2026年9月23日(水・祝)に実施された第1回学校別サピックスオープン(早大学院)の国語を、全問解説します。大問一は漢字の読み書き、大問二は小野純一さんの論説文『僕たちは言葉について何も知らない――孤独、誤解、もどかしさの言語学――』(ニューズピックス)、大問三は中川なをみさんの物語文『晴れ着のゆくえ』(文化出版局)です。この記事では、「言葉は情報を伝えるだけでなく、相手の心に働きかける」という論説文の流れと、足の不自由な女の子・千恵の心の動きを、情景アニメ入りの図解動画で整理してから、根拠つきで一問ずつ解いていきます。
出題構成と全体の講評
- 大問一は漢字の読み書きで、書き取り6問と読み2問、合わせて16点(2点×8)です。早大学院の漢字は、読解の文章の中から出題されることの多い形式ですが、この回は独立した大問でした。難しさは標準的です。
- 大問二は論説文で、設問は語句・空らん・抜き出し・選択・記述の全8問、配点は42点です。記述は問八(46字以上55字以内・10点)の1問だけで、抜き出しは問三(17字)と問六(30字)の2問です。
- 大問三は物語文で、設問は9問、配点は42点です。記述は問九(56字以上65字以内・12点)の1問だけです。ほかに、空らんに入るひらがな二字(問二)、「ない」の識別(問三)、本文から十字ずつ抜き出す問題(問五)が出ています。
- 合計は100点です。記述は2問の22点だけで、残りは語句・選択・抜き出しです。ただし選択肢は文が長く、本文の言葉と一つずつ照らし合わせる力が問われます。
この回は、言葉が人の心にどう働くかを、二つの文章で読み取らせています。大問二のカギは、日常会話の大半が「情報を伝えること」ではなく、相手の「思考」や感情に働きかけることだという筆者の考えです。「傘を持って行きなさい」と命令するかわりに「雨が降るよ」と言う。あいさつは「あなたの存在を受け入れます」という合図。だからこそ、気づかいの多い会話は疲れる。この筋がわかれば、問三から問八までが一本の線でつながります。大問三のカギは、おじいちゃんの思いが込められたむらさきの着物が、千恵の心を強くしてくれることです。悪口にひるみ、牛がこわくて動けなくなった千恵が、着物に励まされて前に進みます。問五・問八・問九は、すべてこの着物につながっています。
大問一 漢字の読み書き
大問一は、書き取り6問(①〜⑥)と読み2問(⑦⑧)です。この記事では大問一の問題文を扱わず、解答のみを載せます。
大問二 論説文 小野純一『僕たちは言葉について何も知らない』
要旨 会話は「情報を伝える」だけではなく、相手の「思考」に働きかける
筆者は、日常会話のほとんどが、伝えたい情報を渡すことではなく、相手の「思考」への効果に関わっていると述べます。
最初の例は、朝の「傘」です。家を出るとき、家族に「今日、雨が降るよ」と言われたら、私たちは「傘を持って行きなさい」という意味だと理解します。では、なぜ家族は直接「傘を持って行きなさい」と命令しないのでしょうか。命令されて喜んでそれに従う人は、あまりいません。言いたいことを聞いてもらうには、つまり「耳を貸そうという気にさせる」には、必要な情報だけを言っても実は効果が薄く、望んだ結果は引き起こせないのです。愛の告白でも同じです。「好き」と言うだけで用が足りるのは、すでにお互いがその感情を共有できている場合だけで、初めて伝える相手には、場所や順番、演出まで考えます。
ほかにも、「あなたはガンで余命1年です」と核心の単語だけを並べるのではなく、「驚かないで聞いてください……」と心構えさせてから、核心に迫りながら希望も失わせないよう語りかける例が出てきます。それは優しさであり、その後の会話を続けるために必要な戦略でもあると筆者は言います。
次に、あいさつです。無言で人が部屋に入ってきたら居心地が悪いように、あいさつは「私はあなたの存在を受け入れる」という意思表示の働きをもっています。「おはよう」も「髪型変えたんですね!」も、情報を伝えているのではなく、友好や好意を示して、相手の機嫌を良くしようとする働きかけです。このように、日常会話は情報伝達よりも〈情動への効果〉に重点が置かれます。真夏の白い雲を見ただけでワクワクする感覚や、「リンゴを思い浮かべないでください」と聞くだけでリンゴのイメージがわく感覚と同じで、この心理的な働きこそ、情動主義が明らかにした言語の「呪術」だと筆者は述べています。この働きを濃縮しているのが、俳句のようなポエムです。
問一 語句の意味(a・b・c)各2点
語句の問題は、その語が使われている一文の中で意味をつかみます。
- a 「用が足りる」 「『好き』と言うだけで用が足りるのは、すでにお互いがその感情を共有できている場合」という文脈です。「用が足りる」は、目的を果たすのに十分だ、という意味です。「好き」の一言で伝える働きを十分に果たせる、ということなので、エ「十分な働きができる」です。
- b 「シチュエーション」 「渡す場所やシチュエーションを考え」と、「場所」と並んでいます。場所とセットで考える言葉は、その場の「状況」です。答えはア「状況」です。
- c 「計り知れない」 「自然の計り知れない広がり」の部分です。「計る」は、大きさや量を見積もることで、「計り知れない」は、見積もることができないほど大きい、つまり「想像できない」です。ウが正解です。
問二 空らんA・Bに入る語句各2点
空らんの前後のつながりを一つずつ確かめます。
Aは、「相手の機嫌を良くしようとする働きかけです。〔A〕、日常会話は情報伝達よりも〈情動への効果〉に重点が置かれます」という文です。前で、あいさつや「髪型変えたんですね!」の例をあげ、後ろでそれをまとめて、日常会話全体の特徴を言っています。例をまとめるときの言葉は、ア「このように」です。
Bは、「この点で、あいさつにもポエムと同じ効果があり、〔B〕上機嫌にあいさつすることが日常会話では不可欠なのです」という文です。前の「同じ効果がある」が理由になって、後ろの「上機嫌にあいさつすることが不可欠だ」という結論になっています。理由から結論へつなぐ言葉は、ウ「だからこそ」です。エ「そのためには」は、後ろに「〜する必要がある」のような目的の手段がくるので合いません。
問三 「耳を貸そうという気にさせる」ために必要なこと(十七字の抜き出し)5点
問題は、「『こと』に続けられる十七字の語句を本文中から抜き出して、はじめとおわりの三字を答えなさい」です。答えの形は「〜〔十七字〕こと」です。
傍線①を含む一文を見ると、筆者は「言いたいことを聞いてもらうには、つまり耳を貸そうという気にさせるには、必要な情報だけを言っても、実は効果が薄い」と述べています。次の形式段落で、会話は「伝えたい情報ではなく『思考』への効果に関わる」と述べています。情報伝達と「思考」の関係は、5ページ上段8行目以降でも述べられており、その中に次の部分があります。「相手の立場に理解を示し、尊重をすることで、こちらにも耳を傾けてもらう余地を作り出す」(5ページ上段13〜14行目)。
傍線の「耳を貸そう」と、この部分の「耳を傾けてもらう」は、どちらも「聞いてもらう」という意味の言葉です。こうして対応する言葉を見つけると、答えが見えてきます。「相手の立場に理解を示し、尊重をする」の十七字が、「こと」につながります。
問四 「必要な戦略」とはどのようなことか4点
傍線②を含む一文は、「それ(=直前の内容)は優しさでもあり、その後の会話を続けるために必要な戦略でもあるはずです」です。「それ」の内容を、直前の文から確かめます。直前には、余命を告げる場面で「核心に迫りながら、希望も失わせないよう語りかける」とあります。つまり「戦略」は、自分の話したい核心の内容を、相手に無視させないように伝えることです。
アは、「相手の感情を考慮した言葉を選びながら会話をすることで、伝えたい情報を相手が無視しないようにする」で、これに合います。
イは「伝えたい内容がどのようなものでも、多くの言葉を費やして」が、本文にない条件です。「核心に迫りながら」語りかけることとも合いません。ウは「伝えたいことをできるだけ後回しにする」が、「核心に迫りながら」と合いません。エは「相手と対等であることを意識しながら、丁寧な言葉遣いをする」が、この場面の内容ではありません。
問五 「言語の『呪術』」とはどのような働きか4点
傍線③を含む一文から、「言語の『呪術』」は、「この心理的な働き」のことだとわかります。「この」が指しているのは、すぐ前の「真夏の白い雲を見ただけでワクワクする感覚や、『リンゴを思い浮かべないでください』と聞くだけでリンゴのイメージがいやおうなく湧き起こる感覚」です。つまり、言葉によって、イメージや感覚が心の中にわき起こる働きです。
さらに、傍線③の直後の一文が「なぜなら」で始まるので、理由が説明されています。「まるで魔法のように、影響を及ぼしたい誰かの心や行動に、直接に物理的に働きかけなくても、離れたところから言葉で直接の影響を引き起こし、現実に作用することができる」からです。この二つを手がかりに選びます。
エ「言葉によって相手に想像をさせて感情を揺さぶり、相手の心を動かす働き」が、イメージや感覚をわかせて心を動かす、という本文と合います。
アは「相手の心を支配し、思い通りに動かす」が強すぎます。本文は「離れたところから影響を引き起こす」働きで、支配とは言っていません。イは「人間社会における心理的な世界の広がり」を言葉を通して感じさせる、ですが、これは日常が人間どうしのやりとりで成り立っている、という説明の部分の内容で、「呪術」の働きそのものではありません。ウは、自分の気持ちを高揚させる働きで、相手への影響の話ではなくなっています。
ポエムの例 松尾芭蕉「古池や蛙飛び込む水の音」
問五のすぐあとに、筆者は松尾芭蕉の俳句をあげます。「古池や蛙飛び込む水の音」は、物語のように言葉をたくさん使わなくても、木々に囲まれた静かな池にカエルが飛び込んで、音が一面に広がるイメージを思い浮かべさせます。その効果は、池や蛙の情報を伝えることではありません。驚くほど静かな自然と、その静かさを破りながらも引き立てる一度きりの水の音が対比されること。そして、静まりかえった自然が実は躍動感に溢れていることに気づかせること。しかも、自然の計り知れない広がりと、その中にいる自分の小ささ、自然との一体感まで、同時に一瞬にして感じさせる働きがあります。これが、心に劇的な変化をもたらすというポエムの効果です。
そのうえで筆者は、あいさつにもポエムと同じ効果があるので、上機嫌にあいさつすることが日常会話では不可欠だと述べます。これが、問二Bの前後の内容です。
「疲れる」のはなぜか 正解のある会話と、ない会話
最後の部分で、筆者は「なぜ、情報交換ではないコミュニケーションは『疲れる』のでしょうか?」と問いかけます。
情報交換としてのコミュニケーションには、客観的な「正解」があります。話し手は真実・事実を話すという大前提のもと、聞き手はその言葉が正解かどうかを確かめられます。これに対して、日常会話には客観的な正解がありません。日常会話は、正解のない世界で、相手の主観的な「正解」を探る必要があります。いわゆる「気づかい」がこれです。客観的な正解を理解することではなく、お互いの前提をとらえること、つまり相手の「意図」「期待」「感情」「思考」という〈こころ〉を読み取ることです。だから、日常会話は「人と人との間で読み取られるべき〈こころ〉に『気をつかう』から疲れる」のです。
問六 「なぜ、情報交換ではないコミュニケーションは『疲れる』のでしょうか?」に対する筆者の考え(三十字の抜き出し)5点
傍線④は、その一文が「なぜ〜のでしょうか?」という問いかけになっています。筆者はこの問いに、すぐあとで答えを書いています。答えは、その問いのあとの内容から探します。
問いのあとで筆者は、情報交換には客観的な正解があるのに対して、日常会話は正解のない世界で、お互いの前提をとらえること、つまり〈こころ〉を読み取ることだと述べます。そしてそれをまとめる形式段落が、「このように」で始まります。「このように日常会話は人と人との間で読み取られるべき〈こころ〉に『気をつかう』から疲れるのです」。「このように」で始まる文は、それまでの内容のまとめ(結論)です。
この文から、「疲れる」理由にあたる部分を三十字で抜き出します。「人と人との間で読み取られるべき〈こころ〉に『気をつかう』から」を数えると30字です。はじめの三字は「人と人」、おわりの三字は「」から」です。
問七 C・D・Eに入る語の組み合わせ4点
空らんは、「客観的」と「主観的」の対比を使った文です。次の順番で決めます。
- C 「情報交換としてのコミュニケーションには客観的な『正解』があります」。「これに対して、日常会話には〔C〕な正解はありません」。「これに対して」の前は、情報交換には客観的な正解がある、という内容です。それと対比して、日常会話には、その客観的な正解がない、と言っているので、Cは「客観的」です。
- D 日常会話は、客観的な正解がない世界なので、「相手の〔D〕な『正解』を探る必要があります」。客観的な正解はないので、探すのは相手の主観的な正解です。Dは「主観的」です。
- E 「これ(=気づかい)は〔E〕な正解を理解することではなく、お互いの前提をとらえることです」。気づかいは、客観的な正解の理解ではなく、相手の主観(前提)をとらえることなので、Eは「客観的」です。
組み合わせは、C客観的・D主観的・E客観的で、イです。ア・ウ・エは、C・D・Eのどれかで主観的と客観的が逆になっています。この「対比でとらえる内容を考えて、組み合わせる」問題は、2026年度の本番の入試でも出題されました。文章の内容を正確に読み取って、空らんに入る内容を丁寧に考える練習をしておきましょう。
問八 言語行為を行う際に意識する必要があること(記述・46字以上55字以内)10点
問いは「言語行為を行う際にどのようなことを意識する必要があると筆者は考えていますか」です。文章全体から、筆者の考えをまとめます。材料は次の三つです。
- 人は言語行為をするとき、情報伝達だけをするのではなく、相手の「思考」に働きかける「思いやりの交換」も必要である(最後の段落)。
- 言語が相手の心を動かすものであること(問五)。
- そのためには、相手の立場を理解し、尊重する必要があること(問三・問四)。
①情報伝達 伝えたい情報を正しく伝えるだけでなく
②目的 話を聞いてもらえるよう
③相手への働きかけ 相手の気持ちに配慮しながら
④行為 会話をすること
「〜だけでなく、〜」という形で、二つの働きを両方入れるのが得点の分かれ目です。46字以上55字以内なので、①〜④を順につなげると51字前後になります。
大問三 物語文 中川なをみ『晴れ着のゆくえ』
あらすじ むらさきの着物と、ひとりで行く年始回り
「わたし」は、保育園に通う五歳の女の子・千恵です。千恵は足が不自由で、右足を引きずって歩きます。十二月二十八日から保育園は休みになりましたが、家族はみんな忙しく、遊んでくれる大人はいません。そこへ、父さんの妹の登志子おばさんが、いとこの春子ちゃんと一緒にお歳暮を持ってきます。春子ちゃんは千恵より一つ年下の四歳で、やせて小さい子です。
おじいちゃんは、足の悪い千恵と毎日畑に通って、むらさき草を育てていました。その根で染めた布を、母さんが二日かけて着物に仕立て、母さんとおばあちゃんが刺繍をしました。白く染め抜かれた星の中に、赤・黄色・緑の花心が縫い取られた、むらさきの着物です。登志子おばさんは「すごいわ」と感心しますが、春子ちゃんは着物を衣紋掛けからひっぱりおろして抱きしめ、「千恵ちゃん、ずるいよ。わたしも歩けなくなりたいよー」と言います。登志子おばさんが着物を取り上げてあやまり、春子ちゃんは泣きながら帰っていきます。千恵は、足が悪いからみんなが大事にしてくれるのだろうか、と考えます。それでも、生まれたときにむらさき草の種が蒔かれたと聞いています。そのころ千恵は、まだ小児麻痺を発症していません。おじいちゃんは、足に関係なく着物を作ってくれたのだ、と千恵はうれしくなります。
正月の朝、千恵はむらさきの晴れ着を着て、年始回りに出かけます。去年は雪が降っていて、おばあちゃんが付き添ってくれましたが、付き添いがいたのは千恵だけで、はずかしくて楽しくありませんでした。今年は「きょうはひとりで行きたい」と思っています。よく晴れて風の強い道で、保育園でいっしょの良子ちゃんに会います。良子ちゃんは着物をほめますが、「買ったんじゃないよ」という千恵に「ひろったの?」と言い、すれちがいざまに「足がわるいくせに」と言い残して走っていきます。千恵は家に帰りたくなりますが、「帰れるわけがない」と思い直して、空を見上げて息を吸いこみます。
局長さんの家でも農家でも着物をほめられ、たもとはミカンや干し芋でずっしり重くなります。もう一軒だけまわることにした家は、庭に大きな柿の木があり、入り口の横に牛小屋があります。牛がこわくて、今までひとりでは行けなかった家です。千恵は、柿の木の下から先へ進めなくなります。空を見上げると、枯れ枝の間の空は目が痛いほど青く、着物のむらさきが青っぽく見えて、まるで空から青色がおりてきたようです。その瞬間、こわさが遠のき、千恵は声を張り上げて「あけましておめでとうございます」と言えました。次の家へ向かう途中、ずっしり重い右のたもとがゆれて裾にからみつき、千恵は道のまん中で転んでしまいます。たもとからミカンがころがり出て、不自由な右足で拾い集めるのは大変です。そこへ良子ちゃんが現れ、ミカンを集めてくれました。「足がわるくて、とくしたね」と言われて千恵は黙りこみますが、良子ちゃんに「足が不自由でもいいことがいっぱいあるから、あいこだね」と笑われると、その目を見て、がんばって言い返します。良子ちゃんは「やられたー」とたおれるまねをして、笑いました。
足が不自由(右足を引きずる)
むらさきの着物に励まされる
むらさき草を育て、根で布を染める
足に関係なく着物を作ってくれた
やせて小さい
着物をほしがり、千恵を「ずるい」と言う
「足がわるいくせに」と悪意をぶつける
後半でミカンを集めてくれる
着物に「すごいわ」と感心する
春子を止めて、千恵にあやまる
問一 語句の意味(a・b・c)各2点
- a 「仕立て上げた」 本文は「着物は、母さんが二日かけて、きのうの夜に仕立て上げたばかりだった」です。「仕立てる」は、布を裁って縫い、着物などを作ることです。「仕立て上げた」は、その作業を作り終えたという意味で、ア「作り上げた」です。エ「染め上げた」は、布を染める作業のことで、染めた布を縫って着物にするのが「仕立て」です。
- b 「ねだる」 「『わたしもほしい』とねだる」です。ほしいものを、しつこく頼んで求めることなので、ウ「せがむ」です。
- c 「たもと」 「風は着物のたもとをひるがえして」とあり、あとの場面では、ミカンを「たもとにいれて」運んでいます。着物のたもとは、袖の下の袋のようになった部分で、エ「そで」です。
問二 空らんAに入る二字(ひらがな)3点
新しい着物を着た千恵を見て、おじいちゃんが目を細め、父さんが「〔A〕にも衣装だなあ」と声をあげて笑います。「〜にも衣装」の形のことわざは、「馬子にも衣装」です。誰でも、身なりを整えれば立派に見える、という意味のことわざで、着物を着てきれいに見える千恵をほめる言葉です。馬子は、昔、荷物や人を馬に乗せて運んだ人のことです。ひらがな二字なので、「まご」と答えます。
問三 「ない」の識別(性質が他と異なるもの)2点
「ない」には、打ち消しの意味の助動詞と、形容詞(存在しない・〜がほしくない)の二種類があります。区別のコツは、「ない」を「ぬ」に言いかえてみることです。
- ア 発症していない → 発症していぬ。言いかえられます。(打ち消しの助動詞)
- イ 食べない → 食べぬ。言いかえられます。(打ち消しの助動詞)
- ウ 縁がない → 縁がぬ。不自然です。「縁が」の「ない」は、存在しないという意味の形容詞で、直前の「が」を「は」に変えても意味が通ります。
- エ 気づかない → 気づかぬ。言いかえられます。(打ち消しの助動詞)
ア・イ・エは打ち消しの助動詞で、ウだけが形容詞なので、性質が異なります。
問四 「千恵ちゃん、ずるいよ」 千恵のどこが春子には「ずるい」と感じられるか4点
春子ちゃんは、千恵の着物に「わたしもほしい」とねだり、「足が悪くてちゃんと歩けないのに。千恵ちゃんはお着物が着れるの?」と言います。そして「千恵ちゃん、ずるいよ。わたしも歩けなくなりたいよー」と続けます。足が不自由なのに、きれいな着物を作ってもらっている。春子ちゃんの目には、千恵が足のことで周りからひいきされているように見えているのです。
本文にも、その裏づけがあります。千恵の側の文に、「本もぬりえも人形も、ほしいと思う前に、父さんやおじいちゃんが買ってきてくれる」とあります(11ページ上段)。みんなから大切にされて、何でも与えられている。これが春子ちゃんの「ずるい」の中身です。イが正解です。
アは、春子ちゃんが「自分がほしくてたまらないものをすべて持っている」と言っているわけではありません。ウの「お金持ちに生まれた」は、良子ちゃんの言葉(「千恵ちゃんちはお金持ちだから」)です。エの「足が悪いことを利用して、得をしようとたくらんでいる」は、千恵にそのような気持ちはありません。
問五 むらさきの着物に、千恵はどのようなことを感じているか(十字の抜き出し)4点
問題は、「傍線②の『おじいちゃんは、わたしの足には関係なくむらさきのお着物を作ってくれたことになる』とありますが、千恵はこの着物にどのようなことを感じていますか。その答えとなる内容がふくまれた一文の、はじめとおわりの十字を抜き出して答えなさい」です。
傍線②から、この着物にはおじいちゃんの思いが込められていることがわかります。その思いは千恵にも伝わっています。年始回りに、ひとりで出かけようとしたときの文に、千恵の感じたことが書かれています。「おじいちゃんは、むらさきがわたしのからだを守ってくれるというけれど、なんだか心を強くしてくれるような気がする。」(12ページ上段)。この結果、千恵は「心を強くして」出かけるのです。
ここは「一文」を抜き出す問題なので、文のはじめの十字と、おわりの十字を答えます。はじめの十字は「おじいちゃんは、むら」、おわりの十字は「れるような気がする。」です(句読点も一字に数えます)。
問六 「良子ちゃんの目が〔X〕」に入る内容3点
空らんの直前の場面を確かめます。千恵が「これはね、おじいちゃんと……」と着物の話をしようとすると、良子ちゃんは「千恵ちゃんちはお金持ちだから……いいなぁ。きれいなお着物だって、買えるものね」と言います。千恵が「買ったんじゃないよ」と答えると、良子ちゃんは「ひろったの?」と嫌味を言います。さらに千恵の横を通るとき、「足がわるいくせに」と悪意をぶつけます。このことから、このときの良子ちゃんの表情には、怒りや悪意があらわれていると考えられます。
怒りや悪意で目がきびしくなる様子は、ア「つりあがった」です。イ「丸くなった」は驚いたとき、ウ「奪われた」は見とれたとき、エ「熱くなった」は感動したときなどの表現で、この場面の良子ちゃんの気持ちと合いません。
問七 「帰れるわけがない」とあるが、なぜか4点
傍線③の直前で、千恵は良子ちゃんに「足がわるいくせに」と言われ、「このまま家に帰りたかった」と感じています。それでも「でも、帰れるわけがない」と思い直します。理由は、千恵の出かけ方にあります。家を出るとき、千恵は「五歳だもの、ひとりで行けるよ」と言って、ひとりで年始回りに出かけてきたのです。あれだけ張り切って出かけたのに、悪口を言われたからといって落ち込んで帰るのは、情けなくてできない、という気持ちです。ウが正解です。
アは、祖母が心配していたので途中で帰って思う通りになるのがいやだった、という理由ですが、本文にありません。イは、良子ちゃんを見返したかったという理由で、この場面の千恵の気持ちとして書かれていません。エは、悪口で帰りたくなる弱い人間だと親に知られたくなかった、という理由ですが、親のことは出てきません。
問八 「瞬間、こわさが遠退いた」のはなぜか4点
この場面は、最後の家の前です。千恵は、牛がこわくて、柿の木の下から先へ進めなくなっています。そこで千恵は空を見上げます。これは問七の直後でも千恵がしていた行為で、自分を奮い立たせようとしていることが読み取れます。空は「目が痛いぐらいに青かった」とあります。そのあと、千恵が着物に目をうつすと、着物のむらさきが青っぽく見え、「まるで空から青色がおりてきたようだった」と感じます。
この着物は、問五で確認したとおり、おじいちゃんの思いが込められていて、千恵に「からだの底から、力が湧いてくる」ものです。その着物を見て、千恵は励まされたように感じ、牛の前を通ることのこわさが遠のいたのです。エが正解です。
アは、「牛におそわれても着物が守ってくれると信じられた」が誤りです。千恵が感じたのは、着物が体を守ってくれることではなく、心を強くしてくれること(問五)でした。イは「体が不自由なことへの劣等感を打ち消してくれる」が、牛への恐怖の場面とずれています。ウは「悪口を言われて悲しんでいたが……誇りを持てた」が、この場面で千恵が感じていることではありません。
問九 「わたしは良子ちゃんの目を見ながら、がんばっていった」ときの千恵の気持ち(記述・56字以上65字以内)12点
傍線⑤の直前のやりとりを確かめます。ミカンを集めてくれた良子ちゃんに、千恵は「ありがとう」と言います。良子ちゃんは「この大きいミカンは局長さんち?」と聞き、「あたしにはふたつしかくれなかった」と言います。千恵が「ひとりでいったから、たくさんくれたのかなあ」と答えると、良子ちゃんは「足がわるくて、とくしたね」と言います。千恵は何も言えず、だまりこんでしまいました。すると良子ちゃんが笑って、「足が不自由でもいいことがいっぱいあるから、あいこだね」と言います。
そのあとの傍線⑤で、千恵は「良子ちゃんの目を見ながら、がんばっていった」のです。言った言葉は、「きれいなお着物がなくても、あいこだね」です。「目を見ながら」は、逃げずに正面から向き合っていること、「がんばって」は、勇気をふりしぼっていることを表しています。良子ちゃんは、それに対して「やられたー」とたおれるまねをして、笑いました。
気持ちをまとめるときは、次の材料を使います。
- 良子ちゃんに「足が悪いくせに」と言われて、ひるんでいた(問六・問七)。
- おじいちゃんの思いが込められた着物と、ひとりでやり遂げた年始回りが、千恵の自信を支えている(問五・問八)。
- 「あいこだね」は、足が悪くても他の子と変わらない、対等である、という意味を伝える言葉である。
①前提 良子ちゃんから足が悪いくせにと言われ、ひるんでいたが
②伝えたいこと 足が悪くても他の子と変わらないことを伝えようと
③気持ち 勇気をふりしぼっている
「がんばっていった」は、そのままでは答えになりません。「なぜがんばったのか(何を伝えたいのか)」を、②で必ず書きます。
解答一覧
大問一
- ① 録画 ② 皮革 ③ 山積 ④ 器械 ⑤ 蒸 ⑥ 境 ⑦ きざ ⑧ かいこ
大問二
- 問一 a エ b ア c ウ 問二 A ア B ウ
- 問三 相手の立場に理解を示し、尊重をする(はじめの三字「相手の」・おわりの三字「をする」)
- 問四 ア 問五 エ
- 問六 人と人との間で読み取られるべき〈こころ〉に「気をつかう」から(はじめの三字「人と人」・おわりの三字「」から」)
- 問七 イ
- 問八 (解答例)伝えたい情報を正しく伝えるだけでなく、話を聞いてもらえるよう相手の気持ちに配慮しながら会話をすること。
大問三
- 問一 a ア b ウ c エ 問二 まご 問三 ウ 問四 イ
- 問五 おじいちゃんは、むら 〜 れるような気がする。
- 問六 ア 問七 ウ 問八 エ
- 問九 (解答例)良子ちゃんから足が悪いくせにと言われひるんでいたが、足が悪くても他の子と変わらないことを伝えようと勇気をふりしぼっている。
この回から持ち帰るべき3つのこと
- 抜き出し問題は、傍線部の言葉と本文の言葉を対応させて探す 大問二の問三は、傍線の「耳を貸そう」と、本文の「耳を傾けてもらう」が対応していました。問六は、問いかけの文のあとで、「このように」で始まるまとめの文に答えがありました。大問三の問五は、傍線②の内容と、千恵が「心を強くしてくれる」と感じた文がつながっていました。「傍線部の言葉」「問いかけ」「まとめの言葉(このように・つまり)」を目印にして探しましょう。
- 対比の問題は、まず反対の言葉を先に決める 問七は、C・D・Eに「客観的」「主観的」を入れる組み合わせでした。「これに対して」の前後で、客観と主観がどう入れかわるかを先に決めれば、選択肢が一つに絞れます。文章の内容を、対比の形で整理する習慣をつけましょう。
- 記述は、条件の言葉を分解して、材料を集める 問八の「伝えたい情報を正しく伝えるだけでなく、話を聞いてもらえるよう相手の気持ちに配慮しながら」も、問九の「ひるんでいたが、足が悪くても他の子と変わらないことを伝えようと勇気をふりしぼっている」も、ほかの設問の答えを材料にして作れます。記述だけを最後に書き始めるのではなく、前の設問の答えを材料にして組み立てましょう。
あわせて読みたい
- 2026.7.20実施 第3回NN早大学院中オープン 国語全問徹底解説 同じ早大学院を目標にした模試の解説です。あわせて出題の形式に慣れておきましょう。
