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2026.2.1実施 渋谷教育学園渋谷中学校 第1回 国語 徹底解説

2026年2月1日に実施された渋谷教育学園渋谷中学校(第1回)の国語を、大問一・大問二の全問解説します。大問一の物語文は前川ほまれさんの『臨床のスピカ』(U-NEXT)、大問二の説明文は箕曲在弘さんの『自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門』(大和書房)です。物語文では、小児がんで入院する娘を支える父親の「言葉にしない気持ち」を、説明文では「資格」と「場」という二つのものさしで人間の集団を見る考え方を、正確に追えるかが問われました。登場人物の関係や筆者の論の組み立てを、情景アニメ入りの図解動画(音声つき)で整理してから、各設問を本文の根拠から解いていきます。

出題構成と全体の講評

  • 大問は二つです。大問一は物語文(前川ほまれ『臨床のスピカ』)で問一〜問八、大問二は説明文(箕曲在弘『自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門』)で問一〜問七。漢字の書き取りは、それぞれの大問の問一に三問ずつ入っています。
  • 記述は三問あります。大問一の問二(五十一字以上六十字以内)、大問二の問四の2(五十一字以上六十字以内)、大問二の問六(八十一字以上九十字以内)です。どれも字数の下限が高く、要素を一つ落とすとすぐに字数が足りなくなります。
  • 選択肢は五択で、どれも長文です。本文のことばを少しずつずらした選択肢が並ぶので、「どこが本文と合わないか」を一語単位で確かめる力が必要です。大問一の問八は「明らかな間違いを含むもの」、大問二の問二は「ふさわしくないもの」を選ぶ問題です。問い方の読み落としに注意しましょう。
  • 物語文の視点人物は、受験生ではなく父親の浩です。病気の子を持つ親の心の動きを、行動や表情の描写から読み取る、大人の読み方が求められました。
今回のポイント
大問一は「娘の前では笑顔の仮面をつけている父親が、DI犬スピカとハンドラーの凪川さんとの出会いで少しずつ心をほどき、最後に娘の成長に気づく」という一本の流れで読めます。設問はその流れに沿って並んでいます。大問二は「集団の境界を決める基準には『資格』と『場』の二つがある」という中根千枝の議論を紹介し、「どの社会にも両方が併存していて、状況によってどちらが優勢になるかが変わる」と読みなおすところが筆者の主張の中心です。

大問一 物語文 前川ほまれ『臨床のスピカ』

あらすじ 「字、上手くなったんだな」

五歳の沙奈は小児がんで入院しています。父の浩は、「退院したらどこに行きたい?」と沙奈に聞いても「……わかんない」と返され、「早く、お家に帰りたい」という願いには答えられず、充電器を探すふりをしてやり過ごします。娘の前では「笑顔の仮面を装着し」、作り笑いばかりが上手くなっていく自分に疲れを感じていました。

売店へ向かうエレベーターで、浩は、DI犬(患者との触れ合いや治療のサポートを行う犬)のスピカと、看護師兼ハンドラーの凪川さんに出会います。「沙奈ちゃんは、スピカの大切な友だちですから」と言われ、浩は思わずエレベーターを降りて廊下へ出て、「娘の友だちになってくれて」とお礼を言います。言い淀みながらも想いはあふれ出し、「看護師兼ハンドラーという絶妙な距離感が、今は不思議と心地が良かった」。さらにスピカを撫でさせてもらうと、頬が自然とほころびます。

病室では、放射線治療の部屋を事前に見に行く「プレパレーション」に、スピカも一緒に来てくれることになっていました。けれども沙奈は「スピカが一緒でも、イヤ……」と拒みます。浩は「頑張れ」と言いそうになるのを必死に呑み込みます。凪川さんは提案を切りかえ、スピカとの病棟内の散歩へ沙奈を誘います。リードを握って歩いた沙奈は「今日は、楽しいね」と言い、凪川さんの「一緒に頑張ろう。頑張れるところまで」という言葉のあと、「うーん……ちょっと、見に行くだけだよ」と自分から一歩を踏み出します。その後に続こうとした浩は、廊下のポスターに貼られた沙奈のメッセージカードに気づき、「字、上手くなったんだな」と息を呑みます。

図解動画① 登場人物の関係(約22秒・音声つき)
図1 2026年 渋谷教育学園渋谷中 大問一 人物相関図
浩
沙奈の父・視点人物
娘の前では「笑顔の仮面」をつけ、弱音を吐けない
沙奈
五歳・小児がんで入院中
病室では表情を失うことも多い
凪川さん
病院の看護師で、スピカのハンドラー
ピンクのスクラブ上着
スピカ
白いDI犬
「できることは、誰かに寄り添うことだけです」
武智さん
その日の沙奈の担当看護師
スピカとの「探検」に誘う
浩→沙奈願いを叶えてやれず、作り笑いでごまかす
凪川さん→浩医師や看護師とは違う「絶妙な距離感」
スピカ→沙奈沙奈の「大切な友だち」
凪川さん→沙奈「散歩のリーダーは沙奈ちゃんね」と主導権を渡す

浩の気持ちは、病室でいったん沈み、エレベーターでの出会いから上向きます。プレパレーションを拒む沙奈の姿でもう一度沈みますが、散歩をきっかけに沙奈が自分から一歩を踏み出し、最後はポスターの前で娘の成長に心を打たれます。設問はこの上下の動きに沿って並んでいます。

図解動画② 浩の心の動き(約31秒・音声つき)
図2 2026年 渋谷教育学園渋谷中 大問一 場面と心情の流れ
1
病室の午後
「早く、お家に帰りたい」。浩は聞こえなかった振りをしてバックパックを探り続ける
浩 - 叶えてやれない願いがつらい
対応する設問:問二
2
エレベーターと廊下
「沙奈ちゃんは、スピカの大切な友だちですから」。浩はお礼を伝え、想いがあふれ出す
浩 ± 「今は不思議と心地が良かった」(★特に重要:距離感の読み取り)
対応する設問:問三
3
スピカを撫でる
柔らかな毛と心地よい温もり、言葉を交わさなくても伝わる穏やかな意思
浩 + 「頬が自然とほころんだ」
対応する設問:問四
4
病室でのさそい
「スピカが一緒でも、イヤ……」。浩は「頑張れ」と言いそうになり、必死に呑み込む
浩 - ずっと禁句にしてきた言葉
対応する設問:問五
5
散歩の途中で
「今日は、楽しいね」。凪川さんの「一緒に頑張ろう。頑張れるところまで」
浩 ± 「不思議と嫌な気はしない」(★特に重要:禁句との響きのちがい)
対応する設問:問五
6
沙奈の一歩
沙奈が「うーん……ちょっと、見に行くだけだよ」と踏み出す
浩 + 少し遅れて力強く手を叩く
対応する設問:問六
7
三枚目のポスター
「字、上手くなったんだな」。入院前より形の整った文字
浩 + 確かな娘の成長を両目に焼き付ける
対応する設問:問七

問一 漢字の書き取り

  • ①センコク(宣告) 「たとえ余命をセンコクされていたとしても」。重大なことを告げ知らせること。「余命宣告」「死刑宣告」のように使います。
  • ②コンザイ(混在) 「ただ遊んで欲しいと訴えるような無邪気さもコンザイしている」。性質の違うものが入りまじって存在すること。「混」は「まじる」です。
  • ③セイケツ(清潔) 「セイケツなベッドの上で」。よごれがなくきれいなこと。「潔」は「いさぎよい」とも読みます。
解答①宣告 ②混在 ③清潔

問二 傍線部⑴「既に充電器を自宅に忘れたことに気付いてはいたが、手を止めることができない」のはなぜか(五十一字以上六十字以内)

直前の流れを確認します。

  • 沙奈が「早く、お家に帰りたい」と言う
  • 「今はどうしたって、叶えてあげられないことがある」
  • 「聞こえなかった振りをしながら、バックパックの中を探り続けた」

充電器がないことはもうわかっているのに、探し続けているのは、探すこと自体が目的ではないからです。手を止めれば、沙奈の「帰りたい」に答えなければならなくなる。けれども、その願いは今はどうしても叶えてやれない。だから、探しているふりを続けて、返事を避けているのです。

記述の組み立て
①娘の願い=早く家に帰りたい
②浩の事情=その願いを今はどうしても叶えてやれない(つらい)
③行動の意味=聞こえなかった振りをして、返事をごまかすしかなかった
「充電器を探していたから」という表面の理由で書いてしまうと0点です。「手を止めると何が起きてしまうのか」を考えると③が書けます。
解答例早く家に帰りたいという娘の願いをどうしても叶えてあげられないことが辛く、返事をごまかすしかなかったから。(五十二字)

問三 傍線部⑵「今は不思議と心地が良かった」のときの浩の説明

傍線部の直前には「沙奈と毎日関わるような、医師や看護師とは違う。看護師兼ハンドラーという絶妙な距離感が」とあります。浩が心地よさを感じたのは、次の二つが重なったからです。

  • それまでの浩の状態 娘の前では「笑顔の仮面を装着し」、「作り笑いばかりが上手くなる」。二ヶ月前と同じ当たり前だった生活が、「今は煙に触れているかのように手応えがない」
  • 凪川さんとの関係 沙奈を「スピカの大切な友だち」と言ってくれる人。しかも毎日の治療にかかわる医師や看護師ではない

作り笑いを続けて疲れ、生活の現実感も失っていた浩が、沙奈をスピカの友だちとして受け入れてくれている、直接の関わりが薄い凪川さんには、心を開いて話せるようになっている。これを説明したエが正解です。

いちばん迷うのはイです。「程よい距離感」まではよいのですが、イは浩が話せるようになったことを「弱音を吐き出せる」とまとめています。浩が廊下まで追いかけて伝えたのは「娘の友だちになってくれて」というお礼で、そこから「溢れ出した想い」があふれたのです。きっかけになった「スピカの大切な友だち」という言葉がイには入っていません。アの「余計な詮索をしない彼女」、ウの「現状を打開するための治療を行うことができる凪川さん」(凪川さんの仕事は「あくまで補助療法」)、オの「担当の医師や看護師以上に親身に考えてくれる」は、本文から言えません。

解答エ

問四 傍線部⑶「頬が自然とほころんだ」のときの浩の説明

浩がスピカを撫でるまでの流れを順に追います。

  • 凪川さん「できることは、誰かに寄り添うことだけです」「スピカに触れると」
  • 浩は「白い毛を撫でる幼い手を思い出した。はしゃいでいた横顔は、入院中であることを忘れているかのようだった」
  • 「徐々に身体の奥底から、ある欲求が気泡のように浮き上がってきた」→「俺も……撫でても良いですか?」
  • 「柔らかな毛と心地よい温もりが伝わる」「言葉を交わさなくても、穏やかな意思が伝わってくる。スピカを撫でていると、⑶頬が自然とほころんだ」

「寄り添う存在」と聞く → 娘の笑顔を思い出して自分も触れたくなる → 撫でると毛や温もり、穏やかな意思に心を動かされる → 意識しないうちに表情がゆるむ。この順番どおりに書かれたエが正解です。「自然と」は「無意識のうちに」と言いかえられます。

オは「今こそスピカと触れ合いたい」「予想通りの心地よさが得られ、望みが叶った嬉しさ」が誤りです。「自然と」ほころんだのであって、ねらいどおりになって喜んだのではありません。イの「動物特有の匂い」は、本文の「獣臭は一切感じない」と正反対です。アの「娘の気持ちを理解できたように感じて」、ウの「童心にかえり」も本文にありません。

解答エ

問五 傍線部⑷「不思議と嫌な気はしない」と浩が感じたのはなぜか

「頑張ろう」は、浩が「ずっと禁句にしていた言葉」でした。少し前の場面で浩は、治療を嫌がる沙奈に「頑張れ」と言いそうになり、「必死にその言葉を呑み込んだ」のです。どんなに嫌がっても治療は受けなければならない娘に、さらに努力を求めることはできなかったからです。

ところが、凪川さんの「一緒に頑張ろう。頑張れるところまで」には、「強要はせず、ただ寄り添うだけのような響きを感じた」。そう感じたからこそ、嫌な気はしなかったのです。相手に努力を強いる言葉だと思って避けていたが、凪川さんの「頑張ろう」には、沙奈が勇気を出せるように支えて見守る温かさを感じた、と説明したウが正解です。

イは「使うたびに後悔していた」が誤りです。浩は「頑張れ」を呑み込んでいて、使っていません。アの「利己的な印象」、エの「相手の現状の努力を否定している」、オの「前向きな選択を引き出す」は、本文の「強要はせず、ただ寄り添うだけ」と合いません。とくにオは「引き出す」が、無理に言わせる方向に寄っています。

解答ウ

問六 傍線部⑸「うーん……ちょっと、見に行くだけだよ」のときの沙奈の説明

このセリフの前後から、沙奈の状態を二つに分けて読みます。

  • まだ不安が残っている 「うーん……」と迷い、「ちょっと」「見に行くだけ」と条件をつけている
  • それでも自分から踏み出している 散歩の途中で「今日は、楽しいね」と言い、浩は「入院中に『楽しい』と言える瞬間はどんなに貴いか、今なら知っている」と感じている。セリフは「妙に大人びた声」で言われる

以前はプレパレーションを拒んでいたが、スピカとの散歩で久しぶりに楽しい気持ちになったことで、不安は残りながらも凪川さんの提案に自分から一歩踏み出そうとしている。これを説明したオが正解です。

イは「不安が薄れ」「得意げに決断」が言い過ぎです。「うーん……」「ちょっと」の迷いが消えていません。ウの「父に大人になった姿を見せて安心させたい」、エの「申し訳ないという気持ち」「渋々受け入れ」、アの「慎重な性格」「自信がついた」は、本文に根拠がありません。

解答オ
図解動画③ 三枚目のポスターと「息を呑んだ」(約21秒・音声つき)

問七 傍線部⑹「息を呑んだ」のときの浩の心情

浩が息を呑んだのは、壁のポスターに貼られた沙奈のメッセージカードが目に留まった瞬間です。直後の文をそのまま並べると、答えの材料がそろいます。

  • 「数時間前は気付けなかった」
  • 「字、上手くなったんだな」「入院前より形の整った文字」
  • 「確かな娘の成長を両目に焼き付け」

さらに、前半で凪川さんが言った「たとえ余命をセンコクされていたとしても、子どもたちは成長し続けますから」「子どもたちにとっては、入院中も大切な日々なんですよ」という言葉が、ここで浩の実感になります。数時間前には気付けなかったが、字が上手くなっていることに気付き、病気でも娘は成長を続けていて、入院中も大切な日々なのだと実感して驚いている。これを説明したアが正解です。

イは「勇気を振り絞り治療と向き合おうとしていることに気付き」と、字の上達(成長)という中心がずれています。ウの「父親失格」、エの「自立して自分の手を離れていた」、オの「物事に対して丁寧に取り組む姿勢」「対等な一人の人間」も、本文に書かれていない方向へ話を広げています。

解答ア

問八 生徒の感想のうち、明らかな間違いを含むもの

「明らかな間違いを含むもの」を選ぶ問題です。一つずつ本文と照らします。

  • ア 前半の「犬じゃなくて、スピカだよ」(29行目)は、沙奈がスピカを友だちとして見ていることを表していて、ここまではよさそうです。問題は後半です。135行目の「冒険じゃなくて、探検だよ……」を根拠に、放射線治療の部屋へ行くことが「未知の場所を調べる行為だというニュアンスが読み取れる」としていますが、この場面の沙奈は「スピカが一緒でも、イヤ……」と拒み、このあとも「……イヤ」とくり返しています。部屋へ行くことを前向きに言いかえているとは読めません。これが明らかな間違いを含むものです。
  • イ 凪川さんは「是非、スピカに道案内させてほしいな」(136行目)とスピカへの協力を求める形で誘い、散歩では「散歩のリーダーは沙奈ちゃんね」(153行目)と沙奈に主導権を渡しています。沙奈への配慮として読めます。
  • ウ スニーカーが「妙に薄汚れて見えた」(59行目)は、光に照らされて自分の姿が見えた浩が、自分を情けなく感じていることの表れとして読めます。
  • エ スピカの「呑気な表情」(110〜111行目)と、凪川さんの「呑気な声」(143行目)で、浩は緊張をほどかれています。二つに共通する性質として「呑気」さを挙げる読みは成り立ちます。
  • オ 「幼い声が、徐々に遠くなっていく」(195行目)を、沙奈が自分の足で前へ進んでいく姿と重ねて前向きな結末と読むものです。やや踏みこんだ読みですが、娘の勇気が「いつか宝物に変わること」を浩が願う結末とつながっていて、明らかな間違いとまでは言えません。

なお、アの「冒険じゃなくて、探検だよ……」を言ったのが沙奈なのか浩なのかは、本文だけでは断定しにくいところです。どちらと読んでも、沙奈がこの時点で部屋へ行くことを拒んでいる事実は変わらないので、アが誤りだと判断できます。

解答ア

大問二 説明文 箕曲在弘『自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門』

要旨 「資格」と「場」は、どの社会にも併存している

東南アジアのタイ人やラオ人の社会は、結婚すると男性が女性側の家族と一緒に住む「妻方居住」の傾向があり、親と娘夫婦が隣り合って住み、助け合う「屋敷地共住集団」をつくります。子どもを気軽に預けられる、農作業を順番に助け合えるなど、よくできた相互扶助のしくみです。一方、日本には「家」という独自の集団原理があります。「家」には、婿養子や丁稚・奉公人のように血縁のない人も含まれました。

日本の人類学者・中根千枝は、人間がつくる集団の境界を決める基準には「資格」と「場」の二つがあると言いました。同じ姓やカースト、職業などの属性(資格)を共有しているかどうかと、同じ村・会社・大学のような場を共有しているかどうかです。日本社会はとりわけ「場」の共有を優先させる傾向があり、その典型が「家」です。場で集まった集団は、共通点のない人びとをつなぎとめるために情緒的な結びつきを強め、ウチとヨソを分けてヨソ者を排除する傾向を持つことになります。

中根の議論は「インド人は資格、日本人は場」と国民性の違いのように誤解されがちですが、中根自身は、どの社会にも「資格」と「場」の二つの原理が併存していて、どちらが優勢になるかはその社会の状況しだいだと考えていました。筆者は、二つの原理がどういう状況で優勢になり変化していくかという視点から集団をとらえる思考法は、今でも有効だと述べます。

図解動画④ 「資格」と「場」(約27秒・音声つき)
図3 2026年 渋谷教育学園渋谷中 大問二 対比構造図
資格
同じ属性(一定の属性)を共有しているか 同じ姓・氏、同じカースト、社長・労働者、大学生・教員、男・女、若者・年寄り 共通項があるので、わざわざ枠をはめなくても仲間意識をもてる
VS
場
同じ場を共有しているか 〇〇村、〇〇会社、〇〇大学の人、日本の「家」 共通項がないので、情緒的な結びつきを強め、ウチとヨソを分けてヨソ者を排除する
二つの原理はどの社会にも併存しており、どちらが優勢になるかは社会の状況しだい

問一 漢字の書き取り

  • ①アズけ(預け) 「子どもを気軽にアズけられます」。「預」は「予」+「頁」。送りがなは「預ける」です。
  • ②ツトめ(勤め) 「ひとつの企業のなかにずっとツトめ続ける」。会社などで働くときは「勤める」。役目は「務める」、努力は「努める」と書き分けます。
  • ③マネいて(招いて) 「このカテゴリーごとの分析をマネいてしまいます」。ある結果を引き起こすこと。「招く」です。
解答①預(け) ②勤(め) ③招(いて)

問二 タイ人やラオ人の集団形成の特徴としてふさわしくないもの

「ふさわしくないもの」を選びます。オの「子どもの養育に関しても主に妻方の男兄弟たちが担っている」を本文で確かめると、本文には「妻方居住の場合、結婚後に婿入りし、理念的には子どもの養育は夫婦が担うのに対し、母系出自集団の場合、夫ではなく妻方の男兄弟が養育を担います」とあります。オの後半は、妻方居住ではなく母系出自集団の説明です。筆者は「妻方居住と母系出自集団は……よく誤解されています」と、二つを区別するよう注意しています。オがふさわしくないものです。

ア(子どもが生まれてしばらくすると農地を分けてもらい、新たな家屋を設ける)、イ(末娘は両親の老後の世話を引き受ける代わりに、農地と家屋を継承する)、ウ(厳密に実践されているわけではなく、男性の家に女性が移り住む逆パターンもある)、エ(子どもを預けられ、農作業を助け合える)は、どれも本文どおりです。

解答オ

問三 傍線部⑵「それは『家』です」の「家」についての説明

本文の「家」の説明を整理します。

  • 屋敷地共住集団に対応するような集団原理は日本にもみられ、それが「家」
  • 「日本独自の集団原理と考えられて」いる
  • 「家」は確かに住む家であり、建物を意味するかもしれないが、もう少し観念的な人間関係のルールが含まれている
  • 江戸時代の「家」のメンバーは、血縁関係のある家族に限らず、丁稚や奉公人といった非血縁者も含まれ、婿養子に「家」を継がせることさえあった

「日本独自」であり、「同じ空間に住む者の人間関係や生活形態に基づいた概念」だと説明したウが正解です。

アの「日本の一部の階層にしか見られなかった」は、「武士や農民といった身分を問わず日本社会に広まりました」と合いません。イの「婚姻関係を結ぶ以外の方法は無かった」は、丁稚・奉公人の例と合いません。エの「相続の権利を与えるために編み出された」は本文にありません。オは、「家」などを並べて見ても「その根底にある人間としての共通性に迫ることはできません」という本文と逆です。

解答ウ

問四 傍線部⑶「中根は人間がつくる集団の境界を決める基準には、『資格』と『場』の2つがあるといいます」

問四の1 同じ「資格」を有していて、なおかつ「場」を共有している集団

選択肢を「資格」と「場」の両方をもっているかで分けます。

  • ア 戦国時代に活躍した武将の血を引く一族 血筋(資格)だけ。同じ場にいるとは言えません
  • イ とある学校の受験で同じ教室になった小学六年生たち 「小学六年生・受験生」という資格と、「同じ教室」という場の両方がそろっています
  • ウ たまたまその身分に生まれたという理由だけで差別を受けてきた人たち 身分(資格)だけ
  • エ 高い志を持ち、病気で苦しむ人を救っている医療従事者たち 職業(資格)だけ
  • オ スポーツの試合が行われた会場で、その場に居合わせた人たち 場だけ
解答イ

問四の2 日本の集団原理である「家」はどのようなものか(五十一字以上六十字以内)

「中根のこの考え」とは、「資格」と「場」の二つの基準のことです。本文では、日本は「場」の共有を優先させる傾向があり、その典型が「家」だと述べられています。

  • 「日本社会は場の共有を優先させる傾向があり、その典型が先ほど言及した『家』にみられるといいます」
  • 「『家』は場を共有する成員によってできている明確な社会集団の単位」
  • 「婚出した自分の娘よりも、自分の息子と結婚し、家に入ってきた女性のほうを重視し、自分たちの『ウチ』の者だとみなします」
  • 「『家』には、血のつながりがないという点で資格を共有していない者を含み込み、その者たちは血縁者と同等の扱いを受ける」
記述の組み立て
①後回しにされるもの=血のつながりという「資格」の共有
②優先されるもの=共に生活を営むという「場」の共有
③まとめ=そうした成員によってできている集団
「〜よりも〜を優先させる」という比べる形にすると、「資格」と「場」の両方の語を自然に使えて、字数の下限にも届きます。
解答例血のつながりという資格を共有していることよりも、共に生活を営むという場の共有を優先させる成員によってできているもの。(五十八字)

問五 傍線部⑷「ウチとヨソを分け、ヨソ者を排除する傾向は、このような場を優先する論理から生まれる必然的な帰結」と言えるのはなぜか

傍線部の前後で、筆者は「資格」による集団と「場」による集団を比べています。

  • 資格による集団は、共通項があるので「特に何か外的な枠をあてはめなくても集団としての意識をもて」る
  • 場による集団は、共通項がないので、人びとをつなぎとめておくために「つねにメンバー同士が交流し合い、人びとの行動だけでなく価値観や考え方まで統率したり、プライベートな部分にまで立ち入ったりすること」が起こりがち
  • 場を優先する場合、内部の人たちは明確な共通性をあらかじめもっていないので、「つねに自分たちが仲間であることを確認する行動」をとらねばならない。つまり、ヨソ者を排除するという行動をとることによって、ウチの者たちの仲間意識を確認している

異なる属性の人が場で集まる → 感情面の結びつきが必要になる → その仲間意識が外の集団の排除へ向かい、排除を通して自分たちの枠を強める。この筋道を説明したアが正解です。

イは「仲間意識を広めるために自分たちの枠を外部へと拡張していこうとする」が、排除と逆向きです。ウは「同じ資格を持たない者たちが…成員に同じ考えを持たせる」と「揺るぎない信念」が本文にありません。エの「他の集団との差別化が進んで他者が介入する余地はなくなっていく」は、排除によって仲間意識を「確認する」という本文の説明とずれます。オは「同質性を有する者たちが場によって集団を構成する」が誤りです。場による集団は、同質性(共通項)をもたない人たちの集まりです。

解答ア

問六 傍線部⑸「中根の議論は現代においても、人類学的な思考の特徴を考えるうえで有効であるといえます」と言えるのはなぜか(八十一字以上九十字以内)

まず「中根の議論」が誤解されやすい点を押さえます。高度成長期が終わり、非正規雇用が増え、転職が一般化した今日、「日本は場」という主張は「リアリティを失っているようにも見え」ます。しかし筆者は、中根が本当に言いたかったのはそこではないと続けます。

  • 「彼女が言いたかったのは、どの社会にも『資格』と『場』という2つの集団原理が併存しているものの、どちらが優勢になるかはその社会の状況次第だということ」
  • 「現代の文化人類学では、どのような社会にも複数の価値基準があり、それぞれがどのような状況のなかで結びついたり、対立したり、強調されたり、否定されたりするのかという動きをとらえようとします」
  • 「『資格』と『場』は決して、それぞれの社会に固有の特徴なのではなく、両方がどの社会にも併存しており、これら2つの異なる原理がどういう状況において優勢になり、そして変化していくのかという視点から、人間が作り出す集団の特徴を説明していく思考法は、今でも有効であるといえるでしょう」
記述の組み立て
①中根の議論の中身=「資格」と「場」という価値基準は、どの社会にも併存している
②その見方=二つの原理が、どういう状況で優勢になり、変化していくのか
③文化人類学との一致=そうした視点から人間集団を考えるのが、文化人類学の思考法だから
「日本人は場、インド人は資格」と書くと、筆者が「誤解」だと言っている読み方になってしまいます。①の「どの社会にも併存」を必ず入れましょう。
解答例「資格」と「場」という価値基準はどの社会にも併存しており、これらの原理がどういう状況において優勢になり変化していくのかという視点から人間集団を考えるのが文化人類学の思考法だから。(八十九字)

問七 本文の内容として最もふさわしいもの

エは「中根が議論を展開した頃とグローバル化が進んだ今日では、人々の考え方や労働環境が大幅に変化しており、中根の議論を無条件に受け容れることは難しいが、それでも今の日本には場による集団の特徴が残っているといえる」です。本文の「グローバル化のなかで人びとの価値観や組織のあり方が劇的に変わるなかでも、そう簡単に新たなものに置き換わるわけではなく、やはり過去から続く特徴がみられる」「それでもまだ場による集団の特徴は一定程度持続しています」と合います。エが正解です。

  • ア 「後者は差別や分断をまねく可能性があり、あまり好ましいものとはいえない」という評価は本文にありません。
  • イ 「何の資格も持たない人も存在する」とは書かれていません。
  • ウ 高度成長期の企業が「いかなる社会でも通用する有能な人材を輩出しようとした」とは書かれていません。むしろ配置転換で「専門的な能力を身につけるのが難しく」なるとあります。
  • オ 「国民性の違いとして捉えることも大切である」は、筆者が「人類学としては推奨されません」と述べている見方です。
解答エ

解答一覧

  • 大問一 問一 ①宣告 ②混在 ③清潔
  • 大問一 問二 (解答例)早く家に帰りたいという娘の願いをどうしても叶えてあげられないことが辛く、返事をごまかすしかなかったから。
  • 大問一 問三 エ
  • 大問一 問四 エ
  • 大問一 問五 ウ
  • 大問一 問六 オ
  • 大問一 問七 ア
  • 大問一 問八 ア
  • 大問二 問一 ①預(け) ②勤(め) ③招(いて)
  • 大問二 問二 オ
  • 大問二 問三 ウ
  • 大問二 問四 1 イ
  • 大問二 問四 2 (解答例)血のつながりという資格を共有していることよりも、共に生活を営むという場の共有を優先させる成員によってできているもの。
  • 大問二 問五 ア
  • 大問二 問六 (解答例)「資格」と「場」という価値基準はどの社会にも併存しており、これらの原理がどういう状況において優勢になり変化していくのかという視点から人間集団を考えるのが文化人類学の思考法だから。
  • 大問二 問七 エ

この回から持ち帰るべき3つのこと

  • 「わかっているのにやめられない行動」は、その行動で何を避けているかを考える 大問一の問二は、充電器がないとわかっていても探し続ける浩の行動が問われました。行動そのものではなく、「手を止めたら何が起きてしまうか」(娘の願いに答えなければならない)を考えると、理由が見えてきます。
  • 同じような言葉の「ちがい」に注目する 問五の「頑張れ」と「一緒に頑張ろう。頑張れるところまで」は、似た言葉でも受け取り方がまるで違います。物語では、一度避けられた言葉が別の人の口から出てきたとき、その「響きのちがい」が心情の変化の手がかりになります。
  • 説明文では「筆者が誤解だと言っている読み方」を先に見つける 大問二の問六・問七は、「日本人は場、インド人は資格」という国民性の読み方を筆者が否定していることがカギでした。「〜と誤解されがちですが」「〜わけではありません」の直後に、筆者の本当の主張があります。