さて、今回はサピックスB問題の「からだで覚える(河合雅雄著)」 の解説です。
今回の著者、河合雅雄さんの「子どもと自然」は1990年刊行の少し古いものになりますが、実は中学受験ではよく出ています。
過去に、攻玉社、開智、森村学園、玉川学園、横浜英和女学院、などで出題があります。
サル学、特にニホンザルの芋洗いの研究などで有名な著者で昨年5月お亡くなりになっています。話題性から狙われる可能性もあるかも?
P1
14行目「それを見かねた母親の過剰な『思いやり』が、子どもの自発性を奪ってしまう結果になる。」
→会話文以外で『 』()<>などでくくられている言葉には要注意。筆者が強調したいと考えていたり、本来の言葉とは違った意味で使用したり、意味を付け加えていたりすることが多くあります。いずれにせよ、どういう意味でくくられているのかをよく考える必要があります。
ここでは「思いやり」という本来相手のためを思っての言動が、かえって害を与えているという皮肉を込めていると考えましょう。
P2
「拇指」「有蹄類」など生物学の専門用語が出てきますが、文字や文脈から類推して読み進めましょう。無理に暗記する必要はありません。
一方で19行目「生得的(せいとくてき)」は重要語句。読みと意味をここでしっかり覚えておきたいです。類義語の「先天的」対義語の「後天的」といった言葉もセットでマスターしておきたい言葉です。
19行目「マニュピレーションの能力そのものは、生得的に備わっている能力である。しかし、それをどううまく使いこなし有効に発揮できるかは、学習によるものだ。」
→ここでは「生得的」の対立表現として「学習」という言葉を使っていること。「学習」とは生まれたのちに意識的に行うことなので「後天的」なものであるということ。この考え方は他の文章においても汎用性が高いので、お子さんにしっかり伝えておきたいですね。
P3
13行目「生得的な行動に左右されている動物では、放っておいても行動発達は遺伝子によるプログラムに従って発現していくから、親の役割は少ない。しかし、行動発達が学習に強く依存している人間の場合は、運動機能の獲得にも、幼児からのしつけが重要である。」
→「しかし」(逆接)を挟んで対比関係にある文であり、しかも文末で「重要」と述べていますから必ず線引きすべき箇所ですね。「重要」「大切」「欠かせない」など、筆者が明らかに力を入れてて強調している部分には注目しましょう。ここでも「学習」が後天的という意味で使われていますので、以下のような関係が成り立ちます。
・動物=行動発達は生得的=親の役割は少ない
・人間=行動発達は後天的=親のしつけが重要
この関係を強く意識して読み進める必要があります。
P4
10行目「文明の利器の発達によって、これからも我々がサルから受けついできた自然な行動型を、歪めたり変えたりすることが起こっていくであろう。文明の発達が、霊長類としての身体的特性を退化させていくことに、これからますます留意する必要があると考える。」
→「〜であろう」「〜と考える」などと筆者の主観・意見であることがわかる文末表現が続きますので線引きをしておきましょう。
P5
1行目「つまり、子どもの家畜化現象が起こっているということだ。家畜化とは、野生ー動物が持っている本来の性質ーを人為的に変え、繁殖をコントロールする行為である。」
→「つまり」のあとはまとめや言い換えで重要表現が多いので要注意。さらに「家畜化とは」という言葉の定義を説明する文になっていますのでここも続けて注目します。
P6
17行目「大切なことは、骨格の力学的強度だけの問題ではないということだ。」
P7
11行目「大切なことは、安全に配慮するあまり危険を排除することに熱心になりすぎ、危険を克服するすべを教えないし、その能力を抑え込んでしまっているという状況を、なんとかして打開することであろう」
→筆者は「大切なことは」と前置きをしてから自身の見解の重要なポイントを述べるようにしています。この2つの「大切なこと」をまとめると、「骨が弱くなったのではなく、過保護だから弱くなったのであり、これをなんとかしなくてはいけない」ということになりますね。このように重要な部分に線を引き、あとで要点だけ振り返るようにすることは大変重要です。
「子どもたちが『飼育ブタの方向を歩まされている』とはどのようなことですか。説明しなさい。」
→「どのようなことですか」(=「どういうことですか」)と問われる問題はわかりやすく「言い換え」をして答えることを求められています。特に比喩表現や抽象的で分かりづらい表現をできる限り「わかりやすく」「日常的な」言葉に置き換えて説明します。
「飼育ブタの方向」:傍線⑥の「イノシシ的要素をむしりとられ」という表現から、イノシシとブタの対比が書かれたP5の4行目以降に注目する必要がありそうです。具体的すぎず、一般的で、使える表現を拾い上げていきます。
・ひとりで生きるために常に全知能を傾けている
・野生をすっかり喪失し
・生きることはすべて他人まかせという存在
これらの本文表現を使ってまとるとよいでしょう。
「歩まされている」:子どもたちは自分の意志ではなく何かによって歩かされている。ここでいう「何か」とは当然「親」。
ここまでで解答の「核」の部分は以下のようになります。
解答パーツ①)子どもがひとりで生きるための能力を失い、生きることはすべて他人まかせになるように育てられているということ。
これを解答の最後尾に配置します。
ただし、これだけだと字数がやや不足するので、「原因」や「対比」的な内容をトッピングします。
今回はこうなった原因を上に乗せておけばよいでしょう。
少し先になりますがP7の5行目「子どもをできるだけ安全に健康に育てたいと願うのは、どの母親にも共通した心理」などの表現は使えるでしょう。
解答パーツ②)人間は親が子どもをできるだけ 安全に健康に育てたいと願っているために
このような表現を解答パーツ①の前に配置することで解答完成です。
これでも空欄が目立つようであれば「対比」内容を更にトッピングするのも可。
ブタとイノシシの例が登場するP5の2行目「野性ー動物が持っている本来の性質ー」といった表現を使って以下のようにまとめ、解答の先頭に乗せておくのも良いでしょう。
解答パーツ③)動物は本来生きるための能力を持っているのだが
「ー⑦『骨折する子どもが多くなった』とありますが、なぜですか。」
→「なぜですか」ですからシンプルに原因を探します。
まずP6 18行目「〜骨折する。それは『うっかり』というのが原因である。」という記述には注意。これはその前の行「たとえば、わずか数十センチの高さ」から足を踏み外したときの【一例】にすぎませんので答えとしてはふさわしくありません。ここは引っかかる子が多そうな気がします。
特別な指示がなければ、比喩、慣用表現、具体例は記述答案に入れないようにしましょう。
もう少し先まで読み進めると・・・
P7 3行目 「子どもたちがよく骨折するのは、跳び下りる、転ぶ、つまずく、といった身体状況の急変に対し、とっさの身構えができないことに原因がある。」
直球どストレートな解答の核が書かれていますね(サピBテキストでは珍しい・・・笑)。
解答パーツ①)身体状況の急変に対し、とっさの身構えができないから。
これで解答の核が完成。
ただし解答欄の大きさから考えてこれではどう考えても要素が不足。どうして「身構えができない」のかその原因をトッピングしていきましょう。
P7 11行目「大切なことは、安全に配慮するあまり危険を排除することに熱心になりすぎ、危険を克服するすべを教えないし、その能力を押さえこんでしまっているという状況をなんとかして打開することであろう」
先ほど「本文重要表現チェック」の項目で触れました。「大切なことは〜」の表現のあとですね。ここはまるっと使えそう!
解答パーツ②)親が安全に配慮するあまり危険を排除することに熱心になりすぎ、子どもに危険を克服する能力を身につけさせていないため、
注意:本文を丸写しすると「誰が」「誰に対して」という部分が不明確になりますので多少の書き換えが必要。一度全体像を頭の中でイメージしてから微調整できるようになると良いですね。
いかがだったでしょうか。
文章内容自体は比較的平易でわかりやすいですが、記述答案を作成するにあたって本文のどの箇所を引用するべきか迷うケースや、引用をうまくできず誤用や不足を招いてしまうケースが多いように感じます。
ポイントは2点。
・意味段落(大きく分けた段落)の中でどの段落から引用するかの方向性を決めてから引用箇所をさがす。
・自身の答案を繰り返し読み返し、違和感や説明不足がないかを入念に確認する。(できれば保護者等第三者に指摘を受ける)
このようなトレーニングを繰り返すことで記述答案の精度を高めていきましょう。