2026年度 女子学院中 国語 入試問題解説
国語 全問 完全解説
今回は2026年度 女子学院中学校の国語入試を徹底解説します。大問一は平松洋子さんの随筆『父のビスコ』より「母の金平糖」、大問二は俳句の力について論じた説明的文章、大問三は漢字の書き取りです。女子学院らしい深い読解力と記述力が問われる良問揃いでした。
大問一:平松洋子『父のビスコ』より「母の金平糖」
文章の概要
- 出典
- 『父のビスコ』(集英社文庫)
- 著者
- 平松洋子(ひらまつようこ)
- ジャンル
- 随筆
- 内容
- 筆者が母から聞いた戦時中の思い出を軸に、サクマドロップスや金平糖にまつわる記憶を紡ぐ。「偶然に委ねること」の深い意味を問いかける。
冒頭では、サクマの缶入りドロップスの思い出が語られます。楕円形の缶を振ると乾いた音が響き、何色が出てくるかわからないドキドキ感。ハッカ味が苦手だった筆者は、缶を振って色を選ぼうとした子ども時代を振り返ります。
やがて話は母の戦争体験へと移ります。母は昭和二十年当時十一歳の長女で、四人きょうだいの筆頭でした。父(筆者の祖父)は戦地へ出征し、母(筆者の祖母)と子どもたち四人は岡山の寺に身を寄せていました。昭和二十年六月二十九日の岡山大空襲、八月十五日の終戦、そして父の帰還。父が戦地から持ち帰った金平糖を子どもたちが取り合い、赤い金平糖をめぐって喧嘩になったエピソードが、母の忘れられない記憶として語られます。
後半では金平糖の製造工程が紹介され、「振り出し」と呼ばれる工程で長い時間をかけて結晶を育てていく様子が描かれます。そして「ドロップスも金平糖も、おみくじの化身なのかもしれない」という一文で締めくくられ、偶然性と運命の重みがテーマとして浮かび上がります。
「偶然に委ねること」の中に宿る人間の思いの深さ。サクマドロップスも金平糖もおみくじも、自分の意志では結果を選べないにもかかわらず、そこに込められた思いは計り知れないほど深い。
登場人物と人物像
| 人物 | 立場 | 人物像 |
|---|---|---|
| 「私」(筆者・平松洋子) | 語り手 | 母から聞いた話を大切に受け止め、自分自身のドロップスの記憶と重ね合わせながら語る。 |
| 母(筆者の母) | 八十四歳・長女 当時11歳 |
四人きょうだいの一番上。戦時中に岡山の寺で疎開生活。金平糖の思い出を「その言葉を握りしめ」るように大切にしてきた。口に出して父に訊けなかった思いを内に秘め続けた人物。 |
| 祖母(母の母) | 母の母 | 夫の出征後、子ども四人を連れて岡山の寺に疎開。空襲のたびに子どもたちを守った。金平糖の喧嘩で「ものすごく怒った」のは、夫への申し訳なさゆえ。 |
| 祖父(母の父) | 母の父・出征兵 | 戦地から帰還し、兵隊靴のポケットに金平糖をしまって子どもたちに持ち帰った。命がけの愛情の象徴。 |
| 弟妹3人 | 母のきょうだい | 赤い金平糖をめぐって喧嘩になる。純粋な子どもの姿。 |
この随筆では「私」「母」「祖母」が混在するため、誰のことを指しているかを常に意識しながら読むことが重要です。「母」は筆者の母(当時11歳の長女)、「お母さん」は祖母を指す場面が多い点に注意。
場面の変化
心情変化表
| 場面 | 出来事・きっかけ | ± | 心情表現・しぐさ・情景 | 直接的な心情 |
|---|---|---|---|---|
| 場面1 ドロップスの記憶 |
缶を振ってドロップスを選ぶ楽しさ | + | 「何が出てくるのだろう」「後生大事に缶を振って」 | 期待感・わくわく |
| 場面2 疎開生活・空襲 |
空襲の恐怖、街が焼ける | - | 「怖ろしいほど赤になって」「防空壕に逃げ込む」 | 恐怖・不安 |
| 場面2 父の帰りを待つ ★ |
戦争は終わったが父がいつ帰るかわからない | ± | 「口に出してお母さんに訊けなかった」→ 母を気遣い不安を隠す | 希望と不安が混在 |
| 場面3 父の帰還・金平糖 |
父が金平糖を持ち帰る、歓声と取り合い | + | 「歓声を上げ」「取り合いを始めた」「赤い金平糖がほしい」 | 純粋な喜び・興奮 |
| 場面3 金平糖の喧嘩 ★★ |
赤い金平糖で子どもが喧嘩、祖母激怒 | ± | 「ものすごく剣幕で怒った」→ 怒り+夫への申し訳なさ | 怒り+罪悪感が混在 |
| 場面5 現在の振り返り |
金平糖の「振り出し」、おみくじの化身 | ± | 「自分かっかのまま預けた」→ 偶然に委ねる深い意味 | 感慨と祈り |
± がついた行が入試で特に問われやすい場面です。「父の帰りを信じたいのに訊けない」「怒りの裏にある申し訳なさ」といった複雑な心情を正確に言語化できるかがポイント。特に「金平糖の喧嘩」の場面は問八(記述)に直結します。
比喩表現とその解説
「蜘蛛の糸のようにドロップスにべたりと貼りつく」
ドロップスの表面についた砂糖の粘りを蜘蛛の糸に例えた比喩。缶の中でくっつき合ったドロップスの様子を巧みに表現しています。
「おみくじの化身」
ドロップスも金平糖も、何色が出るか・どれが自分のものになるかは偶然に左右される。この「選べない」という特性を「おみくじ」に例えることで、運命や偶然に委ねることの意味を問いかけています。
随筆文では、体験の中に「感想や意見」が紛れていることがあります。比喩表現は筆者の考え方・価値観を示す重要なサインです。「おみくじの化身」は、この文章全体のテーマを凝縮した表現として、問十二で直接問われています。
設問解説(大問一)
問一 ー①「別格」の言葉の意味
「別格」とは、他のものとは区別されて特別に扱われるという意味です。サクマドロップスが他のおやつとは違う特別な存在だったことを表しています。
選択肢イの「普通のものと少しだけ異なると扱われる」ではなく、「他と区別して優先されるという風格がある」という意味が文脈に最も合致します。特別な中のさらに特別、というニュアンスです。
問二 ー②「後生大事に缶を振って自分かっかのまま預けた」
「後生大事」は「非常に大切にする」という意味。缶を大事に振って、何色が出るかを自分では選べず運命(神様)に委ねたという文脈です。力強く一生懸命、缶を振って祈る姿が浮かびます。選択肢エの「大切なものを自分かっかのまま預けた」が正解です。
問三 ー「母」の家族に関する読み取り
母は長女で、下に三人のきょうだいがいる四人きょうだい。家族は岡山の寺に疎開していた。本文の記述「母を筆頭に……四人きょうだい」「岡山の寺に」等から読み取れます。
問四 ー「母」の家族構成
「母」は長女で、下に三人は弟妹がいました。本文中の「下の三人は弟か妹だろうか」という記述と合わせて、選択肢エが正解です。
問五 ー⑤「十一歳のある日」とはどういう日ですか
お父さん〔が〕戦地から家に帰ってきた〔日〕
「十一歳のある日」が忘れられない理由は、戦地に出征していた父が帰還した日だからです。解答欄の形式に合わせて記述します。
解答欄に「( )が( )日」という誘導があるので、「お父さんが戦地から家に帰ってきた日」とシンプルに書きましょう。余計な情報を入れるとかえって減点されることがあります。
問六 ー⑥「その言葉を握りしめ」から読み取れる心情(二つ選択)
「その言葉を握りしめ」という表現には、何十年も大切に抱え続けてきた思いが込められています。
| 選択肢 | 内容 | 判定 |
|---|---|---|
| ア | その言葉を大切にしてきた心情 | 「握りしめ」は大切にするという意味。正解 |
| イ | その言葉を人に伝えようとする心情 | 「握りしめる」は伝えるではなく内に秘める行為。× |
| ウ | その言葉を何があっても守ろうとする心情 | 「守る」とは少し違うニュアンス。× |
| エ | その言葉を手を使って握りしめている心情 | 文字通りではなく比喩的表現。× |
| オ | その言葉を自分を支える力にしている心情 | おまもりのように支えにしてきた。正解 |
問七 ー⑦「それがいつながら、口に出してお母さんに訊けなかった」
母(筆者の母)が祖母に「お父さんは帰ってくるの?」と訊けなかった理由。選択肢イは、父の帰りを信じて待っている母(祖母)を傷つけたくないという子どもなりの気遣いを表しています。
「訊けなかった」のは、訊くことで母(祖母)を不安にさせてしまうのではないかという気遣いからです。「自分が怖い」のではなく「母を思いやる」心情がカギ。
問八 ー⑧「お母さんがものすごい剣幕で怒った」理由★★★ 最重要問題
夫が甘いものに飢えている子どもたちのために命がけで持ち帰った貴重な土産であるにもかかわらず、その苦労や重みを理解しない子どもたちが、赤色の金平糖がほしいと喧嘩を始めたことで、夫に申し訳なく感じたから。
この問題は物語の核心です。祖母の「怒り」の本当の理由を読み取る記述問題。表面的には子どもたちへの怒りに見えますが、その奥にあるのは夫への申し訳なさです。
答案には次の3点を必ず入れましょう。
1. 金平糖の価値 — 夫が命がけで持ち帰った貴重な土産であること
2. 子どもたちの行動 — その苦労を理解せず赤い金平糖で喧嘩を始めたこと
3. 怒りの本質 — 夫に対して申し訳なく感じたこと
特に3つ目の「夫への申し訳なさ」を書き忘れると大きな減点になります。
問九 ー⑨「もし」の連打
「もし」が繰り返されることで、自分の存在が偶然の産物であり、少しでも違っていたら存在しなかったかもしれないという実存的な不安が表現されています。選択肢エが最も適切です。
問十 ー⑩にあてはまる動物をカタカナで
キツネ
「キツネにつままれる」は、予想外の出来事に呆然とする慣用表現です。金平糖の不思議な製造過程を間近で見て驚いた様子。
問十一 ー⑪「思わせぶりな佇まいだ」の説明文の空欄(漢字二字)
期待
金平糖の愛らしい見た目が見る人に何かを「期待」させるような雰囲気をまとっているということ。
問十二 ー⑫「ドロップス」「金平糖」「おみくじ」の共通点(二点記述)★★★
一点目:自分の意志では選べず、偶然に結果が決まるという点。
二点目:愛らしい見た目とは裏腹に、運命を左右するほどの重みが詰まっている点。
ドロップスは缶を振って出てくる色を選べない。金平糖も取り合いの中でどれが自分のものになるかわからない。おみくじも引くまで結果がわからない。
可愛らしい外見の裏に、人の運命や思い出を大きく左右するほどの意味が込められている。金平糖には父の命がけの愛情が詰まっている。
大問二:俳句の力について(説明的文章)
文章の概要
- ジャンル
- 説明的文章(俳句論)
- 構成
- A(又吉直樹の俳句)→ B(正岡子規)→ C(神野紗希の考え)
- 主張
- 俳句には逆境を乗り越え、他者と心を通わせ、日常を新鮮に捉え直す力がある。
芥川賞作家の又吉直樹さんの俳句を入口に、正岡子規の生き方、神野紗希さんの考えを通して、「俳句が人の世界を変える力を持つ」ことを論じています。
段落構成と対比
桜が静かに散る光景。一見穏やかで何も起きていないように見える。
静寂の中に圧倒的な存在感を聞く。発想を転換して世界を新しく見る。
設問解説(大問二)
問一 ー①「花吹雪」の様子
「花吹雪」は桜の花びらが風に一斉に舞い散る華やかな光景。選択肢ウ「風にあおられて桜の花びらが一斉に乱れ散る様子」。
問二 ー Bの俳句の季節
1:ア(初夏) 2:イ(晩冬)
(1)苺が季語で初夏。(2)もう一方は晩冬の季語。俳句の季語を正確に判断する力が求められます。
問三 ー②「子規はあえて、逆の方向へ」の発想転換(記述)
病気になるのは嫌なものだが、入院中に後輩たちが山盛りのいちごを持ってお見舞いに来てくれるのは、病気になったおかげで嬉しいと言葉で表現することによって、病という逆境を肯定的に捉え直した。
① 「病気は嫌なもの」という前提を認めていること
② その中に「後輩が苺を持ってきてくれる」嬉しさを見出すこと
③ 「おかげで嬉しい」と言葉にすることで逆境を肯定的に捉え直すこと
この3段階の論理を明確に書きましょう。
問四 ー③「過去の俳人たちにあてはまらない人物」+具体例
記号:A
誰→筆者が 何に→静かに散る桜に どう→聞こえない爆音を聞く
問五 ー④「俳句の考え方を装備に加えておくこと」
問六 ー⑤「俳句という詩の力」
言葉によって他者とは異なる考え方を採用し、困難な時代でも自分の個性を磨いて生きてゆける——俳句の表現方法がもたらす力。
問七 ー 空欄補充
I:あたたかく / II:他者と心を通わせる
問八 ー⑥「俳句をはじめる」ことの筆者の考え
俳句をはじめることで日常の小さなことに目を向けるようになり、「今日と同じ日は二度と来ない」という気づきが生まれる。
大問三:漢字の書き取り
| 番号 | カタカナ | 解答 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 1 | ハクジョウする | 白状 | 隠していたことを正直に告白すること。 |
| 2 | テンランカイへ出かける | 展覧(会) | 芸術作品などを陳列して一般に見せる催し。 |
| 3 | コショウ中で使えない | 故障 | 機械などが正常に動かなくなること。 |
| 4 | ボタンをハズす | 外(す) | 留めてあるものを取り去ること。 |
| 5 | コマやかな気配り | 細(やかな) | 注意が行き届いて丁寧な様子。 |
| 6 | 友情をハグクんでいく | 育(む) | 大切に守りながら成長させること。 |
重要語句・表現まとめ
まとめ
2026年度の女子学院国語は、大問一の随筆が非常に読み応えのある文章でした。
戦時中の金平糖のエピソードは、単なる思い出話ではなく、「偶然に委ねること」「選べないものの中にある深い意味」というテーマにつながっています。問八の記述では、表面的な怒りの裏にある本当の感情(夫への申し訳なさ)を読み取る力が必要でした。
大問二の俳句の文章も、具体例(子規・又吉)を通じて抽象的な主張を理解する力が問われました。
記述問題は「何を書くか」だけでなく「どの順番で書くか」も意識して練習していきましょう。一緒に頑張りましょう!





