2026年度 駒場東邦中 国語入試問題解説
国語 徹底解説
文章の概要
母親の「私」(明日香)と高校生の娘・来海(くうちゃん)の物語。亡くなった夫とペットのミニブタ・メルへの喪失感を抱える母が、お盆の行事を通じて来海の成長に気づき、「たとえ隣にいなくても、愛している気持ちは変わらない」という受容へ至る物語です。
2026年度の駒場東邦中は、大問一本の構成で、荒木あかねの小説『天使の足跡』からの出題でした。問1の漢字(15問)に加え、問2〜問13の読解問題が出題されています。本記事では読解問題を中心に解説します。
この物語は「喪失と受容」がテーマです。夫・ペット(メル)を亡くした母親が、娘の成長をきっかけに悲しみを乗り越えていく心情の変化を丁寧に追いましょう。「期間限定のアイス」というモチーフが、物語全体を貫く比喩として機能しています。
登場人物
人物相関図
喪失感を抱える母
成長し距離を保つ
家族の同居人
場面の変化
冷凍庫の期間限定アイスを見て微笑む「私」。来海の嗜好から物語が始まる。「私よりも長生きする話し相手がほしかっただけかもしれない」という問いがふと浮かぶ。
来海のおでこに二つの楕円形のへこみが見つかる。原因は不明で、来海は探偵のように真剣に考察する。このへこみが後半で重要な意味を持つ。
カレーを作る場面。来海は豚肉を食べなくなっている(メルがミニブタだから)。お盆の法要に向けた準備が進む。夫の三回忌。
来海が幼い頃の呼び名の変化(「お母さん」→「ママ」→「明日香ちゃん」)。メルの散歩を来海と夫が担当していた日々。引っ張られるメルとの散歩が重くなっていく描写。
大学病院に突然呼び出され、膜下出血で倒れた夫。住宅ローンを残して亡くなった。「裏切られた」「取り残された」という強い喪失感。
去年の秋、メルが11歳で死亡。火葬場で骨を拾い、来海はメルの骨をベビーピンクのマニキュアでコーティングした。
精霊馬(きゅうりの馬、ナスの牛)を作り、迎え火を焚く。来海は仏間で歌ったり踊ったりする陽気な様子。メルの霊体(ピンクの骨)が帰ってきたことが暗示される。
来海が保護犬カフェで年老いたビーグルを飼いたいと申し出る。「すぐ死んじゃう動物を飼ってもいいの?」という母の問いに、来海は「好きになっても…あたしはメルの骨までかわいいって知ってるもん」と答える。
来海のおでこのへこみはメルの蹄のあとだった。お盆に帰ってきたメルの霊体が、寝ている来海のおでこに蹄を置いていた。「たとえ隣にいなくても、私は確かにあなたを愛している」という受容に至る。
心情変化表 ─「私」(母親)の心の動き
この物語は「±混在」の心情が多く問われています。来海の成長を嬉しく思いながらも寂しさを感じる母、愛する存在を失う悲しみと愛し続ける決意の両立。こうした複雑な心情こそ、駒場東邦の記述問題で正確に書き分ける力が試されます。
比喩表現・象徴表現
物語の冒頭と終盤を結ぶ重要な比喩です。来海が好む「期間限定のアイス」は、やがて販売が終わる=いつか別れが来る存在を象徴しています。年老いた保護犬もまた「期間限定のアイス」と同じく、好きになっても短い期間で関係が終わってしまう存在です(問11)。しかし来海は、それでも愛したいと宣言します。
来海のおでこに残った二つの楕円形のへこみは、お盆に帰ってきたメルの霊体の蹄のあとです。肉体は失われても、愛した存在の「足跡」は確かに残る。タイトル『天使の足跡』ともつながる象徴的な描写です。
来海がメルの骨をベビーピンクのマニキュアでコーティングした場面は、来海にとって骨は単なる死体の一部ではなく、愛するメルそのものであることを示しています。結末の「ピンクの骨になったとしても」は、この行為が伏線になっています。
設問解説(問2〜問13)
問1(漢字の書き取り15問)は省略し、読解問題を解説します。
A=オ(取り消された):「反故にする」は約束や決まりを無効にすること。夫の約束が一方的に破られたことを指します。
B=ウ(一生懸命に):「甲斐甲斐しく」は一生懸命に世話を焼くさま。メルの世話をする来海の姿を表しています。
C=イ(納得がいかず、不思議に思う顔):「怪訝」は不審に思うこと。来海がおでこの痕跡について不思議がっている表情です。
期間限定のものを好きになっただけ手に入らなくなった時に残念な思いが強くなるから。
「私」は定番の味を好む保守的な性格です。期間限定のものに愛着を持つと、販売終了時の喪失感が大きくなるから「損」だと感じるのです。この考え方は、夫やメルを失った「私」の心情とも重なっています。
自分はどうして来海を産んだのだろうか〔という問い。〕
直前に「私は、私よりも長生きする話し相手がほしかっただけかもしれない」とあり、これが「答え」にあたります。「答え」の前に「問い」があるはず、と考えて本文をさかのぼると、来海を産んだ理由について自問している箇所が見つかります。
来海が自分の前で芝居をしたり気をつかって他人行儀な態度を取ったりするのは、来海が成長して、親子としての適切な距離を保とうとするようになったことだと思うから。
「いい傾向」の内容を具体的に書き出す必要があります。来海の行動(芝居をする・他人行儀な態度)→ 「私」の解釈(成長の証=適切な距離を保つようになった)という構造で書きましょう。
引っ張られ
散歩の場面で、メルが引っ張る側で夫や来海が引っ張られる側だったことが書かれています。メルの方が主導権を持っているから、「メルがお父さんを連れてくる」という表現になるのです。線部④より前から探すという条件に注意しましょう。
ア「来海の手の変化をまのあたりにして、夫の死後一人で来海を育てた大変さがよみがえり、この先も他人に頼ることなく来海を養わなければならないことに不安を感じたから。」
→ 「私」が涙するのは来海の成長に感動したからであり、「この先も他人に頼れない不安」が直接の原因ではありません。他の選択肢(イ〜オ)はいずれも来海の成長や夫との思い出、喪失感に関連する理由として本文と整合します。
来海はメルの骨をメルの存在そのものとして大切にしているのに対し、「私」は骨はメルのものとはいえ死体の所詮骨であり、メルの代わりにはならないと考えている、という違いです。来海がマニキュアでコーティングまでした行為と、「私」の冷静な認識の対比が問われています。
来海と異なり、亡くなった夫やメル、また彼らの思い出と素直に向き合うことができない「私」は、来海にそのことを悟られないようにしようと調子を合わせている、という読み取りです。
メルは人間の手助けなしで生きられないという点でペットではあるが、飼いやすいという評価とは異なる困った行動にも意味があり、それも含めてかわいいと思えたから飼いやすいという評判通りではない飼いづらい側面もあるのだという趣旨です。
好きになってもそのかかわりは短期間で終わってしまう点。
「期間限定のアイス」の特徴を物語冒頭から確認しましょう。期間限定のアイスは販売が終われば手に入らなくなる。年老いた保護犬も、寿命が近いのでかかわりは短期間で終わる。この共通点を30字以内でまとめます。
愛する夫やメルに先立たれ、取り残された悲しさを抱いていたが、自分より早く死んでしまう存在でも愛して関わりたいと言い切った来海に成長を感じ、たとえ隣にいなくても、亡くなっても自分が来海を愛しているという気持ちは変わらずに残るのだと思えるようになったから。
物語全体のテーマを踏まえた総合的な記述問題です。以下の3要素を盛り込みましょう。
(1)「私」のこれまでの心情=夫・メルに先立たれた悲しさ・取り残された感覚
(2)来海の言動による変化=早く死んでしまう存在でも愛したいという来海の成長
(3)「私」がたどり着いた結論=隣にいなくても愛は残る、という受容
Qさんは「来海はメルのことも家族の一員だと思っているのだが、お盆になって家族や先祖の霊を迎えるという行事だから、メルを亡くした悲しみやメルへの愛情をあらためて感じることができた」、Rさんは「来海はできあがった精霊馬を手に、怪しげなサイドステップを踏みながら仏間へ向かった」と述べています。これらは本文の内容と照らし合わせると、解釈として適切でないと判断されます。
重要語句・表現
この物語の主題
夫とメルという二つの「死」を経験した母親が、娘・来海の成長に触れることで、「たとえ隣にいなくても、ピンクの骨になったとしても、宇宙の藻屑と消えてしまったとしても、私は確かにあなたを愛している」という境地に至る物語です。「期間限定のアイス」=限りある関わりであっても、愛する気持ちそのものは永遠に残る。来海がそのことを母に教えてくれました。
出典書籍
まとめ
2026年度の駒場東邦中は、「喪失と受容」という深いテーマの物語文が出題されました。問12の長文記述(110〜130字)のように、物語全体の流れを踏まえて心情の変化を書き分ける力が求められています。
特に重要なのは「期間限定のアイス」のモチーフです。冒頭の何気ない日常の描写が、終盤の来海の決意とつながる構造を理解できるかがポイントでした。
愛する存在を失っても、愛した気持ちは消えない。来海の「あたしはメルの骨までかわいいって知ってるもん」という力強い言葉が、この物語のすべてを物語っています。お盆に帰ってきたメルの蹄のあとが、「天使の足跡」としてそっと残されていた ─ そんな温かな余韻を、ぜひ味わってください。
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