はじめに
この記事では、2026年度 早稲田中学校 第1回入試の国語を、大問ごとに全問解説します。大問一は物語文(朝倉宏景「風が吹いたり、花が散ったり」)、大問二は説明的文章(富野由悠季『映像の原則 改訂二版』)からの出題です。
人物相関図や心情変化表、段落構成図などの図解もあわせて掲載していますので、復習や今後の対策にお役立てください。
早稲田中は物語文+説明的文章の2題構成が定番です。物語文では登場人物の心情変化を正確に読み取る力が問われ、記述問題も毎年出題されます。説明的文章では筆者の論理構造と主張の把握がポイント。字数制限付きの記述にも慣れておきましょう。
大問一:物語文「風が吹いたり、花が散ったり」
文章のあらすじ
主人公の亮磨(りょうま)は、最近偶然に知り合った視覚に障がいを持つ女性さちから、フルマラソンの伴走を頼まれます。
亮磨には暗い過去があります。高校三年生のとき、中学時代の先輩黒崎にお金を借りたことをきっかけに誘われるまま、特殊詐欺の「受け子」をしてしまいました。大宮駅で老婆から紙袋を受け取る場面で取り押さえられ、家庭裁判所で保護観察処分に。高校は退学となり、今は上京して居酒屋で働いています。
伴走を頼まれた亮磨は「自分には資格がない」と言い、その理由として、さちに過去を打ち明けます。さちに嫌われればいいと思いながらも、自分でも思いもよらない言葉が止まりませんでした。
さちとの交流を通じて、亮磨は「自分は弱い人間だ」と認めながらも、前を向いて走り続けることを決意します。さちの強さに触れ、現実の厳しさを受け入れたうえで、未来に向かって努力する姿勢を学んでいくのです。
場面1:フルマラソン伴走の依頼(さちとの出会い)
場面2:「資格がない」― 亮磨の告白が始まる
場面3:回想(黒崎に誘われ受け子に → 大宮駅で逮捕 → 保護観察処分・退学)
場面4:さちとの会話 → 自分の弱さとの対峙、覚悟を決める
過去に特殊詐欺に加担
やり直そうとしている
伴走を依頼
盲学校の先生を目指す
金を貸して近づく
受け子に誘い込む
登場人物と人物像
亮磨(りょうま)― 主人公
過去に特殊詐欺の受け子として加担してしまった少年です。東京の私立高校に通っていた高校三年生のとき、先輩の黒崎に誘われて受け子になり、大宮駅で逮捕されました。保護観察処分を受けて高校は退学し、今は居酒屋で働いています。自分を「卑劣な人間」と責める一方で、さちとの出会いを通じて少しずつ変わっていきます。
さち ― 視覚障がいの女性
視覚に障がいがありながらも、フルマラソンに挑戦し、盲学校の先生になることを目指す女性です。亮磨に伴走を頼みます。その前向きな姿勢と強い意志は、亮磨の価値観を大きく揺さぶります。
黒崎 ― 亮磨を受け子に誘った先輩
亮磨の中学時代のバスケ部の先輩です。気前よく一万円札を貸してくれましたが、それこそが狙いでした。借りた三万円を返せないかと持ちかけ、「金稼ぎたくね?」と受け子の仕事に誘います。ただ黒崎自身も、受け子になりそうな「駒」をスカウトする役目にすぎませんでした(問4のY)。
心情の変化とポイント
亮磨は物語を通じて「マイナス → ±混在 → プラスへの転換」という心情変化をたどります。特にさちとの対話の場面で、「自分の弱さを認めながらも前を向こうとする」という複雑な心情が問われています。こうした±混在の場面は入試で最も出題されやすいポイントです。
比喩表現
設問解説
二重傍線部aの読み、b・cのカタカナを漢字に直す問題です。
a「この期に及んで」の「期」は「ご」と読みます。「ぎりぎりの場面になっても」という意味の慣用句です。「期」はふつう「き」と読む(期間・期限など)ので、この読みは知識として要チェックです。
b「焦点」は「ショウテン」。物事の核心や注目すべきところを意味します。「焦」の字は「焦(こ)げる」でも使います。
c「代償」は「ダイショウ」。行動の結果として支払う犠牲や対価のこと。物語のテーマに関わる重要語です。
本文中の空欄①②に入る言葉を考える問題です。
①は、本文の終わり近くの「さちを倒したことを正直に話すつもりだったのに、完全にタイミングを失っていた」から「さちを倒した」を抜き出します。②は、正直に話せないまま、まだそのことを「隠し」ているので、二字で「隠し」と書きます。
この場面では亮磨が「自分には資格がない」と感じている理由を具体的に示す重要な空欄です。過去の罪を隠している後ろめたさがにじむ場面です。
「人をだまして、老人から金をとろうとして、それで……」と話したあと、「さちは思わぬ告白におびえているのかもしれない。それでも、〔2〕」と続く空欄です。手がかりは、告白の直前の「とっさに口をついて出てきたのは、自分でも思いもよらなかった言葉だった」。自分の意志では止められなかったのですから、オ「勝手にほとばしってくる自虐的な感情と言葉をとめることができなかった」が正解です。ア「打ち勝っていた」やエ「踏ん張った」は、自分の意志で話したことになるので合いません。
早稲田中の選択問題は、一見正しそうに見える選択肢が多い傾向があります。「だいたい合っている」ではなく、本文の具体的な描写と完全に一致するかどうかを確認しましょう。特に心情問題では「原因→心情」のつながりが正しいかが決め手になります。
Xは「走馬灯も見えました」「両親の顔も見えました」「僕にとっては、〔X〕とおんなじだった」。走馬灯は死ぬ前に見るといわれるものなので、カ「死」です。Yは「黒崎は受け子になりそうな〔Y〕をスカウトする役目にすぎなかった」。使い捨てにされる人を将棋のこまにたとえて、イ「駒」が入ります。
「さち」の言動によって「亮磨」の考えが変わったことが分かる一続きの二文を探し、最初の六字を書き抜く問題です。答えは「さちににぎりしめてもらった手に、まだほのかな温もりが残っている。」から始まる二文です。
さちが亮磨の手をにぎりしめる場面が、亮磨の心に変化をもたらした決定的な瞬間です。言葉ではなく、身体的な接触(手をにぎる行為)によって気持ちが動いているところがポイントです。
このあと亮磨は「さちとともに走ることで臆病で怠惰な自分を変えられるかもしれない」と考え始めます。書き抜き問題では、「考えが変わった」という条件を満たす部分を丁寧に探すことが大切です。変化の「きっかけ」となった具体的な行動に着目しましょう。
傍線部「意味のある、悪あがき」について、「現実」「未来」の語を必ず使い、二つの空欄をそれぞれ15字以上20字以内で埋めて説明する問題です。
「未来」側:未来に向かって希望をもって努力する〔こと。〕
「悪あがき」という表現は一見マイナスですが、「意味のある」がついています。つまり、現実が厳しいことを認めながらも、それでも未来に向かって努力することには意味がある、という亮磨の決意を表しています。
「現実」と「未来」の2語を必ず使うという条件を見落とさないこと。また、解答欄の構造(「けれども、その中で、」「こと。」の書き出しと結び)にしっかり合わせましょう。本文の主題に直結する重要な記述問題です。
本文の内容と一致する記述を「すべて」選ぶ問題です。「すべて選ぶ」形式は早稲田中の定番です。
イ「さちは、自分が置かれている逆境をいまでも完全には受け入れられていない」は、「朝起きて、自分の目が見えないことを忘れて、あれ? 見えないって、すごいパニックになることもある」と一致します。オは、亮磨が「俺はいざというときに逃げ出してしまうダメな人間なんだと痛感した」と一致します。アは「金をだまし取ってしまい」が誤り(受け取る前に取り押さえられています)。ウ「察してもらうために」、エ「亮磨のほうが苦しい」は本文にありません。
他の選択肢は、事実関係のずれや心情の読み違いがあります。「すべて選べ」の問題では、一つひとつの選択肢を本文と照らし合わせ、確実に正誤を判断しましょう。
主題のまとめ
この物語の主題は、「自分の弱さを認めたうえで、それでも前を向いて進む」ことの大切さです。
亮磨は過去の罪を背負い、自分を「卑劣な人間」と責めています。しかし、さちが障がいという困難に立ち向かいながらもフルマラソンに挑む姿を目の当たりにすることで、「弱さを抱えたままでも走り続けることに意味がある」という気づきを得ます。
自分を犠牲にするまで無理をするのではなく、現実を正面から受け止めたうえで、一歩ずつ未来へ向かう。それが「意味のある、悪あがき」なのです。
出題元の書籍です。全文を読むことで登場人物への理解がさらに深まります。入試では一部の抜粋しか出ないため、前後の文脈を把握しておくと有利です。
大問二:説明的文章『映像の原則 改訂二版』
文章の要旨
この文章は、アニメの制作を志す人に向けて書かれたもので、映像作品と「物語」の関係について論じています。
筆者はまず、映像作品の本質的な欠点として「観客を時間的に拘束する」という点を挙げます。映像は動きをともなうため、観客は作品に合わせて一定の時間を費やさなければなりません。これは演劇や音楽など他のライブ表現にも共通しますが、映像は一方的に観客を拘束するという点でより深刻です。
この欠点を克服するために不可欠なのが「物語」の力です。物語は、観客に時間を忘れさせ、作品の内容を記憶として刷り込む効果があります。筆者は、立ち話や噂話のような「お話」こそが物語の根本であり、「続けていられる」おもしろさが時間を乗り越えられる要素だと述べます。そのうえで、物語には時間とともに発展していくおもしろさ(発展性)と、それを伝える「語り口」が必要だと主張しています。
筆者の主張と対比表現
この文章のキーワードは「時間」です。筆者は映像の本質的な欠点を「時間的拘束」と定義し、その克服手段として「物語」を位置づけています。
さらに筆者は、物語るには時間が必要で、時間とともに発展するおもしろさ(発展性)があってこそ観客は見続けると述べます。そして、物語をどう伝えるかという「語り口」を発揮しなければ、映像は「ただの観察行為」にすぎないとしています。
設問解説
傍線部1「映像の欠点」の内容を、二十五字以上三十字以内で説明する問題です。
解答欄に「映像が」「点。」の書き出しと結びが示されています。ポイントは「動きをともなう → 時間的に拘束する」というつながりを、制限字数の中でまとめることです。筆者が「絶対的な欠点」と強調している箇所を正確に読み取りましょう。
「物語が、観客に〔 〕から」「物語によって、映像が観客に〔 〕るから」の空欄を埋める問題です。
②〔物語によって、映像が観客に〕記憶として刷り込まれ〔るから。〕
物語が映像にとって不可欠な理由を2つの側面から答えます。①は「時間を忘れさせる」という効果、②は「記憶に刷り込まれる」という効果です。本文中に明確にこの2点が述べられているので、該当箇所を丁寧に探しましょう。
解答欄の書き出し「物語が、観客に」「物語によって、映像が観客に」の主語と目的語が異なります。①は「物語」→「観客」への直接的な効果、②は「物語」→「映像」→「観客」という間接的な効果の違いを意識しましょう。
空欄W〜Zに入る語句の組み合わせを選ぶ問題です。W「さて、前述の理由から」=話題を変える。X「ぎゃくに、観客が想像もしないようなことをやってくれたり」=前の退屈な話と反対の内容。Y「まして、作品として良かった、といわれることはない」=なおさら。Z「むろん、後年になって評価される作品もありますが」=もちろん。W=さて、X=ぎゃくに、Y=まして、Z=むろん の組み合わせで、オが正解です。
傍線部3「装置」の意味を説明する選択肢を選ぶ問題です。観客は、関心のある事項が「羅列」され、それを楽しみ、共感し、癒されるか諭されるか感動する要素があれば、記憶として刷り込まれます。その「刷り込む」ための仕組みが「3装置」です。さらに筆者は、物語には時間とともに発展する「発展性」が必要だと述べています。そこで、イ「観客の興味をひく内容が並べられ、さらにその内容や語り口などに発展性がともなっている必要がある」が正解です。アの「加工されず素材そのままに提示」は筆者の考えと反対です。
傍線部4「これが長編より難しい仕事になる」の理由を選ぶ問題です。正解のアは、強力なテーマをそれなりに物語の長さがあったほうが語りやすいのに対し、短編では限られた時間の中にメッセージを凝縮しなければならないという難しさを正しく説明しています。
傍線部5「語り口を発揮した」とありますが、それとは逆に「語り口を発揮しない」こととは何かを七字で書き抜く問題です。
「語り口を発揮する」とは、映像に物語やスタイルを与えて観客を引き込むことです。その反対は、素材をそのまま提示するだけの「ただの観察行為」です。
本文で筆者は、銀行やコンビニの監視カメラの映像を例に出して、それは10分間流しても「ただの観察行為」にしかならないと述べています。この具体例から答えを導きましょう。
重要語句
全体のまとめ
2026年度の早稲田中学校の国語は、物語文で「弱さを抱えた人間の成長」、説明的文章で「映像と物語の関係」というテーマが出題されました。
大問一は心情変化の読み取りが最も重要で、特に「さちとの出会いで亮磨がどう変わったか」を正確に追う力が必要でした。記述問題(問6)では「現実」と「未来」という対比的な概念を使って主題をまとめる力が問われました。
大問二は筆者の論理構造の理解がカギです。「映像の欠点 → 物語による克服」という大きな流れを押さえたうえで、「発展性=おもしろさ」「語り口」「ただの観察行為」などのキーワードにも注意が必要でした。
早稲田中の国語は、物語文では「心情の変化を+/-/±で整理する」こと、説明的文章では「筆者の論理の流れを段落ごとに追う」ことが合格への近道です。記述問題は条件(使うべき語・字数)を先に確認してから書き始めましょう。日頃から「なぜそう思うのか」を自分の言葉で説明する練習を続けてください。