2026年度 麻布中 国語入試問題解説
麻布中学校 国語
文章の概要
本文は越智仁美(えちひとみ)による物語で、主人公の仁美が病床のひいおばあちゃん(君枝)のもとに、アメリカから「天国宅配便」と題された手紙が届くところから始まります。
手紙は、ひいおばあちゃんの幼なじみマサコ(ヤギ・マサコ)の娘から送られたもので、第二次世界大戦中に日系人強制収容所で書かれた暗号の手紙が添えられていました。仁美は手紙の解読を通じて、戦争によって引き裂かれた友情と、時代・国境・言葉を超えて手紙を届けようとした人々の思いを知ります。
同時に、仁美自身も友達の花と喧嘩をしており、手紙を通じて仲直りするという並行するエピソードが描かれています。戦時中の友情と現在の友情が重ね合わされる構成が特徴的な作品です。
登場人物
ひいおばあちゃんのお見舞いに行く
マサコの幼なじみ
日系アメリカ人四世
戦時中に強制収容所に入れられた
喧嘩して仲直りする相手
手紙の解読を手伝う
ウェブ会議で事情を説明
人物相関図
暗号の手紙(戦争で離別)
場面の変化
マサコからの手紙が「天国宅配便」として届き、ひいおばあちゃんのお見舞いに行く仁美。手紙は昔の文字で書かれ、内容がわからない。隣町の外国人たちの協力で解読が進む。
ひいおばあちゃんがベッドの上で仁美にカードゲームを教える。実は二種類のルールが混在するゲームで、ルールの違いによって喧嘩になる仕掛け。「ルールの違いを知らされていなかった」ことがポイント。
ゲームの教訓を語った後、ひいおばあちゃんは眠ってしまう。「ひいおばあちゃん!」と叫ぶ仁美。母が左手を強く握る。
翌朝、仁美はメッセージを届けに外国人の方々を訪ね、お礼のお菓子を届ける。世界中のさまざまな文化の人と出会い、視野が広がる。
マサコの娘ヤギとウェブ会議。ヤギは日系アメリカ人四世で日本語も流暢。祖母の遺品から暗号の手紙と日記が見つかり、日系人強制収容所の歴史が明らかになる。「アンネの日記」との比較も登場。
仁美は友達の花と喧嘩中。手紙で気持ちを伝えることを思いつき、手紙を送る。花からも折り紙のような手紙が届き、仲直りする。「ふたりともちょっと涙が出た」。
ヤギから日系人強制収容所の詳細を聞く。真珠湾攻撃後の強制収容、日本語禁止、家族の断裂。「自分たちは日本人」と考える人と「アメリカ市民」と考える人の対立が生じた。
マサコの暗号手紙を解読。折りたたまれたひらがなの暗号は「きみえちゃん ありがとう…ずっともだち マサコ」という友情のメッセージだった。戦時中も変わらぬ友情に仁美は深く感動する。七十八年の時を超えた手紙をひいおばあちゃんに届けようと病院に向かう。
心情変化表
| 場面 | 出来事・きっかけ | ± | 心情表現(本文の手がかり) | 対応する設問 |
|---|---|---|---|---|
| 手紙の到着 | マサコからの手紙が届く | ± | 手紙の内容がわからず戸惑う/興味を持つ | ― |
| ゲームの授業 | 二種類のルールを知らされずにゲーム | - | 「仁美は驚いた」「みんな怒り出したり」 | 問一・問九 |
| ゲームの意味 | ルールの違いが喧嘩の原因と気づく | ± | 「わかったんじゃないかな」→ 気づき | 問九 |
| ひいおばあちゃん眠る | 最後の言葉を残して眠る | - | 「ひいおばあちゃん!」と叫ぶ/母が強く手を握る | 問二 |
| お礼の旅 | 外国人たちへ感謝を伝える | + | 多様な文化に触れて視野が広がる | 問三 |
| 日記の発見 | 暗号手紙の存在を知る | ± | 驚き+歴史への興味「なんで日本人が?」 | 問四 |
| 花との手紙 | 手紙で仲直り | + | 「ふたりともちょっと涙が出た」→ 安堵・喜び | 問六・問七 |
| 強制収容所の話 | 日系人の歴史を知る | - | 「怖い、と思うかもしれない」→ 衝撃・悲しみ | 問八 |
| 暗号の解読 | マサコの手紙=友情のメッセージ | + | 「身体がガクガクする」→ 深い感動・震え | 問十 |
| 七十八年の返事 | 返事を届けられる喜び | + | 手紙を胸に抱きしめる → 使命感と喜び | 問十一 |
比ゆ表現・重要表現
亡くなったマサコから届いた手紙を「天国からの宅配便」と表現しています。亡き人の思いが時を超えて届くことの象徴です。
日系人強制収容所では日本語が禁止されていたため、マサコは暗号で手紙を書きました。ひらがなを折り紙のように折りたたんで隠すという方法で、友情のメッセージを伝えています。この「暗号」は自由を奪われた中での抵抗と友情の象徴です。
ひいおばあちゃんが仁美に教えたカードゲームは、二種類の異なるルールを知らずにプレイさせるものでした。「ルール(文化・立場)の違いを知らなければ、喧嘩になる」という教訓を、戦争に重ねて伝えています。
マサコの暗号手紙を解読したとき、花からの手紙と同じ友情のメッセージであることに気づいた仁美の感動を表す身体的表現(しぐさ表現)です。
設問解説
問一「なんでわざわざそんなことしたんだろう」
クラスでゲームをするとき二種類の異なるルールで行い、そのことをゲームする生徒には知らせないこと。
指示語の問題です。「そんなこと」の内容を直前の文脈から読み取ります。10〜18行目に「クラス四十人でゲームをする」「二種類のプリント」「配られたルールは二種類ある」「ゲームする人には知らされていない」とあり、これをまとめます。
問二「誰に会いたいと願ったのだろう」
幼なじみのマサコ
ひいおばあちゃんが眠りにつく前の文脈から、マサコへの思いを読み取ります。冒頭にマサコからの手紙が届いたこと、「親友の花と絶交したばかりで相談相手のいない仁美の願いに」と対応する形で、ひいおばあちゃんにとっての「会いたい人」=マサコとわかります。
問三「みなさん」に対する仁美の感じ方(最初の五字)
最初は、外
「みなさん」に対する仁美の感じ方の変化を追います。60行目付近に「最初は、外国人がいっぱいいるアパートに近づくのもなんだか怖かった」とあり、この冒頭の五字「最初は、外」が答えです。
問四「祖母たちのことを調べていて、わかったこと」
ひいおばあちゃんとマサコが、戦時中の日系人強制収容所で、今回マサコから届いた手紙と同じ暗号で手紙をやりとりしていたこと。
物置の小箱から見つかった「シュテッツクリエデリム」と書かれた日記から、暗号の手紙の存在が判明します。さらに祖母の日記に貼ってあった遺品の手紙が1943年の日付で、暗号で書かれていたことがわかります。ポイントは「同じ暗号で手紙をやりとりしていた」という発見です。
問五「時代が時代って」(113行目)の説明として最もふさわしいもの
エ
「時代が時代って」は、日系人が暗号で手紙を送らざるを得なかった戦時中の状況を指しています。選択肢のうち、手紙の内容自体ではなく、通信手段の変化や外国人労働者の苦労でもなく、戦時中の日系人への弾圧と暗号の必要性を正しく説明している「エ」が正解です。エは、暗号を使った背景として日米両国の歴史的文脈に言及しています。
問六「ふと、手紙か……」
言葉ではうまく言えない、花と仲直りしたい気持ちを、手紙ならちゃんと伝えられるのではという期待。
仁美は花と喧嘩中で、直接会うと「仕方がない行き来」になってしまう。しかし、ひいおばあちゃんとマサコの手紙のやりとりを知ったことで「手紙なら気持ちを伝えられるのでは」と考えます。「言葉ではうまく言えない」+「手紙なら伝えられる」の二重構造を答えに含めることが大切です。
問七「ふたりともちょっと涙が出た」(135行目)
お互いに謝りたいという気持ちを伝え合い、仲直りできたことを喜び、安心する気持ち。
涙の理由は「悲しみ」ではなく「安堵と喜び」です。お互いに「ごめんね」という手紙を出し、花からも折り紙のような手紙が届いた。「仲直りできた喜び」と「相手も同じ気持ちだった安心」の両方を書くことがポイントです。
問八強制収容所の中で「違う考えの人が出てきた」(163行目)
ひいおばあちゃんの家族のようにアメリカに暮らしていても自分たちは日本人だと考える人と、マサコの家族のように自分たちはアメリカに忠誠を誓うアメリカ市民であると考える人の断裂が生じたということ。
この問題は麻布らしい社会的テーマを含む記述問題です。「日本人アイデンティティ」と「アメリカ市民アイデンティティ」の対立を、ひいおばあちゃんの家族・マサコの家族という具体例と結びつけて説明する必要があります。同じ日系人でも立場の違いによって分断が生じたことを押さえましょう。
問九ルールの違うゲーム(186行目付近)
イ
ひいおばあちゃんが行ったゲームの目的を考えます。異なるルール(=異なる文化・立場)を知らずにいると対立が生まれるという教訓が込められています。戦争の悲惨さを知り、子どもたちに先入観を捨てて互いを理解する大切さを伝えたいという意図を読み取りましょう。
問十「身体がガクガクする」(137行目付近)
解読できた戦時中のマサコからの手紙が、隣に置いた花からの手紙と同じく、友情を確かめ合うものだったとわかり、強く心を動かされている。
「身体がガクガクする」はしぐさ表現で、強い感動を示しています。ポイントは、マサコの暗号手紙(七十八年前)と花からの手紙(現在)がどちらも友情を確かめ合う内容であり、それが並んでいたことに仁美が深く心を動かされたという構造です。過去と現在の友情の重なりを指摘することが得点のカギです。
問十一(1)七十八年前の返事が届かなかった事情
お互いの家族が敵味方の立場に分かれ、手紙を出せずにいるうちに、ひいおばあちゃんの家族が収容所を移されて離ればなれになってしまったから。
問十一(2)「返事が今、自分の手の中にある」仁美の気持ち
花に仲直りの手紙を送り、手紙の返事をもらう幸せを知ったことで、七十八年も伝えることができなかったマサコの友情を深く感じとり、国境や言葉の違いを超えて手紙を届けようとしてくれた人びとの思いとともに、ひいおばあちゃんに届けることができる喜びを覚えている。
この問題は本文全体のテーマを集約する総合問題です。次の3つの要素を盛り込む必要があります。
① 花との手紙体験 → 手紙で気持ちが伝わる幸せを自分自身が知っている
② マサコの七十八年越しの友情 → 時を超えても変わらない思い
③ 多くの人々の協力 → 国境・言葉の壁を超えた善意のリレー
これらをひいおばあちゃんに届けられる「喜び」としてまとめるのがポイントです。
問十二漢字の書き取り
a. 険悪(ケンアク)/b. 感心(カンシン)/c. 複雑(フクザツ)/d. 模様(モヨウ)
この作品の主題
「手紙」が結ぶ友情 ― 時代も国境も超えて
本作品は「手紙」を通じて、三つの層の友情を描いています。
第一層:仁美と花の喧嘩→手紙で仲直り(現在の日常)
第二層:ひいおばあちゃん(君枝)とマサコの友情(戦時中の断絶と78年越しの再会)
第三層:手紙を届けるために協力した世界中の人々の善意(天国宅配便)
「ルールの違うゲーム」のエピソードは、文化や立場の違いが対立を生むことの寓話であり、それでも「手紙」=相手を理解しようとする努力によって、分断は乗り越えられるというメッセージが込められています。
出典:越智仁美『天国宅配便』
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