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2026.2.1実施 鷗友学園女子中 第1回 国語 徹底解説

2026年2月1日(日)に実施された鷗友学園女子中学校 第1回入学試験の国語(45分・100点)を、全問解説します。大問は三つです。大問一は村崎なぎこさんの小説『オリオンは静かに詠う』(小学館)、大問二は伊藤亜紗さんと村瀬孝生さんの『ぼけと利他』(ミシマ社)から、二人が交わした手紙の一部、大問三は漢字の書き取りです。設問は大問一が問一〜問四の四問、大問二が問一・問二の二問、大問三が(1)〜(5)の五問で、記述6問と漢字5問からなります。記号選択の問題はありません。この記事では、登場人物の関係とカナの心の動き、オオカミと人間の共生の話を図解と図解動画で整理してから、一問ずつ、何を答える問いか、本文の根拠、解答に入れる要素、失点しやすい書き方を示します。記事中の解答は、学校発表の解答例です。

出題構成と講評

  • 大問は三つです。大問一は小説(村崎なぎこ『オリオンは静かに詠う』小学館・2025年刊)で60点、大問二は論説(伊藤亜紗・村瀬孝生『ぼけと利他』ミシマ社・2022年刊)で30点、大問三は漢字の書き取りで10点です。大問二の文章は、伊藤さんが村瀬さんに送った手紙の返信の一部です。
  • 配点 大問一は問一8点・問二16点・問三18点・問四18点。大問二は問一12点・問二18点。大問三は(1)〜(5)が各2点です。
  • 記述6問と漢字5問で、記号選択はありません。記述6問の配点を合わせると90点で、100点のうち九割を記述が占めます。一問あたりの配点も大きく、大問一の問三・問四と大問二の問二は、それぞれ18点です。
  • 字数の指定はありません。解答欄の大きさを見て、書く量を決めます。学校発表の解答例の長さは、いちばん短い大問一の問一が28字、長い大問一の問三と大問二の問二が110字台です。
  • 問われ方は三種類です。「どのようなことですか」「どのような状態ですか」(大問一の問一・問三、大問二の問一)、「なぜですか」(大問一の問二・問四)、そして手紙の例を使って説明する問題(大問二の問二)です。答えの文末も、「〜こと。」「〜という状態。」「〜から。」と書き分けます。
  • 2026年度は、理由や状況を自分の言葉で説明する力が中心に問われました。大問一の問三は「揺るぎなかった大地に亀裂が入って、見えない底に落ちていく」という比喩を、問四は「三つ星」に重ねたカナの気づきを、本文の出来事に結びつけて言いかえます。大問二の問二は、本文とは別に示された村瀬さんの手紙の例を使って、「ズレまくりながら調和している」を説明します。本文の言葉を抜き出してつなぐだけでは、答えになりません。
  • 理由を問う記述は、線部の直前だけでは足りません。大問一の問二と問四は、カナが小学1年生のころから積み重ねてきた我慢を、前の場面からつかんでおく必要があります。問一で答える「自分の役割」が、問二・問三・問四の土台になっています。理由を問う記述は、先に理由を一言で決め(気持ちや思いを含めます)、その一言を答えの最後に置くと、まとまりやすくなります(問二・問四で説明します)。
  • 大問一の小説は、問題用紙で8ページあります。45分で長い小説と論説を読み、記述6問を書きます。読みながら線部の前後や、気持ちが大きく動く場面に印をつけておくと、書く時間を確保しやすくなります。
この回のポイント
二つの文章は、「つながり」と「ケア」で響き合っています。大問一のカナは、耳の聴こえない両親を「守る」ために手話通訳を続けてきました。最後に、ため込んできた苦しさを打ち明け、両親に受け止められて、「つながることで得られる安らぎ」に気づきます。大問二の伊藤さんは、「ケアすることがケアされることでもある」と書き、思いがすれ違っていても一緒に動ける関係を、村瀬さんの言葉を借りて「ズレまくりながら調和している」と表します。カナと両親も、カナは「あたしが守らなきゃ」、両親は「頼まないと悪いのかな」と、思いがすれ違っていました。二つを並べて読むと、相手を思う気持ちと、その思いを伝え合うことの大切さが重なって見えます。

大問一 小説 村崎なぎこ『オリオンは静かに詠う』

文章の概要

主人公のカナは中学生で、物語は「あたし」という一人称で語られます。父と母は耳が聴こえず、理容店を営んでいます。カナは小学1年生のころから両親の手話通訳をしてきました。保険や新聞の勧誘、市役所の人の説明、お客さんのクレーム、家にかかってくる電話、学校の先生と親との面談まで通訳し、「あたしが守るんだ」と心に決めていました。きつい内容を和らげて伝えるたびに心が削られ、その削りかすは「澱」のように心の底にたまっていきます。その澱を溶かしてくれたのが、母の双子の姉で、カナが「ママン」と呼ぶ伯母でした。

文章の前半は、小学5年生の夏の回想です。一学期の終業式の日、カナは友だちにゲームに誘われますが、母の保険の解約についていくために断ります。庭で自由に飛ぶ蝶を見て、自分は役割から逃れられないと感じたカナは、サイダーの蓋を力をこめて開けます。その「しゅぱっ」という音に、心にたまった澱が連れ去られるように感じました。それ以来、炭酸飲料はカナの癒しになります。中学生になっても、カナの使命感は変わりません。両親のいる聴こえない世界と、外の聴こえる世界をつなぐのが自分の役割だと考えています。

後半は中学生になってからの場面です。【中略】の部分には、カナが若草ろう学校との交流会で気まずい思いをし、ママンのカフェ「アライン」に愚痴を聴いてもらいに行ったこと、ところがお気に入りの席に若草ろう学校の生徒・木花さんが座っていたのが気に入らず、〈ママンのバカ!もう来ない!〉と伝えて帰ったことが説明されています。週明け、もう一度アラインに行くと、ママンが木花さんに手話で競技かるたを教えていました。〈カナは、やりたくないって言ったでしょ〉と言われたカナは、店を飛び出し、泣きながら家に帰ります。部屋に来た母に、カナは初めて〈やりたいことがあるんだよ!あたしだって〉と、ずっとこらえてきた気持ちをぶつけます。母はカナに謝り、ありがとうと伝えます。やがて父も来て、カナの右に父、左に母が座ります。カナは、自分たち三人は「三つ星」なのだと感じます。

登場人物

主な登場人物は、カナと両親、ママン、木花さんの五人です。手話での会話は〈 〉で書かれています。カナと両親の会話、ママンと木花さんの会話の多くが〈 〉なので、だれとだれが手話で話しているのかを意識して読むと、場面がつかみやすくなります。

図1 2026年度 鷗友学園女子中学校 第1回 大問一 人物相関図
カナ
主人公(語り手「あたし」)・中学生
小学1年生のころから両親の手話通訳をしてきた
母
耳が聴こえない
父と理容店を営む
父
耳が聴こえない
ママンと張り合うくらいの巨体
ママン(中田陽子)
母の双子の姉(カナの伯母)
カフェ「アライン」のオーナー
木花さん
若草ろう学校の生徒
本を読む姿は平安時代のお姫様のよう
カナ→父・母手話通訳をして、二人を守る。「あたしが守るんだ」
父・母→カナ進んで通訳してくれるので、「頼まないと悪いのかな」と思っていた
ママン→カナ「カナは、アタシの一番の宝物だよ」。澱を溶かしてくれる太陽のような存在
ママン→木花さんカフェで、手話で競技かるたを教える
カナ→木花さんお気に入りの席に座っていて気に入らない。同情も憐憫もいらない
母=ママン双子の姉妹(ママンが姉)
図解動画① 大問一 登場人物の関係(約30秒・音声つき)

本文には「世界はふたつあるのだ」と書かれています。両親がいる聴こえない世界と、外の聴こえる世界です。そして「ふたつの世界をつなぐ役割が、あたし」と続きます。カナのように、聴覚障害の親を持つ、聴者の子どものことを「コーダ」(Children of Deaf Adults)と呼びます。カナはいつも、二つの世界の間に立って、両親を守る側にいます。

その守る側のカナを受け止めてくれるのが、ママンです。カナにとってママンは「澱を浄化してくれる太陽のような存在」で、会えばカナを抱きしめて「カナは、アタシの一番の宝物だよ」と言ってくれます。だからこそ、ママンが木花さんに競技かるたを教えている場面は、カナにとって大きな意味を持ちます。問三は、この場面の線部です。

場面の流れとカナの心の動き

カナの心の動きは、「たまっていく澱」と、それをどう扱うかの流れとして読むと、四つの設問がひと続きになります。初めは、ママンが澱を溶かしてくれていました。けれどもカナは、心のどこかで「自分で澱を処理できるようにならなくては」と思っています。小学5年生のカナは、炭酸飲料の蓋を開ける音を、自分なりの発散の方法にします(問二)。中学生になって、澱を受け止めてくれていたママンとの間に、亀裂が入ります(問三)。最後に、カナは澱を両親の前で吐き出し、受け止めてもらいます(問四)。

図2 2026年度 鷗友学園女子中学校 第1回 大問一 カナの心の動きと設問
1
小学1年生のころから、両親の手話通訳をする
勧誘、市役所、お客さんのクレーム、電話、面談まで通訳する。刺々しい内容は和らげて伝える
カナ - 言葉の刃で心が削られ、削りかすが澱のように沈殿していく。その澱を溶かしてくれるのはママン
対応する設問:問一・問二の土台
2
小学5年生・終業式の日 自由に飛ぶ蝶を見る
ゲームの誘いを断り、母の保険の解約についていく。母を待つあいだ、花壇の前を蝶が飛んでいく
カナ ± 「自分の役割から逃れられない」。義務感は活力だったが、苦しさも感じ始めていた(★特に重要:線部①の場面)
対応する設問:問一
3
サイダーの蓋を開ける「しゅぱっ」
心に溜まった澱を、宇宙まで連れ去ってくれる気がした
カナ ± 音の快感と、この気持ち良さは両親には分からないという罪悪感の間で揺れる。それからずっと、炭酸飲料が癒しに(★特に重要:線部②の場面)
対応する設問:問二
4
中学生 ふたつの世界をつなぐ/【中略】アラインでの出来事
使命感は変わらない。交流会で気まずい思いをしたあと、アラインの指定席に木花さんがいて気に入らない
カナ - 〈ママンのバカ!もう来ない!〉と伝えて帰る。週末には「姪よりお客さんを優先するのは当たり前」と冷静に思い返す
対応する設問:問三の前提
5
週明けのアライン ママンが木花さんに競技かるたを教えている
〈カナは、やりたくないって言ったでしょ〉〈やりたくないんじゃない、やれなかったんだよ!〉
カナ - 「揺るぎなかった大地に亀裂が入って、見えない底に落ちていく」。泣きながら家へ(★特に重要:線部③の場面)
対応する設問:問三
6
部屋に来た母に、初めて本心を伝える
〈やりたいことがあるんだよ!あたしだって〉。母は「ごめん」の手話をし、〈カナに甘えてた〉と謝る
カナ + 「言わなきゃ、気づいてもらえないんだ」と気づく。母の〈カナ、ありがとう〉
対応する設問:問四の根拠
7
父も来て、右に父、左に母
父が頭を撫で、母が背中を優しく叩く。「ふたりから、温かい何かが伝わってくる」
カナ + 「三つ星なんだな、あたしたち」。つながることで得られる安らぎに気づく(★特に重要:線部④の場面)
対応する設問:問四
図解動画② 大問一 カナの心の動き(約34秒・音声つき)

図2の★の場面が、四つの線部です。線部①②は小学5年生、線部③④は中学生の場面で、そのあいだには数年の時間があります。それでも、カナが「両親を守る」ために自分のやりたいことを我慢してきた、という一本の線でつながっています。問一で役割の中身をつかみ、問二でその我慢がたまっていく様子を、問三でママンに分かってもらえなかった絶望を、問四で両親に受け止めてもらえた安らぎを書きます。

問一 「自分の役割」とはどのようなことか(記述)8点

設問 線部①「自分の役割」とはどのようなことですか、答えなさい。

何を答える問いか カナが「逃れられない」と感じている「役割」の中身を答えます。「どのようなことですか」と聞かれているので、文末は「〜こと。」にします。だれのために、何をして、何を目指しているのか、の三つがそろえば、役割の中身になります。

本文の根拠 線部①は、小学5年生のカナが、花壇の前を自由に飛ぶ蝶を見て思う場面にあります。「あたしは自分の役割から逃れられない。その前に、逃れようとも思わなかった。」その少しあとに、「学校以外の時間は、両親のためのものだったから」と理由が書かれています。

では、「両親のため」に何をしていたのか。文章の冒頭にもどると、「小学一年生の時にはもう、両親の手話通訳をやっていたと思う」とあります。そして、両親が困らないように、聴こえないことで誤解されないように、「あたしが守るんだと、そう心に決めていた」。線部①のあとにも、「親を守らなければという義務感は、活力だった」とあります。

この日の出来事も同じです。母は〈カナ、通訳はしなくていいよ。筆談してくれるってさ〉と言いましたが、カナは、以前に筆談を面倒がる店員さんがいたことを思い出し、そんな相手だったら「お母さんが傷ついてしまう」と考えて、ゲームの誘いを断ってついていきます。カナにとって通訳をすることは、両親を守ることなのです。

解答に入れる要素
① だれのために 耳の聴こえない両親のために
② 何をするか 手話通訳をする
③ 何のために 二人(両親)を守る
学校発表の解答例(28字)耳の聴こえない両親のため、手話通訳をして二人を守ること。

失点しやすい書き方

  • 「両親の世話をすること」「家の手伝いをすること」 広すぎて、カナが実際にしていたことが伝わりません。中心は「手話通訳」です。
  • 「両親の手話通訳をすること」だけ ③の「守る」が抜けています。カナにとって通訳はただの作業ではなく、「あたしが守るんだ」と決めた両親を守るためのものです。
  • 「ふたつの世界をつなぐ役割」だけを書く これは中学生になったカナが気づいたこととして、線部①より後に出てくる言葉です。線部①は小学5年生の場面なので、その近くにある「通訳」「守る」で書くほうが確実です。「つなぐ」と書く場合も、手話通訳をして両親を守る、という中身を入れましょう。
  • 「自由に遊べないこと」「蝶のように飛べないこと」 これは、役割から逃れられないことで生まれる気持ちの話です。問われているのは、役割そのものの中身です。

問二 炭酸飲料が「あたしの癒しになってくれた」のはなぜか(記述)16点

設問 線部②「あたしの癒しになってくれた」とありますが、それはなぜですか、説明しなさい。

何を答える問いか 炭酸飲料がカナの癒しになった理由を答えます。文末は「〜から。」です。「癒し」は、疲れたり傷ついたりした心が楽になることです。ですから、カナの心を苦しめていたもの、炭酸飲料の何が、心をどう楽にしたのか、の三つを書く必要があります。線部②は「炭酸飲料は、それからずっとあたしの癒しになってくれた」という一文の一部です。「それからずっと」とあるので、サイダーを開けたこの日の出来事と、その後もくり返したことの両方が根拠になります。

答えの組み立て 理由を一言で決めて、最後に置く 「なぜ」の記述は、まず理由を一言で決めてから書き始めます。その一言には、気持ちや思いを含めます。この問いの一言は、「一瞬だけ解放されるような気持ちになったから」です。この一言を答えの最後に置き、その前に、カナがどんな状況にいたか、何がきっかけだったかを並べます。

本文の根拠 まず、カナの心を苦しめていたものです。問一で見たとおり、カナは学校以外の時間を両親のために使い、この日も友だちとの遊びを我慢しました。本文には「親を守らなければという義務感は、活力だった。だけど、自分が大きくなるにつれて、苦しさも感じ始めていた。」とあります。続く「小さいころ大好きだった服が、キツくなってるみたいに」というたとえも、好きでやってきた役割が、成長とともにだんだん苦しくなってきたことを表しています。

次に、炭酸飲料の何が心を楽にしたのか。カナは「蝶への羨望をぶつけるように」蓋を開けます。そして「なんて心地の良い音だろう」と感じ、「あたしの心に溜まった澱を、宇宙まで連れ去ってくれる気がした」と続きます。カナを癒したのは、味でも冷たさでもなく、蓋を開けたときの音です。

線部②のあとには、「親に言えない心のもやもやを感じた時や何か我慢をした時」に、蓋を開けて「発散するようになった」とあります。その間には、「あたしもみんなのように、自由に遊べたら」という心の声も書かれています。やりたいことを我慢するたびにたまる不満を、音で発散していたのです。冒頭でママンが溶かしてくれていた澱を、カナはここで、自分なりの方法で処理しようとしているとも読めます。

学校発表の解答例の「一瞬だけ」にも注目しましょう。音は「しゅぱっ」と一瞬で終わります。また本文は「連れ去ってくれる気がした」と書いていて、我慢の原因である役割そのものがなくなったわけではありません。不満がたまり続ける日々の中で、蓋を開けたその一瞬だけ、解放されたような気持ちになれる。だから、「それからずっと」くり返したのです。

解答に入れる要素
① 苦しめていたもの 自分のやりたいことを我慢し、両親のために時間を使うことへの不満が、たまり続けている
② 炭酸飲料の何が 蓋を開けたときの心地よい音
③ 理由の一言(答えの最後に置く) 一瞬だけ、解放されるような気持ちになれた(気持ちの言葉)
書く順番は、①→②→③です。
学校発表の解答例(87字)自分のやりたいことを我慢して、両親のために時間を使うことへの不満がたまり続ける日々の中で、炭酸飲料の蓋を開ける心地よい音を聞くと、一瞬だけ解放されるような気持ちになったから。

「両親には分からない」は理由に入れない 音の場面のすぐあとに、「でも、音が与えてくれる気持ち良さは、両親には分からないんだ」とあり、カナは「罪悪感と快感の間で揺れ動いて」います。両親が味わえない気持ちよさを、自分だけが味わっていることへの後ろめたさです。これは癒しの理由ではなく、癒しと同時に生まれた別の気持ちです。理由には、音で解放されることを書きます。

失点しやすい書き方

  • 「サイダーがおいしいから」「冷たくて気持ちいいから」「のどがうるおうから」 本文で癒しになっているのは音です。とても暑い日だったことは場面の様子で、理由ではありません。
  • 「しゅぱっという音が心地よいから」だけ ①がないと、何から解放されるのかが分かりません。「癒し」の説明には、心を苦しめていたものが必要です。
  • 「ストレスを発散できるから」だけ 何のストレスなのかを、本文の内容(やりたいことを我慢して、両親のために時間を使うこと)で具体的に書きます。
  • 「両親には聞こえない音だから」 これは罪悪感の側の話です。癒しの理由とは向きが逆になります。
  • 気持ちの言葉で終わらない 「蓋を開ける音を聞いたから」と出来事で終わると、なぜ癒しになったのかが答えになりません。最後は「解放されるような気持ちになったから」と、気持ちの一言で結びます。

問三 「揺るぎなかった大地に亀裂が入って、見えない底に落ちていく」とはどのようなことか(記述)18点

設問 線部③「揺るぎなかった大地に亀裂が入って、見えない底に落ちていく」とは、どのようなことですか、説明しなさい。

何を答える問いか 比喩の言いかえです。文末は「〜ということ。」にします。線部③は、「揺るぎなかった大地」、「亀裂が入って」、「見えない底に落ちていく」の三つに分けられます。それぞれが、本文のどの出来事や気持ちに当たるのかを考え、比喩を使わない言葉に置きかえます。

「揺るぎなかった大地」 ママンの愛情と理解 大地は、足もとで自分を支えている地面です。「揺るぎなかった」は、これまで一度も疑ったことがなかった、ということです。線部③の直前には、ママンの「可愛い姪っ子ちゃん、会いたかった」「カナは、アタシの一番の宝物だよ」という言葉が思い出され、「あんなに可愛がってくれたのに、大切にしてくれたのに。」と続きます。文章の冒頭で、ママンは「澱を浄化してくれる太陽のような存在」でした。両親には言えないもやもやを抱えるカナにとって、ママンの変わらない愛情と、いつも自分を分かってくれるという信頼は、自分を支える地面のようなものだったのです。

「亀裂が入って」 信じていたものが割れる出来事 週明けのアラインで、カナが話しかけようとしたら、ママンは「一直線に木花さんの方に行ってしまった」。そして、手話で競技かるたを教え始めます。カナは「ママンの世界へ誘っている、あたしじゃなく彼女を」と感じます。なぜ自分には教えてくれないのかと思うカナに、ママンは〈カナは、やりたくないって言ったでしょ〉と答えます。カナの本心は、〈やりたくないんじゃない、やれなかったんだよ!〉でした。問一で見たように、カナの学校以外の時間は両親のためのもので、習い事をしたいと言ったこともありませんでした。やりたくても、やれなかったのです。ママンは、その本当の気持ちを分かってくれなかった。これが「亀裂」です。

見落としやすいのは、カナが週末のあいだに、「姪よりお客さんを優先するのは当たり前」と冷静に思い返していたことです。ですから、亀裂の中心は、ただ後回しにされたことではありません。ママンが木花さんを優先したこと、そして自分の本当の気持ちを理解してくれなかったことです。

「見えない底に落ちていく」 激しい失望と絶望 地面が割れると、支えを失って落ちていきます。底が「見えない」のは、どこまで落ちるのか分からないほど深い、ということです。直後にカナは、「ママンがあたしより彼女を優先するなら、あたしの味方をしてくれないなら、もういい」と思い、店を飛び出します。信じていた人に裏切られたような激しい失望と、自分を分かってくれる人はだれもいないという絶望です。ママンは、両親に言えない気持ちを受け止めてくれる、かけがえのない存在でした。そのママンに分かってもらえないことは、カナにとって、だれにも分かってもらえないのと同じくらい重いことだったのです。

解答に入れる要素
① 「揺るぎなかった大地」 ママンの愛情は変わることがなく、いつも自分を理解してくれていると信じていた
② 「亀裂が入って」 ママンが木花さんを優先し、本当の気持ちを理解してくれなかった
③ 「見えない底に落ちていく」 裏切られたような激しい失望と、だれも自分を分かってくれない絶望を感じている
学校発表の解答例(111字)ママンの愛情は変わることがなく、いつも自分を理解してくれていると信じていたが、木花さんを優先し、本当の気持ちを理解してくれなかったことで、裏切られたような激しい失望と、誰も自分を分かってくれない絶望を感じているということ。

比喩の言いかえの型 解答例は、「〜と信じていたが、…したことで、~を感じているということ」という形です。比喩の三つの部分が、そのまま「信じていたもの」「起きたこと」「そのときの気持ち」の順に並んでいます。比喩を言いかえる問題では、このように比喩を部分に分けて、一つずつ本文の言葉に置きかえていくと、書きもれが防げます。

失点しやすい書き方

  • 「足もとがくずれるような気持ちになったということ」 比喩をちがう比喩に言いかえただけで、何が起きたのかが説明されていません。「大地」「亀裂」「底」がそれぞれ何に当たるのかを書きます。
  • ①を書かない 「信じていた」がないと、「揺るぎなかった大地」が割れる落差が出ません。「〜と信じていたが」の形で始めると、比喩の流れがそのまま答えになります。
  • 「ママンに怒っている」「木花さんがうらやましい」だけ 「見えない底に落ちていく」は、怒りよりも深い失望と絶望です。気持ちの言葉は、線部の重さに合うものを選びます。
  • 「競技かるたを教えてもらえなかったから悲しい」 出来事の表面だけです。〈やれなかったんだよ!〉という本心を分かってもらえなかったことまで書きます。
  • 相手を「両親」にしてしまう 線部③の場面でカナが向き合っている相手は、ママンです。

問四 「つながることで得られる安らぎもあるんだ」と気づいたのはなぜか(記述)18点

設問 線部④「連なることから逃れられない苦しさもあるけど、つながることで得られる安らぎもあるんだ」とありますが、「つながることで得られる安らぎもあるんだ」と気づいたのはなぜですか。カナの気持ちをふくめて説明しなさい。

何を答える問いか 線部④の後半、「つながることで得られる安らぎもあるんだ」と気づいた理由を答えます。文末は「〜から。」です。条件は「カナの気持ちをふくめて」なので、理由の中に、そのときカナが感じた気持ちの言葉を必ず入れます。

答えの組み立て 理由を一言で決めて、最後に置く 条件が「カナの気持ちをふくめて」なので、理由の一言は気持ちの言葉にします。ここでは、「自分も愛されているという幸福感に包まれたから」です。この一言を答えの最後に置き、その前に、カナが辛さを伝えたこと、両親がその思いを受け止めてくれたことという状況を並べます。

「三つ星」の意味 線部④の直前に「……三つ星なんだな、あたしたち」とあります。本文の注では、三つ星は「オリオン座の中心に並んだ三つの星」です。三つ星は、線部④より前にも一度出てきます。泣きながら部屋に戻ったカナが、母の気配を感じて顔を上げる場面の「三つ星は決して離れず並んだまま宙をめぐる。荷う運命から逃れられないなら、せめてその重みを分かってほしい。」という一文です。直前でカナは「あたしはコーダだ」と思っています。ここでの三つ星は、離れることのできない家族と、カナが背負ってきた役割の重さを表していると読めます。

そして最後の場面では、カナの右隣に父が座って頭を撫で、左隣の母が背中を優しく叩きます。カナを真ん中にして、三人が並んでいます。オリオン座の真ん中に並ぶ三つの星と同じ形です。カナは、その姿に自分たちを重ねて、「三つ星なんだな、あたしたち」と感じるのです。

「連なる」と「つながる」 線部④は、二つの言葉を使い分けています。「連なることから逃れられない苦しさ」は、家族として並んでいて離れられず、通訳の役割を背負い続ける苦しさです。これは問一から問三まで見てきた、カナの我慢です。一方の「つながることで得られる安らぎ」は、気持ちが通じ合うことで得られる安心です。「苦しさもあるけど」とあるので、苦しさが消えたわけではありません。苦しさはあっても、安らぎも「ある」と気づいたのです。「せめてその重みを分かってほしい」という願いが、ここで両親に届いたとも言えます。

本文の根拠 では、なぜ気づけたのか。線部④までの流れを追います。

  • いつもなら「何もないよ」の手話で終わらせるところを、カナは〈やりたいことがあるんだよ!あたしだって〉と、初めて自分の気持ちをぶつけます。本文には「腐り、毒と化していた澱を吐き出した」とあります。
  • カナは、両親のために自分の時間を捧げてきたこと、それでも辛いという気持ちが芽生えて大きくなっていったこと、両親が知ったら傷つくと思って自分を押さえ込んできたことを伝えます。
  • 母は「ごめん」の手話をして、〈お父さんもお母さんも、カナに甘えてた〉と謝ります。カナは「言わなきゃ、気づいてもらえないんだ」と気づきます。
  • 母はカナの手を握って何度も撫で、〈カナ、ありがとう〉と伝えます。競技かるたもやりたいと打ち明けたカナに、〈なんだ、もっと早く言ってよ〉と応えます。
  • ドアの陰にいた父も来て、父が頭を撫で、母が背中を叩きます。「ふたりから、温かい何かが伝わってくる。」

カナはずっと、両親を「守る」側にいました。ところがこの場面では、カナのほうが両親に受け止められ、包まれています。我慢してきた辛さを正直に伝えることができ、両親がその思いを受け止めてくれた。そのときカナは、自分も両親に愛されていると感じ、幸福感に包まれたのです。設問の「カナの気持ちをふくめて」は、この幸福感を書くことです。

問三とのつながりも見ておきましょう。問三でカナは、ママンに分かってもらえず、「見えない底に落ちていく」ような絶望を感じました。問四では、言葉にして伝えたことで、両親に分かってもらえました。分かってもらえない絶望から、分かってもらえた安らぎへ。この変化が、線部④の「つながることで得られる安らぎ」です。

解答に入れる要素
① これまでの辛さ 耳の聴こえない父母を支えるために、自分のしたいことを我慢してきた辛さ
② カナがしたこと その辛さを、正直に伝えることができた
③ 父母がしたこと 父母が、その思いを受け止めてくれた
④ カナの気持ち(理由の一言・答えの最後に置く) 自分も愛されているという幸福感に包まれた
書く順番は、①→②→③→④です。
学校発表の解答例(92字)耳の聴こえない父母を支えるために自分のしたいことを我慢してきた辛さを、正直に伝えることができ、また父母がその思いを受け止めてくれたことで、自分も愛されているという幸福感に包まれたから。

失点しやすい書き方

  • 「家族は三つ星のようにつながっているから」 比喩をくり返しただけで、理由になっていません。三つ星が何を表すのかを、本文の出来事で説明します。
  • カナの気持ちを書かない 設問の条件です。「愛されていると感じた」「幸福感に包まれた」など、気持ちの言葉を入れ、答えの最後に置いて結びます。
  • 「両親が謝ってくれたから」だけ カナが自分から伝えたこと(②)が抜けています。「言わなきゃ、気づいてもらえないんだ」が、この場面の大事な気づきです。伝えたことと、受け止めてもらえたことの両方を書きます。
  • 「競技かるたができるようになったから」「平日は自由に過ごせるようになったから」 話し合いで決まったことの一部です。安らぎの中心は、思いが通じ合ったことです。
  • 「苦しさがなくなったから」 線部④は「苦しさもあるけど」と言っています。苦しさは残ったままで、それでも安らぎもある、という気づきです。

語句メモ(大問一)

  • 澱(おり) 液体の底にしずんだかす。本文では、通訳で受けた傷や我慢が心の底にたまったものをたとえています。
  • 沈殿(ちんでん) 液体の中のものが底にしずんでたまること。
  • 浄化(じょうか) よごれを取りのぞいて、きれいにすること。ママンは「澱を浄化してくれる太陽のような存在」です。
  • 羨望(せんぼう) うらやましく思うこと。「蝶への羨望」は、自由に飛ぶ蝶をうらやむ気持ちです。
  • 意思疎通(いしそつう) 考えや気持ちを伝え合い、通じ合うこと。
  • コーダ 本文の説明では、「聴覚障害の親を持つ、聴者の子ども」。Children of Deaf Adults の頭文字からできた言葉です。
  • 看板娘(かんばんむすめ) 店の人気者になっている娘。常連さんは、カナが通訳したほうが喜ぶと書かれています。
  • 揶揄(やゆ) からかうこと。木花さんの目に「揶揄はない」とあります。
  • 憐憫(れんびん) かわいそうに思うこと。あわれみ。
  • 衝立(ついたて) 部屋の中を仕切るために立てる家具。カナは衝立の隙間から、ママンと木花さんの会話を見ます。
  • 荷う(になう) 背負うこと。役目や責任を引き受けること。「荷う運命から逃れられないなら」。
  • 競技かるた 百人一首の札を取る速さを競うかるた。ママンの〈む、から始まる歌は一首しかない〉は、最初の一音を聞いただけで取る札が決まる、という話です。

大問二 論説(手紙) 伊藤亜紗・村瀬孝生『ぼけと利他』

文章の概要

この文章は、お年寄りたちが思い思いに時間を過ごす「宅老所よりあい」を運営する村瀬孝生さんと、美学者の伊藤亜紗さんが交わした手紙のうち、伊藤さんが村瀬さんに送った返信の一部です。手紙なので、「お返事ありがとうございます」「村瀬さんも」と、相手に語りかける書き方になっています。線部②の「村瀬さんの言う」は、伊藤さんが村瀬さんの言葉を引いているところです。

伊藤さんはまず、村瀬さんの手紙を読んで気づいたことを書きます。村瀬さんは介護者としてお年寄りの「抗い」をケアしているけれど、お年寄りもまた村瀬さんに振り回されながら、村瀬さんの抗いをケアしている。「ケアすることがケアされることでもある」という見方です。そしてそのケアは、「相手のためを思って」というねらいでなされるものではなく、「目論見レベルではすれ違っているのに、演奏としてはシンクロしている不思議な即興音楽」のようなものだと述べます。

次に、話題はアリス・ロバーツというイギリスの人類学者の本『飼いならす』に移ります。人間が動植物を「飼いならす」過程は、人間が自分の目的に合わせて思い通りに手懐けたのではなく、「非意図的で、偶然に満ちていた」。そしてそれは、動植物がもともと持っていた「飼いならされる力」を、人間がそうとは知らずに解放しただけなのではないか、という見方です。その例がオオカミです。人間とオオカミは、それぞれが得をする形で近くにいるようになり(問一)、長い共生の中でオオカミはイヌに、人間も他の個体と協力する社交性を身につけるように変わっていきました。「飼いならす」は、実は「飼いならされ」でもあったのです。

【中略】のあと、伊藤さんは、一緒にいることは「常にズレを孕んでいる」と述べ、自然界では村瀬さんの言う「ズレまくりながら調和している」が当たり前なのかもしれない、とまとめます(問二)。村瀬さん自身も、お年寄りと関わることで既成概念が解体され、お年寄りに巻き込まれていく。巻き込まれることも一種の進化だ、という話で文章は終わります。

論の流れ

話題は、介護のケア、オオカミと人間、自然界の生き物、村瀬さんとお年寄り、と移っていきます。けれども、どの話題にも共通しているのは、どちらかが一方的に相手を動かすのではなく、ねらいがズレたままでも一緒にいることで、お互いが変わっていくという見方です。

図3 2026年度 鷗友学園女子中学校 第1回 大問二 論の流れ
冒頭 ケアすることがケアされることでもある。目論見レベルではすれ違っているのに、演奏としてはシンクロしている「不思議な即興音楽」
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アリス・ロバーツ『飼いならす』 飼いならす過程は「非意図的で、偶然に満ちていた」。動植物の「飼いならされる力」を、人間が解放しただけ
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オオカミの得 人間が森に返した獲物の頭部(食べかす)をもらえる。自分で狩るより、はるかに楽
人間の得 強面のオオカミが近くにいると、他の動物から身を守れる
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「それぞれに利害関係を持った種のゆるやかな共生」(問一の線部「そんな共生」)
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共生が続くうちに、オオカミはイヌへ。人間も攻撃性を減らし、協力する社交性を身につける=「共進化」。「飼いならす」は「飼いならされ」でもあった
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【中略】一緒にいることは、常にズレを孕んでいる。コバンザメとジンベイザメ、ヤドリギと木、細胞同士も。「ズレまくりながら調和している」が当たり前(問二の線部)
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結び 村瀬さんも、お年寄りと関わることで既成概念が解体された。お年寄りに巻き込まれる、というのは一種の進化

文章の中心は、オオカミと人間の話です。ここは問一に直結します。当時の人間は狩猟採集民で、狩ったトナカイなどの頭部を食べずに森に返す習慣があったと考えられています。その食べかすを狙って、オオカミがやって来るようになりました。人間のほうも、強面のオオカミがそばにいることで、ほかの動物から身を守れると気づきます。どちらかが一方的に相手を支配したのではなく、お互いに得があったから一緒にいた。本文はこれを「それぞれに利害関係を持った種のゆるやかな共生」と呼んでいます。「どっちがどっちを選んだのかはよくわからない」という一文も、一方的な関係ではないことを示しています。

図4 2026年度 鷗友学園女子中学校 第1回 大問二 オオカミと人間の共生
オオカミ
人間が森に返した獲物の頭部(食べかす)をもらえる。自分で狩るより、はるかに楽
好奇心が強く、それでいて慎重。次第にテントのまわりをうろつくように
尻尾をあげ、警戒心の低い「イヌ」へ進化
共生
人間
強面のオオカミが近くにいると、他の動物から身を守れる
近づきすぎたオオカミには、攻撃もした
男性の攻撃性を減らし、他の個体と協力する社交性を身につけた(共進化)
本文のまとめ どっちがどっちを選んだのかはよくわからない。「飼いならし」は、実は「それぞれに利害関係を持った種のゆるやかな共生」だった
図解動画③ 大問二 オオカミと人間の共生(約30秒・音声つき)

問二で使う手紙 「車」が「船」になる

問二では、本文とは別に、村瀬さんから伊藤さんへの手紙の一部が示されます。登場するのは、「ことごとく、次の行為に移れないお爺さん」です。迎えに行っても椅子から立たない、立っても玄関に行かない、玄関に行っても靴を履かない、送迎車にたどり着いても乗らない。お爺さんには「よりあいに行く理由がない」のですから、それも当然です。村瀬さんは、ひとつひとつの抗いを尊重しないと、お爺さんから信頼は得られないと考えます。

そして、このお爺さんには「車に乗りましょう」が伝わりません。ところが「そろそろ船が出ますよ」と伝えると、「ああ、そうか」と言って車に乗ってくれるのです。お爺さんは太平洋戦争の敗北を朝鮮(現在の北朝鮮)で迎えました。ソ連軍の配下にあった港には、日本の船が邦人救出のために寄港できず、若かりしお爺さんは同朋と闇舟を手配して、命からがら脱出してきました。村瀬さんは、ぼけを抱えて生じる危機感と当時の危機感がシンクロして、「車」が「船」になったと考えています。

図5 2026年度 鷗友学園女子中学校 第1回 大問二 「車」が「船」になる(問二の手紙)
村瀬さん(介助する側)
お爺さんを送迎車に乗せて、「よりあい」へ連れていく
「車に乗りましょう」 → 伝わらない
「そろそろ船が出ますよ」 → 「ああ、そうか」と乗ってくれる
ズレ
お爺さん
よりあいに行く理由がない。次の行為に移れない(抗い)
終戦を朝鮮で迎え、港に日本の船が来られない中、同朋と闇舟を手配して命からがら脱出した
ぼけを抱えて生じる危機感と当時の危機感がシンクロし、「車」が「船」に
見えている世界はズレたまま、一緒に車に乗るという行動はそろう。これが「ズレまくりながら調和している」の例
図解動画④ 大問二 「車」が「船」になる(約35秒・音声つき)

問一 「そんな共生」とは具体的にどのような状態か(記述)12点

設問 線部①「そんな共生」とは具体的にどのような状態ですか、説明しなさい。

何を答える問いか 「そんな」は指示語なので、前に書かれた内容を指します。直前には「それぞれに利害関係を持った種のゆるやかな共生」とあります。ただし設問は「具体的に」と言っています。「利害関係」の中身、つまり、オオカミと人間のそれぞれに、どんな得があったのかまで書く必要があります。「どのような状態ですか」と聞かれているので、文末は「〜という状態。」にします。

本文の根拠 線部①の直前の段落に、二つの得が書かれています。オオカミの側は、人間が森に返した食べかすを狙ってやって来ます。「自分で狩るよりも、おこぼれをもらったほうが、はるかに楽だからです。」人間の側は、近づきすぎたオオカミには攻撃もしましたが、「強面の彼らが近くにいることで、他の動物から身を守れるという利点にも気付いたはずです」。

「利害関係」の「利」は得になること、「害」は損になることです。ここでは、オオカミは楽にえさを得られ、人間は身を守れる、というように、それぞれに得があることが共生を支えています。

解答に入れる要素
① オオカミの得 人間のおこぼれ(食べかす)によって、楽にえさが得られる
② 人間の得 オオカミが近くにいることによって、他の動物から身を守れる
③ まとめ方 ①と②を並べて、「〜という状態。」で結ぶ
学校発表の解答例(59字)オオカミは人のおこぼれにより楽にえさが得られ、人間はオオカミが近くにいることによって他の動物から身を守れるという状態。

失点しやすい書き方

  • 「それぞれに利害関係を持った種のゆるやかな共生」をそのまま書く 線部の言いかえにとどまり、「具体的に」という条件に答えていません。
  • オオカミの得だけ、人間の得だけを書く 「それぞれに」なので、両方が必要です。
  • 「人間がオオカミを飼いならした状態」 本文は、人間が一方的に手懐けたという見方を否定しています。「どっちがどっちを選んだのかはよくわからない」のです。
  • 「オオカミがイヌに進化した状態」 線部①は「そんな共生が長く続くうちに、次第にオオカミは進化をしていきます」という文の一部です。進化は、共生が長く続いた「あと」の話で、共生の中身ではありません。
  • 「人間とオオカミが仲よく暮らしている状態」 何が得だったのかが書かれていません。本文の共生は「仲よし」ではなく、お互いの利害でつながった「ゆるやかな」関係です。

問二 「ズレまくりながら調和している」を手紙の例で説明する(記述)18点

設問 線部②「村瀬さんの言う『ズレまくりながら調和している』」とありますが、次の村瀬さんから伊藤さんへの手紙の一部にある例を使って「ズレまくりながら調和している」ことを説明しなさい。

何を答える問いか 条件は、手紙の例を使うことです。例の中の何が「ズレ」で、何が「調和」なのかを示し、最後に、その例から言えることをまとめます。文末は「〜ということ。」にします。「ズレまくりながら調和している」は、ズレているのに、うまくいっている、ということです。ズレをなくしてから調和するのではなく、ズレたままで調和しているところがポイントです。

答えの組み立て 例を入れて、その例から分かることを言いかえる 「例を使って」と指示がある問題は、例を入れるだけでは終わりません。その例から分かること、共通点を、別の言葉に言いかえて説明します。お爺さんの例から分かるのは、「相手の背負っている歴史やものの見方に寄り添うと、見ている世界がズレていても、一緒に行動できる」ということです。冒頭の「目論見レベルではすれ違っているのに、演奏としてはシンクロしている」も、同じ「ズレているのにそろう」という共通点を持っています。この言いかえが、「ズレまくりながら調和している」の説明になります。

本文の根拠 線部②の前後で、伊藤さんは、一緒にいることは「常にズレを孕んでいるもの」だと述べ、「一緒にいるためにお互いをケアしているのですが、そうしているうちに、思ってもいない方向へ進化の一歩を踏み出しているわけです」と続けます。文章の冒頭にも、ケアは「目論見レベルではすれ違っているのに、演奏としてはシンクロしている不思議な即興音楽」のようなものだ、とありました。ねらい(目論見)はすれ違っていても、動き(演奏)はそろう。これが「ズレまくりながら調和している」の意味です。

手紙の例に当てはめる 図5のとおり、村瀬さんがしたいのは、お爺さんを送迎車に乗せて「よりあい」へ連れていくことです。ところがお爺さんは、終戦のとき朝鮮から闇舟で脱出した経験を背負っていて、車を「船」として受け取っています。村瀬さんにとっては車でも、お爺さんにとっては船。二人の見ている世界は、ズレたままです。それでも、村瀬さんが「そろそろ船が出ますよ」と声をかけると、お爺さんは「ああ、そうか」と車に乗ってくれます。二人は一緒に行動できたのです。これが「調和」です。

ここで大事なのは、村瀬さんが、お爺さんのとらえ方を正そうとしたのではなく、その見方に合わせて言葉を選んだことです。村瀬さんは、お爺さんの抗いを「尊重しないと」信頼は得られないと考え、介助を通して「お爺さんの背負った歴史を知り、その重さを感じる」と書いています。相手の背負っている歴史やものの見方に寄り添ったからこそ、ズレたままでも一緒に動けた。これが、学校発表の解答例の後半にまとめられている内容です。

解答に入れる要素
① 例の言葉 「車に乗りましょう」ではなく、「そろそろ船が出ますよ」と言う
② ズレの中身 お爺さんには、終戦時に闇舟で脱出した経験がある(そのため、車を船として受け取っている)
③ 例から分かること(共通点の言いかえ) 相手の背負っている歴史やものの見方に寄り添うと、一緒に行動することができるようになる
学校発表の解答例(118字)村瀬さんが「車に乗りましょう」ではなく「そろそろ船が出ますよ」と言えば、終戦時に闇舟で脱出した経験を持つお爺さんが送迎車に乗ってくれたように、相手の背負っている歴史やものの見方に寄り添うと一緒に行動することができるようになるということ。

解答例の組み立て 解答例は、「〜と言えば、…お爺さんが送迎車に乗ってくれたように、…ということ」という形です。前半で手紙の例を短くまとめ、「ように」でつないで、後半で、例から分かること(共通点)を一般的な言葉に言いかえています。設問の条件の「例を使って」と、線部の「ズレまくりながら調和している」の説明の両方を、一文で満たしています。この「例+ように+まとめ」の形は、例を使って説明する問題で広く使えます。

失点しやすい書き方

  • 例を使わずに一般論だけを書く 「相手に合わせると一緒にいられるということ」だけでは、設問の条件を満たしません。
  • 例を写すだけで、まとめがない 「車ではなく船と言ったら乗ってくれたということ」だけでは、その例から何が言えるのかが説明されていません。例から分かること(寄り添えば、ズレたままでも一緒に動ける)を、言いかえて書き足します。
  • お爺さんの過去を書かない なぜ「船」なのかが分からず、ズレの中身が伝わりません。終戦時に闇舟で脱出した経験は、短くても入れます。
  • 「お爺さんがぼけて、車と船を間違えた」と片づける 手紙の村瀬さんは、お爺さんの抗いを尊重し、背負った歴史の重さを感じています。間違いを正す話ではなく、相手の見方に寄り添う話です。
  • ズレがなくなって調和した、と書く お爺さんにとっては、船のままです。ズレたまま一緒に動けることが、「ズレまくりながら調和している」です。

語句メモ(大問二)

  • 宅老所(たくろうじょ) リード文では、お年寄りたちが思い思いに時間を過ごす場所として紹介されています。村瀬さんが運営するのは「宅老所よりあい」です。
  • 抗い(あらがい) 逆らうこと。抵抗すること。次の行為に移らないお爺さんの様子も、「抗い」と表されています。
  • ケア 世話をすること。気づかうこと。本文では「ケアすることがケアされることでもある」と使われています。
  • 目論見(もくろみ) 前もって立てた計画やねらい。
  • 即興(そっきょう) その場で思いつくままに作ること。「即興音楽」は、楽譜どおりではなく、その場で演奏する音楽です。
  • シンクロ 動きやタイミングがそろうこと。
  • 狩猟採集民(しゅりょうさいしゅうみん) 動物を狩り、木の実などを採って暮らす人々。
  • 強面(こわもて) こわい顔つき。相手をおそれさせる様子。
  • 共生(きょうせい) ちがう種類の生き物が、一緒に生きること。
  • 共進化(きょうしんか) 本文では、オオカミがイヌになる一方で人間も変わっていったように、一緒にいる種がともに進化すること。
  • 孕む(はらむ) 中にふくみ持つこと。「ズレを孕んでいる」は、ズレをふくんでいる、という意味です。
  • 既成概念(きせいがいねん) すでにできあがっていて、当たり前と思われている考え方。
  • 覚束ない(おぼつかない) はっきりしない。たよりない。
  • 邦人(ほうじん) 外国にいる日本人。
  • 闇舟(やみぶね) 手紙の中では、日本の船が港に入れない中で、お爺さんたちが正式な手段によらずに手配した船のことです。

大問三 漢字の書き取り

(1)〜(5)の五問で、各2点です。同じ読みの別の言葉がある漢字や、対になる言葉がある漢字が並びました。どれも、文の意味からどの言葉かを決めると、迷わずに書けます。

(1) 議会の解散はヒッシである 必至と必死

学校発表の解答例必至

「必至」は、必ずそうなること、避けられないことです。「至」は「いたる」で、必ずそこへ行きつく、という意味になります。文の主語は「議会の解散」という出来事なので、「解散は必ず起こる」という見通しを表す「必至」です。

同じ読みの「必死」は、死にものぐるいで全力を出すことです。「必死に走る」「必死の練習」のように、人ががんばる様子に使います。人の様子なら「必死」、これから起こることの見通しなら「必至」と考えると、書き分けられます。

(2) ヨウリョウよく話を進める 要領

学校発表の解答例要領

「要領」は、物事の大事なところや、うまく進めるこつのことです。「要領よく」は、むだなく手際よく、という意味です。「要領を得ない」(話の大事なところがはっきりしない)という言い方もあります。

同じ読みの「容量」は入れ物に入る量、「用量」は薬などを使う量です。ここは「話を進める」こつなので、「要領」です。

(3) 美しいジキの皿をかざる 磁器と陶器

学校発表の解答例磁器

「磁器」は焼き物の一種で、陶石という石の粉を主な原料にして、高い温度で焼いた、白くてかたい焼き物です。「磁」は「磁石」の「磁」で、石へんです。さんずいの「滋」と書きまちがえないようにしましょう。

よく比べられる「陶器」は、粘土を主な原料にして、磁器より低い温度で焼いた焼き物です。どちらも皿や茶わんになりますが、問題文の読みは「ジキ」なので、「磁器」です。

(4) 日本をジュウダンする旅に出たい 縦断と横断

学校発表の解答例縦断

「縦断」は、縦の方向に通りぬけることです。日本列島は南北に長いので、北から南へ、または南から北へ通りぬける旅は「縦断」です。台風が日本列島を「縦断する」という言い方も、ニュースでよく聞きます。

反対の「横断」は、横切ることです。「横断歩道」「大陸を横断する」のように使います。

(5) キシカイセイのホームランを打つ 起死回生

学校発表の解答例起死回生

「起死回生」は、死にかけたものを生き返らせることです。そこから、だめになりかけた状態を一気によい方へ立て直すこと、という意味で使います。「起死回生のホームラン」は、負けそうな試合の流れを一打で変えるホームランです。

四字熟語は、意味のまとまりで覚えると書きまちがえにくくなります。「起死」(死にかけたものを起こす)と「回生」(生き返らせる)で、似た意味を重ねた形です。「回生」を「改正」や「快晴」と書かないように注意しましょう。

学校発表の解答例一覧

  • 大問一 問一(8点) 耳の聴こえない両親のため、手話通訳をして二人を守ること。
  • 大問一 問二(16点) 自分のやりたいことを我慢して、両親のために時間を使うことへの不満がたまり続ける日々の中で、炭酸飲料の蓋を開ける心地よい音を聞くと、一瞬だけ解放されるような気持ちになったから。
  • 大問一 問三(18点) ママンの愛情は変わることがなく、いつも自分を理解してくれていると信じていたが、木花さんを優先し、本当の気持ちを理解してくれなかったことで、裏切られたような激しい失望と、誰も自分を分かってくれない絶望を感じているということ。
  • 大問一 問四(18点) 耳の聴こえない父母を支えるために自分のしたいことを我慢してきた辛さを、正直に伝えることができ、また父母がその思いを受け止めてくれたことで、自分も愛されているという幸福感に包まれたから。
  • 大問二 問一(12点) オオカミは人のおこぼれにより楽にえさが得られ、人間はオオカミが近くにいることによって他の動物から身を守れるという状態。
  • 大問二 問二(18点) 村瀬さんが「車に乗りましょう」ではなく「そろそろ船が出ますよ」と言えば、終戦時に闇舟で脱出した経験を持つお爺さんが送迎車に乗ってくれたように、相手の背負っている歴史やものの見方に寄り添うと一緒に行動することができるようになるということ。
  • 大問三(各2点) (1) 必至/(2) 要領/(3) 磁器/(4) 縦断/(5) 起死回生

配点は、大問一が60点、大問二が30点、大問三が10点で、合計100点です。

鷗友女子の国語で身につけたい力・家庭での練習

2026年度の出題から言えることを、三つにまとめます。

  • 比喩を部分に分けて、本文の出来事に置きかえる力 大問一の問三は、比喩を「大地」「亀裂」「底」に分けて、それぞれが本文の何に当たるかを書く問題でした。問四の「三つ星」も同じで、比喩が何を表しているのかを、本文の出来事で説明します。
    家庭での練習:物語を読んだら、比喩を一つ選び、「何を、何にたとえているか」「そのとき気持ちはどう動いたか」を一文で書きます。たとえば本文の「小さいころ大好きだった服が、キツくなってるみたいに」なら、「好きでやってきた役割が、成長とともに苦しくなってきた」となります。
  • 「なぜ」の記述を、理由の一言から組み立てる力 大問一の問二と問四は、線部の直前のきっかけだけでなく、カナが小学1年生のころから積み重ねてきた我慢を書く必要がありました。ただ並べるのではなく、先に理由を一言で決め(気持ちや思いを含めます)、その一言を答えの最後に置いて、前に状況を並べます。問二は「一瞬だけ解放されるような気持ちになったから」、問四は「自分も愛されているという幸福感に包まれたから」が、その一言でした。
    家庭での練習:理由を問う記述は、書く前に、まず「理由の一言」を気持ちの言葉で書き、それを答えの最後に置きます。そのあと保護者の方が「何がたまっていたの?」「何がきっかけ?」と質問し、前半の状況が入っているかを一緒に確かめます。入っていない要素があれば、本文のどこに書いてあるかを探して書き足します。
  • 例から分かることを、言いかえて説明する力 大問二の問二は「例を使って」という条件がつき、手紙のお爺さんの例を入れたうえで、その例から分かること(寄り添えば、ズレたままでも一緒に動ける)を言いかえて、「ズレまくりながら調和している」を説明しました。問一は「具体的に」という条件で、「共生」を具体的な出来事で説明しました。
    家庭での練習:説明文の例を一つ読んだら、「この例から分かることは何か」「ほかの例と共通するところはどこか」を、別の言葉で一文に言いかえます。そのあと「たとえば〜のように」で例を先に書き、「つまり〜ということ」で言いかえをまとめます。問二の学校発表の解答例と同じ、「例+ように+まとめ」の形です。

大問三の漢字は、必至と必死、縦断と横断、磁器と陶器のように、まぎらわしい言葉がある漢字でした。漢字を覚えるときは、その言葉の意味を一言で説明できるようにしておくと、試験で迷いにくくなります。

まとめ

2026年度の鷗友学園女子中学校 第1回の国語は、記号選択がなく、記述6問で90点を占める出題でした。大問一では、耳の聴こえない両親の手話通訳をしてきたカナが、ため込んできた辛さを打ち明け、両親とつながる安らぎに気づくまでを、四つの記述で追いました。大問二では、オオカミと人間の共生と、「車」を「船」と受け取るお爺さんの例から、ズレたままでも一緒にいられる関係を説明しました。二つの文章は、相手をケアすることと、つながることをめぐって、響き合っていました。

どの記述も、本文の言葉をつなぐだけでは答えになりません。比喩を部分に分けて言いかえる、理由を一言で決めて(気持ちや思いを含めて)答えの最後に置く、例から分かることや共通点を言いかえる。この三つを意識して、本文の根拠から自分の言葉で書く練習を重ねていきましょう。