の世話をしているという事実を答案に混ぜないように注意します。
問9|「ただ大きく息を吐いた」のときの海斗の様子
傍線⑨を含む一文を見ていくと、「そして」という言葉があるので、その前の内容を確認します。「ここに来たときとは違う意味で、逃げだしたかった」とありますが、なぜ「逃げだしたい」のでしょうか。ここでの倫太郎のセリフに注目すると、倫太郎は将来の見通しがつかないことを指していることがわかります。倫太郎は変化を好意的にとらえ「変わらないとダメだけど、今さらレールから外れるなんて怖くて、方向転換できないんだ」と述べています。しかし実際の海斗は「ただ、総也のことを、利用しているだけ」であり、「逃げるための道具として、利用しているだけ」でした。今後のことが倫太郎に知られたら、「軽蔑するだろう」と予想していることから、何も言えなくなっているのだと考えられます。倫太郎の悩みは現状から逃げ続ける自分にもあるように、同じことを恐れているということを痛感したからこそ、海斗には言葉がなくなっているのです。
本文は、表面的には「成績優秀な倫太郎が海斗を称える」という展開ですが、内側では「お互いに『空っぽな自分』を抱えている」二人の静かな心情のぶつかり合いが描かれます。海斗は健吾の指摘で芽生えた「逃げている」自覚と、倫太郎の過大評価という二つの圧力に挟まれ、混乱と自己嫌悪を深めていきます。「中学受験あるある」とは異なる、受験をやめた側の心理を丁寧に描いた佳作です。
テスト全体のまとめと学習ポイント
サピックス6年5月マンスリー確認テストの読解2題は、テーマこそ説明的文章と物語文で異なりますが、共通して「自分の置かれた状況をどう受け止め、どう生きるか」を問いかける内容でした。視覚を失った筆者がたくましく前を向く姿(大問3)と、夢を見失った中学生が自分の本心と向き合わざるを得なくなる場面(大問4)は、それぞれ違う形で「現状をどう受け止めるか」を考えさせる文章です。
記述問題で減点を防ぐコツ
今回の記述問題(大問3問4、大問4問1・問8)はいずれも、本文中の複数の要素を組み合わせて答える必要がありました。共通するポイントは次の3つです。
- 「何が」「どうした」「なぜ」を分解する:1要素ずつ確認してから組み立てる
- 否定の説明だけで終わらない:「〜ではなく、〜である」と肯定面まで書き切る
- 主観と事実を混同しない:誰の視点から書いているのかを明確にする
選択問題で迷ったときの判断軸
選択肢が4〜5つあり、紛らわしいものが並んでいた問題もありました。判断軸は以下です。
- 本文のニュアンス(プラス/マイナス)と一致するか:本文がプラスの内容なら、マイナスの選択肢は外れる
- 主体(誰)が一致するか:「筆者」「主人公」「他の登場人物」のうち、誰の心情を問われているかを確認
- 言い過ぎ・足りなさを見極める:本文に書いていない断定や、本文の半分しかカバーしていない選択肢は外す
今回のテストで得られる学びは、「文章中の人物が、自分自身の中にある矛盾とどう向き合うか」を読み取る訓練です。大問3の筆者・広瀬さんは視覚を失った現実を受け入れて新しい可能性を見出し、大問4の海斗は逃げの自覚と向き合うことを迫られます。この「現状を受け入れる/受け入れられない」という対立軸は、6年生後半の入試問題でも繰り返し問われるテーマです。今回の問題で気づいた読み取りの型を、次回以降の演習でも意識的に使っていきましょう。
本記事の解説はサピックス公式の模範解答に準拠して作成しています。