2026年10月11日(日)に実施された四谷大塚 第4回合不合判定テスト(6年生)の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。150点満点で、大問は四つです。大問1は藤岡陽子さんの『青のナースシューズ』(KADOKAWA)からの物語文、大問2は長谷川眞理子さんの『ダーウィンは進化をどう考えたのか』(筑摩書房)からの論説文、大問3は故事成語と慣用句、大問4は漢字(書き取り7問・読み3問)でした。看護実習に出た大学生と、緩和ケア病棟に移る七十八歳の患者との二週間の物語。そして、生物学の「進化」と社会の「進歩」を混同しないことを説いた論説文。ふたつの文章を、図解動画と文字の図解で整理し、全問の答えの組み立てを根拠つきで示します。記述の解答は、解答例です。
出題構成と全体講評
- 大問は四つ、配点は計150点です。大問1が物語文で58点、大問2が論説文で66点、大問3が言葉の知識(故事成語・慣用句)で16点、大問4が漢字で10点です。大問1と大問2で124点を占め、読解が点数の中心です。論説文のほうが配点が大きく、記述が二問あります。
- 大問1の物語文は、設問が8問、記述は問六の1問です。問六は、空らんにあてはまる表現を六十五字以内で書く形式で、12点です。ほかの7問は記号選択で、問五だけは二つ選びます。どの問題も、成道の気持ちや、西田さんの言葉の裏にある思いを、本文の言葉で裏づける力が試されました。
- 大問2の論説文は、設問が9問、記述は2問です。問三は十字程度で答える短い記述(8点)、問八は七十字以内の記述(12点)です。問二は、本文からのぬき出し(a・b各4点)、問九は内容に合うものに○、合わないものに×をつける形式で、ア〜エの4つがそれぞれ2点です。そのほかは記号選択で、問六は二つ選びます。
- 知識問題は、大問3が8問(各2点)、大問4が10問(各1点)です。大問3は、故事成語(杞憂・五十歩百歩・白眉・玉石混淆)の意味と使い方、体の部分を使った慣用句(肝・目・耳・顔)でした。大問4は、書き取り7問(消費・訓練・仏像・操作・利益・典型・幸い)と、読み3問(旅客機・筆舌・交わす)です。
- 記述は、2問とも12点です。大問1の問六と大問2の問八を合わせると24点です。どちらも、傍線部の前後の根拠を組み合わせて、最後に「気持ち」または「結論」の一言を置く答え方で書けます。記述の組み立ては、各設問の解説にまとめました。
- 記号選択は、選択肢が長く、本文と一か所だけ違う誤りが並びます。大問1の問一・問七、大問2の問四・問六などは、読み飛ばして選ぶと落とす作りです。根拠の行を探して、一つずつ消していきましょう。
大問1 物語文 藤岡陽子『青のナースシューズ』
あらすじ 実習二日目の朝に始まる、西田さんとの二週間
岡崎成道は看護大学の二年生で、看護師を目指しています。母と、足が不自由な弟との三人暮らしで、弟の介護と家事に追われる日々を送っています。成道は、担任の手塚直実と医療センターの野本の指導のもと、医療センターで看護の実習(臨地実習)に臨みます。ところが初日、担当した川鍋さんという男性に、男の看護師は嫌だという理由で拒絶されてしまいます。代わりに担当することになったのが、七十八歳の男性、西田さんです。西田さんは膀胱癌を患っていますが、治癒が望めないため、積極的な治療はせず、苦痛を和らげることに重点を置く緩和ケア病棟での療養を希望しています。実習二日目の朝、成道は西田さんが乗る車椅子を押しながら、散歩に付き添っています。
駐車場を歩きながら、西田さんは「男の看護師もずいぶん増えたね」とつぶやき、「私には十歳年上の兄がいてね」と話しはじめます。兄は生まれた時から車椅子で、介護は主に母が担い、西田さんも手伝っていました。兄が二十歳のとき、母が腰を悪くして介護ができなくなり、母は追い詰められて、三人で一緒に死のうかというところまで行きました。そのとき兄は、近くの大学に出向き、介護をしてくれる人を探すチラシをまきます。チラシはボランティアサークルに届き、大学生たちが交代で介護に来てくれるようになりました。その一人の男子学生が、大学を卒業した後、看護職に就きます。当時はまだ男性看護師が認められていない時代で、男は看護人と呼ばれ、無資格の看護助手として働いていた、と西田さんは言います。
西田さんは続けて、一九一五年に制定された『看護婦規則』では看護婦の資格を持てるのは女性に限られていたこと、それでも看護職を目指した男性たちがいて、彼らの情熱と努力と実績が男性看護師を世間に認めさせたこと、そして一九六八年に『保健婦助産婦看護婦法』が改正されて、ようやく男性にも門戸が開かれたことを話し、「私は男性の看護師を応援していますよ」と言います。不意打ちのような励ましに、成道は思わず車椅子を止め、「すみません」とあわてます。西田さんは、昨日、同室の川鍋さんに言われたことを気にしなくていい、岡崎くんはなにも悪くない、と言い、成道を自分の担当にしてもらえないかと看護学校の先生に頼んだのだと打ち明けます。成道は、野本が少しも驚いていなかったことに気づき、喉が詰まって、「ありがとうございます」と答えます。
駐車場の車の話になります。西田さんは以前、カーディーラー(自動車の販売などを行う店)で働いていました。昔は、黒、白、茶、グレー以外は売れないという業界共通の認識があったが、いまはピンクにオレンジ、黄、赤……と鮮やかな色の車が走っている。車の色の移り変わりから、時代が変わっていくことを語ります。話は白衣とナースシューズの色に移り、西田さんは「ナースシューズは白が定番だろうが、決まりはないだろう」と言って、「きみが看護師免許を取ったら、私が青のナースシューズをプレゼントしよう」と約束します。「青は、空と海の色だ。自然界に最初からある、自由な色だよ」。成道は、その一言で、西田さんがこれまでどんな人生を送ってきたのかがわかるような気がします。
本文は、ここで一部が中略され、実習最終日の場面に移ります。成道は医療センターの廊下を歩きながら、今までのことをふり返ります。印象に残っているのは、女性のカーディーラーの話でした。西田さんが働き始めた一九六〇年代には、自動車メーカーの営業職や整備士に就く女性はいませんでしたが、一九八五年に男女雇用機会均等法が制定され、女性たちが入社してくるようになりました。西田さんが管理職に就いていた二十年前は、部下に男性以上に活躍する女性のカーディーラーがいたそうです。西田さん自身も、はじめは「車を買うのは男。だから売るのも男がいいに決まってる」と思い、派手な色のスカーフを巻いて接客する女性の営業職を冷ややかに見ていましたが、すぐに自分の考えは間違いだと気がつきました。「仕事ができるできないに、性別は関係ない」。成道は、これが自分に向けてのエール(応援)だと受け取ります。
さらに本文は中略され、成道は西田さんの病室を訪れます。西田さんは「今日は妻と娘と十五歳の孫娘が面会に来る」という話をした後、成道に訊ねます。成道の弟は、八年前に交通事故に遭い、その後遺症で歩行障害があります。西田さんは「きみはいろいろと大変な中で頑張ってるんだな」と言い、「きみの気持ちはわかるよ。きみはめいっぱい頑張ってるんだろう? 弱音も吐かずに」と続けます。成道は、西田さんの言い方があまりに優しくて、言葉を発したとたんにこれまで抑えてきたものが漏れ出しそうになり、なにも言えなくなります。自分の気持ちをこれほど近くで「わかるよ」と言ってもらったのは、初めてかもしれませんでした。
散歩の後、西田さんは緩和ケア病棟に移ります。成道は、緩和ケア病棟の出入口で西田さんに最後の挨拶をします。初めての臨地実習でいきなり患者に受け入れを拒絶され、男というだけで必要とされない現実があるのに、それでも看護師を目指す意味があるのかと、投げやりな気持ちにもなった。でも、西田さんに迎え入れてもらい、実習を続けることができた。「私も最後の看護学生がきみでよかった。岡崎成道くん。きみのことは絶対に忘れないよ。頑張れ、岡崎くん」。成道は、「最後の」という言葉を耳にすると同時に、堪えられなくなって下を向きます。西田さんは最後の力を振り絞って、自分と向き合ってくれたのです。
西田さんが緩和ケア病棟に入っていった後、車椅子だけが戻ってきます。成道が押す、誰も乗っていない空っぽの車椅子は、とても軽い。帰り道、野本が打ち明けます。本当はもっと早くに緩和ケア病棟に移れたのだけれど、西田さんは、自分はまだもう少し泌尿器科にいると言って、順番待ちしている他の患者に空きベッドを譲った。そして、「西田さんは岡崎くんのために転床を遅らせてくれたんですよ」。成道が足を止めたのに、車椅子は慣性の法則で前に進んでいきます。成道は、あわててブレーキを握り、「どうして大事なことは、後になって気づくのだろう」と思います。野本に車椅子を預けて、成道は緩和ケア病棟のあるB棟へ走ります。
緩和ケア病棟の出入口のインターフォンを鳴らしますが、息が上がって言葉が途切れ途切れになります。看護学生が転床先の患者を訪ねるのはルール違反かもしれない、と戻ろうとしたとき、自動扉が静かに開き、車椅子に乗った西田さんが現れます。成道は、「西田さん、ぼくが大学を卒業して無事に看護師免許が取れたら、青のナースシューズをプレゼントしてください」と言い、「ぼく、絶対に看護師になります」と続けます。緩和ケア病棟の平均在院日数は約二週間。それでも、いまからおよそ三年後に西田さんと再会する——そう信じることは罪ではないはずだ、と成道は思います。西田さんは驚いた表情で成道を見上げ、「わかった……約束しよう」と答えます。そして、膝に置いていた静脈が浮き出た右手を前に伸ばし、成道も右手を差し出します。「報告に来てくれるのを、楽しみにしているよ」。成道にとって、「こんなに切ない握手をしたのは、生まれて初めてだった」のです。
母と、足が不自由な弟との三人暮らし
膀胱癌・緩和ケア病棟を希望
以前はカーディーラー
西田さんの転床のことを成道に話す
男の看護師は嫌だと成道を拒絶
成道の前に西田さんを担当していた
男子学生は後に看護職に就いた
この物語は、時間の順に進みますが、本文は途中で中略されています。「実習二日目の朝」から「実習最終日」までの間に起きたことは、前書きと中略の説明で補われています。設問の根拠を探すときは、これはいつの場面かを確かめましょう。まず場面の並びを整理しておきます。
-=否定的な心情 / ±=複数の気持ちが重なる転換点 / +=肯定的な心情
問一 線部①「私には十歳年上の兄がいてね」 西田さんが兄の話をした思い記号選択・6点
設問 線部①「私には十歳年上の兄がいてね」とありますが、西田さんが「兄」の話をしたのはどういう思いからですか。その説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 兄の話の中身ではなく、西田さんが、どんな思いで、この話を成道に聞かせたのかを選ぶ問題です。「どういう思いから」とあるので、話の終わりに西田さんが言った言葉に注目します。
答えの組み立て まず、兄の話のあとで西田さんが何と言ったかを見つけます。次に、「成道の気持ちをどう思っているか」と「成道にどうしてほしいか」の二つを一言ずつ決めます。最後に、兄を介護した男子学生が、本文でどんな人として書かれているかを確かめ、選択肢の後半(男子学生の説明)と照らし合わせます。
本文の根拠 話の流れを追います。兄の介護に来てくれた大学生の一人が、大学を卒業した後、看護職に就きました。当時は男性看護師が認められていない時代でしたが、彼らの情熱と努力と実績が男性看護師を世間に認めさせたと言い、西田さんは「私は男性の看護師を応援していますよ」と言います(49行め)。つづけて、「昨日、同室の川鍋さんに言われたこと、気にしたらいけないよ。岡崎くんはなにも悪くない」(54・55行め)と励まします。つまり西田さんは、男性だという理由で患者に拒否されたことを成道が気に病んでいるだろうと心配して、男性看護師の道を切り拓いた男子学生の話をし、くじけずに頑張ってほしいと思っているのです。
選択肢の検討
- ア 経験が浅いという理由で患者に拒絶されたことを成道が気にしているだろうと危惧したため、兄を介護し、後に男性看護師になった男子学生と同様に、懲りずに頑張ってほしいと思っている。 成道が拒絶された理由は、「経験が浅い」ことではありません。川鍋さんは、男の看護師は嫌だという理由で拒絶しました。
- イ 男性だという理由で患者に拒否されたことを成道が気に病んでいるだろうと心配したため、兄を介護し、後に男性看護師の道を切り拓いた男子学生と同様に、くじけず頑張ってほしいと思っている。 拒否された理由、西田さんの心配、男子学生の説明のすべてが、上の根拠に合っています。 これが正解です。
- ウ 男性というだけで患者に侮辱された成道は思い悩んでいるだろうと考えたため、兄を介護し、後に男性看護師に関する法律を提案した男子学生と同様に、めげずに頑張ってほしいと思っている。 「侮辱された」とは書かれていません。また、男子学生が法律を提案したという話も、本文にありません(法律の話は、一九六八年に改正されたという事実だけです)。
- エ 男性であるために患者から拒否された成道は看護師になるのをあきらめただろうと思ったため、兄を介護し、後に看護職に就いた男子学生と同様に、看護師を目指し続けてほしいと思っている。 西田さんは、成道が「気にしたらいけない」と励ましています。看護師になるのをあきらめたとは考えていません。また、男子学生は、ただ看護職に就いたのではなく、男性看護師の道を切り拓いた人として語られています。
① 拒否された理由は、男性だから(経験の浅さや侮辱ではない)
② 西田さんは、成道が気に病んでいるだろうと心配している
③ 男子学生は、男性看護師の道を切り拓いた人。同じように、くじけず頑張ってほしい
問二 線部②「ありがとうございます」 成道が感謝していること記号選択・6点
設問 線部②「ありがとうございます」とありますが、成道は何に対して感謝しているのですか。その説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 「誰が」「何を」「誰に」したことに感謝しているのかを、正確に選ぶ問題です。三つの要素のうち、一つでも違えば誤りになります。
答えの組み立て 線部の直前(54〜58行め)の西田さんの言葉から、「誰が」「何をした」を抜き出します。次に、「誰に」(看護学校の先生)と、「何のために」(成道は悪くないと伝えるため)を確かめます。選択肢は、この三つがすべて合うものだけが正解です。
本文の根拠 西田さんは「昨日、同室の川鍋さんに言われたこと、気にしたらいけないよ。岡崎くんはなにも悪くない。きみは悪くないと伝えるために、昨日、きみを私の担当にしてもらえないかと看護学校の先生に頼んだんだ」と言います(54〜57行め)。西田さんが、成道を自分の担当にしてほしいと、看護学校の先生に申し出てくれたのです。成道は、初めての本格的な臨地実習でいきなり患者に受け入れを拒絶され、足がすくんでいました(149・150行め)。その成道にとって、これは大きな救いでした。そのため、成道は喉が詰まりながら、「ありがとうございます」と言うのです。
選択肢の検討
- ア 西田さんが、成道を西田さんの担当にしてほしいと看護学校の先生に申し出てくれたこと。 「誰が」(西田さん)、「何を」(成道を担当にしてほしいと)、「誰に」(看護学校の先生に)のすべてが、本文のとおりです。 これが正解です。
- イ 松原さんが、西田さんの担当を成道にゆずりたいと西田さんに願い出てくれたこと。 松原さんは、成道の前に西田さんを担当していた実習生です。西田さんは「申し訳ないことをしてしまった」と、松原さんに謝る側です。松原さんが自分から願い出たとは書かれていません。
- ウ 野本が、成道を西田さんの担当にしてほしいと西田さんに強く働きかけてくれたこと。 働きかけたのは西田さんのほうです。野本は、成道が気づいたとおり、少しも驚いていませんでしたが、野本が西田さんに強く働きかけたとは書かれていません。
- エ 西田さんが、成道は川鍋さんに悪いことはしていないと看護学校の先生に伝えてくれたこと。 「きみは悪くないと伝える」相手は、成道本人です。先生に伝えたのは、担当にしてほしいという希望でした。誰に何を伝えたかが入れ替わっています。
① 誰が:西田さん
② 何を:成道を、西田さんの担当にしてほしいと
③ 誰に:看護学校の先生に (申し出てくれたこと)
問三 線部③「きみが看護師免許を取ったら、私が青のナースシューズをプレゼントしよう」 約束した思い記号選択・6点
設問 線部③「きみが看護師免許を取ったら、私が青のナースシューズをプレゼントしよう」とありますが、西田さんが「青のナースシューズ」を成道にプレゼントしようと約束したのは、どういう思いからですか。その説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 靴の色の話の裏にある、西田さんの願いを選ぶ問題です。西田さんが、なぜ「青」を選んだのかが手がかりになります。
答えの組み立て ①西田さんが車の色の話から何を言いたいのかをつかむ。②白衣と靴の色について、西田さんがどう言ったかを確かめる。③「青」にこめた意味(空と海の色・自由な色)を見つける。この三つを一つにまとめた選択肢が正解です。
本文の根拠 西田さんは、昔は黒、白、茶、グレー以外は売れないという認識があったのに、いまは鮮やかな色の車が走っていると話し、「時代は変わっていく」と言います(71〜81行め)。そして、白衣も自分の好きな色を着ればいいと言い、「ナースシューズは白が定番だろうが、決まりはないだろう」と続けます(86〜90行め)。さらに、「青は、空と海の色だ。自然界に最初からある、自由な色だよ」と言います(96・97行め)。成道は、その一言で、西田さんがこれまでどんな人生を送ってきたのかがわかる気がして、「この人は自由闊達に人生を切り拓いてきたのだろう」と思います(98〜102行め)。西田さんにとって「自由」は、大事なものなのです。決まりや定番にとらわれず、自由な心で、看護師としての人生を歩んでほしい。その思いをこめて、青のナースシューズを贈る約束をしたのです。
選択肢の検討
- ア 時代の変化に敏感に反応する感受性を身に付け、看護職の世界を時代に合うものにしていってほしい。 「時代は変わっていく」は、車の色の例で、話の入り口です。青のナースシューズにこめた思いは、時代への敏感さではなく、「自由な心」です。
- イ 男性だからこそ持てる自由な感性で、女性中心の看護職の世界に新たな風を吹き込んでほしい。 靴の色の話は、「自分の好きな色を履けばいい」という、性別と関係のない話です。「男性だからこそ」と限定する根拠はありません。
- ウ 偏見やよくない習慣を打ち破っていく気概を持って、男性看護師の道を開拓してほしい。 男性看護師の道を切り拓いた人の話は、問一の兄の話です。青いナースシューズの約束は、そこまでの気概を求める話ではありません。
- エ 常識や固定観念に縛られない柔軟な心を持って、看護師としての人生を歩んでいってほしい。 「決まりはないだろう」と「自由な色だよ」の両方に合っています。 これが正解です。
① 白が定番でも、決まりはない(常識や固定観念に縛られない)
② 青は「自由な色」。自由で柔軟な心を持ってほしい
③ 看護師としての人生を歩んでほしい(男性限定、時代への対応に限らない)
問四 線部④「女性のカーディーラーの話」 西田さんが伝えたいこと記号選択・7点
設問 線部④「女性のカーディーラーの話」とありますが、西田さんはこの話をすることで、成道にどういうことを伝えたいのだと考えられますか。その説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 女性のカーディーラーの話を通して、西田さんが成道に贈ったメッセージを選ぶ問題です。話の中心は、西田さん自身の考えの変化にあります。
答えの組み立て ①話の前半(女性の営業職を冷ややかに見ていた)と、後半(考えが間違いだと気づいた)に分ける。②気づいた内容(性別は関係ない・真摯な姿勢が大事)を一言にする。③「自分に向けてのエール」という成道の受け止めを、選択肢の最後の部分(「〜してほしい」)に合わせる。
本文の根拠 西田さんが働き始めた頃は、男社会で、営業職や整備士に就く女性はいませんでした。ところが、男女雇用機会均等法のあと、管理職に就いていた二十年前には、男性以上に活躍する女性のカーディーラーがいました。西田さん自身も、はじめは「車を買うのは男。だから売るのも男がいいに決まってる」と考えていましたが、「仕事ができるできないに、性別は関係ない」「どれだけ真摯に仕事に向き合っているか、その姿勢だけだとわかったんだよ」と気づきます(107〜121行め)。偏見はあるかもしれないが、仕事の能力に性別は関係なく、真面目にひたむきに仕事をすれば活躍できる。この話が、成道への「エール」だと書かれています(124・125行め)。
選択肢の検討
- ア 今はまだ看護師は女性のほうがいいという意識が社会の中に強く残っているが、それも時代の流れで変わっていくはずなので、男性看護師を目指して努力を重ねていってほしい。 西田さんの話の中心は、「時代の流れで変わる」ことではなく、「仕事ができるできないに性別は関係ない」「真摯な姿勢が大事」という点です。また、「意識が強く残っている」とも言っていません。
- イ 今はまだ社会の中に男性看護師を受け入れる準備ができていないが、いつかは法律面での整備も進むはずなので、看護師になるための勉強を続けていってほしい。 法律の面では、一九六八年の法改正で、男性にも門戸が開かれたと、すでに西田さんが話しています。この話は、法律面の整備とは関係がありません。
- ウ まだ男性看護師に対する偏見は残っているかもしれないが、仕事の能力に性別は関係なく、真面目にひたむきに仕事をすれば活躍できるはずなので勉学に精進してほしい。 「性別は関係ない」「真摯に仕事に向き合っているか」の二点が、そのまま入っています。 これが正解です。
- エ まだ男性看護師を嫌う人も多いかもしれないが、先入観にとらわれない人がいる環境に恵まれれば活躍できるはずなので、一生懸命勉学に励んでほしい。 「環境に恵まれれば」は、本文にありません。西田さんが言っているのは、環境ではなく、本人の「仕事に向き合う姿勢」が大事だということです。
① まだ偏見は残っているかもしれない(西田さん自身も偏見を持っていた)
② 仕事の能力に性別は関係ない。真面目にひたむきに仕事をすれば活躍できる
③ だから、勉学に精進してほしい(成道への「エール」)
問五 線部⑤「なにも言えなくなった」 このときの成道の説明記号選択(二つ選ぶ)・7点
設問 線部⑤「なにも言えなくなった」とありますが、このときの成道の説明として適切なものを次から二つ選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 言葉が出なくなった成道の心の中を、二つの面から選ぶ問題です。「二つ選ぶ」問題は、一つめの気持ちと二つめの気持ちが、それぞれ本文のどこに書かれているかを探します。
答えの組み立て ①直前の西田さんの言葉(成道の頑張りを認める言葉)に対する、成道の気持ちを探す。②線部⑤の直前の一文(言葉を発したとたんにこれまで抑えてきたものが漏れ出しそうだった)を、もう一つの気持ちとして探す。③選択肢のうち、この二つに合うものを選ぶ。
本文の根拠 一つめ 成道の弟は、交通事故の後遺症で歩行障害があります。西田さんは、そのことを聞いて、「きみはいろいろと大変な中で頑張ってるんだな」「きみの気持ちはわかるよ。きみはめいっぱい頑張ってるんだろう? 弱音も吐かずに」と、成道の頑張りをたたえ、いたわります(129〜132行め)。成道は、家事や弟の介護で忙しい中で看護の実習もしている自分の頑張りを、西田さんに認めてもらい、うれしく思っているのです。これがアです。
本文の根拠 二つめ 「言葉を発したとたんにこれまで抑えてきたものが漏れ出しそうだった」(134・135行め)とあります。成道は、西田さんの問いかけによって、家事や弟の介護が大変でつらいという思いがこみあげてきましたが、それを言うのをこらえているのです。これがエです。
選択肢の検討
- ア 家事や弟の介護で忙しい中で看護の実習をしている自分の頑張りを西田さんに認めてもらい、うれしく思っている。 一つめの根拠に合っています。 これが正解です。
- イ 自分が看護の実習に追われて余裕のない生活を送っていることについて西田さんから優しい言葉をかけてもらい、感動している。 成道がつらいのは、実習だけではなく、家事や弟の介護に追われていることです。また、「感動している」のではなく、こみあげる思いをこらえています。
- ウ 今まで隠していた家事や弟の介護でつらい自分の生活状況を西田さんに見事に言い当てられてしまい、呆気にとられている。 弟のことは、成道が自分から西田さんに話したことです。「言い当てられた」わけではなく、「呆気にとられている」様子もありません。
- エ 西田さんの問いかけによって家事や弟の介護が大変でつらいという思いがこみあげているが、それを言うのをこらえている。 二つめの根拠に合っています。 これが正解です。
- オ 西田さんにも介護を必要とする兄がいたはずで、そのことについて訊きたいが、個人的なことなので自重しようと思っている。 西田さんの兄のことを訊きたくなるのは、線部⑤より後です(136行め以降)。線部⑤の理由は、成道が自分のつらさをこらえていることで、兄のことを訊くのを自重しているからではありません。
① うれしさ:家事や弟の介護で忙しい中で頑張っていることを、西田さんに認めてもらった
② こらえる気持ち:つらいという思いがこみあげているが、言うのをこらえている
二つの気持ちが、同時に成道の心にあります。
問六 線部⑥「成道が足を止めた」 このときの成道の心情(六十五字以内)記述(65字以内)・12点
設問 線部⑥「成道が足を止めた」とありますが、このときの成道の心情を説明した次の文の□にあてはまる表現を、六十五字以内で答えなさい。「□。そして、一刻も早く西田さんに会いに行き、自分の思いを伝えたいと思っている。」
何を答える問いか 足を止めたときの成道の気持ちを書きます。後ろに「そして、一刻も早く西田さんに会いに行き、自分の思いを伝えたいと思っている」という文がつながっているので、□には、成道が西田さんに会いに行きたくなった理由、つまり足を止めたときの気持ちが入ります。
答えの組み立て 気持ちを一言で決めて、答えの最後に置く まず、成道の気持ちを一言で決めます。足を止めた直後に、成道は「どうして大事なことは、後になって気づくのだろう」と思います。この言葉から、成道の気持ちは「悔やんでいる」と決められます。この一言を答えの最後(文末)に置き、その前に、きっかけ(西田さんが自分のために転床を遅らせてくれたと知ったこと)とおどろきを並べます。後ろにつながる「そして、一刻も早く西田さんに会いに行き」と、文がなめらかにつながる形で終えます。
本文の根拠 きっかけ 野本は、西田さんがもっと早くに緩和ケア病棟に移れたのに、順番待ちの患者に空きベッドを譲り、「岡崎くんのために転床を遅らせてくれた」と話します。理由は、自分がいなくなって、また岡崎くんの受け入れ患者が決まらなかったら可哀そうだから(187〜191行め)。成道は、これを聞いて足を止めます。足を止めたのは、西田さんが自分のために転床を遅らせてくれたことを知って、おどろいたからです。
本文の根拠 悔い 野本は、「食事が摂れないくらい体がきつかったはずなのに、頑張ってくださったの」とも言っています(185・186行め)。実習の二週間、成道は西田さんのそばにいたのに、そのことに気づけませんでした。「どうして大事なことは、後になって気づくのだろう」(194行め)は、気づけなかったことへの悔いの言葉です。
① きっかけ 西田さんが、自分のために転床を遅らせてくれた(思いやり)
② おどろき それを知って、おどろいた
③ 気持ちの一言(答えの最後に置く) 気づけなかったことを悔やんでいる
書く順番は、①→②→③です。65字以内に収めます。
解答例の組み立て 解答例は、「〜を知っておどろき、〜を悔やんでいる」という一文です。「知っておどろき」で、きっかけとおどろきを前に置き、「悔やんでいる」で、気持ちの一言を文末に置いています。「転床」という言葉を使わず、「緩和ケア病棟への転床を遅らせて」と書くと、字数が少し増えますが、何をしてくれたのかがはっきりします。
失点しやすい書き方
- 「おどろいている」だけで終わる 足を止めた理由は書けていますが、後ろの「そして、一刻も早く会いに行き」とつながる、悔いの気持ちが抜けています。
- 「感謝している」で結ぶ 野本は「感謝しないとね」と言いますが、足を止めた直後の成道の言葉は「どうして大事なことは、後になって気づくのだろう」です。この言葉に当たる気持ちは、感謝よりも悔いです。
- 「そして〜」以下をくり返す □の後ろにすでに書かれている「会いに行きたい」という気持ちを答えに入れると、字数が足りなくなり、肝心の悔いが書けなくなります。
- 西田さんの病状の説明で字数を使う 「食事が摂れないほど体がつらかった」は悔いの理由の一部ですが、きっかけと気持ちの一言を先に書きましょう。
問七 線部⑦「こんなに切ない握手をしたのは、生まれて初めてだった」 成道の気持ち記号選択・7点
設問 線部⑦「こんなに切ない握手をしたのは、生まれて初めてだった」とありますが、このときの成道の気持ちの説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 握手のときの成道の気持ちを選びます。「切ない」は、悲しさや、胸がしめつけられるような思いを表す言葉です。なぜ切ないのか、その理由を、場面の事情から考えます。
答えの組み立て ①西田さんの病状(治る見込みがないこと)を確かめる。②「最後の看護学生」という言葉の意味(次はない)を考える。③三年後に西田さんが生きている可能性を、成道がどう考えているかを読み取る。④「有り難く思う気持ち」と「悲しさ」の両方が入った選択肢を選ぶ。
本文の根拠 前書きに、西田さんは膀胱癌を患っていて、治癒が望めないため、緩和ケア病棟での療養を希望しているとあります。西田さんは「私も最後の看護学生がきみでよかった」と言いました(156〜167行めの場面)。「最後の」とは、次の看護学生はいない、つまり自分の余命がわずかだと感じているということです。成道にも、それが伝わっています。さらに、緩和ケア病棟の平均在院日数は約二週間(223行め付近)で、三年後に再会する、と信じることは「罪ではないはず」と、成道自身が思っています(229行め付近)。つまり成道は、約三年後に自分が看護師免許を取るころ、西田さんが生きている可能性はほとんどないと、心のどこかでわかっています。それでも、約束をして、握手をしてくれた西田さんの深い思いやりを有り難く思い、同時に胸をしめつけられるような悲しさを感じているのです。
選択肢の検討
- ア およそ三年後に自分が看護師免許を取る保証はないにもかかわらず約束の握手をしてくれた西田さんの寛大な心に感謝しつつ、彼の病状が早く快復することを心から祈っている。 保証がないのは、成道の免許ではなく、西田さんの命のほうです。西田さんは治癒が望めない患者で、「快復を祈る」という気持ちは、本文に書かれていません。
- イ 自分が看護師免許を取る頃には緩和ケア病棟にいるはずなのに約束をしてくれた西田さんの優しさをうれしく思いつつ、西田さんに何もしてあげられない不甲斐なさを感じている。 緩和ケア病棟の平均在院日数は約二週間です。三年後に「緩和ケア病棟にいるはず」ではありません。また、握手の場面の気持ちは「不甲斐なさ」ではなく、「切なさ」です。
- ウ 自分が大学を卒業する頃には生きている可能性はほとんどないのに約束の握手をしてくれた西田さんの深い思いやりを有り難く思いつつ、胸をしめつけられるような悲しさを感じている。 「生きている可能性はほとんどない」と「深い思いやりを有り難く思う」と「悲しさ」の三つが、上の根拠に合っています。 これが正解です。
- エ 食事も摂れないほど体がつらいにもかかわらず約束をしてくれた西田さんの自分への期待の大きさを感じつつ、彼に良い報告ができるように頑張ろうと気を引き締めている。 握手の場面の成道は、「気を引き締めている」のではなく、「切ない」気持ちです。決意の気持ちは、問八で問われています。
① 西田さんが三年後まで生きている可能性は、ほとんどない(成道はそう理解している)
② それでも約束の握手をしてくれた、西田さんの深い思いやりを有り難く思う
③ 胸をしめつけられるような悲しさを感じている
問八 この文章に描かれた成道についての説明記号選択・7点
設問 この文章に描かれた成道についての説明として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 文章全体を通して、成道が、どんな状況から、何をきっかけに、どう変わったのかを選ぶ問題です。問一から問七で読み取ったことを、まとめて使います。
答えの組み立て 「初めの状況(苦境)」「きっかけ(西田さんの励ましと向き合い方)」「終わりの状態(決意)」の三つに分けて、選択肢を一文ずつ確かめます。三つのうち一つでも本文と違えば誤りです。
本文の根拠 初めの状況 成道は、初めての実習で川鍋さんに拒否され、受け入れ患者がいなくなるという苦境に立たされます。そのため、男というだけで必要とされない現実があるのに、それでも看護師を目指す意味があるのかと、投げやりな気持ちにもなりました(149〜152行め)。
きっかけ けれども、西田さんに迎え入れてもらい(問二)、人生経験に基づく心のこもった励ましの言葉(問一・問三・問四)をかけられます。さらに、西田さんは、最後の力を振り絞って自分に真剣に向き合ってくれました(問七)。
終わりの状態 成道は、「ぼく、絶対に看護師になります」(227行め)と言います。看護師になる気持ちを、改めて決意したのです。
選択肢の検討
- ア 成道は初めての実習で拒否され、日本で男性看護師になることは偏見との戦いになることに気づいて絶望したが、西田さんにエールが込められたエピソードを語ってもらったことで、彼のような患者を救うために看護師になろうと気持ちを奮い立たせた。 「絶望した」は言い過ぎです。成道は、投げやりな気持ちになりましたが、実習を続けています。また、「彼のような患者を救うため」という理由は、本文にありません。
- イ 成道は初めての実習ではねつけられ、看護師になる夢を断ち切ったが、西田さんから自らの身の上や仕事での失敗に基づく助言や説得を受け、彼の生き方を象徴するようなプレゼントをもらえることも知って、やはり看護師になろうと決心することができた。 「看護師になる夢を断ち切った」とは書かれていません。気持ちが揺らいだだけです。また、決意の理由が「プレゼントをもらえること」になっていますが、本文で決意を支えているのは、西田さんの励ましと、最後の力を振り絞って向き合ってくれたことです。
- ウ 成道は初めての実習で周囲の人々から誤解され看護師を目指すことの意義に疑問を抱いたが、西田さんも介護が必要な兄弟がいたことを知って親近感がわき、彼からエールをもらえたので看護師になりたいという気持ちを再確認することができた。 成道を拒絶したのは、川鍋さんという一人の患者で、理由も「誤解」ではなく、男の看護師は嫌だというものです。また、「最後の力を振り絞って自分に真剣に向き合ってもらえた」という、問七で読み取った大切な点が抜けています。
- エ 成道は初めての実習で苦境に立ち看護師を目指す気持ちが揺らいだが、西田さんから人生経験に基づく心のこもった励ましの言葉をかけられ、最後の力を振り絞って自分に真剣に向き合ってもらえたことで必ず看護師になるのだと改めて決意することができた。 初めの状況、きっかけ、終わりの状態の三つが、そのまま本文に合っています。 これが正解です。
① 初めの状況:実習で拒絶されて苦境に立ち、看護師を目指す気持ちが揺らいだ
② きっかけ:西田さんの励ましの言葉と、最後の力を振り絞って向き合ってくれたこと
③ 終わりの状態:必ず看護師になるのだと、改めて決意した
問八は、問一・問二・問三・問四・問七で読み取ったことの総まとめです。大問1は、西田さんの励ましが一つずつ積み重なって、成道の決意になる物語でした。設問ごとに、「西田さんは成道に何を贈ったのか」を一言でメモしておくと、問八が楽に選べます。
大問2 論説文 長谷川眞理子『ダーウィンは進化をどう考えたのか』
要旨 「進化」は事実の理論、「進歩」は願い。二つを混同しない
この文章は、前書きによれば、進化の理論は、これまで述べてきたように、生物学の理論で、この世に存在するすべての生物が、どのような過程を経て今のような姿になって存在するようになったのか、それを説明する壮大な理論、という話の続きです。出典は、進化生物学と行動生態学を専門とする長谷川眞理子さんの文章です。
筆者は、まず、「進化」という考えには、つねに思想的、哲学的な匂いがつきまとっていると言います。「進化」は生物学の理論なのに、ある種の進歩思想のようなものを連想する人が、かなり多くいます。「洗たく機の進化」「AIの進化」のように、技術が進歩・発展することを「進化」と表現するコマーシャルが実に多いことにも、それが現れています。筆者は、生物学の「進化」と、人間の生活における「進歩」は、まったく異なるものだと、長年論じてきました(意味段落1)。
ダーウィンが提出した自然淘汰による進化の理論は、生物が世代を経るにしたがって、その環境によく適応している個体の子孫が多く残り、そのような個体が集団中に広がっていく、というプロセスです。そこには、何がよいのか悪いのかという「価値判断」は入っておらず、その時々の環境の変化に応じて変わる、ということだけです。これに対して、非進化論(創造論)は、生物のありようは神様が創造した日にこのように作った、というもので、キツネはこの世の始めからキツネとして作られ、アオカビはこの世の始めからアオカビであった、と考えます。ダーウィン自身は、生物の変化を「よりよい段階」への「進歩」だとは考えていませんでした(意味段落2)。
それでは、なぜダーウィンの考えは、世に受け入れられたのでしょうか。19世紀の英国で、進化論を取るか、非進化論を取るかの分け目は、純粋に生物の歴史の問題ではなく、社会を定常と見るか、変革可能と見るか、という分け目でした。社会をよりよく変えようとしている人々は、この理論に、社会を変えることの正当性の科学的根拠を見ました。反対に、社会は変わるべきではないと考える人々は、この理論を、危険なものと受け取りました(意味段落3)。人々が「社会を変える」ことと「社会をよい方向に進歩させる」ことを混同しがちなのは、技術がつねに特定の問題を解決して発展してきたことと、人間には、時間が経てば物事はよくなると思う進歩思想や、それに対する願いやあこがれが染みついているからです。
筆者は、自然科学は価値観とは関係なく、自然現象の描写とその説明で成り立っているので、科学的説明をもって「だからそうしなければならない」と論じるのは誤りで、それを自然主義の誤謬と呼ぶ、と説明します。「〜である」から「〜するべき」は、導かれません。ところが、日常的には、この誤謬に基づく見解は、かなり浸透しています(意味段落4)。そして、科学的理論を採用するかどうかの判断には、その学者の持つ社会的な価値観、世界観、人生観などが大いに影響しがちです。19世紀のダーウィンも、世界観としては進歩思想で自由主義でしたが、自分の進化理論を構築するにあたっては、科学的にゆるぎない証拠と論理の積み重ねが必要であることを知っていました。このような人物は、ある意味で希有(めったにいないこと)なのかもしれない、と筆者は結びます(意味段落5)。
科学的説明 感染症の原因の多くは病原菌
+ 価値観 感染症にはかかりたくない
→ 結論 手を洗うべきだ
「〜するべき」が出るのは、「かかりたくない」という価値観が入っているから
科学的説明 人間は、物理学的にも解剖学的にも、空を飛べない
価値観 空を飛べたらいいな
→ 「人間は空を飛ぶべきではない」とは、ならない
価値観のほうが優先されるから
問一 線部①「『進化』という考えには〜つきまとっています」 どういうことか記号選択・6点
設問 線部①「『進化』という考えには〜つきまとっています」とありますが、どういうことですか。最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 「思想的、哲学的な匂い」とは何のことかを、本文の言葉を使って言いかえる問題です。傍線部のすぐ後に、その説明が書かれています。
答えの組み立て 傍線部の直後の一文を、言いかえる。「進化」という言葉を聞くと、人は何を連想するのか、そして「進化」の本来の姿は何か、の二つを確かめます。選択肢は、「本来は生物学の理論」と「進歩思想と結びつけて考えられがち」の両方が入ったものだけが正解です。
本文の根拠 傍線部のあと、「『進化』という言葉を聞くと、生物学の理論ではなく、ある種の進歩思想とでも言うようなものを連想する人は、かなり多くいるでしょう」とあります(6〜10行め)。さらに、「洗たく機の進化」「AIの進化」のように、技術が進歩・発展することを「進化」と表現するコマーシャルが実に多いことも、その現れです(10行め付近)。筆者は、「進化」と「進歩」が別のものだとわかっていながら、進化の理論と進歩思想は、人間の思考の中では不可分に結び付いているのではないか、と述べています(21〜23行め)。
選択肢の検討
- ア 「進化」が生物学の用語であるのを知らずに、「進化」の使いやすさから「進歩」思想の説明に借用されやすいということ。 「知らずに借用している」とは書かれていません。本文は、人々が「進化」を、生物学の理論ではなく、進歩思想のように連想する、ということです。
- イ 技術の「進歩」を「進化」と言い換える多くのコマーシャルに影響されて、両者を結び付けて考える人が少なくないということ。 コマーシャルは、混同が現れている例の一つです。「コマーシャルに影響されて」が原因だとは書かれていません。
- ウ 「進化」は本来生物学の理論なのに、ものごとはよい方向へ「進歩」するはずだという思想と混同して考えられがちだということ。 「本来は生物学の理論」と「進歩思想と混同されがち」の両方が、本文に合っています。 これが正解です。
- エ 「進化」は生物学の理論だが、その理論の根底には、時が経つにつれてよい方向へ向かうという進歩思想があるということ。 進歩思想が理論の根底にある、とは書かれていません。進化の理論と進歩思想は、別のものです。「混同される」と「根底にある」は、まったく違います。
① 「進化」は、本来、生物学の理論
② それなのに、ものごとはよい方向へ進歩するという思想と、混同して考えられがち
問二 線部②と線部③の違い(a・bのぬき出し)ぬき出し・各五字・各4点
設問 線部②「ダーウィンが提出した自然淘汰による進化の理論」と、線部③「生物のあり方に関する『非進化論』」とは、どう違うのですか。次の文のa・bにあてはまる言葉を、文章中からそれぞれ指定の字数でぬき出して答えなさい。「生物のありようは、③では[a 五字]して以来今に至るまで変わっていないと考えるのに対して、②では、長い年月が経って周りの[b 五字]に適応して生物自体も変わると考える。」
何を答える問いか 二つの理論を対比した文の空らんに、本文の言葉を入れる問題です。aは非進化論(③)、bは進化論(②)の説明にあたります。
答えの組み立て ①aは、③の説明が書かれている場所(線部③の直後)から探す。②bは、②の説明が書かれている場所から探す。③空らんの前後の言葉(「して以来」「に適応して」)と、字数(五字)で候補をしぼる。
本文の根拠 a 線部③の直後に、「生物のありようは、神様が創造した日にこのように作った、というものです」とあります(34〜39行め)。「( )して以来今に至るまで変わっていない」に入る、五字の言葉は、「神様が創造」です。
本文の根拠 b ②の説明は、24〜30行めにあります。「その環境によく適応している個体の子孫が多く残り」(25行め)が、「その時々の環境の変化に応じて変わる」(29行め)と言いかえられています。「周りの( )に適応して」に入る、五字の言葉は、「環境の変化」です。空らんの前の「周りの」と、後の「に適応して」に注意し、「環境」だけ(二字)にしないようにしましょう。
a 非進化論の説明(神様が創造した日にこのように作った)から、五字で「神様が創造」
b 進化論の説明(その時々の環境の変化に応じて変わる)から、五字で「環境の変化」
問三 線部④「進化論を取るか非進化論を取るかの分け目」 進化論を取った人の思い(十字程度)短い記述(十字程度)・8点
設問 線部④「進化論を取るか非進化論を取るかの分け目」とありますが、19世紀の英国において「進化論」を取った人にはどういう思いがあったのですか。文章中の言葉を使って、「〜という思い。」につづくように、十字程度で答えなさい。
何を答える問いか 進化論を取った人の思いを、本文の言葉で、十字程度にまとめる問題です。「〜という思い」につづく形にします。
答えの組み立て ①線部④をふくむ一文で、分け目が何だったかを確認する(社会を定常と見るか、変革可能と見るか)。②「進化論を取る人」と「非進化論を取る人」を対比して、進化論の側の言葉を取る。③本文中の別の場所にある、「社会をよりよいものに」という言葉と合わせて、十字程度にする。
本文の根拠 53・54行めに、分け目は「社会を定常と見るか変革可能と見るか、このままで仕方がないと思うか、変えようと思うか」とあります。進化論を取る人は、社会を変革可能と見て、変えようと思う人です。さらに、「社会を、どうやって、よりよいものに変えていけるかを考えている」人々が、この理論に正当性の根拠を見た(65行め付近)と書かれています。二つを合わせると、進化論を取った人の思いは、「社会をよりよく変えよう」という思いです。
① 「変える」 社会を変革可能と見て、変えようと思う(このままで仕方がない、ではない)
② 「よりよく」 変えるのは、よい方向へ、という願い
十字程度で、「〜という思い。」につづく形に整えます。
失点しやすい書き方
- 「社会を変えたい」だけで終わる 「よりよく」が抜けています。変えたい方向が書かれていません。
- 非進化論を取った人の側を書く 「このままで仕方がない」は、非進化論を取った人の思いです。
- 「進歩思想」という言葉を答えにする 問われているのは、人々の「思い」です。名前ではなく、気持ちを書きます。
問四 線部⑤「ダーウィンの考えが世に受け入れられるには、何が必要だったのか」 受け入れられた理由記号選択・6点
設問 線部⑤「ダーウィンの考えが世に受け入れられるには、何が必要だったのか」とありますが、ダーウィンの考えはなぜ、当時の人々に受け入れられたのですか。最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 「受け入れた人々」が、ダーウィンの理論に何を見たのかを選ぶ問題です。人々は、生物学の理論そのものを受け入れたのではなく、別のものを見ていた、という点が決め手になります。
答えの組み立て ①受け入れた人々は「誰」か(社会をよくしたいと考える人々)。②その人々は、理論に「何を」見たか(科学的根拠)。③それを「どうしようとした」か(自分たちの考えの支えにした)。三つのそろった選択肢を選びます。
本文の根拠 19世紀の英国には、社会をよい方向に変えたいと思っている人々がいて、それを実現できる手段を探していました。そのとき、ダーウィンの進化論が提出されます。多くの人々は、これを生物の理論としてとらえたのではなく、「この理論に、社会を変えることの正当性の科学的根拠を見たのではないでしょうか」と書かれています(63〜71行め)。
選択肢の検討
- ア 英国の19世紀当時、社会をよくしたいと考える人々は、その頃公表されたダーウィンの進化論に、生物学ではなく、自分の進歩思想を支える科学的根拠を見出し、これを援用しようとしたから。 「誰が」「何を見出し」「どうしようとした」のすべてが、本文に合っています。 これが正解です。
- イ 英国の19世紀当時、多くの人々は社会を定常と見て、変革すべきではないと考えていたが、ダーウィンの唱えた進化論に感化されて、社会をよくしようという進歩思想に傾いたから。 社会を定常と見る人々は、この理論を「危険なもの」と受け取りました(問五)。感化されて進歩思想に傾いた、とは書かれていません。
- ウ 英国の19世紀当時、社会の変革をもくろむ人々は、それに正当性を与える理論・根拠を探していたが、同じく社会をよくしたいと願う思想であるダーウィンの進化論にそれを見出したから。 前半は合っていますが、ダーウィンの進化論は、生物学の理論であって、「社会をよくしたいと願う思想」ではありません。線部①の混同を、そのまま選択肢にしたものです。
- エ 英国の19世紀当時、社会を正しい方向へ変えたいと願う人々は、生物はよい方向へ進化してきたというダーウィンの学説に触れて、自分たちの社会変革運動の根拠・指針にしたから。 ダーウィンは、生物の変化を「よりよい段階」への「進歩」だとは考えていませんでした(44〜50行め)。「生物はよい方向へ進化してきた」という学説ではありません。
① 誰が:社会をよくしたいと考える人々
② 何を見出した:進化論に、生物学ではなく、自分の進歩思想を支える科学的根拠
③ どうした:これを援用しようとした(自分たちの考えの支えにした)
問五 空らん⑥にあてはまる言葉記号選択・4点
設問 [⑥]にあてはまる言葉として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。ア 正当な イ 危険な ウ 画期的な エ 理想的な
何を答える問いか 「反対に、社会は変わるべきではないと考える人々は、この理論を、社会を変えようとする人々に勇気を与える[⑥]ものと受け取ったのではないでしょうか」の空らんを選びます。
答えの組み立て 空らんの直前の「勇気を与える」だけで選ばない。①「受け取った」のは誰か(主語)をつかむ。②その人たちの立場で、この理論はどう見えたかを考える。③「反対に」という言葉に注目して、前の文との対比を確かめる。
本文の根拠 空らんの直前の「勇気を与える」という言葉だけを見ると、「正当な」「画期的な」「理想的な」と入れたくなります。しかし、「⑥ものと受け取った」のは誰でしょうか。主語は、「社会は変わるべきではないと考える人々は」、つまり、社会をこのままでいいと思う人々です。これらの人々から見ると、社会を変えようとする人々に勇気を与える理論は、社会の安定をくずす、おそろしいものです。前の文の「社会を変えようとする人々」にとっては、正当な根拠に見えたのですから、「反対に」の人々には、危険に見えたのです(70〜73行め)。
選択肢の検討
- ア 正当な 社会を変えようとする人々が、この理論に見たものです(前の文)。反対の立場の人々ではありません。
- イ 危険な 社会を変えたくない人々から見れば、安定をくずす危険なものです。 これが正解です。
- ウ 画期的な 「画期的」は、これまでにない新しいものとして、ほめる言葉です。変えたくない人々の見方に合いません。
- エ 理想的な 「理想的」も、よいものとして評価する言葉です。変えたくない人々は、そう評価しません。
① 主語は、「社会は変わるべきではないと考える人々」
② その人々にとって、変革に勇気を与える理論は、おそろしいもの(危険)
問六 線部⑦ なぜ人々は「社会を変える」ことと「進歩させる」ことを混同しがちなのか記号選択(二つ選ぶ)・7点
設問 線部⑦「論理的に言えば、『社会を変える』ことと、『社会をよい方向に進歩させる』ということは別」なのに、なぜ人々は混同しがちなのですか。適切なものを次から二つ選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 混同しがちな理由は、傍線部のあとに、二つ書かれています。それぞれの理由に合う選択肢を、一つずつ選ぶ問題です。
答えの組み立て ①傍線部のあとで、「しかし」「そして」「だから」とつながる文を、順に追う。②理由を一つめ、二つめと、番号をつけて整理する。③それぞれに合う選択肢を選ぶ。
本文の根拠 一つめ 「そして、これまでの長い人類史を通して、技術はつねに特定の問題を解決して発展してきましたから、人々はそれを『進歩』だとしか受け止められませんでした」(77・78行め)。技術は、つねに問題を解決して発展してきたので、人類史は進歩の歴史だと考えていた、という理由です。これがイです。
本文の根拠 二つめ 「変えることを考えている人々にとって、変えるのはよりよい方向への進歩以外にはあり得ません」(75〜77行め)。さらに、筆者は、人間には、時間が経てば物事はよくなると思う進歩思想、またはそれに対する願いやあこがれが染みついているのだと言います(83〜85行め)。つまり、人間は進歩に対する願いを持つもので、社会を変えたいという欲求は、よい方向へ変えたいという願いに他ならない、という理由です。これがオです。
選択肢の検討
- ア 社会が変わることには、悪い方向に向かう可能性も含まれるのに、人々は過去の歴史からそうした事例を学ぼうとしないから。 「過去の歴史から学ぼうとしない」とは書かれていません。混同の理由は、技術の発展と、進歩への願いです。
- イ 人間の生み出す技術はつねに問題点を解決して、よりよい方向に発展してきたので、人類史は進歩の歴史だと考えていたから。 一つめの理由に合っています。 これが正解です。
- ウ 社会の変化には悪い変化も含まれるが、社会を変えようとする人々は、これまでに起きた悪い変化を覆い隠そうとするから。 「悪い変化を覆い隠そうとする」とは、本文のどこにも書かれていません。
- エ 長い人類史を通して、科学技術は悪用された場合があることを人々は忘れ、よい方向への変化にばかりとらわれているから。 「悪用された場合があることを忘れ」とは書かれていません。本文は、技術がつねに問題を解決してきた、という流れです。
- オ 人間は進歩に対する願いを持つものであり、社会を変えたいという欲求は、よい方向へ変えたいという願いに他ならないから。 二つめの理由に合っています。 これが正解です。
① 一つめの理由:技術はつねに問題を解決して発展してきた(人類史は進歩の歴史)
② 二つめの理由:人間には進歩への願いがあり、変えたいという欲求は、よい方向へ変えたいという願いに他ならない
問七 線部⑧「『〜である』から『〜するべき』は、導かれない」 どういうことか記号選択・7点
設問 線部⑧「『〜である』から『〜するべき』は、導かれない」とありますが、これはどういうことですか。最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 「〜である」と「〜するべき」が、それぞれ何にあたるのかを、本文の言葉で言いかえる問題です。傍線部の直前の二文に、答えがそのまま書かれています。
答えの組み立て ①「〜である」は何か(自然科学の描写と説明)。②「〜するべき」は何か(価値判断)。③両者が「導かれない」とは、どういうことか(科学的説明を、価値判断の根拠にすることはできない)。この三つを、選択肢で確かめます。
本文の根拠 傍線部の直前に、「自然科学は価値観とは関係なく、自然現象の描写とその説明で成り立っています。ですから、何らかの現象に関する科学的説明をもって、『だからそうしなければならない』と論じるのは誤りであり、それを自然主義の誤謬と呼びます」とあります(86〜90行め)。「〜である」は、科学的説明にあたります。「〜するべき」は、価値判断にあたります。科学的説明を根拠にして、価値判断をくだすのは誤りだ、という意味です。
選択肢の検討
- ア 科学者がある科学的理論を採用する際には、観察や実験から得た事実に基づいて、その理論を立証したうえで、自分の価値観にしたがうべきである。 「自分の価値観にしたがうべき」は、本文と逆です。筆者は、価値観を根拠に科学的説明をねじ曲げる危険を述べています。「〜である」と「〜するべき」の関係を答える選択肢にもなっていません。
- イ 本来、自然科学は、自然現象の描写とその科学的説明で成り立つのであり、そこに人の価値観を持ち込むと、社会に混乱が生じる恐れがある。 「社会に混乱が生じる恐れ」は、本文にありません。傍線部が言っているのは、事実の説明から価値判断は導けない、という論理の話です。
- ウ 自然科学は、自然現象を観察し、実験を繰り返すことで得た事実と、それに対する科学的説明から成るものであり、それを安易に社会に適用することを科学者は慎まなければならない。 「社会に適用することを慎む」ことは、問われていません。傍線部は、科学者の行動の話ではなく、「〜である」から「〜するべき」へ進めない、という論理の話です。
- エ 自然科学は本来、自然現象の描写とその説明で成り立っており、価値観とは無関係なので、その科学的説明を、どうするべきかという価値判断の根拠にすることはできない。 「〜である」(科学的説明)と「〜するべき」(価値判断)の対応が、そのまま言いかえられています。 これが正解です。
① 「〜である」= 自然現象の描写とその説明(科学的説明)
② 「〜するべき」= どうするべきかという価値判断
③ 科学は価値観と無関係なので、科学的説明を価値判断の根拠にはできない
問八 線部⑨「このような人物は、ある意味で希有なのかもしれない」 ダーウィンが「希有」な点(七十字以内)記述(70字以内)・12点
設問 線部⑨「このような人物は、ある意味で希有なのかもしれない」とありますが、ダーウィンはどのような点で「希有」だと言えるのですか。七十字以内で答えなさい。
何を答える問いか 「希有」とは、めったにいないこと(本文の注)です。ダーウィンが、めったにいない人物だと言えるのは、どういう点でしょうか。問われているのは、「どのような点で」です。「〜な点。」という形で答えるのが自然です。
答えの組み立て 結論を一言で決めて、答えの最後に置く まず、ダーウィンが希有だと言える点を一言で決めます。傍線部の直前の一文に、「世界観としては進歩思想で自由主義でしたが、自分の進化理論を構築するにあたっては、科学的にゆるぎない証拠と論理の積み重ねが必要であることを知っていました」とあります。進歩思想で自由主義という自分の世界観を、理論の構築に持ち込まなかったことが、希有な点です。一言で言えば、「世界観を持ち込まなかった点」です。この一言を答えの最後(文末)に置き、その前に、「科学的にゆるぎない証拠と論理の積み重ねで理論を構築し」を並べます。
本文の根拠 119〜125行めです。19世紀のダーウィンの時代、生物進化を支持しようとする人々は、人間社会を変えようと考える進歩思想の持ち主で、自由主義でした。ダーウィンも同じ世界観でしたが、進化理論を構築するにあたっては、科学的にゆるぎない証拠と論理の積み重ねが必要であることを知っていました。さらに、意味段落5の前半(110〜119行め)で、筆者は、科学者が理論を採用するときには、その学者の価値観や世界観が大いに影響しがちだと述べています。多くの科学者が価値観を持ち込んでしまうなか、ダーウィンは、持ち込まなかった。だから「希有」なのです。
① 科学的にゆるぎない証拠と論理の積み重ねで、理論を構築した
② 結論の一言(答えの最後に置く) 自分の進歩思想・自由主義の世界観を持ち込まなかった点
書く順番は、①→②です。70字以内に収めます。
解答例の組み立て 解答例は、「〜を構築し、その際、〜を持ち込まなかった点」という形です。前半に、手段(証拠と論理の積み重ね)を置き、後半(文末)に、結論の一言(世界観を持ち込まなかった点)を置いています。「その際」で、二つをつなぐと、「何をしたうえで、何をしなかったのか」が一文で伝わります。
失点しやすい書き方
- 「希有=めったにいない」と言いかえただけで終わる 設問は、「どのような点で」です。点の中身を書きます。
- 「進歩思想で自由主義だった」だけで終わる 世界観を持っていたことは、希有な点ではありません。「持ち込まなかった」ことが、希有な点です。
- 「社会を変えようとした」と書く ダーウィンの理論を社会変革の根拠にしたのは、当時の人々です。ダーウィン本人の希有な点ではありません。
- 字数を超える 七十字以内です。前半を長く書きすぎず、文末の一言を、必ず書き切ります。
問九 本文の内容に合うものには○、合わないものには×○×・各2点(ア〜エ)
設問 次のア〜エのうち、本文の内容に合うものには○、合わないものには×で答えなさい。
何を答える問いか 本文全体の内容と、四つの文を、一つずつ照らし合わせる問題です。これまでの問一〜問八で読み取ったことが、そのまま使えます。
答えの組み立て 各文を、「どの意味段落の内容か」に分けてから、本文の根拠の行を探します。一語だけ本文と違う点(「〜べきである」「〜ものである」などの言い切り)に注意します。
- ア 進化の理論は、生物学の理論ではあるが、誕生以来、その受け止められ方は、人々の価値観や時代、社会状況などに影響されてきた。 ○ 意味段落2・3(51〜73行め)の内容に合っています。19世紀の英国で、進化論は、社会を変えたい人と、変えたくない人の、それぞれの価値観によって、受け止め方が分かれました。
- イ 生物学の「進化」と社会の「進歩」とを混同してはならないが、人間の多くに進歩への願いがあり、科学者もまた人間であるということを考えると、両者の混同をなくすことは難しい。 ○ 81〜86行めに、「進化」と「進歩」を混同してはならないと言い続けても、混同はなくならない、人間には進歩への願いが染みついているとあります。また、110〜119行めに、科学者の持つ社会的な価値観、世界観が、理論の採用に大いに影響しているとあります。
- ウ 科学者が自然現象を説明したり、ある科学的理論を採用したりする際には、自身のもっている価値観・世界観を反映させるべきである。 × 110〜119行めは、科学者の価値観・世界観が理論の採用に影響しがちだ、という事実の説明です。「反映させるべきだ」とは言っていません。これも、「〜である」から「〜するべき」を導いてしまう誤りです。
- エ ある自然現象に対する科学的説明が、私たちの価値観に合致しない場合、科学の厳密性が損なわれ、自然主義の誤謬が出てくるものである。 × 103〜109行めに、科学的説明が価値観と合わない場合には、自然主義の誤謬が出てくることはない、とあります(空を飛べない例)。誤謬が出てくるのは、科学的説明が価値観に合致して、都合のいい場合です。
ア ○(受け止められ方は価値観や時代に影響される)
イ ○(混同をなくすのは難しい)
ウ ×(「反映させるべき」とは言っていない)
エ ×(価値観に合わない場合には、誤謬は出てこない)
大問3 言葉の知識(故事成語・慣用句)
大問3は、問一(故事成語)と問二(慣用句)の二つで、配点は計16点です。問一は、1〜4の4問それぞれで、Aの意味(ア〜オ)とBの用例(カ〜コ)の両方を答えて、1問として2点です。問二も、1〜4の4問で、各2点です。
問一 故事成語の意味(A)と、あてはまる文(B)記号選択・各2点(1〜4)
設問 次の1〜4の故事成語の意味として適切なものをAのア〜オからそれぞれ選び、記号で答えなさい。また、1〜4の故事成語があてはまる文をBのカ〜コからそれぞれ選び、記号で答えなさい。
答えの組み立て ①まず、故事成語の意味を、自分の言葉で一言にする。②Aの選択肢から、その一言に合うものを選ぶ。③Bの文の( )に故事成語を入れて、文の意味がつながるかを確かめる。AとBは、同じ意味でなければならないので、AとBが合っているかを、最後にもう一度見比べます。
- 1 杞憂(きゆう) 意味は、あれこれと無用の心配をすること(A オ)。昔、杞の国の人が、天が落ちてこないかと心配した、という故事から生まれた言葉です。用例は、旅行前は天候の悪化を心配していたが、それは( )に終わり、当日は快晴のもとで観光を存分に楽しむことができた、という文(B カ)。心配したことが、実際には起こらなかった、という流れに合います。
- 2 五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ) 意味は、違いはあるが、本質的には変わりがないということ(A イ)。戦場で、五十歩逃げた兵が、百歩逃げた兵を笑った、という故事から生まれた言葉です。用例は、大塚君の運動量は少なすぎるが、四谷さんもそれほど多くないので、二人は( )と言ってよいだろう、という文(B ケ)。少ない・多くないの差は小さく、本質的には同じ、という意味に合います。
- 3 白眉(はくび) 意味は、同類のものの中で際立って優れた人やもの(A エ)。兄弟五人の中で、眉に白い毛のあった人が最も優れていた、という故事から生まれた言葉です。用例は、彼の作品群の中でも、この小説は構成と文章の巧みさにおいて( )であり、多くの読者から高く評価されている、という文(B キ)。作品群の中で際立って優れている、という意味に合います。
- 4 玉石混淆(ぎょくせきこんこう) 意味は、良いものと悪いものが入り交じり、区別がつかないこと(A ア)。「玉」は宝石、「石」は石ころです。用例は、このコンテストには数百もの作品が寄せられたが、質の高いものから稚拙なものまであり、まさに( )の状態だった、という文(B コ)。質の高いものと稚拙なものが入り交じっている、という意味に合います。
使われない選択肢にも注意しましょう。Aのウ「自分の向上に役立てることができる他人の言動」は、他山の石の意味です。Bのク「読書感想文の最後に付け加えた説明は、かえって話をわかりにくくしてしまい、まさに( )であったと後で気づいた」は、蛇足(余計なもの)が入る文です。故事成語は、意味を覚えるだけでなく、短い文に入れて使えるところまで確かめておくと、Bのような問題で迷いません。
1 杞憂 = A オ・B カ
2 五十歩百歩 = A イ・B ケ
3 白眉 = A エ・B キ
4 玉石混淆 = A ア・B コ
A・Bは、それぞれ順不同でも、1問につき両方そろって2点です。
問二 各組の□に共通してあてはまる言葉(慣用句)記号選択・各2点(1〜4)
設問 次の1〜4の各組の慣用句の□に共通してあてはまる言葉を、それぞれ後から選び、記号で答えなさい。(ア 鼻 イ 目 ウ 肩 エ 肝 オ 耳 カ 顔 キ 足 ク 腕)
答えの組み立て ①二つの慣用句のうち、意味がはっきりわかる方から、言葉を決める。②決めた言葉を、もう一方にも入れて、慣用句として成り立つかを確かめる。選択肢には、片方だけ成り立つ言葉(たとえば「腕が立つ」)が混じっているので、必ず両方に入れて確認します。
- 1 「□が据わる」「□を冷やす」 = エ 肝 肝が据わる(度胸があって物事に動じない)、肝を冷やす(危険に遭って、恐ろしくてぞっとする)。
- 2 「□に余る」「□を皿にする」 = イ 目 目に余る(ひどくて見過ごせない)、目を皿にする(目を大きく見開く)。
- 3 「□に挟む」「□が痛い」 = オ 耳 耳に挟む(ちらっと聞く)、耳が痛い(弱点を言われて聞くのがつらい)。
- 4 「□が広い」「□が立つ」 = カ 顔 顔が広い(知り合いが多い)、顔が立つ(面目が保たれる)。「腕が立つ」は成り立ちますが、「腕が広い」とは言いません。
1 エ 肝
2 イ 目
3 オ 耳
4 カ 顔
大問4 漢字(書き取り7問・読み3問)
大問4は、線部のカタカナを漢字に直す書き取り7問と、漢字の読みを答える3問で、各1点、計10点です。漢字は、字形が一画違うだけで×になります。書き取りは、とめ・はね・画数・送りがなまで見直しましょう。
問題1〜10 漢字の書き取りと読み各1点(全10問)
設問 次の1〜10の——線部のカタカナは漢字に直し、漢字は読みをひらがなで答えなさい。
答えの組み立て 書き取りは、①文の意味から、熟語を一つ決める。②熟語を、部首(へん・つくり)ごとに分けて書く。③できあがった字を、見慣れた別の熟語(「消費期限」など)に入れて、字形を確かめる。読みは、①熟語をいくつかに区切る。②それぞれの読みを組み合わせる。
- 1 牛乳のショウヒ期限の表示を確認する = 消費 「消」はさんずい、「費」は、「弗」に「貝」。消費期限は、日常でよく見る言葉です。
- 2 地震に備え、学校で避難クンレンが実施された = 訓練 「訓」はごんべん、「練」はいとへん。部首を取りちがえないようにします。
- 3 一本の木から彫り出された美しいブツゾウ = 仏像 「仏」は、にんべんに「ム」。「像」は、にんべんに「象」。
- 4 祖父はスマートフォンのソウサに苦戦している = 操作 「操」は、てへんに、「品」と「木」。つくりの部分を、「品」の下に「木」と覚えます。
- 5 目先のリエキにとらわれず、長い目で見ることが大切だ = 利益 「益」の下の部分は「皿」です。皿の字を、忘れずに書きます。
- 6 彼の失敗は、初心者にありがちなテンケイ的な間違いだ = 典型 「典」は「曲」と似ていますが、別の字です。下の部分の形に注意して、「辞典」「典型」のように見慣れた熟語に入れて、字形を確かめます。「型」は、「刑」に「土」。
- 7 サイワイなことに、落とした財布はすぐに見つかった = 幸い 送りがなの「い」まで書いて正解です。「幸」だけでは、誤りになります。
- 8 午後一時発の旅客機に乗り、故郷へ向かった = りょかくき 「旅客」+「機」と区切ります。「客機」と区切らないようにします。
- 9 山頂から見た景色の美しさは筆舌に尽くしがたい = ひつぜつ 筆舌は、文章と、話す言葉の意味。「舌」は「ぜつ」と読み、「ひつじた」ではありません。筆舌に尽くしがたいは、言葉ではとても言い表せない、という意味です。
- 10 二人が交わす言葉には、互いへの深い信頼が感じられた = か(わす) 線部は「交」の一字です。送りがなの「わす」は書かず、「か」とだけ答えます。
1 消費 / 2 訓練 / 3 仏像 / 4 操作 / 5 利益 / 6 典型 / 7 幸い
8 りょかくき / 9 ひつぜつ / 10 か
書き取りは、間違えた字を何度も書き写すだけでなく、「どの部分を間違えたのか」を一言でメモすると、身につきます。たとえば、「典の下の形」「益の皿」「幸いの送りがな」のように、間違えた場所を言葉にして残してください。
二つの文章が響き合うところ
大問1は、成道が、西田さんの励ましを一つずつ受け止めて、「絶対に看護師になります」と決意する物語です。西田さんが成道に贈ったのは、「男の看護師だから」という理由で拒絶される現実に負けないための、応援でした。そのとき西田さんが何度も言ったのは、「決まりはない」「性別は関係ない」という言葉です。ナースシューズは白が定番、車を買うのは男、売るのも男がいい。そう思い込んでいた西田さん自身が、決まりだと思っていたものが、実は決まりではなかったことに気づいた人でした。
大問2は、「進化」という事実の理論と、「進歩」という願いや価値判断を、混同しないことを説いた文章です。筆者は、「〜である」から「〜するべき」は導かれない、と言います。「ナースシューズは白が定番である」から「白を履くべき」とは言えない。「車を買うのは男」だから「売るのも男がいい」とも言えない。当研究所は、二つの文章に、この共通点を見ました。ただし、本文の「自然主義の誤謬」は、自然科学の説明から価値判断を導いてしまう誤りの話です。物語の西田さんの話とは、厳密には同じではなく、ここは当研究所のたとえとして読んでください。
どちらの文章も、「今こうなっている」ことと、「こうあるべきだ」ということを、分けて考える力を求めています。この回は、成道が、現実から目をそらさずに、それでも自分の道を選ぶ場面と、筆者が、事実と価値観を分けて考えるよう呼びかける場面で、読み手に同じ問いを向けています。合不合の帰り道に、自分が「決まりだ」と思い込んでいることを、ひとつだけ思い出してみてください。
この回から持ち帰るべき3つのこと
- 記述は、気持ち・結論の「一言」を決めて、答えの最後に置く 大問1の問六は、「悔やんでいる」を文末に置き、前に「西田さんが自分のために転床を遅らせてくれた思いやりを知っておどろき」を並べました。大問2の問八は、「世界観を持ち込まなかった点」を文末に置き、前に「証拠と論理の積み重ねで理論を構築し」を並べました。材料を三つ並べて一文にまとめるのではなく、先に一言を決めてから前を作る練習をしてください。穴埋め形式の問六は、空らんの後ろの文とつながる形で終えることも忘れずに。
- 論説文は、傍線部の直前・直後を先に読み、意味段落ごとに「問い→答え」を一行でまとめる 大問2の問七・問八・問五は、傍線部の直前の一〜二文が、答えの中心でした。まず直前・直後を読み、それから離れた根拠で確かめる習慣をつけましょう。意味段落ごとに、「問い」と「答え」を一行ずつメモしておくと、問九のような内容の正誤も、すばやく判断できます。
- 記号選択は、本文と一か所だけ違う選択肢を、根拠の行で消す 大問1の問一(理由や男子学生の説明が少しずつ違う)、問七(ア・イ・エは、一か所だけ状況が違う)、大問2の問四(イ・ウ・エ)は、前半がもっともらしく、後半や一語だけが本文とずれていました。「なんとなく合っている」で選ばず、本文の行番号を言いながら、「ここが違う」と言えるまで消していきます。
知識問題(大問3・大問4)は、1問1〜2点ですが、合計26点(大問3が16点、大問4が10点)で、大問1の問六と大問2の問八を合わせた記述24点を上回ります。故事成語は、意味と短い用例をセットで、慣用句は、二つの言葉を両方に入れて、漢字は、間違えた場所を言葉にして、覚えておきましょう。
