大問3 物語文を完全解説
作品・出典について
今回出題されたのは、村上雅郁さんの『きみの話を聞かせてくれよ』(フレーベル館、2023年)に収められている短編「シロクマを描いて」(episode1)からの出題です。
この作品は、新船(しんふね)中学校を舞台にした7つの短編連作で、7人の中学生それぞれが主人公として登場し、そこに剣道部の黒野くんが関わっていく青春群像劇です。今回の場面は「episode1」にあたり、親友の早緑(さみどり)とけんかしてひとりぼっちになってしまった主人公・白岡六花(しらおか りっか)のお話です。
「自分のほんとうの気持ちと向き合う」ことの大切さと難しさ。人間関係がうまくいかないときのもやもやした気持ちにどう向き合うかを、シロクマ効果という心理学のたとえを使って描いています。
あらすじ(場面の流れ)
放課後、美術部員の白岡六花は、屋上で同級生の黒野くんをスケッチしています。そこで六花は、美術部で自分が浮いていること、小学校時代の親友と気まずくなってしまったことを話します。
黒野くんは、六花の話をじっくり聞いたあとに、突然「シロクマ効果って知ってるか?」と話し始めます。「考えないようにしようとしても、考えてしまう」——つまり人間は自分の気持ちから逃げられない、という話です。そして黒野くんはこう問いかけます。「白岡六花にとってのシロクマは何だ?」
登場人物の関係を整理しよう
この文章には、現在の場面(屋上)と回想場面(美術部)で合計5〜6人の人物が登場します。一人ひとりの人物像と、主人公「私(六花)」との関係をつかむことが、設問を解くカギになります。
まじめ・孤立中
鋭い洞察力
やさしい・あまい
居場所として参加
けんかして疎遠
六花は「美術部でも」「親友とも」二重に人間関係がうまくいっていません。そんな六花の前に現れたのが、鋭い洞察力を持つ黒野くんです。黒野くんが「シロクマ効果」という不思議な話を始める意味を読み取ることが、問六のカギになります。
場面の流れを整理しよう
この文章には回想(以前あったことを思い出す)場面が入っています。回想はどこからどこまでか(問八)を正確に読み取るためにも、場面の切れ目に注目しましょう。
回想の入口は「美術部に入ったとき、私は正直——」(10行め)で、出口は「だけど──」(40行め)で終わります。直後の41〜42行「『だいじょうぶか?』 黒野くんの声で、我に返った」というフレーズが、「今まで過去を思い出していた」ことを示す決定的な手がかりです。
「私(六花)」の心情変化を追いかけよう
物語文では、場面ごとの心情のプラス・マイナス・混在をていねいに追いかけることが最大のポイントです。今回の六花の心情はこのように変化していきます。
問四
問三
この文章の主題
黒野くんが話した「シロクマ効果」——つまり「考えないようにしようとしても、考えてしまう」という話は、六花の状況に重ねられています。
六花は、美術部での孤立・先生への違和感・親友とのけんか、そのすべてを「気にしない」「言わない」「沈黙をつらぬく」ことで処理しようとしてきました。けれども黒野くんは、そんな六花に対して「人間は考えることから逃げられないんだよ」と伝え、「きみの本当の気持ちは?」と問いかけたのです。
自分の気持ちから目をそらし続けることはできない。本当の気持ちと向き合うことではじめて、前に進める——これがこの文章の主題です。この主題は、問六の答え「六花に自分のほんとうの気持ちと向き合ってほしいと思ったから」に直結します。
おさえておきたい重要語句
設問解説(大問3)
ア うらやましくなった/イ にくらしかった/ウ がっかりした/エ はずかしかった
解き方のポイント
Aの前後を確認すると、「美術部に入ったとき、私は正直A。みんな、あまりまじめな部員とは言えなかったから。」とあります。つまり「私」が美術部に入ったときの最初の印象を問う問題です。
10〜12行めや18〜20行めなどから、「私」が美術部に入ろうとした動機は「絵を描きたいから、もっと上達させたいから」であることが読み取れます。一方、他の部員は「仲間と楽しみたい」のが主な理由でした。
もっとうまくなろうとしている「私」が、部室を「居場所として楽しもうとしている人たち」を見たら、期待していたものと違うと感じるはずです。それを表す言葉は「がっかりした」です。
ア「うらやましい」・エ「はずかしい」気持ちになる場面ではありません。イ「にくらしかった」は、入部してすぐに「憎い」と思うほどの強い気持ちを持つのは不自然です。
ア まざまざと/イ ひしひしと/ウ はやばやと/エ ふかぶかと
解き方のポイント
空欄を含む文を読むと「実際に言われたわけじゃないけれど、そういう言外の圧力をB感じた」とあります。「言外の圧力」とは、16行め「空気読んでよ。場ちがいなんだよ。ここはそういう場所じゃないの」という、はっきり言葉にされていないけれど雰囲気で伝わってくる感情のことです。
こうした目に見えない重圧が強く身に迫ってくる様子を表すのは「ひしひしと」が適切です。
ア「まざまざと」=目の前に現実として突きつけられる/ウ「はやばやと」=早い時期に/エ「ふかぶかと」=深く身を沈める・お辞儀などの様子。いずれも「圧力を感じた」とは結びつきません。
解き方のポイント
ここでの「浮く」は、周囲になじまず孤立している状態を表しています。7行め「黒野くんが言うとおり、私は美術部で浮いている」とあり、その後9行めに「なぜなら、まじめに絵を描いているから」と理由がはっきり書かれています。
字数は「まじめに絵を描いているから」で13字ぴったり。設問の指定にちょうど合うので、ここが答えです。
指定された字数は「必ず答えの場所を示すヒント」です。「なぜなら〜から」という理由説明の形を本文から探すと、答えが見つけやすくなります。
解き方のポイント
これまでひとりで絵を描いてきた「私」が美術部に入れば、先生からの指導も受けられ、仲間とは互いを磨き合えるのではないか——そう思っていたはずです。「私」が求めていた部活動はアのような内容になります。
- イ:「部のメンバーとも仲良くしながら」が違う。13行め「他人は他人、自分は自分だ」から、私は他の部員と仲良くしようと考えていないことがわかる。
- ウ:「たまに羽目をはずしてお菓子を食べたりしても」が違う。19・20行め「学校にお菓子を持ってくるのは校則違反だ」とあり、「私」はこれを認めていない。
- エ:「仲間との付き合いなども学べる」が違う。これも「他人は他人、自分は自分」と矛盾する。
解き方のポイント
「釈然としない」とは、納得できず心にもやもやが残る状態のこと。まず「もやもやの原因」を本文から探します。
傍線部の直後に「先生はみんなの前で、私の絵をほめて、『みんなもがんばらないとね』と言っただけだ。それって、『へたなことを言った』ことになるのだろうか」とあります。
つまり、先生は「私」をほめることで他の部員が気を悪くすることを心配していた——それに対して「私」は、「ふつうにほめてくれただけなのに、なぜそれが『へたなこと』になるの?」と納得できないのです。正解はアです。
- イ:先生の行動がみんなを不愉快にさせるのではないかを心配しているので違う。
- ウ:33行め「上枝先生はあの子たちにあまい。かと言って、私に冷たいわけじゃない」「ていねいにアドバイスをくれる」とあり、「私にだけ厳しく指導しようとする」とは読み取れない。
- エ:「美術部のメンバーをかばうようなこと」は先生の言動の中にあるが、これが「私」が釈然としない理由そのものではない。
・人間は考えることから逃げられないのだから、〔 〕
解き方のポイント
この問題は、シロクマ効果の話と、黒野くんが六花に伝えたかったことをつなぐ必要があります。
黒野くんは傍線部の次から「心を無にする」話を始めます。この話もシロクマ効果の話も、72行め「考えることから、人間は逃げられない」——「悩みから目をそらそうとしても、なかなかそううまくいかない」ということを言おうとしています。
そこから黒野くんは、75行め「聞かせてくれよ。白岡六花にとってのシロクマは何だ?」と言います。つまり「私(六花)」が目をそらそうとしても考えてしまうことはなに?ほんとうの気持ちは?——と聞いているのです。
六花に自分のほんとうの気持ちと向き合ってほしい——これが黒野くんの願いです。
「悩みはどんなこと?」「聞かせてほしい」という答えのまとめ方でも構いません。キーワードは「六花(私)」「ほんとうの気持ち」「向き合う/聞かせる」です。
解き方のポイント
イ「まじめで前向きだが、融通がきくほうではない」○
美術部での「私」の様子から、これは正解です。「融通がきく」人であれば、周りの空気を読んで、美術部のメンバーとも適当に仲よくしながら部活を楽しめるはずです。しかし「私」は「他人は他人、自分は自分」と割り切って、ひとりで絵を描き続けました。「融通がきかない」性格が読み取れます。
ウ「あまり自分を表現しようとはしない」○
「気持ちはぜんぶのみこんで、沈黙をつらぬいた」(36行め)という表現から、自分の気持ちを周りに伝えない人物であることがわかります。
- ア:「友達は多い」が違う。58行め「友だちがいない私には、そんなこともわからない」とある。
- エ:「人づきあいが上手ではない」は合っているが、「人から嫌われがち」が違う。「私」が嫌われているということはどこにも書かれていない。
- オ:「本来は朗らか」が違う。「朗らかさ」が読み取れるところは本文中にない。
解き方のポイント
回想の入口を探しましょう。10行め「美術部に入ったとき」からが美術部でのエピソード(過去のこと)になっています。
回想の出口は、40行め「だけど——」までです。次の41・42行め「『だいじょうぶか?』 黒野くんの声で、我に返った」という表現が決定打。「我に返った」は「自分の状態に気づいた」という意味で、「今まで過去を思い出していた(ぼんやりしていた)」ことを表しています。ここから元の屋上の場面に戻るとわかります。
- 入口のサイン:「〜のとき」「あの日」「以前」などの時間の言葉、過去形の連続
- 出口のサイン:「我に返る」「はっと気づく」「〜の声で」など現在に戻る言葉
今回のまとめ
この文章は、「自分のほんとうの気持ちと向き合う」ことの大切さを描いた物語でした。六花のように、気持ちをのみこんで沈黙することは悪いことではありません。でも、心の中では「考えないようにしよう」と思っても考えてしまう——これが「シロクマ効果」です。
物語文を読むときは、場面の切れ目・心情の±・比ゆ表現(今回は「シロクマ効果」)の三つを追いかけていきましょう。きっと作者が伝えたい主題が見えてくるはずです。
出典情報
書名:きみの話を聞かせてくれよ
著者:村上雅郁(作)/カシワイ(絵)
出版社:フレーベル館(フレーベル館文学の森32)
発行年:2023年4月
ISBN:978-4-577-05186-3
新船中学校を舞台にした7つの短編連作。今回出題されたのは、第1話「シロクマを描いて」の後半部分です。7人の主人公それぞれの物語に、剣道部の黒野くんが関わっていく青春群像劇。中学受験国語の題材として、今後も出題が増えそうな注目作品です。