2026年度 豊島岡女子学園中 第1回 国語 徹底解説
2026年度の豊島岡女子学園中学校(第1回)国語入試を徹底解説します。大問一は中村桃子『ことばが変われば社会が変わる』(説明的文章)、大問二は沖田円『ミートドリアと星の声』(物語文)が出題されました。「正しい日本語」とは何か、そして猫と人との温かい物語――豊島岡らしい骨太なテーマが並ぶ良問です。
大問一:中村桃子『ことばが変われば社会が変わる』
文章の概要
本文は、夫や妻などのパートナーの呼び名をめぐる問題を入口に、「正しい日本語観」(=日本語をどう使うべきかという考え方)を分析した論説文です。筆者の中村桃子氏は言語学者の立場から、「正しい日本語」という概念に潜む二つの考え方を明らかにし、ことばの選び方がそのまま社会の在り方に関わっていることを論じています。
筆者の主張
筆者は、「正しい日本語観」には以下の二つの考え方が含まれていると述べています。
(A)ルール重視型:日本語にはそれぞれの場面で「正しい話し方」のルールがすでに決まっており、話し手はそのルールを学んで従うべきだという考え方。敬語の使い方や呼称のマナーなど、既存の規範を重んじる姿勢。
(B)自由選択型:場面に「ふさわしい言い方」は確かにあるが、最終的にどの言葉を使うかは話し手自身が考え、選ぶべきだという考え方。相手との関係性をどう表現したいかを自分の意志で決める自由を重視する姿勢。
筆者自身はカナダ・アメリカ留学の経験を通じて(B)の立場に共感しており、「選択する自由」の大切さを強調しています。また、「看護婦」から「看護師」への呼称変更を例に、言葉が変わることで社会の意識(ジェンダー平等など)も変わることを具体的に示しています。
対比構造

この文章の核は「ルール重視型」VS「自由選択型」の対比です。
- ルール重視型:ルールは決まっている → 従うべき → 誰かが正しい呼び方を決めてくれる → 他力本願
- 自由選択型:場面にふさわしい言い方がある → 自分で選ぶ → 関係性を自分の意志で表現する → 主体的
筆者は後者の立場から、パートナーの呼び名を「誰に決めてほしいか」というアンケート結果なども引用しながら論を展開しています。
段落構成
- 序論:パートナーの呼び名が定着しない問題提起 → 「正しい日本語観」の紹介
- 本論①:第一の考え方(ルール重視)の説明 + 文化審議会の答申・敬語の指針
- 本論②:第二の考え方(ふさわしい選択)の説明 + 筆者のカナダ留学体験
- 本論③:「看護婦」→「看護師」の呼称変更の具体例
- 結論:二つの考え方の違いを整理、ことばの選択が社会を変える力を持つことの示唆
重要語句・表現
- 言語イデオロギー:ことばに対する考え方・価値観のこと
- 正しい日本語観:日本語を「正しいかどうか」で評価する傾向
- 従順な意識:ルールに従うことを当然とする態度
- 他力本願:自分では決めず、誰かに決めてもらおうとする姿勢
- 選択する自由:自分でことばを選ぶ権利と責任
- 固執:ひとつのことにこだわって離れないこと
設問解説
問一:二つ目の「正しい日本語観」の説明が始まる段落の最初の五字
答え:「正しい日」
解説:本文冒頭で①「正しい日本語観」は主に二つの考え方から成っていると述べた後、第一の考え方(ルール重視型)が説明されます。その後、「ふさわしい言い方を選ぶ」という第二の考え方の具体的説明が始まる段落を特定します。「正しい日本語観」を特徴付ける二つ目の考え方として、場面にふさわしい言い方を自分で選ぶことの重要性が展開される段落の冒頭五字が答えです。
問二:空らん②に入る言葉
答え:イ
解説:空欄②の前後の文脈から判断します。第二の考え方では「必ずこうしなければいけないという決まりがあるわけではない」としつつ、「場面にふさわしい言い方がある」とも述べています。ここに入る接続的な表現を選びます。文脈上、前の内容を受けつつ「補足・条件」を加える表現が適切です。
問三:線③「他人のパートナーを呼ぶ時の選択」の説明
答え:オ
解説:線③は、日本語の話し手が「正しい話し方のルール」を重視する傾向に関連する部分です。パートナーを呼ぶ際に「主人」「旦那」といった呼び名を使うことに違和感を持っていても、他人のパートナーは丁寧に呼ぶというルールを優先してしまう、という内容が述べられています。ルールを優先することでその呼び名で関係性が表現できるか違和感があっても使ってしまう、という説明が最も適切です。
問四:線④「次の言葉が出てこなかった」のはなぜか
答え:エ
解説:筆者がカナダに留学した際、教授に「何と呼んだらいいか」と聞かれて言葉が出てこなかった場面です。日本にいたときは「正しい」呼び方を学ぶことしかしてこなかったため、相手との関係を考えて自分で呼び方を選ぶという経験がなく、自分らしい呼び方を選ぶことができなかったのです。前述の対比構造を把握し「日本」と「カナダ」の違いを理解しておくと選択しやすいでしょう。
問五:線⑤「これには驚いた」のはなぜか
答え:オ
解説:カナダの小学校で、筆者が折り紙を教えたいと申し出たところ、数人の子どもが「習いたくない」とうしろの読書コーナーにいたという場面です。日本の小学校ではみんなが同じことをするのが当たり前だったのに、カナダでは個人の意思を尊重し、やりたくないことを遠慮なく表明できる文化の違いに筆者は驚いたのです。問四同様に対比構造の把握がカギになります。
問六:線⑥「早く日本に帰って、『A定食!』って注文したいなあ」
答え:ウ
解説:カナダでは食事を注文するにも細かい選択を求められ、「選択する自由」が面倒に感じられた場面です。「A定食」の注文は、自分で選ばなくてよい日本の仕組みを懐かしむ表現であり、「選択する自由」が苦痛にもなりうること、その程度が文化によって異なることを象徴しています。
問七:線⑦「私たちはずっと悩んでるのよ」の説明
答え:イ
解説:これはテレビ番組でパートナーの呼び名問題が取り上げられた際のマツコデラックスの発言です。呼び名を自分で決める権利はあるのに、正しい呼び方が定まらずパートナーの呼び方に悩み続けている人々の気持ちを代弁しています。自分の意思で決めたくても正しい呼び方が分からないことに悩んでいるという内容が最も適切です。
問八:線⑧「看護婦」から「看護師」への普及
答え:ア
解説:「看護婦」は女性を表す漢字が使われていたため、男女雇用機会均等の観点からジェンダー中立な「看護師」に法的に変更されました。国が法律で名称変更を決定したことで、抵抗なく新しい呼び名が全国に普及していった、という流れが正しい説明です。男女の平等を重視するよう国が責任を負って決めたことを受け入れた、という内容です。
問九:二重線の二つの考え方の違い(記述・70字以上90字以内)
模範解答:前者は誰かが決めてくれる正しい呼び方を、場面にあわせて正しく使うことを重視し、後者は相手とのどのような関係を表現したいのかを考え、自分の意志で呼び方を選択する自由があることを重視する。
解説:この問題は本文の核心を問う記述問題です。ポイントは以下の対比を正確に書くことです。
- 前者(ルール重視型):「誰かが決めてくれる正しい呼び方」を「場面に応じて正しく使う」
- 後者(自由選択型):「どのような関係を表現したいかを考え」「自分の意志で選択する自由」 「前者は~、後者は~」という対比の形でまとめるのがコツです。
大問二:沖田円『ミートドリアと星の声』
文章の概要
洋食屋「オリオン」を舞台に、主人公の文(ふみ)が、病気の愛猫・茶々との最後の日々を過ごす物語です。猫の看病を続ける日常のなかで、オリオンの料理人・くるみちゃんの温かさに触れ、やがて茶々との別れを経て、前を向いていく文の姿が描かれています。
出典は沖田円作、丘の上の洋食屋オリオンのシリーズ『ミートドリアと星の声』より。
登場人物
- 文(わたし):主人公・語り手。茶々を深く愛し、病状の悪化に心を痛めている。オリオンのトマトソースオムライスが一番好き。
- 賢吾(けんご):文の夫。茶々の看病を共にし、文を支える存在。
- 茶々(ちゃちゃ):文と賢吾の愛猫。二十年生きた高齢の黒猫。病状が日に日に悪化している。
- ネロ:洋食屋オリオンの看板猫。十八歳の黒猫。出窓がお気に入りの場所。賢い猫として知られる。
- くるみちゃん:オリオンのシェフ。心優しく、茶々のために療法食を用意してくれる。
- 真湖さん(まこさん):オリオンのスタッフ。スイーツ作りを担当。
場面の変化
場面①(オリオンでのランチ):文と賢吾が、茶々の気分転換のためにオリオンを訪れる。文はいつものオムライスを食べて幸せな気持ちになる。
場面②(ネロとの出会い):出窓にいるネロとの交流。ネロの賢さや猫又の話題。茶々もネロも高齢猫であり、「猫又になれるかな」という会話が交わされる。
場面③(くるみちゃんの優しさ):会計時、くるみちゃんが茶々のために猫の腎臓病用療法食を用意してくれていた。文は感動して泣きそうになる。
場面④(茶々との別れ):茶々の死。火葬と葬儀。文は茶々との思い出を振り返り、たくさんの小さな幸せをくれた存在だったと実感する。
場面⑤(再びオリオンへ):茶々の死後、文と賢吾がオリオンを再訪。くるみちゃんが駆け寄り、ネロが茶々の骨壺のそばに座る。夏の日差しが「祝福を呼ぶような」光として描写される。
心情表現とその変化

(+プラス)オリオンの料理を食べて「心から美味しいと思うことができない」のに、食べると幸せな気持ちになる → 食べ物の持つ癒やしの力。
(-マイナス)「②かけがえのない大事なものは、他の何で満たそうとしても足りない」→ 茶々を失う予感に対する深い悲しみと喪失感。
(±混在・特に重要)くるみちゃんから療法食をもらい、「④泣きそうになり咽喉に顔を伏せた」→ 嬉しさと悲しさが入り混じった複雑な心情。茶々への愛情と、それを理解してくれる他者の優しさへの感動、そして「もう食べられないかもしれない」という切なさが交錯している。
(+プラス)茶々との思い出を振り返り「⑥わたしの人生の小さな幸せを集めたら、きっと茶々の形になる」→ 悲しみを超えて、茶々が自分に与えてくれた幸福を肯定的に受け止める心情。
(+転換)ラストシーン:ネロが骨壺のそばに座り、「⑦祝福を呼ぶような夏の日差し」→ 茶々の死を悼みつつも、前向きになれそうだという再生の予感。
比喩表現
- 「わたしの人生の小さな幸せを集めたら、きっと茶々の形になる」★ → 茶々そのものが「幸せ」の象徴であることを表す美しい比喩。茶々がくれた日々の小さな幸福が積み重なって、茶々という存在そのものになっている。
- 「祝福を呼ぶような夏の日差し」★ → 茶々の死後、文が前向きになれる予感を「夏の日差し」に重ねた情景描写。悲しみの中にも温かさを感じている心情の投影。
主題
大切な存在(愛猫)との別れを経験しながらも、共に過ごした日々の小さな幸せは決して消えず、それが生きる力になるということ。また、周囲の人々(くるみちゃん、ネロ)の温かさが、悲しみの中にいる人の心を支えてくれるということ。
設問解説
問一:線①「心から美味しいと思うことができない」のはなぜか
答え:ア
解説:文は茶々の病気が日に日に悪化していることを毎日悩んでおり、自分が楽しく食事をしていることに罪悪感を抱いているから、心から美味しいと思えないのです。茶々の苦しみを思うと、自分だけが楽しむことができないという心情です。
問二:線②「かけがえのない〜足りない」の「かけがえのない大事なもの」を抜き出す
答え:一生の宝物
解説:文は茶々との出会いや日々を振り返り、茶々の存在が「一生の宝物」であると述べています。茶々そのものが、何にも代えられない大事なものであることを示す言葉です。本文中の「一生の宝物が増え続けた」から抜き出します。
問三(1):空らん「Ⅰ」に入る言葉
答え:エ
解説:「Ⅰ」には鎌倉時代の兼好法師が書いた随筆の題名が入ります。冒頭に「諸行無常の響あり」「盛者必衰の理をあらはす」などの有名な一節が引用されており、これは『徒然草』ではなく『方丈記』の冒頭です。ただし、選択肢の内容と本文の引用内容を照合して正しい作品を選びます。
問三(2):空らん「Ⅱ」に入る言葉
答え:イ
解説:ハト江さんとシマ子さんの会話の中で、文が茶々について語った言葉「Ⅱ」を文の心情から推測します。茶々が猫又になれなかったことへの思いが語られる文脈です。
問四:線④「泣きそうになり咽喉に顔を伏せた」のはなぜか
答え:ア
解説:くるみちゃんが茶々のために療法食を用意してくれていたことに文は深く感動しました。病気の猫とその飼い主のことを想像し、苦しくて仕方なくなってしまったから、泣きそうになりながらも他のお客さんがいる中で泣くわけにいかず、顔を伏せたのです。くるみちゃんの優しさへの感動と、茶々がもう食べられないかもしれないという悲しみが入り混じった行動です。
問五:空らん⑤に入る言葉
答え:オ
解説:文とくるみちゃんのやり取りの場面です。くるみちゃんが文に声をかけた後、文がどのような言葉を返したかを文脈から判断します。文の感謝の気持ちと、その場を離れがたい気持ちが表れる言葉が入ります。
問六:線⑥「わたしの人生の小さな幸せを集めたら、きっと茶々の形になる」
答え:ア
解説:この表現は、茶々と過ごした日々の一つひとつが「小さな幸せ」であり、その幸せを全部集めると茶々の姿になる、つまり茶々そのものが幸せの結晶であるという意味です。辛い時も茶々が寄り添ってくれたこと、幸せな思い出はいつまでも心に残るということを踏まえた解釈が正しいです。
問七:線⑦「ご機嫌なときの顔つきだった」のネロの様子
答え:イ
解説:茶々の骨壺が置いてある椅子のそばに、ネロがやってきてお利口に座った場面です。ネロは普段は出窓が定位置で、客がいるテーブルには勝手に乗らない猫です。それなのに茶々の骨壺のそばに来て「ご機嫌な顔」をしているのは、茶々の存在を感じ取っているかのような描写であり、文と賢吾がオリオンに来たことを歓迎するかのようでもあります。
問八:二重線AとBの心情の違い(50字以内)
模範解答:Aは茶々の病状が悪くなったこと悲しんでいるが、Bは茶々の死と向き合い前向きになれそうだと感じている〔という違い〕
解説:
- A「重たい夏の空気が肌にもったりと纏わりついた」→ 茶々の病気が悪化し、苦しんでいる姿を見て重い気持ちになっている
- B「祝福を呼ぶような夏の日差し」→ 茶々の死後、オリオンで茶々の骨壺のそばにネロが来て、前向きになれそうだという気持ち
同じ「夏」の描写でも、Aは重苦しく纏わりつく暑さ(悲しみ)、Bは祝福のような日差し(前向きな再生)と、心情の変化が対照的に表現されています。
まとめ
2026年度の豊島岡女子学園中(第1回)国語は、説明的文章では「正しい日本語」をめぐる二つの考え方の対比を正確に読み取る力が、物語文では愛猫との別れを通じた繊細な心情変化を追う力が求められました。
特に大問一の問九(記述)は、二つの考え方を「前者は~、後者は~」の形で対比する力が問われる良問です。大問二は、プラスとマイナスが入り混じる「±の心情」を読み取ることがカギでした。くるみちゃんの療法食の場面(問四)は、「嬉しさ」と「悲しさ」が同時に存在する複雑な心情を正しく捉えられるかがポイントです。
豊島岡を目指す受験生は、説明的文章では「対比構造を図に整理する」訓練を、物語文では「心情の±を意識しながら線を引く」習慣をつけましょう。この二つの力は、どの学校の入試でも必ず活きてきます。頑張ってください!
豊島岡対策をご希望の方は👇こちらまで。






