こんにちは。某大手塾国語科講師兼管理職のヨッシーです。今回は共学校最難関 「 渋谷幕張 」中の2022年国語の第1回入試問題解説です。
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渋谷幕張と言えば共学最難関。教育方針に掲げられた「自調自考」(自らの手で調べ、自らの頭で考える)が反映された入試問題はかなりの難易度の高さです。
さて、終わったばかりの2022年度第1回入試、前年より少し解きやすい印象がありますが皆さんいかがでしょうか。とはいえ記述・選択・語彙問題いずれもレベルが高く今回も苦労された子が多いと思います。さてどのように考え、対策をすればよいでしょうか。一緒に見ていきましょう。
問題は四谷大塚さんのHP(↓コチラ)から入手可能です(会員登録が必要です)。
https://www.yotsuyaotsuka.com/chugaku_kakomon/
「ものいへば唇さむし秋の風」という有名な芭蕉の句を題材に「ものいい」について考える文章です。馴染みのない言葉が所々に出てくると思いますが、テーマとしてはつかみやすい題材ではないでしょうか。難しい言葉にとらわれず、全体像を把握することを意識し、大切なところを漏らさず丁寧に読むように心がけたいです。
記述が多いですが、ほとんど本文中の表現を利用して書ける内容です。まとめ・意見にあたるような部分には線を引きながら読み進め、記述に使える表現を後で見つけやすくしておくことも重要なポイントです。
a:余(り)
b:はなは(だ)・・・「甚」は常用漢字でやや難しいですね。甚大(じんだい)、激甚(げきじん)などの熟語も知っておくと良いかもしれません。
c:率直
空欄補充問題。まずは空欄を含む一文を確認しましょう。
本文:そういう【X】的な話し方の他に私的なもののいい方についても工夫が必要であろう。
まず指示語の内容を確認します。少しわかりづらいですがかなり広い範囲を指します。「地位の上の人に対して~尊敬をもって話」すこと、を指します。「社会には常に秩序が無くてはならぬ」などの表現も参考にします。
これらを参考に空欄【X】のあとの「私的」の対義語が入りそうであると考えます。
解答:私
傍線①「私は沈黙の偉人などというものを信用しない」について筆者がそう考える理由を答える。
まずは傍線①の「沈黙の偉人」とは何を指しているのかを整理しましょう。直前の一文「平常ものをいわぬ人が~鹿爪らしくしゃべっただけ」およびそのさらに前の一文「ものを余りいわぬことを偉人になくてはならぬ性質のように考えたのは間違い」などの表現が関係ありそうです。
【沈黙の偉人】=【ものをいわぬことで偉いと考えられている人】
であることがわかります。
筆者はこれに対して否定的。設問にある通りこのような人を「信用しない」と述べています。では、「信用しない」理由に該当しそうな個所を探していきます。
【信用しない理由に関する記述】
A:平常ものをいわぬ人が~馬鹿げきったおことを鷹爪らしくしゃべっただけだった
B:不言実行という言葉もあるが、それが不言不実行にすりかえられていることが多い
C:不言実行などというのは社会的に責任を取るまいとすることであって
本文中の該当要素をできるだけもれなく盛り込んで減点要素を減らすことがポイントです。上記3つの用をうまく埋め込んでください。
記述問題は書き始める前に解答方針(大まかな解答の形)を決めておきます。今回の場合、上記A~Cの要素を【「C」なので「A」や「B】だから。】という形でまとめるのが良いでしょう。
解答(例):平常ものをいわない人は社会的に責任をとるまいとしており、そういう人が言うことは馬鹿げていたり、実行されなかったりするから。
傍線②「人の発言を封じる言葉むやみに多い」についての説明として正しいものを選択する問題。
ア:「おそろしい社会だということ」・・・フランスでは人の発言を封じるのは人権蹂躙と考えられていると表現されているが、筆者は日本社会が「おそろしい」社会であるとまでは言っていないので×
イ:「フランスでは使われない」・・・人権蹂躙と考えらえれているが「使われない」とまでは言っていないので×
ウ:「西洋より気を付けて発言する習慣」・・・人の発言を封じる言葉が多いが「気を付けて発言する」とは言っていないので×
エ:「勝手気ままに喋り散らしてまう」・・・そのような記述はない。また「発言を禁止する」・・・発言を封じるとあるが「禁じる」とまでは言っていない。従って×。
オ:○
解答:オ
傍線③「王侯の前に膝を屈するが心は屈しない」とはどのようなことかを書かせる問題。「どのようなこと」と問われたら言換え問題。
【ワンポイントアドバイス】
言換えの記述問題の解法
①部分ごとに比喩や慣用表現、抽象的・具体的な表現を一般的なわかりやすい言い方に変える。
②できるだけ本文から使える表現を探して答案に盛り込む
「王侯」・・・「地位が上の人」(本文)
「膝を屈する」・・・「尊敬をもって話」す(本文)
「心は屈しない」・・・「自分の所信をまげたり、卑屈になったり」しない(本文)「話されることについてはあくまで平等の立場でありたい」(本文)
これらを組み合わせて解答を作成します。
解答(例):地位が上の人に対して尊敬をもって話しながらも、自分の所信をまげたり、卑屈になったりすることなく、あくまで平等の立場でいようとすること。」(68字)
傍線④「真に良き社会を作ろうと思うならば、ものいいという一見些細なしかし本当は大切なことを、ここでよく考えなおしてみる必要がある」について筆者がなぜこのように主張するかを考え、書かせる問題。
傍線④のポイントを絞って考えると「良い社会をつくる」ために「ものいいをしっかり考える」必要があるとなりそうですね。つまり赤字の2つのポイントが重要。
この理由と関連がありそうな本文の表現を探します。もちろん、「本文全体の内容をふまえて」とありますので傍線④から離れた個所も気を抜かずに点検します。
【ワンポイントアドバイス】
渋幕の国語の問題は「本文全体の内容をふまえて」をいう但し書きが入ることが良くあります。傍線や空欄部の近くだけを読んでいるとミスをしてしまいます。文章の冒頭から設問と関係のある部分だけを短時間で見つける「流し読み」の練習をしておく必要があります。
A:「こんな句の真実性がぴったりとわかるような人間が稀になってゆくのでなければ、日本の社会が良くなったとは言えぬのだろうと。」(P.1)
B:「人間だけがものをいう。この天賦の機能を正しく用い、またこれを楽しまぬというのは間違いである。」(P.1)
C:「各人が平等であり、また各人が人生を楽しむということがデモクラシーの目的であり~」(P.3)
これらを材料に解答方針(大まかな形)を決めます。 ⇒「【B】によって【C】することが【A】と考えるから。」 これが解答の中心になるかと思います。
解答(例):ものいわぬ人を偉人と考えるのではなく、人間だけが持つものいいという機能を正しく用いることで各人が平等で人生を楽しむことができてこそ良い社会だと考えているから。
本文(全体)の内容と合致する分を選択させる問題。
ア:「(芭蕉の句を)高く評価している」・・・「私はこの句を好まない」、と明確に述べているため×
イ:「(芭蕉の時代は)ものいいをよしとするような時代性」・・・逆。「彼をしてかかる句を吐かしめた時代の矮小さ」とあるのでものいいは良しとされていないと判断できるだめ×
ウ:「理解してもらいやすい発言~会社の空気が良くなる」・・・社会に秩序が必要だとは述べているが会社の空気が良くなるかどうかは別問題。特に触れていないので×
エ:○
オ:「西洋に比べて民主主義を達成しづらい」・・・日本が封建で気であるという記述があるが民主主義が達成しづらいかどうかは別問題。特に触れていないので×。
解答:エ
ア:正岡子規× 季語:柿(秋)
イ:松尾芭蕉○ 季語:蛙(春)
ウ:与謝蕪村× 季語:菜の花(春)
エ:小林一茶× 季語:名月(秋)
オ:与謝蕪村× 春の海(春)
解答:イ
漢字の書き取り。
a:興(醒め)【やや難】・・・面白みがなくなること。
b:意外
c:破顔【やや難】・・・顔をほころばせること。四字熟語「破顔一笑」(顔をほころばせてにっこり笑うこと)と併せて覚えたい。
空欄【X】に入る「結局のところ」という意味の言葉を与えられた漢字から選んで熟語を作る問題。
解答:挙句
これは捨て問。朔は教育漢字でも常用漢字でもないので知らなくてもまったく問題なし。
一応知識としてご紹介します。
「朔」(サク)・・・①ついたち(陰暦での一日)②こよみ③天子の政令④はじめ⑤きた(十二支のはじめである子が北に配されていることから)
なお、「朔日」は一日を指します。
解答:一
傍線①「呆然」(ぼうぜん)のここでの意味に合うものを選ぶ問題。
「呆然」・・・①あっけにとられる様②あきれ果ててものの言えない様③気抜けしたようにぼんやりする様 などいくつかの種類の状況が考えられます。
傍線を含む一文とその前の文を確認します。
「僕と母は、どちらかが死ねば、遺された方は一人になるという、二人だけの家族だった。そして僕は、二〇四十年代の入口に立って、時々後ろを振り返りながら、まだ呆然としているのだった。」
この表現から読み取れること
①母の死をきっかけに「呆然」としたということ
②母の死からしばらく時間が経過してもまだ「呆然」としているということ
この2つを手掛かりに選択肢を見ていきます。
ア:未熟で落ち着きがない・・・未熟かどうかは関係ないので×
イ:後ろ暗い・人目を避ける・・・どちらも当てはまらないので×
ウ:悲しい出来事に打ちひしがれ・・・母の死に打ちひしがれ、という点ではOK。しかし本文「後ろを振り返りながら」「まだ呆然と」という部分の継続した感情と合わないようなところもあり△(保留)
エ:あわてる様子・・・母の死から時間は経過しておりあわててはいないため×
オ:ぼんやり・・・「ウ」に足りなかった継続性が感じられるのでこちらで確定○
解答:オ
傍線②「感情生活の落伍者なりの手立て」とはどういうことかを説明する問題。
大問1問5と同様に、①部分ごとに切り分けて言換えること、②該当する表現を本文から探すことに気を付けて記述します。
■「感情生活の落伍者」(主人公の感情、社会からの落ちこぼれている状態に関わる表現)
・母を亡くして、半年間堪えていた寂しさが、溢れ出てしまった。
・母に祝われることのない初めての誕生日から数日を経て、僕は不意に胸に手を当て、言い知れぬ不安に襲われた。
・僕はその腐木のようなもろい感触に、これはいけないと初めて自覚し
・親が子どもより先に死ぬというのは、まったく平凡なことに違いない。~平凡なことを受け入れられない人間は周囲を苛立たせる
■「手立て」(方法、手段などと関係のある表現)
・(これはいけない、と初めて自覚し)その解決策を考えた。それが、僕が今、渋谷の高層ビルの中にいる理由だった。
・そういう人(⇒感情生活の落伍者)向けのサーヴィス(=VF)に目を付けた人がいるのだった。
これらを使ってまとめます。
解答(例):母が先に死んだことを平凡なことと受け入れることができず、寂しさを埋めるために仮想の母を作ろうとすること。(52字)
傍線③「統語論的に分析して、最適な返答をする」について説明した文を選択する問題。
「統語論」という言葉がわかりづらいですが、知らなくて良いレベルの言葉です。文脈から十分判断できる言葉です。
・"心"はありません。会話を統合論的に分析して最適な返答をするだけです。(P.10)
・何かを感じ取りながら話をしているわけではなく、「統語論的に」応対しているだけに違いない。(P.12)
これらの表現は「心」や「何かを感じ取り」のあとに打消しがきており、それらの対義語的な意味合いではないかと予想します。つまり「統語論的~返答する」の部分は「感情のない理論的な返答をすること」を指すと思われます。
これらを前提に選択肢を見ていきます。ここまで理解していれば本問題の選択は容易です。選択肢が長いので細かくスラッシュで区切って部分ごとに正しいかどうかを判断します。
ア:言葉を可能な限り省略し・・・理論的だが省略はしていない(「まぁ」などはその例】ので××
イ:○
ウ:最新の返答・・・最新である必要はない。大体いつも似たり寄ったりなのだろうとあるので×
エ:最も具体性のある・・・具体的か抽象的かはここれは問題ではないので×
オ:顧客が最も快適に感じられる・・本物そっくりではあるが顧客が快適かどうかは別の問題なので×
正解:イ
傍線④「喜びというより不穏なものを感じた」の理由を選択する問題。
本文傍線④含む一文とその前の文を確認します。
「お客様は途中から、必ずVFに"心"を感じ始めます。もりとん、それがVFの理論ですが、その誤解に基づいたクレームが少なからずありますので、最初に確認させていただいています。」 半信半疑だったが、想像すると、喜びというより不穏なものを感じた。
この表現から「頭ではわかっていても心を感じてしまう」であろうこと、それによる「クレーム」になるような感情の乱れが生じるであろうことが予測され不安になっていることがわかります。
さらに傍線④の後の文
「彼女の口調は、製品の説明というより、僕自身の治療方針の確認のようだった」
この表現から「自分自身が仮想の母を実在の母と勘違いするほど病んでいるだろうこと」を実感します。
これらを踏まえて選択していきましょう。
ア:「顧客とのトラブルが絶えない」・・・少し言い過ぎ。そこまでではない△(保留)、「最後まで顧客に寄り添ってはくれないという欠点」・・・これには触れていないので×
イ:「多くがクレーマーになった」・・・少し言い過ぎ。クレーマー(繰り返しクレームをつける人)とまでは言えないのではないか△(保留)。「恩人にクレームを言う」・・・相手を恩人と思っている記述はないので×
ウ:「破滅的な人類の未来」・・・人類の未来については語っていないので×
エ:「少しずつ現実感を失い」・・・現実感を失うには至っていないので×、「恐ろしさがわいてきた」・・・不安ではあるが恐ろしさを感じるにまでは至ってい兄の出×
オ:○
解答:オ
傍線⑤「その手前で『まあ、』と一呼吸おいて見せたのだった」について「僕」に対してどのような効果があったか説明する部分を本文から書きぬく問題。
VFである中尾をどのように見せるか、という問いです。
傍線を含む一文と一つ前の文「そう説明する彼の眼には、憂いの色があった。しかも、彼は『親としてできるせめてもの孝行』というだけでなく、その手前で『まあ、』と一呼吸置いて見せたのだった」
「憂いの色」+「親としての孝行」+「『まあ、』と一呼吸」どれも、「人間らしい」表情・発言を表していることがわかるでしょう。
この「人間らしさ」を表した表現を本文から探します。
解答:本当に生きている人間
傍線⑥「-心から」についてこの表現の効果について選択する問題。
VFには"心"がなく「統語論的」にしか返答をしないことはわかったと思います。そのVF自体が「心から」と発言することの矛盾を感じさせる表現ですね。これを踏まえて選択肢を見ていきます。
ア:○
イ:中尾の悔しさ・・・VFの中尾は悔しさを感じていないので×
ウ:○
エ:このような使用は許されない・・・VFを使用する人間の葛藤を描いているのであってVF自体を否定するものではなく×
オ:人間以上に豊かな心を持ちうる・・・そのような内容は一切表現されていないので×
カ:悲しみをこらえる必要は一切ない・・・そのような記述は一切ないので×
傍線⑦「苦しみとしか言いようのない熱」とはどういうことか、について説明させる問題。
言換え問題ですので部分ごとに言換えることと、本文から対象となる言葉を探すことを意識しますが、言換えたい文が非常に短いので前後の表現も確認して手掛かりを探します。
・どう努力しても止めることのできない、破れやすい、儚い幻影だった。
・母とまた、こんな風に会話を交わす日が来るという期待は、僕の胸を苦しみとしか言いようのない熱で満たした。
・わかった上で欺されることを、やはり欺されるというのだろうか?
「苦しみ」・・・(VFで再生された母は)破れやすい、儚い幻影であること、わかった上で欺されること
「熱」・・・母と会話を交わす日が来るという期待
これらをまとめて解答を作成します。
解答(例):VFとして再生した母は心がなく壊れやすく儚い幻影であると分かっていながら、母と再び会話を交わすことへの期待を抑えきれない状態。
芥川賞の創設を提唱した人物を選択する問題。
これは知らなくて当然なのであまり気にしなくてよいですが、前年の渋幕第1回国語の出典が菊池寛であったこと、さらに菊池寛の作品に関しての知識を問う問題が出題されています。
学校から「(過去問などの)問題で知らない知識に触れたらしっかり調べておきなさい」という学校からのメッセージと解釈できます。
解答:ア(菊池寛)
いかがだったでしょうか。
本年も最難関中学らしくレベルの高い出題でした。ただ文章の全体を捉えながら読む習慣と、問題に関連する表現を文章全体から的確に選び出す練習を繰り返すことで十分合格点を狙えます。
じっくり納得のいくまで解説を読み込んでおきましょう。
2021年の渋幕過去問解説はコチラ↓