2026年9月6日(日)に実施された四谷大塚 第3回合不合判定テスト(6年生)の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。大問1は七海まちさんの『雨色のキャンバス』(小学館)からの物語文、大問2は平賀緑さんの『お金儲けしない経済学 食べものから考える〈共〉のしくみ』(岩波書店)からの論説文でした。「親友に隠しごとをしてしまった中学一年生」の物語と、「家事はなぜタダなのか」を問う経済学の文章。夏休み明けの合不合にふさわしい、読みごたえのある二題です。記述二問を含む大問1の配点は66点。ここで何を書けたかが、今回の得点を左右しました。
出題構成と全体講評
- 試験時間は50分、150点満点。大問1が物語文(66点)、大問2が論説文(58点)、大問3が四字熟語の誤字訂正と対義語(16点)、大問4が漢字の書き取りと読み(10点)という構成です。
- 大問1の物語文は、設問十問。八十字以内の記述(問七・10点)と七十字以内の記述(問八・10点)の二問で20点。記号選択は問一から問三、問五、問九、問十の2で、いずれも登場人物の心情や関係を「本文の言葉」で裏づける力が試されました。
- 大問2の論説文は、設問七問。五十字以内の記述(問二・12点)は「その奇妙さ」の指す内容をまとめる問題で、傍線部の直前を圧縮する力があれば取れます。むしろ差がつくのは、本文中の言葉を正確に当てはめる問三(各3点)、三十三字の抜き出し(問四・7点)、そして文章の骨格をつかんでいないと判断できない問五から問七です。
- 知識問題は、大問3の四字熟語(意味深長・公平無私・青天白日・心機一転)と対義語、大問4の漢字。「英気を養う」「反旗を翻す」「脳裏をよぎる」「委ねる」など、6年生の秋にしっかり書けておきたい語が並びました。
- 全体として、記号選択の選択肢が長く、「本文と一か所だけ違う」誤答が多く並びます。読み飛ばして選ぶと落とす作りです。記述は二問とも「傍線部の直後」と「離れた場所の根拠」を組み合わせる典型的な出題でした。
大問1 物語文 七海まち『雨色のキャンバス』
あらすじ 親友に言えなかった「ヒミツ」と、果たされていた「約束」
語り手の「私」こと西風あざみは中学一年生。小学五年生のとき、同級生の白瀬リリカに紹介されたゲームにのめりこみ、レグルスというキャラクターを好きになりました。リリカが好きだったのはアルクというキャラクター。二人はそろってアクリルキーホルダー(アクキー)を買い、学校に持っていくペンケースにつけました。
ある日の昼休み、リリカが委員会で不在の教室で、あざみは転入生の佐伯さんに声をかけられます。佐伯さんは「あたし、アルク推しなんだよね」と言い、自分は「同担拒否」(同じキャラを好きな人と仲良くしたくない人)なのだから、リリカのアクキーは目障りだと言います。そして取り巻きの一人が「あざみちゃん、あのアクキー取って、ごみ箱に捨ててきてよ」と迫ります。「できなかったら、明日からどうなるかわかってる?」。あざみは震え、結局何も答えられませんでした。「そっか。ざんねーん」という声とともに佐伯さんたちは去り、何も知らないリリカが戻ってきます。あざみは、リリカに絶対に言えない「ヒミツ」ができてしまったことに気づきます。
その日の夕暮れ、リリカはあざみに「私、ヒミツがあるの」「卒業までに言うって約束する」と告げます。二人は同じ中学に進みますが、あざみは約束が果たされないままだと感じています。ある日、リリカが『黄昏色の約束』という色の名前のリップを学校に持ってきたことが先生にばれ、あざみは告げ口した犯人だという濡れ衣を着せられます。ショックで教室に行けなくなったあざみは、学習室(別室)に登校し、そこで絵の話を通じてヤナギさんと親しくなります。やがてリリカも学校に来ていないことに気づいたあざみは、リリカと仲良くしている相良さんを問い詰めます。
相良さんの答えは、あざみの見ていた世界をひっくり返すものでした。「ムリしてたよね。あざみも、リリカも」。リリカが相良さんたちに近づいたのはあざみのためで、あざみと一対一でいる自信がなかった。リリカは「みんなのリーダー」というキャラを守るのに必死で、あざみに捨てられたくなかった。リップの名前が大事な思い出につながっているとあざみに向かって語りかけていたのに、あざみは気づかなかった。そして告げ口は、リリカが相良さんに頼んだ「最後の賭け」だった。あざみのせいにすれば、あざみは二人きりで話して誤解を解こうとするだろう、そのとき約束のこともふくめて全部話そうと思っていた、というのです。あざみは、リリカを「夜のカフェテラスを照らしだす光」であることを期待して、目の前のリリカをちゃんと見ようとしていなかったと気づきます。
帰宅後、あざみは小学校の卒業式の日にリリカからもらった消しゴムに「好き」と書かれているのを見つけ、リリカが約束を果たしてくれていたことを知ります。あざみはリリカの家を訪れ、すりガラスのドア越しに「私、リリカに謝りたいの」と話しかけます。佐伯さんのことも打ち明けます。しかしリリカは「私が学校に行けなくなったのはね、あざみに、知られちゃったから。私がクラスで、ひとりぼっちだってこと」「あざみの中にいる私を、壊したくなかった」「消しゴムのことは忘れて。ぜんぶ、忘れて。私のことも」と言って、ドアから遠ざかってしまいます。
私の中のリリカは壊れてなんかいない。どうすればそう伝えられる。どうすればリリカの見ている世界の色を変えられる。そう考えたあざみの頭に浮かんだのは、ヤナギさんの笑顔でした。ヤナギさんにリリカのことを話したあざみは、「リリカの絵を描いてみる、っていうのはどうかな」と思いつきます。言葉では届かなくても、絵なら伝えられるかもしれない。私が大好きだったリリカの笑顔を。ヤナギさんは「それ、すごくいいです」と目を細めました。
レグルス推し。周りからは「かっこいい優等生」に見える
「明るくみんなのリーダー」を必死に演じていた
あざみにリリカのアクキーを捨てろと迫る
リリカの本心とリップ事件の真相を語る
絵の見方を教え、あざみの世界を変える
この物語のむずかしさは、時間が前後することです。冒頭は小学五年生の回想、途中に中学生になってからのできごとが要約で挟まり、後半は現在の場面が続きます。設問の根拠を探すとき「これはいつの話か」を確かめる必要があります。まず場面の並びを整理しておきましょう。
上段があざみ、下段(緑)がリリカ。-=否定的な心情 / ±=動揺・転換点 / +=肯定的な心情
問一 傍線部①「こわばった顔」のときのあざみの気持ち5点
傍線部は、佐伯さんたちが去った直後、戻ってきたリリカに「リリカ、お疲れ様」と声をかける場面(50〜52行め)です。なぜ顔がこわばっているのか。その直前、あざみは「彼女たちの望む答えを出せなかったら、私はきっと、普通じゃなくなる。なんとか維持しているかりそめの普通からはじきだされてしまう」(36・37行め)と考え、「できなかったら、明日からどうなるかわかってる?」(30・31行め)と脅されて震えています。結局アクキーは捨てなかった(「そっか。ざんねーん」)のですから、佐伯さんの要求に従わなかったことで、明日から自分のクラス内での立場が悪くなるだろうという不安が顔をこわばらせているのです。
アの「佐伯さんたちとの友情が壊れた」は誤り。佐伯さんたちとは友情と呼べる関係ではありません。ウの「佐伯さんの期待には応えられないと告げた」は、あざみが「何も答えることができなかった」(42行め)と矛盾します。エの「リリカが佐伯さんからの嫌がらせを受けてしまうのではないか」は、この時点でのあざみの心配が「自分の心配でいっぱい」(58行め)であることと合いません。
問二 傍線部②「私は気づいた」のときのあざみの気持ち5点
傍線部の直後(55〜58行め)を丁寧に読みます。「リリカには絶対に言えないヒミツができてしまった。私は、佐伯さんにはっきり言うことができなかった。リリカの親友としてとうぜん言うべきだった『そんなことはできない』という言葉を、彼女たちに示すことができなかった。そして、それよりも。私の頭の中は、自分の心配でいっぱいになってしまっていた」。
ポイントは二つあります。一つは、親友として当然言うべきことを言えなかったこと。もう一つは、リリカのことより自分の身を案じていたこと。この二つを「後ろめたさ」としてまとめたエが正解です。あざみが後にリリカに「リリカのこと一度裏切って」(164・165行め)と言っていることも裏づけになります。
アの「佐伯さんたちに媚びて」は、あざみは媚びていません。イの「リリカを嫌う佐伯さんに味方するのと同じこと」もしていません。ウの「リリカに嘘をついてしまった」は、あざみはまだ嘘をついたわけではなく、「絶対に秘密にしておかなければならない」と思ってもいません。
問三 傍線部③ 相良さんはリリカについてどう考えているか5点
相良さんの発言を62行めから96行めまで拾い集めます。「ムリしてたよね。あざみも、リリカも」「たぶん自信なかったんだよ。あざみと一対一でいるのが」「地位っていうかキャラっていうか、そういうのを守るのに必死だった」「あざみに捨てられたくなかったんだと思う」「つりあってないっていうか」。これらを傍線部の「リリカがうちらに近づいたのは、たぶんあざみのため」と合わせると、リリカはあざみと親友のままでいたかったが、二人だけでいる自信がなかったので、無理して相良さんたちと付き合い、本来とは違う自分を作って、必死にあざみをつなぎとめようとしていた、となります。これがエです。
アの「段々と趣味の違いが明らかになって」、イの「タイプが全然違うあざみとはつり合わなくなってきた」は、相良さんの「つりあってない」を「二人が離れていった理由」として読みかえてしまった誤りです。相良さんは、つりあっていないのに仲が良かったのが意外だった、と言っているだけです。ウの「あざみと仲良しのままでいたかったが、あざみの心がリリカから離れていっていることを知って」は、リリカが離れていったのではなく、あざみを引き止めようとしていたのですから逆です。
問四 傍線部④ あざみがリリカを見ようとしなかった理由が比喩的表現で書かれた一文5点
「比喩的表現」がヒントです。133〜136行めに「リリカは、夜のカフェテラスを明るく照らしだす光じゃなかった。でも、私は心のどこかでそう決めつけてしまっていた。光であることを期待して、目の前のリリカをちゃんと見ようとしなかった。それがリリカを苦しめ、傷つけていたんだ」とあります。注にあるとおり「夜のカフェテラス」はゴッホの絵で、「光」は「自分の心を明るくしてくれる存在」という意味の比喩です。あざみは、リリカが「光」であることを期待したために、現実のリリカを見ようとしていなかった、と反省しています。「理由が書かれている一文」なので、「光であることを期待して、目の前のリリカをちゃんと見ようとしなかった。」を選び、はじめの五字「光であるこ」と答えます。
「リリカは、夜のカフェテラスを……光じゃなかった。」の一文を選んだ人もいたと思いますが、これは「リリカが光ではなかった」という事実であって、「見ようとしなかった理由」ではありません。設問の条件をもう一度読み直すことが大切です。
問五 傍線部⑤「うそ。何、それ」のときのあざみの気持ち5点
傍線部の直前で相良さんはこう言っています。「リップのとき、リリカ必死にアピールしてたのに、あざみはぜんぜん気づいてなかったじゃん? 流すみたいに『よかったね』とか言ってさ」「『黄昏色の約束』っていう色の名前が、大事な思い出につながってるんだって。あざみのほう見て言ってたのに。覚えてないの?」(104〜113行め)。リリカは、リップの名前を通して「約束」のことをあざみに訴えかけていた。それにあざみはまったく気づいていなかった。そのことを知って、あざみは愕然としているのです。ウが正解です。
アの「通り一遍の返答しかできなかったことを申し訳なく思っている」は、あざみにはそもそも覚えがないのですから、申し訳なさより先に驚きが来ます。イの「告げ口するように相良さんに頼んだことを知って」は、リリカが頼んだと聞かされるのは傍線部の後(114・115行め)なので順序が合わず、「激しい怒り」も感じていません。エの「そんなはずはないと訝しく思っている」は、あざみは疑っているのではなく、思い当たることがないことにショックを受けているのです。「愕然」は、非常に驚くこと。「訝しい」は、疑わしい、変だと思う、という意味です。語の意味も確認しておきましょう。
問六 傍線部⑥「そんな作戦」の内容A・B 各4点
作戦の中身は、傍線部の直前、117〜122行めの相良さんの説明にあります。「最後の賭けだったんだよ。あざみのせいにすれば、きっとあざみはリリカと二人きりで話して誤解を解こうとするだろうって。そのときに、『約束』のこともふくめてぜんぶ話そうと思ってるって」。
Aには「あざみのせいにする」の中身が入ります。何をあざみのせいにするのか。リップを学校に持ってきたことを先生に告げ口したのはあざみだ、ということにする。これがウです。アの「あざみがいまクラスで一人になっているのはあざみのせいだ」、イの「リリカが言いたいことを言えないのはあざみの責任だ」は本文にありません。エの「密告したのは相良さんだ」は、実際にはそのとおりなのですが、リリカが世間に対して見せた「作戦」の中身ではありません。
Bは、傍線部の直前から四字でぬき出します。「あざみはリリカと二人きりで話して」(120行め)の「二人きり」です。
問七 傍線部⑦「私、リリカに謝りたいの」 何を謝りたいのか(八十字以内)10点
傍線部の直後(140・141行め)に「ずっと、リリカに隠していることがあって。それと、『約束』のことも」とあります。謝りたいことは二つ。「隠していること」と「約束のこと」です。あとは、それぞれの中身を本文から埋めます。
- 隠していること 「佐伯さんにリリカのアクキーを捨てろって言われて、ちゃんと断れなかった。何も言えなかったの」(165・166行め)。佐伯さんたちに言われたことを断れなかったこと。
- 約束のこと 「小学校のときにした約束のこと。リリカはちゃんと果たしてくれたのに、私、気づかなかった」(157〜160行め)。リリカが約束を果たしてくれていたのに気づかなかったこと。
この二つを「〜こと。」の形で並べれば八十字に収まります。「約束」を「ヒミツを卒業までに言う約束」と説明する必要はありません。むしろ字数を圧迫するので、「小学校のときの約束」で十分です。片方しか書かなかった答案は半分の得点になります。傍線部の直後に「それと」という接続語があるのだから、答えも二つある。この感覚を身につけてください。
問八 傍線部⑧「私が学校に行けなくなったのはね」 その理由(七十字以内)10点
傍線部の直後(180・181行め)にリリカ自身の答えがあります。「あざみに、知られちゃったから。私がクラスで、ひとりぼっちだってこと」。まずこれが理由の核です。ただし、これだけでは「なぜ知られると学校に行けなくなるのか」がわかりません。184・185行めの「あざみには、知られたくなかった。あざみの中にいる私を、壊したくなかった」を足します。リリカは、あざみの中の「私」のイメージが壊れてしまったと思っているのです。
では、あざみの中のリリカのイメージとは何か。「だってリリカは、みんなのリーダーで」(78・79行め)、「夜のカフェテラスを明るく照らしだす光」(133・134行め)。明るくてみんなのリーダーである自分、という像です。これが「ひとりぼっち」という現実とぶつかって壊れた、とリリカは考えています。
- きっかけ クラスでひとりぼっちだとあざみに知られた
- リリカの思い あざみの中の「明るくみんなのリーダー」という自分のイメージが壊れてしまった
- 結果 つらくて学校に行けなくなった
「知られたから」で止めると、傍線部の言いかえにしかならず、大きく減点されます。「どんなイメージが」「どうなったと思ったから」まで書いてはじめて、リリカの気持ちを説明したことになります。
問九 傍線部⑨「リリカの絵を描いてみる」 あざみの思い5点
あざみがなぜ絵を描こうと思ったのか、順にたどります。リリカは「ぜんぶ、忘れて。私のことも」(186行め)と言い、あざみとの関係を絶とうとしました。あざみはそれを「壊れた自分を、完全に消しさってしまいたいと思ったんだ」(197・198行め)と受け止め、「壊れてなんかない。忘れるなんてこと、できるわけがない。そう伝えるためにはどうすればいい?」(198〜200行め)と考えます。そして217〜220行めで「私の中のリリカを形にして、壊れてないよって伝えられないかなって思ったの」「絵なら伝えられるかもしれない。私が大好きだったリリカの笑顔を」。
整理すると、自分の良いイメージが崩れたことがつらくてあざみとの関係を断とうとしているリリカに対し、大好きだったリリカの笑顔を絵に描くことで、あざみの中のリリカを形にし、良いイメージは崩れていないと伝えて、リリカとの仲を元に戻したい。これがエです。
アの「恥ずかしくてあざみに対して心を閉ざしている」、イの「あざみとの楽しかった思い出を絵に描く」、ウの「自分の良いイメージが壊れたことを気に病んであざみと絶交しようとしている」「理想のリリカ」「修復」あたりが本文と違います。特にウは前半がもっともらしいのですが、あざみが描くのは「理想のリリカ」ではなく「私の中に今もありありと残る、大好きだったリリカの笑顔」です。
問十 三人の生徒の話し合い1・2 各4点
1 生徒Aは「本当の自分と周りに見せている自分の間には、ずれがあった」ことを、生徒Bは「あざみについても」それがわかる表現を50行めまでから探そうと言っています。十七字。37行めに「なんとか維持しているかりそめの普通」があります。「かりそめ」は、その場かぎりの、一時的な、という意味。あざみは周りから「普通」に見えるように、その場かぎりの自分を作っている。これが「本当の自分と見せている自分のずれ」です。はじめの五字は「なんとか維」。「維」の一字で切れる形になるので、字数を数えたら必ず確認してください。
2 二人の関係を表す表現。リリカはあざみと二人きりでいる自信がなく、話すために遠回りな作戦まで立てました。あざみはリリカが必死にアピールしていたリップの話を聞き流し、光であることを期待して目の前のリリカを見ていませんでした。つまり、どちらも相手にきちんと向き合えていなかった。エです。この物語は、二人がそれぞれ「かりそめ」の自分を演じ、相手の本当の姿を見ようとしなかった話なのです。だから最後に、あざみは「絵」という形で、自分の中のリリカをきちんと見つめ直そうとします。
大問2 論説文 平賀緑『お金儲けしない経済学』
要旨 家事はなぜ「タダ」で「当たり前」なのか
文章は「あなたの家でご飯を用意してくれるのは誰ですか?」という問いかけから始まります。料理、片付け、掃除、洗濯という作業は、家事代行(ハウスキーピング)なら賃金がもらえる「仕事」なのに、結婚したら妻が無償でやって「当たり前」の「家事」にされてしまう。筆者はこの「奇妙さ」を、漫画『逃げるは恥だが役に立つ』の「それは”好き”の搾取です!」という台詞を引きながら示し、「普通」ってなんだろうと考えてみてください、と読者に呼びかけます。
本論では、この「主に女性の無償労働」を、生きるためにも経済的な生産を支えるためにも必要不可欠なのに、経済学者や政治家から見落とされてきた領域として取り上げます。家事は「ある程度代行してもらえる」ものではなく、相手を思って主体的にケアする人にしか気づけない「名前のない家事」が大量にある。それなのに賃金は出ず、タダだからと経済的価値がないと見なされてきた。
歴史をさかのぼると、近代以前は「生活のための生産」と「お金のための生産」がほぼ同じ場所で、家族みんなで分担して行われていました。産業革命以降、稼ぎを得る労働が家の外の賃労働として切り離され、必要品は「商品」として買うものになります。しかし家庭内の生産活動が消えたわけではない。労働力を生産・再生産する家事は、経済的な「生産活動」ではなく女性の領分として、無償労働のまま残されました。ナンシー・フレイザーの言葉を借りれば、資本主義はこの社会的再生産に「フリーライド(タダ乗り)」しながら、その価値を認めずに依存してきたのです。
結論として筆者は、自らが成り立つ基盤を使い倒す経済発展は持続できないと述べ、私たちがまともに「生きる」ために必要な労働や時間や精神的なゆとりの重要性を認識し直し、お金や経済的効率性とは異なる尺度で評価し直して、そこを再強化することが重要だと結びます。
問一 空らん1・2に入る言葉各3点
接続語の問題は、空らんの前後の関係を見ます。空らん1は「お金があれば、[1]家事を分担してくれるパートナーがいれば」(37・38行め)。二つの条件のどちらか、という関係なので、選択の「もしくは」が入ります。空らん2は「ある程度は代行してもらえる家事もあります。[2]実際には、……相手を思って主体的にケアする人でなければ気がつけない細かい作業が大量にあります」(38〜41行め)。代行できる家事もある、けれども実際には代行では間に合わない作業が大量にある、という逆接ですから「でも」です。
問二 傍線部②「お金と家事労働」の関係の「奇妙さ」とは(五十字以内)12点
傍線部②の「お金と家事労働」の関係は、傍線部①「その奇妙さ」(14行め)を受けています。奇妙さの中身は①の直前、10〜13行めに書いてあります。「料理、片付け、掃除、洗濯という同じ作業が、ハウスキーピング(家事代行)なら賃金がもらえる『きちんとした』『仕事』なのに、結婚したら妻が無償でやって『当たり前』な『家事』にされてしまう」。
鍵になる語は「同じ作業」「家事代行なら賃金」「結婚したら妻が無償で」「当たり前」の四つです。「同じ作業なのに、片方はお金がもらえて、片方はタダで当たり前」という対比を五十字に圧縮します。『逃げるは恥だが役に立つ』のストーリーを説明し始めると字数がなくなります。あくまで「奇妙さ」の説明であって、作品の紹介ではありません。
問三 空らんA・B・Cに入る言葉(文章中から指定字数)各3点
問題文は「主に女性によって担われてきた家事労働は、生きるためにも経済的な生産を支えるためにも[A]なものであるにもかかわらず、[B]であると見なされ、経済学や政策の場でもほとんど議論されてこなかった。[C]がないと考えられて」という文です。それぞれ本文の該当箇所を探します。
- A(五字) 26・27行め「生きるためにも、経済的な生産を支えるためにも、必要不可欠なのに」。「必要不可欠」。
- B(十四字) 54・55行め「経済学からも政策からも無視され、家庭内で個人が勝手に行う行為とされてきたのです」。「家庭内で個人が勝手に行う行為」。
- C(五字) 47・48行め「賃金は出ないし、タダだからと経済的価値がないと見なされて軽く考えられることも多い」。「経済的価値」。
問題文の言い回しが本文とほぼ同じなので、「経済的な生産を支える」「議論されてこなかった」という語句を手がかりに本文へ戻れば見つかります。Bは「経済学や政策」の直後にあると気づけるかどうかです。
問四 傍線部③「次世代の労働力を再生産する」とは(三十三字でぬき出し)7点
「次世代の労働力」とは子どものことです。「再生産」とは、生産が途切れずに繰り返されること。つまり「次世代の労働力を再生産する」とは、子どもを産み育てて、将来の働き手にすることです。この内容を具体的に述べた三十三字の「〜こと」を探すと、69・70行めに「子どもを産んでその後何年間もその世話をして将来働く大人に育て上げる」があります。「子どもを産んで」から「育て上げる」までで三十三字。はじめの五字は「子どもを産」です。
この箇所の前には「現在と次世代の労働力を再生産しながら」とあり、「夫の衣食住の世話をして毎日元気に仕事に送り出し」が「現在の労働力」、「子どもを産んで……育て上げる」が「次世代の労働力」に対応しています。「現在」と「次世代」の対応関係に気づくと、ぬき出す範囲が正確に決まります。
問五 傍線部④「生活のための生産と、お金のための生産」1は6点、2は各1点
1 二つの生産について正しく説明したものを選びます。本文の流れはこうです。近代以前は「家族が食べて生活するための労働も生業としての労働も、ほとんどが自分の家や土地で、男・女・子ども・老人も含めてみんなで分担して働いていました」(74〜76行め)、「ほぼ同じ場所で行われていた」(77・78行め)。産業革命以降は「稼ぎを得るための労働の多くが家の外で、生活とは切り離された場所におけるまったく別の賃労働として行われるようになりました」(80・81行め)。そして「家庭内における女性の領分として、家事は無償労働として残され」(95・96行め)た。これをそのまま述べたイが正解です。
アの「男女によって役割を分けて行われており」は、近代以前はみんなで分担していたので誤り。ウの「お金のための生産だけが重視されていた」も本文にありません。エの「常に別々の場所で、異なる階級の人々によって」は、近代以前は同じ場所だったので誤りです。
2 文章中の波線ア〜オを、A「生活のための生産」とB「お金のための生産」に分けます。図5の対比構造図に当てはめてください。
- ア 稼ぎ = 収入、お金のこと → B
- イ 社会的再生産 = 子育てや家事など、労働力を生産・再生産する営み → A
- ウ 経済的 = お金や社会の仕組みに関わること → B
- エ ケア労働 = 家事や子育てや介護など、相手の世話をする労働 → A
- オ 資本主義システムが『生産的』と呼ぶ労働 = 経済的価値を認められる労働 → B
「社会的再生産」という言葉は難しいですが、97〜101行めで「無償労働で食事を与え、世話をし、社会的絆を育む活動」「女性たちが負担している社会的再生産」と言いかえられています。本文の言いかえを追えばAだと判断できます。
問六 傍線部⑤「ナンシー・フレイザー」の考えと合わないもの6点
フレイザーの考えは97〜107行めにあります。資本主義は、主に女性による無償労働に「フリーライド(タダ乗り)」しながら、社会的再生産を経済的生産から切り離し、その重要性と価値を認めず、感情論にすり替えて、無償もしくは低賃金に留めつつ依存してきた。「ケア労働は資本主義システムが『生産的』と呼ぶ労働を生み出すが、ケア労働そのものは皮肉にも『非生産的』と見なされる」という矛盾。「切り離し、依存しながら、否認する」。
ここで「タダ乗り」している側は資本主義(経済的生産の側)で、タダ乗りされているのが社会的再生産です。ウは「社会的再生産が経済的生産に『タダ乗り』する構造」となっていて、主客が逆転しています。これが合わないものです。ア・イ・エはいずれもフレイザーの指摘と一致します。「合わないもの」を選ぶ問題では、設問を読み違えて「合うもの」を選んでしまうミスが毎回出ます。設問文に線を引く習慣を。
問七 筆者の考えに合うものを二つ7点
結論部分(119〜130行め)と、本論3の「持続可能」の話(106〜110行め)が根拠です。
- ア 「誰もがまっとうに生きられる社会を実現させるためには、経済的効率性に縛られない労働や時間や精神的ゆとりを評価し直すことが重要だ」。127〜130行め「まともに『生きる』ために必要な労働や時間や精神的なゆとりが必要なのだと、その重要性を改めて認識し、お金や経済的効率性とは異なる尺度で評価し直し、そこを再強化することが重要でしょう」と合致。
- オ 「生活と経済活動を支える労働を経済的生産から切り離して否認することで自らの基盤を切り崩すような構造を改めなければ、これからの経済は立ち行かなくなるだろう」。106〜110行めの「切り離し、依存しながら、否認する」「自らが成り立つ基盤を使い倒していては……行き詰まって当然でしょう」と合致。
イは「戦後の高度経済成長を支えたが、これによって国民の生活の質が向上した」が誤り。筆者は男性も会社に縛りつけられ(58・59行め)、女性も消耗する無償労働を担わされてきた(45〜48行め)と述べており、生活の質が向上したとは言っていません。ウの「家事の中でも最も重要なこの仕事」という順位づけは本文にありません。エは前半は本文どおりですが、「この認識がようやく今広まってきていることは手放しで喜びたい」が誤り。筆者は123〜125行めで、自然環境や家事をビジネスに取り込んで「商品化」する動きも少なくないので「要注意」だと警戒しています。手放しでは喜んでいないのです。
大問3・4 知識問題 秋に固めておきたい語
大問3 問一 四字熟語の誤字訂正各2点
- 1 意味深重 → 「重」を「長」に直して「意味深長」。表面の意味の裏に深い意味がかくされていること。
- 2 公平無視 → 「視」を「私」に直して「公平無私」。私情をはさまず、公平であること。
- 3 晴天白日 → 「晴」を「青」に直して「青天白日」。心にやましいことがまったくないこと。疑いが晴れること。
- 4 心気一転 → 「気」を「機」に直して「心機一転」。あることをきっかけに気持ちがすっかり変わること。
いずれも「音は同じで意味の違う漢字」に置きかえられた誤字です。「意味深長」の「長」は「深長=奥深い」、「心機一転」の「機」は「心の動き」。意味から漢字を決められるようにしておきましょう。
大問3 問二 対義語各2点
- 1 分析 ⇄ 総合(エ)
- 2 義務 ⇄ 権利(イ)
- 3 形式 ⇄ 内容(オ)
- 4 応答 ⇄ 質疑(カ)
「分析と総合」は論説文の頻出語でもあります。「応答」の対義語が「質疑」であることは「質疑応答」という四字熟語から思い出せます。
大問4 漢字の書き取りと読み各1点
- 1 満潮 明日のマンチョウの時刻を調べる
- 2 居心地 この喫茶店は、とてもイゴコチが良い
- 3 退治 桃太郎は仲間を連れて鬼タイジへ向かった
- 4 英気 ゆっくりと温泉につかり、エイキを養う
- 5 反旗 彼は正義を貫くため、王にハンキを翻した
- 6 秒針 静かな部屋で時計のビョウシンの音だけが聞こえる
- 7 縦 説得を試みたが、彼女は首をタテに振らなかった
- 8 かどで 卒業する先輩たちの門出を盛大に祝う
- 9 のうり 兄と喧嘩した日の記憶がふと脳裏をよぎった
- 10 ゆだ(ねる) 現場の状況に応じた判断を部下に委ねる
「英気を養う」「反旗を翻す」「首を縦に振る」「脳裏をよぎる」は、慣用表現ごと覚える語です。「居心地」は「居」の字を「井」「以」と書かないように。「門出」は「もんで」ではなく「かどで」。「委ねる」は「委員」の「委」で「ゆだねる」と読みます。
大問4 1 満潮 2 居心地 3 退治 4 英気 5 反旗 6 秒針 7 縦 8 かどで 9 のうり 10 ゆだ(ねる)
二つの文章が響き合うところ
大問1は、親友の「本当の姿」を見ようとしなかった二人の物語です。あざみはリリカを「光」だと決めつけ、リリカは「みんなのリーダー」というキャラを必死に演じました。互いに「かりそめ」の像を見ていたから、リップの名前に込めた思いも、消しゴムに書いた「好き」も、届かなかった。
大問2は、家事という「当たり前」の裏にある労働を見ようとしなかった経済の話です。「名前のない家事」は、その場にいて相手を気にかけている人にしか見えません。経済学は「経済人」という像を見て、その基盤にある生活を見落としてきた、と筆者は言います。
どちらの文章も、「見えているつもりのもの」の裏側に、本当は大切なものがあると教えています。あざみは絵を描くことで、リリカを改めて見つめ直そうとします。筆者は「普通ってなんだろう」と考えてみてほしいと呼びかけます。合不合の帰り道に、家でご飯を用意してくれる人のことを、ほんの少し思い出してみてください。
この回から持ち帰るべき3つのこと
- 記述は「傍線部の直後」と「離れた根拠」を組み合わせる 大問1の問七は直後の「隠していること」「約束のこと」を骨組みにして、中身を165行めと157行めから取ってきます。問八も直後の「ひとりぼっちだと知られた」に、184行めの「あざみの中の私を壊したくなかった」と78行めの「みんなのリーダー」を足してはじめて満点です。直後だけで書き終えていないか、見直しの時間に確かめましょう。
- 選択肢は「一か所だけ違う」ところを探す 大問1の問三のア・イ、問九のウ、大問2の問六のウ、問七のエは、前半がもっともらしく、後半や一語だけが本文とずれています。「なんとなく合っている」で選ばず、本文と照らして「ここが違う」と言えるまで消去する練習を続けてください。
- 対比の軸を先に決めてから設問に入る 大問2は「生活のための生産」と「お金のための生産」の二本立てが決まれば、問五の2は語を振り分けるだけ、問六は「どちらがタダ乗りしているか」を確かめるだけになります。論説文は、読みながら対比の両側にあたる言葉に印をつけていく習慣をつけると、後半の設問が速くなります。
