2026年度 駒場東邦中 国語入試問題解説

【2026年度】駒場東邦中学校 国語 徹底解説|荒木あかね『天使の足跡』
駒場東邦中学校
2026年度(令和八年度)入試

国語 徹底解説

荒木あかね『天使の足跡』|60分・120点満点

文章の概要

出典:荒木あかね『天使の足跡』

母親の「私」(明日香)と高校生の娘・来海(くうちゃん)の物語。亡くなった夫とペットのミニブタ・メルへの喪失感を抱える母が、お盆の行事を通じて来海の成長に気づき、「たとえ隣にいなくても、愛している気持ちは変わらない」という受容へ至る物語です。

2026年度の駒場東邦中は、大問一本の構成で、荒木あかねの小説『天使の足跡』からの出題でした。問1の漢字(15問)に加え、問2〜問13の読解問題が出題されています。本記事では読解問題を中心に解説します。

読解のカギ

この物語は「喪失と受容」がテーマです。夫・ペット(メル)を亡くした母親が、娘の成長をきっかけに悲しみを乗り越えていく心情の変化を丁寧に追いましょう。「期間限定のアイス」というモチーフが、物語全体を貫く比喩として機能しています。

登場人物

私(明日香)
語り手・母親
看護師。大学の附属病院勤務。夫を脳の病気で亡くし、ペットのメルにも先立たれて「取り残された悲しさ」を抱えている。定番の味を好む保守的な性格。
来海(くうちゃん)
娘・高校生
期間限定のアイスが好きな新しいもの好き。中学でソフトテニス、高校で強豪ハンドボール部。成長し、母に対して適切な距離を取るようになっている。
夫(お父さん)
故人
脳の血管の病気(膜下出血)で急逝。来海のことを「明日香ちゃん」と呼ぶこともあった。メルの散歩を来海と一緒に担当していた。
メル
ミニブタ(ペット)・故
来海が小学5年生のときから飼っていた。11歳で去年の秋に死亡(平均寿命15年)。散歩が大好きで、家族の大切な同居人。

人物相関図

駒場東邦 2026年 人物相関図 ─ 荒木あかね『天使の足跡』
私(明日香)
看護師・語り手
喪失感を抱える母
来海(くうちゃん)
高校生の娘
成長し距離を保つ
夫(お父さん)
故人・膜下出血で急逝
メル
ミニブタ・11歳で死亡
家族の同居人
テーマ:喪失と受容 ─ 愛する存在がいなくなっても愛は残る

場面の変化

場面① 現在・自宅キッチン(お盆の時期)

冷凍庫の期間限定アイスを見て微笑む「私」。来海の嗜好から物語が始まる。「私よりも長生きする話し相手がほしかっただけかもしれない」という問いがふと浮かぶ。

場面② 現在・朝のリビング

来海のおでこに二つの楕円形のへこみが見つかる。原因は不明で、来海は探偵のように真剣に考察する。このへこみが後半で重要な意味を持つ。

場面③ 現在・食事とお盆の準備

カレーを作る場面。来海は豚肉を食べなくなっている(メルがミニブタだから)。お盆の法要に向けた準備が進む。夫の三回忌。

〈回想〉来海の幼少期〜メルとの散歩

来海が幼い頃の呼び名の変化(「お母さん」→「ママ」→「明日香ちゃん」)。メルの散歩を来海と夫が担当していた日々。引っ張られるメルとの散歩が重くなっていく描写。

〈回想〉夫の急逝

大学病院に突然呼び出され、膜下出血で倒れた夫。住宅ローンを残して亡くなった。「裏切られた」「取り残された」という強い喪失感。

〈回想〉メルの死と火葬

去年の秋、メルが11歳で死亡。火葬場で骨を拾い、来海はメルの骨をベビーピンクのマニキュアでコーティングした。

場面④ 現在・お盆の行事

精霊馬(きゅうりの馬、ナスの牛)を作り、迎え火を焚く。来海は仏間で歌ったり踊ったりする陽気な様子。メルの霊体(ピンクの骨)が帰ってきたことが暗示される。

場面⑤ 現在・来海の「相談」

来海が保護犬カフェで年老いたビーグルを飼いたいと申し出る。「すぐ死んじゃう動物を飼ってもいいの?」という母の問いに、来海は「好きになっても…あたしはメルの骨までかわいいって知ってるもん」と答える。

場面⑥ 結末・おでこの痕跡の真相

来海のおでこのへこみはメルの蹄のあとだった。お盆に帰ってきたメルの霊体が、寝ている来海のおでこに蹄を置いていた。「たとえ隣にいなくても、私は確かにあなたを愛している」という受容に至る。

心情変化表 ─「私」(母親)の心の動き

駒場東邦 2026年 心情変化表 ─ 荒木あかね『天使の足跡』
場面
出来事・きっかけ
±
心情表現
対応設問
冒頭
来海の期間限定アイスを見る
口の端から笑いがもれた → 微笑ましさ
問3
問いの浮上
「長生きする話し相手がほしかっただけかも」
±
答えがぱっと浮かんだ → 自己への問いかけ・複雑な気づき
問4
来海の態度
芝居をしたり他人行儀な態度をとったりする来海
±
いい傾向だと思う → 成長の喜びと寂しさの混在
問5
〈回想〉夫の死
膜下出血での急逝。ローンを残して逝く
裏切られた、取り残された、泣きたくなる → 深い喪失感
問7・問9
メルの死
メルが11歳で死亡、火葬
一年越しに同居人の死を悲しんでいた → 寂しさ
問8・問10
お盆・来海の涙
来海の手が大人っぽく変わっている
±
ふいにのどの奥が熱くなって涙がこみあげてくる → 成長への感動と切なさ
問7
保護犬の相談
来海が年老いた保護犬を飼いたいと申し出る
±
すぐ死んじゃう動物を飼ってもいいの? → 心配と驚き
問11
結末
来海の「メルの骨までかわいい」発言。メルの蹄のあと
たとえ隣にいなくても愛している → 受容・希望
問12
+プラス心情 -マイナス心情 ±混在(特に重要)
入試頻出ポイント

この物語は「±混在」の心情が多く問われています。来海の成長を嬉しく思いながらも寂しさを感じる母、愛する存在を失う悲しみと愛し続ける決意の両立。こうした複雑な心情こそ、駒場東邦の記述問題で正確に書き分ける力が試されます。

比喩表現・象徴表現

「期間限定のアイス」= 限られた時間しか一緒にいられない存在

物語の冒頭と終盤を結ぶ重要な比喩です。来海が好む「期間限定のアイス」は、やがて販売が終わる=いつか別れが来る存在を象徴しています。年老いた保護犬もまた「期間限定のアイス」と同じく、好きになっても短い期間で関係が終わってしまう存在です(問11)。しかし来海は、それでも愛したいと宣言します。

「メルの蹄のあと」= 愛する存在が残す痕跡

来海のおでこに残った二つの楕円形のへこみは、お盆に帰ってきたメルの霊体の蹄のあとです。肉体は失われても、愛した存在の「足跡」は確かに残る。タイトル『天使の足跡』ともつながる象徴的な描写です。

「ピンクの骨」= 死んでも変わらない愛情

来海がメルの骨をベビーピンクのマニキュアでコーティングした場面は、来海にとって骨は単なる死体の一部ではなく、愛するメルそのものであることを示しています。結末の「ピンクの骨になったとしても」は、この行為が伏線になっています。

設問解説(問2〜問13)

問1(漢字の書き取り15問)は省略し、読解問題を解説します。

問2語句の意味
線部A「反故にされた」、B「甲斐甲斐しく」、C「怪訝な顔」の意味として最も適切なものを選ぶ問題。
解答

A=オ(取り消された):「反故にする」は約束や決まりを無効にすること。夫の約束が一方的に破られたことを指します。

B=ウ(一生懸命に):「甲斐甲斐しく」は一生懸命に世話を焼くさま。メルの世話をする来海の姿を表しています。

C=イ(納得がいかず、不思議に思う顔):「怪訝」は不審に思うこと。来海がおでこの痕跡について不思議がっている表情です。

問3理由説明・40字以内
線部①「損した気分になる」のはなぜか。
解答

期間限定のものを好きになっただけ手に入らなくなった時に残念な思いが強くなるから。

解き方のポイント

「私」は定番の味を好む保守的な性格です。期間限定のものに愛着を持つと、販売終了時の喪失感が大きくなるから「損」だと感じるのです。この考え方は、夫やメルを失った「私」の心情とも重なっています。

問4内容把握・20字以内
線部②「ここ最近ずっと頭の片隅に居座り続けていたひとつの問い」とはどのような問いか。「〜という問い」に続く形で答える。
解答

自分はどうして来海を産んだのだろうか〔という問い。〕

解き方のポイント

直前に「私は、私よりも長生きする話し相手がほしかっただけかもしれない」とあり、これが「答え」にあたります。「答え」の前に「問い」があるはず、と考えて本文をさかのぼると、来海を産んだ理由について自問している箇所が見つかります。

問5理由説明・80字以内
線部③「いい傾向だと思う」について、「私」がそのように考える理由を80字以内で答える。
解答

来海が自分の前で芝居をしたり気をつかって他人行儀な態度を取ったりするのは、来海が成長して、親子としての適切な距離を保とうとするようになったことだと思うから。

解き方のポイント

「いい傾向」の内容を具体的に書き出す必要があります。来海の行動(芝居をする・他人行儀な態度)→ 「私」の解釈(成長の証=適切な距離を保つようになった)という構造で書きましょう。

問6抜き出し・5字
線部④「メル、ちゃんとお父さん連れてきてくれるかな」で、来海が「メルがお父さんを連れてくる」と言っている理由がわかる一文の最初の5字を答える。
解答

引っ張られ

解き方のポイント

散歩の場面で、メルが引っ張る側で夫や来海が引っ張られる側だったことが書かれています。メルの方が主導権を持っているから、「メルがお父さんを連れてくる」という表現になるのです。線部④より前から探すという条件に注意しましょう。

問7選択肢・誤りを選ぶ
線部⑤「ふいにのどの奥が熱くなって、涙がこみあげてくる」の理由として誤っているものを選ぶ。
解答 ア

ア「来海の手の変化をまのあたりにして、夫の死後一人で来海を育てた大変さがよみがえり、この先も他人に頼ることなく来海を養わなければならないことに不安を感じたから。」

→ 「私」が涙するのは来海の成長に感動したからであり、「この先も他人に頼れない不安」が直接の原因ではありません。他の選択肢(イ〜オ)はいずれも来海の成長や夫との思い出、喪失感に関連する理由として本文と整合します。

問8選択肢
線部⑥「メルの骨だ」について、「メルの骨」についての来海と「私」の考え方の違いを説明したものとして最も適切なものを選ぶ。
解答 オ

来海はメルの骨をメルの存在そのものとして大切にしているのに対し、「私」は骨はメルのものとはいえ死体の所詮骨であり、メルの代わりにはならないと考えている、という違いです。来海がマニキュアでコーティングまでした行為と、「私」の冷静な認識の対比が問われています。

問9選択肢
線部⑦「私は置いて行かれないように、必死で笑顔を作る」から読み取れることとして最も適切なもの。
解答 エ

来海と異なり、亡くなった夫やメル、また彼らの思い出と素直に向き合うことができない「私」は、来海にそのことを悟られないようにしようと調子を合わせている、という読み取りです。

問10選択肢
線部⑧「でもお母さんはメルのこと、同居人でもあると思ってたよ」の説明として最も適切なもの。
解答 ウ

メルは人間の手助けなしで生きられないという点でペットではあるが、飼いやすいという評価とは異なる困った行動にも意味があり、それも含めてかわいいと思えたから飼いやすいという評判通りではない飼いづらい側面もあるのだという趣旨です。

問11記述・30字以内
線部⑨「その子(年老いた保護犬)は期間限定のアイスだ」とありますが、どのような点が同じだと言えるのか。
解答

好きになってもそのかかわりは短期間で終わってしまう点。

解き方のポイント

「期間限定のアイス」の特徴を物語冒頭から確認しましょう。期間限定のアイスは販売が終われば手に入らなくなる。年老いた保護犬も、寿命が近いのでかかわりは短期間で終わる。この共通点を30字以内でまとめます。

問12記述・110〜130字
線部⑩「それならそれで、別にかまわない」について、本文全体をふまえて110字以上130字以内で答える。
解答

愛する夫やメルに先立たれ、取り残された悲しさを抱いていたが、自分より早く死んでしまう存在でも愛して関わりたいと言い切った来海に成長を感じ、たとえ隣にいなくても、亡くなっても自分が来海を愛しているという気持ちは変わらずに残るのだと思えるようになったから。

最重要問題

物語全体のテーマを踏まえた総合的な記述問題です。以下の3要素を盛り込みましょう。

(1)「私」のこれまでの心情=夫・メルに先立たれた悲しさ・取り残された感覚

(2)来海の言動による変化=早く死んでしまう存在でも愛したいという来海の成長

(3)「私」がたどり着いた結論=隣にいなくても愛は残る、という受容

問13話し合い問題
Pさんのノートと生徒たちの話し合いについて、本文の内容に対する解釈として適切でないものを選ぶ。
解答 Qさん・Rさん

Qさんは「来海はメルのことも家族の一員だと思っているのだが、お盆になって家族や先祖の霊を迎えるという行事だから、メルを亡くした悲しみやメルへの愛情をあらためて感じることができた」、Rさんは「来海はできあがった精霊馬を手に、怪しげなサイドステップを踏みながら仏間へ向かった」と述べています。これらは本文の内容と照らし合わせると、解釈として適切でないと判断されます。

重要語句・表現

反故にする 約束や取り決めを無効にすること。もとは書き損じた紙を意味する。
甲斐甲斐しく 手際よく一生懸命に世話をするさま。
怪訝(けげん) 不審に思うこと、腑に落ちないこと。
精霊馬(しょうりょううま) お盆にきゅうりやナスで作る飾り。先祖の霊の乗り物。きゅうりは馬(早く帰れるように)、ナスは牛(ゆっくり戻れるように)。
迎え火・送り火 お盆に先祖の霊を迎えるため、また送り出すために焚く火。
伴侶動物(コンパニオンアニマル) 人間と共に暮らすペットのこと。単なる飼育対象ではなく、家族の仲間としての動物。
初盆(はつぼん) 人が亡くなって初めて迎えるお盆。特に丁寧に供養を行う。

この物語の主題

喪失と受容 ─「愛する存在がいなくなっても、愛した気持ちは消えない」

夫とメルという二つの「死」を経験した母親が、娘・来海の成長に触れることで、「たとえ隣にいなくても、ピンクの骨になったとしても、宇宙の藻屑と消えてしまったとしても、私は確かにあなたを愛している」という境地に至る物語です。「期間限定のアイス」=限りある関わりであっても、愛する気持ちそのものは永遠に残る。来海がそのことを母に教えてくれました。

出典書籍

荒木あかね『天使の足跡』

この入試で出題された作品です。全文を読むことで、省略された部分の理解も深まります。

まとめ

2026年度の駒場東邦中は、「喪失と受容」という深いテーマの物語文が出題されました。問12の長文記述(110〜130字)のように、物語全体の流れを踏まえて心情の変化を書き分ける力が求められています。

特に重要なのは「期間限定のアイス」のモチーフです。冒頭の何気ない日常の描写が、終盤の来海の決意とつながる構造を理解できるかがポイントでした。

愛する存在を失っても、愛した気持ちは消えない。来海の「あたしはメルの骨までかわいいって知ってるもん」という力強い言葉が、この物語のすべてを物語っています。お盆に帰ってきたメルの蹄のあとが、「天使の足跡」としてそっと残されていた ─ そんな温かな余韻を、ぜひ味わってください。

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