【2026年度 第3回 早大学院中オープン模試】国語 全問徹底解説
小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか?』×山川方夫『夏の葬列』
2026年度 第3回 早大学院中オープン模試(NN早大学院)の国語を、大問一の漢字から大問三の記述まで全問解説します。
今回は、2026年刊行の最新刊からの出題(大問二)と、中学国語の定番教材である戦争文学の名作(大問三)という、対照的な二本立てでした。読み取りのポイントを、段落構成図・対比構造図・人物相関図・心情変化表で図解していきます。
試験の全体像と時間配分
まず配点を確認しておきましょう。
- 大問一(漢字) 2点×8問=16点
- 大問二(説明的文章) 問一・問二が2点×5、問三〜問七・問九が4点×6、問八(記述)が8点で計42点
- 大問三(物語文) 問一が2点×3、問二〜問八が4点×7、問九(記述)が8点で計42点
- 合計100点満点
注目してほしいのは、記述二題で16点、全体の16%を占めるという点です。早大学院を狙う受験生にとって、記述を白紙で出すのは致命傷になります。逆にいえば、記号問題で取りこぼしを減らし、記述に十分な時間を残せた子が勝つ構成です。
時間配分の目安 大問一(漢字)に3分、大問二に20分、大問三に22分、見直し5分。物語文のほうが本文が長く、しかも終盤に大きな仕掛けがあるため、こちらに厚く時間を配分するのが安全です。
大問一|漢字の書き取り・読み
今回出題された漢字は次の八題です。
- ① 密閉(みっぺい) すきまがないようにぴったりと閉じること
- ② 便乗(びんじょう) 他人の乗り物に相乗りすること。転じて、機会をうまく利用すること
- ③ 業績(ぎょうせき) 事業や学術研究で成し遂げた成果、仕事の出来ばえ
- ④ 鋼鉄(こうてつ) 鉄に少量の炭素などを混ぜて強度やねばり強さを高めた合金。鋼(はがね)
- ⑤ 割(いて) 切り分ける、割り振ること
- ⑥ 臨(のぞ) 風景や場所などを目の前にすること
- ⑦ 有無(うむ) あることとないこと
- ⑧ 出納(すいとう) お金や物品を出し入れすること、およびその収入と支出を管理・記録すること
差がつくのは⑤⑥⑦⑧です。⑤「割いて」は「さいて」ではなく送り仮名から「いて」と読ませる問題。「時間を割く」の「割く」ではなく、「割る」の連用形として問われています。⑦「有無」は「ゆうむ」と読まない、⑧「出納」は「しゅつのう」と読まないという、いわゆる熟字訓・特殊音の定番です。この四つを落とした子は、読みの特殊語だけを集めた一覧をつくって覚え直してください。
大問二|説明的文章 小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか?』
出典について
出典は小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか? ―自分の頭で考える力がつく「問い」の技術―』(ワニブックス、2026年)の一部改です。
著者の小川仁志さんは哲学者で、青山学院大学地球社会共生学部教授。1970年京都市生まれで、商社・市役所勤務・フリーターという異色の経歴を経て哲学者になった方です。本文にも出てくる「哲学カフェ」の主宰者として知られ、市民のための哲学を実践しています。
ここで押さえておきたいのは、2026年刊行の本が、その年のうちに模試の題材になっているという事実です。近年の難関校は「刊行から一年以内の新刊」を出典に選ぶ傾向が強く、この模試もその流れを正確に再現しています。過去問だけを繰り返しても初見の文章に対応できないのは、こういう理由です。
本文の論の流れ
この文章は、「答えを出そうと焦るのは間違いで、まず問いを立てよ」という一貫した主張を、実例と思考実験で肉づけしていく構成になっています。
この文章の核になる対比
説明的文章は対比が見えた瞬間に読めるようになります。この文章の対比は非常にはっきりしていて、筆者自身が二つの言葉に名前をつけてくれています。
(筆者が批判する側)
(筆者が推す側)
主張から結論までの論理の運び
設問別解説
a「腕の見せ所」
「正念場」は真価を発揮しなければならない大事な場面。「腕の見せ所」=実力を示す場面ですから、これが最も近くなります。
ひっかかりやすいのがエの「土壇場」。こちらは追いつめられた最後の場面という切迫したニュアンスで、「腕を見せる」という前向きな意味は含みません。イ「修羅場」は激しい争いの場面、ア「主戦場」は主な戦いの場です。
b「デッドロック」
本文は「問題も解決しないというデッドロック状態に陥っている」。打つ手がなくなって行き詰まった状態を指します。
ここでの落とし穴はエの「煮詰まった」です。「煮詰まる」の本来の意味は「議論が十分に進んで結論が出る段階に近づく」という前向きなもので、「行き詰まる」という意味ではありません。若い世代ほど誤用のほうを覚えているので、この選択肢に飛びついた子は要注意です。
c「一様に」
本文は「参加者は一様に困った表情を見せました」。みんな同じように、そろっての意味です。エ「まちまちに」は正反対の意味なので、ここを選んだ子は語彙の暗記が逆になっています。
Aの直前は「おそらく沈黙が続くのではないでしょうか。誰も答えを出せないかもしれません」。直後は「問い一つで相手の頭を刺激できるかどうか、そして答えが出るかどうかが決まってくるのです」。前の具体的な状況を、一般的な言い方でまとめ直しているので「つまり」です。
Bの直前は「本人が『そんなもんだ』と思って生活していれば、問題視すらされません」。直後は「ひとたび誰かがそこに問いを投げかければ、事態は大きく変わります」。前後が逆の内容なので「しかし」。
接続語の問題は、選択肢を眺めるより先に前後の関係を「まとめ」「逆」「並べ」「理由」のどれかに分類するのが最短です。
「問いを通じて子どもたちの思考を刺激することで、彼らが【 】を出せるようにするため」という説明文の空欄です。
本文に「残念なことに、この世は他者の答えであふれています。だから問うことは自分の答えを取り戻す運動でもあるのです」とあります。「他者の答え」と対になる語を探せば、五字という条件と合わせて一発で決まります。
抜き出し問題は、字数が指定されている時点で「その字数の言葉が本文に一つだけある」という強いヒントになっています。まず対義語・対応語を探す習慣をつけてください。
傍線部は「問いが9割なのです」。直後に「ちゃんと問わないから答えが出ない。したがって問題も解決しないというデッドロック状態に陥っている」とあります。
つまり、問題が解決するかどうかは、答えそのものよりも問いの立て方に左右されるということ。これがウです。
イの「世の中の問題はすべて解決できる」は言い過ぎ。本文は「すべてとはいかないまでも」と明確に限定しています。選択肢の「すべて」「必ず」「決して」といった強い言葉は、まず疑ってかかるのが鉄則です。
この設問は「適当でないものを一つ選び」という形式です。問題文をよく読まずに「一番よさそうなもの」を選ぶと、そのまま失点します。
筆者のいう「いい問い」とは、さまざまな角度から問題を捉え直させ、自分でも気づかなかった部分に目を向けさせる問いです。
イの「私たちにとって宿題は必要なものだけれど、その理由について君はどう考える?」は、「宿題は必要である」という結論をあらかじめ決めつけたうえで理由だけを聞いています。これでは考える範囲が最初から限定され、自分の答えを取り戻すことにはつながりません。だからこれが「いい問い」の例としてふさわしくない、となります。
ア・ウ・エはいずれも、比較させたり、工夫を考えさせたり、立場を入れ替えさせたりして、多角的な思考を促す問いになっています。
傍線部は「問いは、世界を素敵なものに変える力を持っているのです」。その直前に、小学生の女の子が「その言葉も誰か名付けてくれたプレゼントだから」と答え、筆者が「変な問いを投げかけてよかった」と思った場面があります。
つまり、問いによって、ありふれた「プレゼント」という言葉に新しい意味や価値が見つかったのです。これがエの「さまざまな角度から問うことで物事の新たな意味や価値に気づけることもあるから」に対応します。
アは「今まで誰も発見できていなかった問題に気づける」と書いていて、これは本文の別の箇所(問題の可視化)の内容です。傍線部の直前直後で起きていることに答えを合わせるのが原則で、離れた場所の正しい内容を持ってきた選択肢はひっかけになります。
「のっぺりとした世界」は、原始人の思考実験のなかで出てきます。何もない平野で狩りをして暮らし、まだ何の問いも立てていない状態の世界です。
筆者は「問い=世界に切れ目を入れること」と言っています。ということは、切れ目がない=問いがない=平坦でのっぺりしているという関係になります。よってアの「ものごとへの問題意識がなく、世界が平坦なものとして見えている状態」が正解です。
ウは「問いによる区切りが増え、世界が豊かなものとして見えている」で、これは問いを立てたあとの世界。ちょうど反対を説明しています。比喩の問題は、比喩を作っている元の対応関係(ここでは「切れ目」)を先に押さえると迷いません。
傍線部は「問いは、世界を変えるためのツールであり、世界を活気づけるためのツールだともいえます」。「変える」と「活気づける」という二つの言葉に、それぞれ対応する内容を書くのが得点の分かれ目です。
解答に必要な要素は次の三つ。
- 出発点 問いを立てることで
- 効果1(変える) 問題や課題が見える(可視化される)ようになり、それを変えようとするアクションにつながる
- 効果2(活気づける) 新たな発想・おもしろい答えが生まれる
本文の「問題提起という言葉がありますが、『何かおかしい』『もっとよくなるはず』という思いが問いとなり、それがアクションへとつながっていくのです」「たくさんの問いが出るようにすればいい」あたりが根拠になります。
六十字以内という枠なので、具体例(哲学カフェ・原始人)は入れません。記述で具体例を書き写してしまう子が非常に多いのですが、字数が短いほど「抽象度の高い言葉でまとめる」のが正解です。
イ「問いを立てて考え続けることで、それまで当然だと思っていた物事を違った視点から見直すことができる」。これは、本文全体を通じた筆者の主張(問い=さまざまな角度から捉え直すこと)と一致します。
ウの「専門的な知識が必要」は本文になし。エの「社会の中で共有できる答えを見つけていくことが大切」も、筆者はむしろ「自分の答えを取り戻す」ことを重視しているので逆方向です。内容合致問題は、本文の主張と「方向」が合っているかを最初に見ると素早く切れます。
大問三|物語文 山川方夫『夏の葬列』
出典について
出典は山川方夫(やまかわ まさお)『夏の葬列』。1962年8月に『ヒッチコック・マガジン』で発表された短編で、ショートショートに分類されます。その後、中学校の国語教科書に採用され、いまも読み継がれている戦争文学の名作です。
作品の舞台となる「海岸の小さな町」は神奈川県二宮町とされ、1945年8月5日に二宮町で起きた機銃掃射事件が着想のもとになったといわれています。作者の山川方夫は34歳の若さで亡くなった短編の名手で、星新一・都筑道夫と並んで国産ショートショートの御三家と称された作家です。
ここが重要 『夏の葬列』は結末で読者の認識が根本からひっくり返る(どんでん返し)という構造を持つ作品です。この模試の設問も、その構造をきちんと追えているかを問うように作られています。「最後まで読んでから解く」が絶対条件の文章です。
登場人物の関係
場面の構成をつかむ
この文章は現在と過去を行き来する構成です。どこからどこまでが回想なのかを線で区切れないと、心情の読み取りがすべてずれます。
十数年ぶりに海岸の小さな町の駅に降りる。駅前の風景はすっかり変わり、アーケードのついた明るいマーケットができている。はだしで通学させられた小学生の頃の自分を、なまなましく思い出す
なだらかな丘の松のところで、芋畑の向こうに小さな葬列を見て化石したように足をとめる。十数年の歳月が消え、あのときの中にいる錯覚にとらえられる
ヒロ子さんと葬列を見る。「子供が行くとお饅頭をくれる」と聞き、「競走だよ」と芋畑を駆け出す。そこへ艦載機の機銃掃射。白い服は目標になると知らないヒロ子さんが助けに来る。「彼」は全身の力でヒロ子さんを突きとばす。ヒロ子さんはゴムマリのようにはずんで空中に浮いた
子供に「体が悪かったのか」と尋ね「悪くなかったよ」と返される。「では、恋か。おれはまったくの無罪なのだ」と考え、十数年の悪夢から解き放たれて青空のような幸福に化してしまう
柩の上の写真は三十歳近くなったヒロ子さんの写真ではなく、うんと昔の写真しかなかった母のもの。子供たちが告げる。「戦争で一人きりの女の子がこの畑で機銃で撃たれて死んじゃってね、それからずっと気が違っちゃってた」「三日目ねえ、川にとびこんで自殺しちゃったのさ」
二つの死が自分のなかで永遠につづくほかないと知る。「もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた」
「彼」の心情の動き
この作品の心情読解でいちばん大切なのは、4の場面で心情がいったんプラスに振り切れ、5で一気にマイナスへ落ちるという落差です。ここを取り違えると記述問題が丸ごと崩れます。
設問別解説
a「なまなましく」
「なまなましい」はまるでいま起きたことのように生き生きとしているという意味。ここでは、はだしで通学させられた小学生の頃の自分を、はっきりと思い出したのです。ア「曖昧に」は正反対、エ「丹念に」は丁寧に念入りにという意味で、記憶の鮮やかさとは別の話です。
b「粗末な」
「中央に、写真の置かれている粗末な柩がある」の一文です。飾り気がなく簡素であることを表しています。エ「立派な」は反対。ウ「貧弱な」は「弱々しく見劣りがする」で、ややマイナスの評価が強く出すぎます。
c「いささか」
「いささか彼は不謹慎だったかもしれない」。少し、いくらかという控えめな程度を表す語です。イ「かなり」・ウ「ずっと」・エ「激しく」はいずれも程度が強すぎます。「いささか」を「かなり」の意味だと思いこんでいる子が非常に多い語なので、ここで直しておきましょう。
空欄の直前は「十数年間もの悪夢から解き放たれ、彼は、青空のような一つの幸福に化してしまっていた」。直後は「もしかしたら、その【 】さが、彼にそんなよけいな質問を口に出させたのかもしれない」。
つまり喜びで舞い上がっていたということですから、「有頂天」が入ります。エ「上機嫌」も一見合いそうですが、それだけでは「よけいな質問を口に出させる」ほどの強い高ぶりを説明できません。直前の「青空のような幸福」という強い表現に見合う語を選ぶ、というのが決め手です。
「ない」の性質が他と異なるものを選ぶ問題です。
- ア「この町をたずねたことがない」…直前が「が」。形容詞(存在しない)
- イ「東京じゃあんなことしないよ」…動詞「する」に直接つく打消の助動詞
- ウ「おれに直接の責任がない」…直前が「が」。形容詞
- エ「埋葬されるほかはないのだ」…直前が「は」。形容詞
見分け方はシンプルで、「ない」の直前に「は」や「が」を入れられれば形容詞、入れられなければ助動詞です。イは「しはない」とは言えないので助動詞。もう一つの方法として、「ぬ」に置き換えられれば助動詞という手もあります(「しないよ」→「せぬよ」)。
ヒロ子さんが「お葬式だわ」と言ったのを受けて、「彼」は口をとがらせて「へんなの。東京じゃあんなことしないよ」と答えます。
「口をとがらせる」は不平・不満を表すしぐさ。そして不満の中身は、直後のせりふどおり「東京と違うやり方でやっている」ことへの納得のいかなさです。よってイ。
ウの「不思議に思う」は感情の質が違います。「へんなの」という言い方には、単なる疑問ではなく東京から来た自分のほうが正しいのだという反発がにじんでいます。この一言が、あとで「競走だよ」と無邪気に駆け出す幼さにつながっていく点も押さえておきたいところです。
傍線部は、艦載機の襲来のさなかに聞こえてきた男の声を「斜めに間のびした」と表現した箇所です。
直前で「彼」は恐怖に喉がつまり、芋畑の中に倒れこみ、目をつぶってけんめいに呼吸をころしています。極度の恐怖と混乱のなかにいるために、周囲の声が現実味を失って、ゆがんで聞こえたのです。よってウ。
イの「音がうるさくて聞き取りにくかった」は物理的な説明で、この場面の主題である「彼」の内面をとらえていません。感覚の異常を描いた表現は、たいてい人物の心理状態を映していると考えてください。
「あの日の光景」が具体的に述べられている一文を探します。該当するのは、
「濃緑の葉を重ねた一面のひろい芋畑の向うに、一列になった小さな人かげが動いていた。」
この一文が、回想の入り口として敗戦の夏の情景を描いています。
ここで大切なのは、現在の描写にも似た一文があるということです。現在の場面には「青々とした葉を波うたせたひろい芋畑の向うに、一列になって、喪服を着た人びとの小さな葬列が動いている」という一文があります。作者は現在と過去をあえて似た形で描き、読者に重ね合わせを起こさせているのです。「あの日」=回想の側を選ぶという判断が必要でした。
この設問も「適当でないものを一つ選び」の形式です。大問二の問五と同じ罠が仕掛けられており、設問文の読み落としで二題まとめて失点する構成になっています。
「芋の葉を、白く裏返して風が渡って行く」という一文について、
- ア 畑が白く波立つ様子から、畑の広がりと静かな夏の情景を視覚的に印象づける。適当
- イ 白く裏返る葉が、白いワンピースのヒロ子さんを連想させ、穏やかな風景に死の記憶をにじませる。適当
- ウ この後で「彼」の認識がくつがえされることを暗示している。適当
- エ 罪の記憶が次第にうすれていくことを示している。これが誤り
エが誤りである理由ははっきりしています。この作品では、罪の記憶はうすれるどころか二倍に増えるからです。結末で「彼」は「二つの死が、もはや自分のなかで永遠につづくだろうこと」を知ります。作品全体の方向と真逆の説明をしているので、これが選ぶべき選択肢になります。
情景描写の問題は「この描写のあと、物語がどちらへ動くか」を確認してから選ぶのが鉄則です。
「あれから、おれはこの傷にさわりたくない一心で海岸のこの町を避けつづけてきたというのに」の「この傷」が指す内容を、九字で抜き出します。
同じ段落の直後に「はっきりと敗戦の夏のあの記憶を自分の現在から追放し、過去の中に埋葬してしまって、自分の身をかるくするためにだけおれはこの町に下りてみたというのに」とあります。
指示語の問題は原則として前を探しますが、この設問のように直後に言いかえがある場合もあります。「傷」という比喩を、そのまま説明している語句を探す、という意識で読むと見つかります。
傍線部は「もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた」。この一文の解釈を書かせる、大問三の最重要問題です。
解答に必要な要素は次の三つ。
- 何から逃げていたのか ヒロ子さんとその母、二人の死に対する罪の意識
- 「逃げ場所はない」の中身 その罪の意識からはもう逃れられないと悟った
- 「足どりが確実になった」の中身 痛みを抱えたまま生きていく覚悟を決めた
最大の減点ポイントは「二人分」を書けているかどうかです。「ヒロ子さんの死への罪悪感」とだけ書くと、この作品の核心である「罪はむしろ二つに増えた」という反転を捉えられていないことになります。本文にも「いまはその二つになった沈黙、二つの死が、もはや自分のなかで永遠につづくだろうこと」と明示されています。
もう一つ気をつけたいのが、「足どりが確実になった」を「元気になった」「立ち直った」と誤読しないこと。ここでの「確実」は前向きな回復ではなく、逃げることをやめた者の、静かで重い覚悟です。プラスの語で締めた答案は大きく減点されます。
今回の模試で問われた「読みの技術」
今回の二題は、テーマこそまったく違いますが、受験生に要求している力は共通していました。
1 設問文を最後まで読む
大問二の問五と大問三の問七が、どちらも「適当でないものを一つ選び」という形式でした。合計8点です。設問文の末尾を読み飛ばす癖のある子は、この模試で8点を機械的に失っています。「一つ選び」と書かれていたら不適切選択を疑うという条件反射をつくってください。
2 筆者・作者が使う「対」を見つける
大問二は「答えアプローチ」対「問いアプローチ」、「他者の答え」対「自分の答え」。大問三は「現在」対「回想」、「無罪だと思いこんだ自分」対「罪が二つに増えた自分」。対になるものを線で結べたかどうかが、そのまま得点差になっています。
3 結末まで読んでから心情を確定する
『夏の葬列』は、途中で「彼」が有頂天になる場面があるため、そこで読むのをやめると心情の判断が完全に逆になります。物語文は必ず最後まで読み、そのうえで前に戻って解くこと。特にこの作品のように反転をもつ文章では、この原則を守れるかどうかで20点近く変わります。
覚えておきたい言葉
- 正念場(しょうねんば) 真価を発揮しなければならない大事な場面。「土壇場」(追いつめられた最後の場面)と区別する
- デッドロック 打つ手がなくなり行き詰まった状態。「煮詰まる」は本来「議論が進んで結論に近づく」意味なので混同しない
- 一様に(いちように) みんな同じように。そろって
- 可視化(かしか) 目に見えるようにすること。この文章では「問題が問題として認識されること」
- ファシリテーター 会議などで中立的な立場から進行をサポートする役目を担う者
- のっぺりとした 起伏や変化がなく平坦なさま
- いささか 少し、いくらか。「かなり」の意味ではない
- 不謹慎(ふきんしん) 場面にふさわしくないふるまい。慎みがないこと
- 疎開(そかい) 戦災を避けるため、都市の住民や施設を地方へ移すこと
- 国民学校 1941年から1947年までの日本の小学校の名称
- 艦載機(かんさいき) 軍艦に搭載され、その艦上で運用される軍用機
YS中学受験国語力研究室では、模試や入試の読解問題を図解つきで解説しています。
【2026年度 第3回 早大学院中オープン模試】国語 全問徹底解説
小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか?』×山川方夫『夏の葬列』
2026年度 第3回 早大学院中オープン模試(NN早大学院)の国語を、大問一の漢字から大問三の記述まで全問解説します。
今回は、2026年刊行の最新刊からの出題(大問二)と、中学国語の定番教材である戦争文学の名作(大問三)という、対照的な二本立てでした。読み取りのポイントを、段落構成図・対比構造図・人物相関図・心情変化表で図解していきます。
試験の全体像と時間配分
まず配点を確認しておきましょう。
- 大問一(漢字) 2点×8問=16点
- 大問二(説明的文章) 問一・問二が2点×5、問三〜問七・問九が4点×6、問八(記述)が8点で計42点
- 大問三(物語文) 問一が2点×3、問二〜問八が4点×7、問九(記述)が8点で計42点
- 合計100点満点
注目してほしいのは、記述二題で16点、全体の16%を占めるという点です。早大学院を狙う受験生にとって、記述を白紙で出すのは致命傷になります。逆にいえば、記号問題で取りこぼしを減らし、記述に十分な時間を残せた子が勝つ構成です。
時間配分の目安 大問一(漢字)に3分、大問二に20分、大問三に22分、見直し5分。物語文のほうが本文が長く、しかも終盤に大きな仕掛けがあるため、こちらに厚く時間を配分するのが安全です。
大問一|漢字の書き取り・読み
今回出題された漢字は次の八題です。
- ① 密閉(みっぺい) すきまがないようにぴったりと閉じること
- ② 便乗(びんじょう) 他人の乗り物に相乗りすること。転じて、機会をうまく利用すること
- ③ 業績(ぎょうせき) 事業や学術研究で成し遂げた成果、仕事の出来ばえ
- ④ 鋼鉄(こうてつ) 鉄に少量の炭素などを混ぜて強度やねばり強さを高めた合金。鋼(はがね)
- ⑤ 割(いて) 切り分ける、割り振ること
- ⑥ 臨(のぞ) 風景や場所などを目の前にすること
- ⑦ 有無(うむ) あることとないこと
- ⑧ 出納(すいとう) お金や物品を出し入れすること、およびその収入と支出を管理・記録すること
差がつくのは⑤⑥⑦⑧です。⑤「割いて」は「さいて」ではなく送り仮名から「いて」と読ませる問題。「時間を割く」の「割く」ではなく、「割る」の連用形として問われています。⑦「有無」は「ゆうむ」と読まない、⑧「出納」は「しゅつのう」と読まないという、いわゆる熟字訓・特殊音の定番です。この四つを落とした子は、読みの特殊語だけを集めた一覧をつくって覚え直してください。
大問二|説明的文章 小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか?』
出典について
出典は小川仁志『なぜ、何も思いつかないのか? ―自分の頭で考える力がつく「問い」の技術―』(ワニブックス、2026年)の一部改です。
著者の小川仁志さんは哲学者で、青山学院大学地球社会共生学部教授。1970年京都市生まれで、商社・市役所勤務・フリーターという異色の経歴を経て哲学者になった方です。本文にも出てくる「哲学カフェ」の主宰者として知られ、市民のための哲学を実践しています。
ここで押さえておきたいのは、2026年刊行の本が、その年のうちに模試の題材になっているという事実です。近年の難関校は「刊行から一年以内の新刊」を出典に選ぶ傾向が強く、この模試もその流れを正確に再現しています。過去問だけを繰り返しても初見の文章に対応できないのは、こういう理由です。
本文の論の流れ
この文章は、「答えを出そうと焦るのは間違いで、まず問いを立てよ」という一貫した主張を、実例と思考実験で肉づけしていく構成になっています。
この文章の核になる対比
説明的文章は対比が見えた瞬間に読めるようになります。この文章の対比は非常にはっきりしていて、筆者自身が二つの言葉に名前をつけてくれています。
(筆者が批判する側)
(筆者が推す側)
主張から結論までの論理の運び
設問別解説
a「腕の見せ所」
「正念場」は真価を発揮しなければならない大事な場面。「腕の見せ所」=実力を示す場面ですから、これが最も近くなります。
ひっかかりやすいのがエの「土壇場」。こちらは追いつめられた最後の場面という切迫したニュアンスで、「腕を見せる」という前向きな意味は含みません。イ「修羅場」は激しい争いの場面、ア「主戦場」は主な戦いの場です。
b「デッドロック」
本文は「問題も解決しないというデッドロック状態に陥っている」。打つ手がなくなって行き詰まった状態を指します。
ここでの落とし穴はエの「煮詰まった」です。「煮詰まる」の本来の意味は「議論が十分に進んで結論が出る段階に近づく」という前向きなもので、「行き詰まる」という意味ではありません。若い世代ほど誤用のほうを覚えているので、この選択肢に飛びついた子は要注意です。
c「一様に」
本文は「参加者は一様に困った表情を見せました」。みんな同じように、そろっての意味です。エ「まちまちに」は正反対の意味なので、ここを選んだ子は語彙の暗記が逆になっています。
Aの直前は「おそらく沈黙が続くのではないでしょうか。誰も答えを出せないかもしれません」。直後は「問い一つで相手の頭を刺激できるかどうか、そして答えが出るかどうかが決まってくるのです」。前の具体的な状況を、一般的な言い方でまとめ直しているので「つまり」です。
Bの直前は「本人が『そんなもんだ』と思って生活していれば、問題視すらされません」。直後は「ひとたび誰かがそこに問いを投げかければ、事態は大きく変わります」。前後が逆の内容なので「しかし」。
接続語の問題は、選択肢を眺めるより先に前後の関係を「まとめ」「逆」「並べ」「理由」のどれかに分類するのが最短です。
「問いを通じて子どもたちの思考を刺激することで、彼らが【 】を出せるようにするため」という説明文の空欄です。
本文に「残念なことに、この世は他者の答えであふれています。だから問うことは自分の答えを取り戻す運動でもあるのです」とあります。「他者の答え」と対になる語を探せば、五字という条件と合わせて一発で決まります。
抜き出し問題は、字数が指定されている時点で「その字数の言葉が本文に一つだけある」という強いヒントになっています。まず対義語・対応語を探す習慣をつけてください。
傍線部は「問いが9割なのです」。直後に「ちゃんと問わないから答えが出ない。したがって問題も解決しないというデッドロック状態に陥っている」とあります。
つまり、問題が解決するかどうかは、答えそのものよりも問いの立て方に左右されるということ。これがウです。
イの「世の中の問題はすべて解決できる」は言い過ぎ。本文は「すべてとはいかないまでも」と明確に限定しています。選択肢の「すべて」「必ず」「決して」といった強い言葉は、まず疑ってかかるのが鉄則です。
この設問は「適当でないものを一つ選び」という形式です。問題文をよく読まずに「一番よさそうなもの」を選ぶと、そのまま失点します。
筆者のいう「いい問い」とは、さまざまな角度から問題を捉え直させ、自分でも気づかなかった部分に目を向けさせる問いです。
イの「私たちにとって宿題は必要なものだけれど、その理由について君はどう考える?」は、「宿題は必要である」という結論をあらかじめ決めつけたうえで理由だけを聞いています。これでは考える範囲が最初から限定され、自分の答えを取り戻すことにはつながりません。だからこれが「いい問い」の例としてふさわしくない、となります。
ア・ウ・エはいずれも、比較させたり、工夫を考えさせたり、立場を入れ替えさせたりして、多角的な思考を促す問いになっています。
傍線部は「問いは、世界を素敵なものに変える力を持っているのです」。その直前に、小学生の女の子が「その言葉も誰か名付けてくれたプレゼントだから」と答え、筆者が「変な問いを投げかけてよかった」と思った場面があります。
つまり、問いによって、ありふれた「プレゼント」という言葉に新しい意味や価値が見つかったのです。これがエの「さまざまな角度から問うことで物事の新たな意味や価値に気づけることもあるから」に対応します。
アは「今まで誰も発見できていなかった問題に気づける」と書いていて、これは本文の別の箇所(問題の可視化)の内容です。傍線部の直前直後で起きていることに答えを合わせるのが原則で、離れた場所の正しい内容を持ってきた選択肢はひっかけになります。
「のっぺりとした世界」は、原始人の思考実験のなかで出てきます。何もない平野で狩りをして暮らし、まだ何の問いも立てていない状態の世界です。
筆者は「問い=世界に切れ目を入れること」と言っています。ということは、切れ目がない=問いがない=平坦でのっぺりしているという関係になります。よってアの「ものごとへの問題意識がなく、世界が平坦なものとして見えている状態」が正解です。
ウは「問いによる区切りが増え、世界が豊かなものとして見えている」で、これは問いを立てたあとの世界。ちょうど反対を説明しています。比喩の問題は、比喩を作っている元の対応関係(ここでは「切れ目」)を先に押さえると迷いません。
傍線部は「問いは、世界を変えるためのツールであり、世界を活気づけるためのツールだともいえます」。「変える」と「活気づける」という二つの言葉に、それぞれ対応する内容を書くのが得点の分かれ目です。
解答に必要な要素は次の三つ。
- 出発点 問いを立てることで
- 効果1(変える) 問題や課題が見える(可視化される)ようになり、それを変えようとするアクションにつながる
- 効果2(活気づける) 新たな発想・おもしろい答えが生まれる
本文の「問題提起という言葉がありますが、『何かおかしい』『もっとよくなるはず』という思いが問いとなり、それがアクションへとつながっていくのです」「たくさんの問いが出るようにすればいい」あたりが根拠になります。
六十字以内という枠なので、具体例(哲学カフェ・原始人)は入れません。記述で具体例を書き写してしまう子が非常に多いのですが、字数が短いほど「抽象度の高い言葉でまとめる」のが正解です。
イ「問いを立てて考え続けることで、それまで当然だと思っていた物事を違った視点から見直すことができる」。これは、本文全体を通じた筆者の主張(問い=さまざまな角度から捉え直すこと)と一致します。
ウの「専門的な知識が必要」は本文になし。エの「社会の中で共有できる答えを見つけていくことが大切」も、筆者はむしろ「自分の答えを取り戻す」ことを重視しているので逆方向です。内容合致問題は、本文の主張と「方向」が合っているかを最初に見ると素早く切れます。
大問三|物語文 山川方夫『夏の葬列』
出典について
出典は山川方夫(やまかわ まさお)『夏の葬列』。1962年8月に『ヒッチコック・マガジン』で発表された短編で、ショートショートに分類されます。その後、中学校の国語教科書に採用され、いまも読み継がれている戦争文学の名作です。
作品の舞台となる「海岸の小さな町」は神奈川県二宮町とされ、1945年8月5日に二宮町で起きた機銃掃射事件が着想のもとになったといわれています。作者の山川方夫は34歳の若さで亡くなった短編の名手で、星新一・都筑道夫と並んで国産ショートショートの御三家と称された作家です。
ここが重要 『夏の葬列』は結末で読者の認識が根本からひっくり返る(どんでん返し)という構造を持つ作品です。この模試の設問も、その構造をきちんと追えているかを問うように作られています。「最後まで読んでから解く」が絶対条件の文章です。
登場人物の関係
場面の構成をつかむ
この文章は現在と過去を行き来する構成です。どこからどこまでが回想なのかを線で区切れないと、心情の読み取りがすべてずれます。
十数年ぶりに海岸の小さな町の駅に降りる。駅前の風景はすっかり変わり、アーケードのついた明るいマーケットができている。はだしで通学させられた小学生の頃の自分を、なまなましく思い出す
なだらかな丘の松のところで、芋畑の向こうに小さな葬列を見て化石したように足をとめる。十数年の歳月が消え、あのときの中にいる錯覚にとらえられる
ヒロ子さんと葬列を見る。「子供が行くとお饅頭をくれる」と聞き、「競走だよ」と芋畑を駆け出す。そこへ艦載機の機銃掃射。白い服は目標になると知らないヒロ子さんが助けに来る。「彼」は全身の力でヒロ子さんを突きとばす。ヒロ子さんはゴムマリのようにはずんで空中に浮いた
子供に「体が悪かったのか」と尋ね「悪くなかったよ」と返される。ヒロ子さんの死は自分のせいではなかったのだと解釈し、「おれはまったくの無罪なのだ」と考える。十数年の悪夢から解き放たれ、青空のような幸福に化してしまう
柩の上の写真は三十歳近くなったヒロ子さんの写真ではなく、うんと昔の写真しかなかった母のもの。子供たちが告げる。「戦争で一人きりの女の子がこの畑で機銃で撃たれて死んじゃってね、それからずっと気が違っちゃってた」「三日目ねえ、川にとびこんで自殺しちゃったのさ」
二つの死が自分のなかで永遠につづくほかないと知る。「もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた」
「彼」の心情の動き
この作品の心情読解でいちばん大切なのは、4の場面で心情がいったんプラスに振り切れ、5で一気にマイナスへ落ちるという落差です。ここを取り違えると記述問題が丸ごと崩れます。
設問別解説
a「なまなましく」
「なまなましい」はまるでいま起きたことのように生き生きとしているという意味。ここでは、はだしで通学させられた小学生の頃の自分を、はっきりと思い出したのです。ア「曖昧に」は正反対、エ「丹念に」は丁寧に念入りにという意味で、記憶の鮮やかさとは別の話です。
b「粗末な」
「中央に、写真の置かれている粗末な柩がある」の一文です。飾り気がなく簡素であることを表しています。エ「立派な」は反対。ウ「貧弱な」は「弱々しく見劣りがする」で、ややマイナスの評価が強く出すぎます。
c「いささか」
「いささか彼は不謹慎だったかもしれない」。少し、いくらかという控えめな程度を表す語です。イ「かなり」・ウ「ずっと」・エ「激しく」はいずれも程度が強すぎます。「いささか」を「かなり」の意味だと思いこんでいる子が非常に多い語なので、ここで直しておきましょう。
空欄の直前は「十数年間もの悪夢から解き放たれ、彼は、青空のような一つの幸福に化してしまっていた」。直後は「もしかしたら、その【 】さが、彼にそんなよけいな質問を口に出させたのかもしれない」。
つまり喜びで舞い上がっていたということですから、「有頂天」が入ります。エ「上機嫌」も一見合いそうですが、それだけでは「よけいな質問を口に出させる」ほどの強い高ぶりを説明できません。直前の「青空のような幸福」という強い表現に見合う語を選ぶ、というのが決め手です。
「ない」の性質が他と異なるものを選ぶ問題です。
- ア「この町をたずねたことがない」…直前が「が」。形容詞(存在しない)
- イ「東京じゃあんなことしないよ」…動詞「する」に直接つく打消の助動詞
- ウ「おれに直接の責任がない」…直前が「が」。形容詞
- エ「埋葬されるほかはないのだ」…直前が「は」。形容詞
見分け方はシンプルで、「ない」の直前に「は」や「が」を入れられれば形容詞、入れられなければ助動詞です。イは「しはない」とは言えないので助動詞。もう一つの方法として、「ぬ」に置き換えられれば助動詞という手もあります(「しないよ」→「せぬよ」)。
ヒロ子さんが「お葬式だわ」と言ったのを受けて、「彼」は口をとがらせて「へんなの。東京じゃあんなことしないよ」と答えます。
「口をとがらせる」は不平・不満を表すしぐさ。そして不満の中身は、直後のせりふどおり「東京と違うやり方でやっている」ことへの納得のいかなさです。よってイ。
ウの「不思議に思う」は感情の質が違います。「へんなの」という言い方には、単なる疑問ではなく東京から来た自分のほうが正しいのだという反発がにじんでいます。この一言が、あとで「競走だよ」と無邪気に駆け出す幼さにつながっていく点も押さえておきたいところです。
傍線部は、艦載機の襲来のさなかに聞こえてきた男の声を「斜めに間のびした」と表現した箇所です。
直前で「彼」は恐怖に喉がつまり、芋畑の中に倒れこみ、目をつぶってけんめいに呼吸をころしています。極度の恐怖と混乱のなかにいるために、周囲の声が現実味を失って、ゆがんで聞こえたのです。よってウ。
イの「音がうるさくて聞き取りにくかった」は物理的な説明で、この場面の主題である「彼」の内面をとらえていません。感覚の異常を描いた表現は、たいてい人物の心理状態を映していると考えてください。
「あの日の光景」が具体的に述べられている一文を探します。該当するのは、
「濃緑の葉を重ねた一面のひろい芋畑の向うに、一列になった小さな人かげが動いていた。」
この一文が、回想の入り口として敗戦の夏の情景を描いています。
ここで大切なのは、現在の描写にも似た一文があるということです。現在の場面には「青々とした葉を波うたせたひろい芋畑の向うに、一列になって、喪服を着た人びとの小さな葬列が動いている」という一文があります。作者は現在と過去をあえて似た形で描き、読者に重ね合わせを起こさせているのです。「あの日」=回想の側を選ぶという判断が必要でした。
この設問も「適当でないものを一つ選び」の形式です。大問二の問五と同じ罠が仕掛けられており、設問文の読み落としで二題まとめて失点する構成になっています。
「芋の葉を、白く裏返して風が渡って行く」という一文について、
- ア 畑が白く波立つ様子から、畑の広がりと静かな夏の情景を視覚的に印象づける。適当
- イ 白く裏返る葉が、白いワンピースのヒロ子さんを連想させ、穏やかな風景に死の記憶をにじませる。適当
- ウ この後で「彼」の認識がくつがえされることを暗示している。適当
- エ 罪の記憶が次第にうすれていくことを示している。これが誤り
エが誤りである理由ははっきりしています。この作品では、罪の記憶はうすれるどころか二倍に増えるからです。結末で「彼」は「二つの死が、もはや自分のなかで永遠につづくだろうこと」を知ります。作品全体の方向と真逆の説明をしているので、これが選ぶべき選択肢になります。
情景描写の問題は「この描写のあと、物語がどちらへ動くか」を確認してから選ぶのが鉄則です。
「あれから、おれはこの傷にさわりたくない一心で海岸のこの町を避けつづけてきたというのに」の「この傷」が指す内容を、九字で抜き出します。
同じ段落の直後に「はっきりと敗戦の夏のあの記憶を自分の現在から追放し、過去の中に埋葬してしまって、自分の身をかるくするためにだけおれはこの町に下りてみたというのに」とあります。
指示語の問題は原則として前を探しますが、この設問のように直後に言いかえがある場合もあります。「傷」という比喩を、そのまま説明している語句を探す、という意識で読むと見つかります。
傍線部は「もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた」。この一文の解釈を書かせる、大問三の最重要問題です。
解答に必要な要素は次の三つ。
- 何から逃げていたのか ヒロ子さんとその母、二人の死に対する罪の意識
- 「逃げ場所はない」の中身 その罪の意識からはもう逃れられないと悟った
- 「足どりが確実になった」の中身 痛みを抱えたまま生きていく覚悟を決めた
最大の減点ポイントは「二人分」を書けているかどうかです。「ヒロ子さんの死への罪悪感」とだけ書くと、この作品の核心である「罪はむしろ二つに増えた」という反転を捉えられていないことになります。本文にも「いまはその二つになった沈黙、二つの死が、もはや自分のなかで永遠につづくだろうこと」と明示されています。
もう一つ気をつけたいのが、「足どりが確実になった」を「元気になった」「立ち直った」と誤読しないこと。ここでの「確実」は前向きな回復ではなく、逃げることをやめた者の、静かで重い覚悟です。プラスの語で締めた答案は大きく減点されます。
今回の模試で問われた「読みの技術」
今回の二題は、テーマこそまったく違いますが、受験生に要求している力は共通していました。
1 設問文を最後まで読む
大問二の問五と大問三の問七が、どちらも「適当でないものを一つ選び」という形式でした。合計8点です。設問文の末尾を読み飛ばす癖のある子は、この模試で8点を機械的に失っています。「一つ選び」と書かれていたら不適切選択を疑うという条件反射をつくってください。
2 筆者・作者が使う「対」を見つける
大問二は「答えアプローチ」対「問いアプローチ」、「他者の答え」対「自分の答え」。大問三は「現在」対「回想」、「無罪だと思いこんだ自分」対「罪が二つに増えた自分」。対になるものを線で結べたかどうかが、そのまま得点差になっています。
3 結末まで読んでから心情を確定する
『夏の葬列』は、途中で「彼」が有頂天になる場面があるため、そこで読むのをやめると心情の判断が完全に逆になります。物語文は必ず最後まで読み、そのうえで前に戻って解くこと。特にこの作品のように反転をもつ文章では、この原則を守れるかどうかで20点近く変わります。
覚えておきたい言葉
- 正念場(しょうねんば) 真価を発揮しなければならない大事な場面。「土壇場」(追いつめられた最後の場面)と区別する
- デッドロック 打つ手がなくなり行き詰まった状態。「煮詰まる」は本来「議論が進んで結論に近づく」意味なので混同しない
- 一様に(いちように) みんな同じように。そろって
- 可視化(かしか) 目に見えるようにすること。この文章では「問題が問題として認識されること」
- ファシリテーター 会議などで中立的な立場から進行をサポートする役目を担う者
- のっぺりとした 起伏や変化がなく平坦なさま
- いささか 少し、いくらか。「かなり」の意味ではない
- 不謹慎(ふきんしん) 場面にふさわしくないふるまい。慎みがないこと
- 疎開(そかい) 戦災を避けるため、都市の住民や施設を地方へ移すこと
- 国民学校 1941年から1947年までの日本の小学校の名称
- 艦載機(かんさいき) 軍艦に搭載され、その艦上で運用される軍用機
YS中学受験国語力研究室では、模試や入試の読解問題を図解つきで解説しています。

