中学受験国語の「線引き」読解:迷子を防ぐ基準と練習法
読んだはずなのに、頭に残らない理由
中学受験の国語でつまずく典型は、設問を見て本文に戻る→根拠を探す→どこに何が書いてあるかわからず迷子になる、という流れです。時間だけが減り、最後は「読んだのに解けない」状態になります。
この問題は、努力不足というより「読みながら覚えきれない」という構造の問題で起きます。
線引きとは何か
線引きは、単に「大事そうなところに線を引く作業」ではありません。文章の中にある重要な情報を、あとで取り出せる形にしておく“外部の記憶”です。
人は読んでいる最中、頭の中だけで大量の情報を保持できません。短期的に扱える情報量(ワーキングメモリ)は、平均して約4つの塊(チャンク)程度という見積もりが代表的です。ネルソン・コーワンの整理として知られています。
長文読解では、この限界を超える情報を処理する必要があるため、紙の上に「取り出しやすい目印」を作ることが合理的になります。
説明文・論説文の線引きは3つの基準
説明文(論説文)で線引きが機能するかどうかは、基準を固定できるかで決まります。おすすめの基準は次の3つです。
1)筆者の意見・主張
筆者が何を言いたいかが見えないと、根拠探しが散らかります。主張らしい部分のサインとしては、次のような表現が出やすいです。
「〜と思う」「〜ではないだろうか」「〜べきだ」
「重要である」「欠かせない」「大切である」
大事なのは、サイン語を“丸暗記”することではなく、「そこが結論の候補だ」と気づくことです。線引きは、その気づきを固定する道具です。
2)対比(比べている構造)
文章はしばしば「AとBを比べて、どちらを採るか」を書きます。対比が見えると、話の骨格が一気に太くなります。
対比が出やすいサインとしては、逆接や対比の接続語が有効です。
「しかし」「だが」「ところが」「一方」「それに対して」「逆に」
サイン語そのものではなく、その前後にある「何と何を比べているか」に線を引くのがポイントです。
3)まとめ(言い換え・要約)
具体例のあとに、例の意味を抽象化して言い直す場所が来ることが多いです。ここを逃すと、細部は読めても全体像が残りません。
まとめのサインは次が典型です。
「つまり」「要するに」「このように」「以上のことから」
ここは「速く読む場所」ではなく「まとめて理解する場所」と位置づけて線引きします。
要点:物語文の線引きは3つの基準
物語文での線引きは、説明文と目的が違います。物語は「誰が、いつ、どう感じて、どう変わったか」を追う読みだからです。
1)人物(登場人物の整理)
人物が追えないと、場面がつながりません。呼び名が変わる場合(例:「私」「ぼく」「彼」「あいつ」)は特に崩れやすいので、初出・呼称の変化・関係がわかる箇所に印を残します。
2)心情表現(特に間接表現)
「うれしい」「悲しい」より、「足取りが軽くなった」「視線を逸らした」「手が震えていた」などの間接表現が得点差になります。線引きは、心情の根拠を後から特定できるようにするためのものです。
3)比喩表現・情景描写
比喩に弱い子は、比喩を現実だと受け取ってしまうことがあります。比喩は「似た状態を重ねて意味を増やす表現」なので、何をどう表したい比喩なのかが問われます。
情景描写(天気、光、音、空気)が心情や伏線として働く場合もありますが、ここは上級です。成績が安定してから、線引きの対象を広げれば十分です。
比較:うまくいく線引き/失敗する線引き
線引きが効く子と効かない子の差は、センスではなく「基準」と「使い方」です。
- うまくいく線引きは、主張・対比・まとめ(物語なら人物・心情)など、狙いが固定されています。あとで設問に戻ったとき、線の周辺を起点に根拠を探せます。
- 失敗する線引きは、「なんとなく大事そう」で引くため、ほぼ全部に線が入り、情報の優先順位が消えます。逆に、迷って引けず、どこにも目印が残らないケースもあります。どちらも振り返りができず、改善の手がかりが残りません。
線引きは、読む最中の作業であると同時に、次回に改善点を引き継ぐためのログです。
具体例:短い文章で線を引くとこうなる
以下は例文です(オリジナル)。
「多くの人は、情報を集めれば正しい判断ができると考える。しかし、情報が増えるほど判断は遅くなることがある。つまり、判断の質は情報量だけで決まらず、整理の仕方に左右される。」
この場合の線引きは、次の2点に絞ると機能します。
- 対比の核:「しかし」前後の言い分(情報が多いほど良い/多いほど遅くなる)
- まとめ:「つまり」以降の結論(質は情報量ではなく整理に左右される)
「サイン語に線」ではなく、「構造の要所に線」という発想に切り替えるのが目的です。
練習法:スモールステップで定着させる
一気に全部をやろうとすると失敗します。練習は、基準を1つに限定して回すのが最短です。
たとえば説明文なら、次の順で十分です。
1週目は「主張だけ」
2週目は「対比だけ」
3週目は「まとめだけ」
そのあとに3点セットを統合します。物語文も同様に、最初は「人物だけ」「心情だけ」「比喩だけ」に集中して取り組んでも良いでしょう。
まとめ:線引きは「振り返り」を可能にする目印
線引きは、読解中の迷子を減らすための外部記憶であり、同時に「何ができて、何ができていなかったか」を次に持ち越すための目印です。基準を固定し、スモールステップで練習を回せば、線引きは“作業”から“武器”に変わります。








