2026年2月4日(水)に実施された浦和明の星女子中学校 第2回入試の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。大問一は小野純一さんの『僕たちは言葉について何も知らない』からの説明文、大問二は行成薫さんの「サンクス・ギビング」からの物語文。「わかり合えないのはなぜか」「自分には価値がないと思い込んでしまうのはなぜか」という、まったく別の入口から同じ場所へ届く二題でした。お子様の復習にぜひお役立てください。
出題構成と全体講評
- 試験時間は50分、100点満点。大問は二題で、いずれも本文が長く、設問数も多い構成です。時間配分の練習をしてきたかどうかが、点差につながりやすい構成です。
- 大問一は説明文。小野純一「僕たちは言葉について何も知らない 孤独、誤解、もどかしさの言語学」からの出題です。漢字、語句補充、十字抜き出し、記号選択に加え、最後の問9では新聞コラム《資料》と生徒の会話文が示され、そこに四つの空欄を埋めていく形式が採られました。
- 大問二は物語文。行成薫「サンクス・ギビング」(『おいしい季節がやってくる。』所収)から、パセリ農家に生まれた野村千秋が、取材先のフレンチレストランで自分の実家のパセリと再会する場面が出題されました。設問は問1から問10まで。最後は本文全体をふまえた記述問題です。
- 今年の浦和明の星は、抜き出しの指定が細かいのが特徴でした。「〜で始まる段落から〜で始まる段落までの本文中から」と探す範囲が区切られ、さらに「十四字を抜き出して始めの七字を答える」という形式も登場します。ここで指示を読み飛ばすと、内容が合っていても得点になりません。
- 選択肢は、本文にない一語だけを混ぜて作られたものが目立ちました。「後悔している」「反感を覚えた」「生かされている」など、それらしい言葉ほど本文に根拠がありません。二回読みが効くセットです。
なお大問一の小野純一『僕たちは言葉について何も知らない』は、前日の2月3日に行われた海城中学校第2回入試でも出題されています。同じ本が二日続けて別々の学校で使われたことになります。今年おさえておきたい一冊です。
大問一 説明文 小野純一『僕たちは言葉について何も知らない』
本文の骨格
本文は「理解できないことを『ピントがズレる』といいます」という一文から始まります。筆者はこの「ピント」「解像度」「フォーカス」という写真の比喩を使って、言葉が伝わらない仕組みを説明していきます。ブドウの房と粒のたとえが冒頭に置かれているのは、同じ「ブドウ」という一語でも、房全体を思い浮かべる人と、粒のひとつに注目している人がいる、ということを示すためです。
ただし筆者は、そこで話を終わらせません。解像度やフォーカスの違いなら、説明すればすり合わせができる。それでもなお伝わらないものがある。ここからが本文の中心です。
→ 説明すればすり合わせ可能
→ 説明しても解消しない=もどかしさ
筆者が最も強く警戒しているのは、「共感」という言葉の使われ方です。共感能力が高いとされる人ほど、相手の話を自分の経験に当てはめて受け止め、「わかる」と言ってしまう。しかしそれは相手の心ではなく、自分の心に感動しているだけではないか。筆者はそう問いかけます。ここが本文最大の対比です。
問1 漢字の書き取り
aの「ボゴ」は母語。生まれ育つ中で自然に身につけ、最初に使えるようになった言葉のことです。bの「ハカる」は量る(測る)。ここでは「推しはかる」で、相手の気持ちを推量する、推測するという意味で使われています。「図る」「計る」ではないことに注意してください。
問2 空欄Aに入る語
キテン・ゲンテン・ヨウテン・リテンの四つから選び、漢字に直す問題です。空欄Aは「[ A ]がズレると、当然、意味が伝わりません」という文脈にあります。意味が伝わらないのは、相手に伝えようとしている中心部分、つまりこれがわからなければ全体がつかめないという核心がずれているからです。よって「要点」。
問3 傍線部①「それができないとき」
(1)は十字抜き出しです。「それ」が指すのは、直前の「明瞭な映像を概念(意味)として描き出せること」。それができないときとは、話し手と聞き手が思い描いているものにずれがあるときですから、「イメージしているもの」が入ります。指示語の指す内容を先に確定してから空欄の文に戻る、という手順どおりに解ける問題です。
(2)は「適切でないもの」を選ぶ問題。ここが大問一の第一関門でした。アの「五キロ」、ウの「やぶさかではない」、エの「砂糖」は、いずれも言葉が指すイメージが結べていない例です。ところがイの「今すぐ帰って来なさい」は、母の言葉の意味そのものは理解できています。わからないのは帰るための手段であって、言葉の意味ではありません。意味は通じているのに困っている、という点で他の三つと質が違います。
問4 空欄Bに入る擬態語
傍線部②「もどかしさ」を表すカタカナ四字の擬態語。心の中にわだかまりが残り、すっきりしない状態を表す語ですから「モヤモヤ」です。本文でも直後に「概念(意味)の映像がモヤっとして」という表現が使われており、そこがヒントになります。
問5 傍線部③「〈共有〉の問題」の説明
傍線部の直後に「このような共有が〈公共〉と〈個人〉を包みこむ領域」とあります。これは、言語行為では〈個人的な経験〉に染まった意味と、人々に積み重ねられてきた〈社会的な文化〉の意味とが重なり合っている、という説明を受けた部分です。したがって、〈公共〉と〈個人〉それぞれの言葉が表す概念にずれやすれ違いがあるとき、コミュニケーション障害が起こる、というのが〈共有〉の問題です。
問6 傍線部④「なぜ〜感じるのでしょう」への答え
探す範囲が「ここで『解像度』だけでは〜」で始まる段落から「自分とあなたとは違う、〜」で始まる段落までと限定された四字抜き出しです。筆者は、相手の心や感情や気持ちを「自分の心」として理解してしまうために、共感しているようでいて実際には自分の心に感動しているだけになる、と述べています。ここが答えです。
問7 傍線部⑤「共有の問題として語る」ためには
傍線部の直後に、自分の経験から語ることをやめる必要がある、と書かれています。相手の話を自分の経験に当てはめて受け止めるのではなく、自分をまっさらな状態にして相手の状態を映すこと。それが理解の始まりだ、というのが筆者の主張です。
問8 空欄C・Dの組み合わせ
Cは、しっかり組み立てられた言葉(概念)によって立つとき、私たちは事柄や物事がはっきりしたと思う、という文脈に入ります。いろいろな物事から共通の要素を取り出して一般化するのが「抽象的」。一方Dは経験の側で、個々の事物に即していて、はっきりした実体を備えている「具体的」が入ります。経験は具体的だからこそ、そのままでは明確に伝わらない。この逆説がつかめているかを試す問題です。
問9 《資料》と生徒の会話
《資料》は朝日新聞デジタル「折々のことば」3344(鷲田清一、2025年2月20日)で、歌人・川野里子さんの言葉が引かれています。共感のやり取りでは言論が育たず、磨かれていかない。今の人は他人と密着するようなコミュニケーションツールに馴染みすぎ、批評すれば傷つけるのではないかとびくびくしている。だが批評は攻撃でも共感でもない。互いに錬磨しあう過程を回避して、小さな共感の「島宇宙」に閉じこもるのは危うい――そういう内容です。
- (1) 星子さんは「共感」することを《資料》の表現で言いかえています。《資料》で共感にあたる行為として書かれているのは、他人と密着すること。五字抜き出しです。
- (2) 「島宇宙」にいると出会うことが少なくなる意見とは、自分と同じではない意見、つまり異質な意見です。漢字二字で自分で考えて答えます。
- (3) 本文中から漢字二字。筆者は、言葉をとおしてはじめて私たちは他者としっかり結びつくことができ、対話によってしか〈個人〉は〈公共〉に到達しないと述べていました。
- (4) 《資料》と会話文に共通して入る語。「錬磨」は繰り返し修行することで学問や技芸、心身などをきたえあげること。互いに錬磨しあうとは、共感のやり取りで終わるのではなく、互いの立場を批評しあって言論を育てていくことです。
大問二 物語文 行成薫「サンクス・ギビング」
本文の状況
主人公は野村千秋。パセリ農家に生まれ育ちました。高校時代、カフェで好きな男子から、皿の上のパセリを指して「ただの飾りっしょ?」「裏で使い回ししてんだぜ。きったねえよ」と笑われます。家がパセリ農家であることを言えないまま、その一言は千秋の中に居座り続けました。
千秋は「生まれ育った町のせいで自分は世界の中心になれない」と考え、東京の大学へ進学し、そのまま就職します。しかし都会でも世界の中心にはなれない。パセリのような付け合わせにすらなれていない、無価値な存在ではないか。その空虚さを抱えたまま、大人になりました。
転機は仕事でした。テレビ番組の取材でフレンチレストラン『ラ・モワッソン』を訪ねた千秋は、その店で使われているパセリが実家の「野村農園」のものだと知ります。オーナーシェフのクロエさんは、千秋の両親が育てたパセリを主役にした料理を作っていたのです。
パセリ農家の娘
この土地で農業を始めた
野村農園のパセリを使う
パセリを「ただの飾り」と笑う
-=否定的な心情 / ±=動揺・転換点 / +=肯定的な心情
問1 漢字の読み
aの「脂」は「あぶら」。主に動物性のあぶらを指し、常温で固形のものを表します。音読みは「シ」で、「脂質」などの熟語があります。bの「名残」は「なごり」。あるものごとが過ぎ去った後に残る気配や余韻のことです。どちらも訓読み・熟字訓の定番です。
問2 傍線部①「千秋が唖然としている」ときの状態
「唖然」は、思いがけないできごとに驚き、あきれて言葉も出ないようすを表します。千秋にとってパセリは家族が丹精込めて作るものでした。それを「ただの飾り」「裏で使い回ししてんだぜ」と言われる。自分がこれまで持っていた認識とまったく異なることを突然ぶつけられ、とっさに反応できないでいるのです。
問3 傍線部②「彼のその言葉は、まだ千秋の腹の奥底に残っている」
ここは、高校に入って世界が広がるにつれ、現実を知れば知るほど自分の存在の小ささが悲しくなっていた、という千秋の心情をおさえるところです。パセリは千秋自身を象徴する存在でした。そのパセリを、よりによって好きな男子から「食いもんの飾り」と笑われた。その一言は、自分も無価値な人間だと考えるしばりになり、わだかまりとして大人になってもずっと心に残り続けたのです。
問4 傍線部③「パセリにもなれていないんじゃないか」
傍線部の内容を説明した文の空欄補充です。「千秋は自分のことを【ア】になれなかったばかりか『付け合わせ』にすらなれていない【イ】な存在であると思うようになり、空虚さ、つまりは【ウ】を覚えている」。
アは五字抜き出し。千秋は世界の中心になれないと考えていました。イは三字抜き出しで、パセリにすら到底なれないほどの「無価値」な人間でしかなかった、という本文の表現がそのまま入ります。ウは自分で考えるひらがな四字。直前に「空虚さ、つまりは」とあるので、空虚を言いかえた言葉、すなわち「むなしさ」です。中身が何もなく、価値がないと感じてしまう心の状態を指します。
問5 傍線部④「□を食らう」
悪いことをして目上の人からひどく怒られる、という意味の慣用句です。漢字三字で「大目玉」。「大目玉を食らう」で覚えます。慣用句は意味だけでなく、どの動詞と結びつくかまでセットで暗記しておきたいところです。
問6 傍線部⑤「この猪と〜と千秋は思った」
クロエから「あなたがこの世界に生まれてきてくれたことを、ワタシはいつも神に感謝しています」と言われた場面です。千秋は、自分が生まれてきたのは自分の意思でも手柄でもなく、感謝されるようなことは何一つしていないと感じています。その点で、撃たれて料理の一部となった猪と自分は同じではないか、と考えたのです。自分の手柄ではないのに感謝される。その戸惑いがこの一文には表れています。
問7 傍線部⑥「嬉しい」(適切でないもの)
千秋が嬉しいと感じている対象は、クロエや両親をはじめとする人々、食材となった猪やパセリ、そして自分が生まれたこの地の自然です。取材が考え方を改めるきっかけになったのは事実ですが、多くの人が注目したことが直接の理由で嬉しかったわけではありません。ここが「適切でないもの」になります。
問8 傍線部⑦「野村農園の娘だ、とわかっていた」
抜き出しの形式に注意が必要な問題でした。アは十四字、イは十五字を抜き出したうえで、答えるのはその始めの七字です。字数を数えて満足せず、設問の最後まで読みましょう。
アは、千秋が生まれたからこそ両親がどうしたか。両親はもともと都市部で働く会社員でしたが、千秋が生まれるのをきっかけに、この土地にきて、農業を始めました。イは、そこでできたパセリがあったからこそクロエがどうできたか。クロエは一流料理人が認めるほどの品質のパセリと出会い、本当に作りたかった料理を作れたと話しています。
ウは自分で考える漢字三字。クロエは、千秋の存在もパセリの存在も自分の料理になくてはならないものだと伝えようとしています。よって「不可欠」。
問9 傍線部⑧「母は〜潤ませていた」ときの母の心情
千秋はかつて、自分の存在の小ささをすべて生まれ育った町のせいにして、「捨てられるだけのゴミを一生懸命作る人生なんかいやだから」と大口をたたいて地元を離れました。その娘が久しぶりに帰ってきて、「食べたんだ、パセリの料理」「おいしかった。びっくりするくらい。パセリが主役だった」と、パセリの価値を認める言葉を口にしたのです。母が涙ぐんだのは、この感慨深さゆえでした。
問10 記述 千秋の自分自身に対する考え方の変化
「本文全体をふまえ、千秋の自分自身に対する考え方の変化を、パセリに対する認識の変化と関連付けて説明しなさい」という条件付き記述です。書くべき骨組みは三つあります。
- 変化前 パセリはただの飾り、捨てられるだけのゴミ → だから自分も両親も故郷も無価値だ
- きっかけ パセリが主役になったクロエの料理と出会う → パセリのすばらしい価値を知る
- 変化後 わだかまりが解け、自分も生きていてよかったと思える → 家族の中に自分の存在を認める
ポイントは、パセリの価値と自分の価値が最初から最後まで連動している、という一点です。パセリを見下していたときは自分も見下していた。パセリの価値を認めたときに、自分の価値も認められた。この連動を書き落とすと、条件を満たしたことになりません。
二つの文章が響き合うところ
大問一は「わかったつもり」の危うさを説く説明文、大問二は「自分には価値がない」と思い込んだ女性の物語です。一見すると別々のテーマですが、どちらも同じ場所を指しています。
千秋は高校時代、同級生の一言を自分の全存在への評価として受け取ってしまいました。相手が言ったのは皿の上のパセリのことだけです。それを自分の家、自分の故郷、自分自身の価値の話へと拡大して受け止めた。大問一が論じている場面そのものではありませんが、自分の思い込みを通して相手の言葉を受け取ってしまう危うさ、という点では重ねて読むことができます。
一方クロエさんは、千秋に共感を示したのではありません。パセリという具体的な食材の価値を、料理という形で示しました。感情の共有ではなく、意味の共有です。だから千秋の思い込みは、慰めではなく事実によって解かれました。大問一の筆者が、共感ではなく対話が必要だと述べたこととも、重ねて考えることができます。
入試問題としては別々の大問ですが、二題を関連づけて復習してみると、それぞれの理解が深まります。読み終えたあとに、二つの文章を並べて話し合ってみてください。
ご家庭での復習ポイント
- 抜き出し問題は、設問の最後の一文まで指さし確認をしましょう。今年は「十四字を抜き出して始めの七字を答える」「〜で始まる段落から〜で始まる段落までの中から探す」という指定がありました。内容が合っていても形式で失点するのが最ももったいないところです。
- 選択肢は二回読みます。一回目は本文と合っているかどうか、二回目は言いすぎていないかどうか。今回の誤答は「後悔している」「反感を覚えた」「生かされている」など、感情語や評価語を一つだけ足して作られていました。感情語が出てきたら本文に根拠を探す癖をつけてください。
- 物語文では、傍線部の近くだけでなく、その人物が過去に言われた言葉まで戻る習慣が要ります。問3も問9も、根拠は高校時代の回想と、地元を出るときの一言にありました。
- 説明文では、筆者が危険だと言っているものと、代わりに勧めているものを二列に整理しながら読みます。今回なら「共感・感情移入」と「共有・対話」。この対比が見えていれば、問5・問7・問9を一貫した考え方で解きやすくなります。
- 語句は、意味と結びつく動詞までセットで覚えましょう。「大目玉を食らう」「やぶさかではない」「名残」など、今年も語彙の力がそのまま得点に直結しています。
