第12回 週テスト(YT)国語 徹底解説
説明文・論説文(3)/川原繁人『言語学者、生成AIを危ぶむ』/2026年5月30日実施
四谷大塚6年(上)第12回の週テストを解説します。今回の読解(大問3)は、いま話題の「生成AI」を題材にした論説文です。AIと会話できる時代に、子どもが言葉を身につけていくうえで何が大切なのか――言語学者が投げかける問いを、5つの論点に整理しながら読み解いていきます。読解の設問(問一〜問十四)をすべて取り上げます。なお、大問1(漢字)・大問2(語句・慣用句)は今回の解説範囲には含めません。
1. 出典・筆者について
2. 文章の要約
筆者は言語学者の立場から、生成AIと人間の言葉には決定的な違いがあると主張します。生成AIは「おかえりなさい」と言っても、その言葉の背後に身体も感情もありません。人間の子どもは、五感をフルに使って世界を体験し、表情や身ぶりといった言葉以外の手段も使いながら、相手の気持ちを察する力を育てていきます。ところが生成AIとのやりとりには、身体・五感・非言語の表現・経験の共有が欠けています。さらに生成AIは、不確かな情報も自信ありげに語るため、判断力が育つ途中の子どもは誤った知識をそのまま信じ込みかねません。こうした点から筆者は、言葉を学んでいる子どもに生成AIを手渡すことへ警鐘を鳴らし、今後は「確信度(不確かさ)」を子どもにも伝わる形で示す設計が必要だと述べています。
3. 文章全体の構造(5つの「警鐘」)
この論説文は、生成AIが子どもに与えうるリスクを5つの論点に分けて順番に論じています。各論点がそのまま意味段落のまとまりになっており、ここを最初に押さえておくと、各設問の手がかりがどこにあるかが一気に見えてきます。これは問十四(5つの見出しを本文の順に並べ替える問題)の答えそのものでもあります。
4. 筆者の主張と「対比」の構造
この文章の骨組みは、終始一貫して「人間の言葉・対面のコミュニケーション」と「生成AI」との対比です。筆者は人間側の豊かさを一つずつ挙げ、それに対して生成AIには何が欠けているかを並べていきます。この対比をつかめば、筆者がなぜ生成AIに「危ぶむ」という言葉を使うのかがはっきり見えてきます。
- 身体と感情・欲求がある
- 五感すべてを駆使して世界を体験
- 表情・身ぶりで気持ちが伝わる
- 同じものを一緒に見る「共同注意」ができる
- 抱きしめるなど言葉以外の関わりが効く
- 身体がなく、感情も欲求もない
- 音声情報などに限られ五感刺激が不十分
- 表情・身ぶりがなく気持ちが伝わりにくい
- 体験を共有できず「共同注意」ができない
- 不確かな情報も自信ありげに話す
論説文では、このように「具体(くわしい例)」と「抽象(言いたいこと)」が交互に出てきます。マガーク効果、俳優や歌人・俵万智さんの言葉、サリー・アン課題などはすべて具体の段落で、筆者が言いたい中心(=抽象の段落)を支える材料です。具体例そのものより、「その例で筆者は何を言いたいのか」をつかむことが大切です。
5. 読み取りづらい重要語句・表現
「が」と発音している口の動きを見ながら「ば」の音を聞くと、実際にはない「だ」という音に聞こえてしまう現象。視覚(見る)と聴覚(聞く)が影響し合っている証拠で、「五感はそれぞれ独立して働いているのではない」ことを示す具体例です。問四・問五に直結します。
言葉(バーバル)以外の手段による意思の伝達。表情・身ぶり・声の調子・スキンシップなどを指します。生成AIにはこれが欠けている、というのが論点③の中心です。
大人と子どもが同じものを一緒に見て、指をさしたりやりとりしたりすること。子どもの発達にとても重要な働きで、これが「心の理論」の土台になります。
「心の理論」とは、他の人が何を考えているかを理解する能力のこと。それを調べる有名なテストが「サリー・アン課題」です。下の図で流れを確認しましょう。
「神様だけが知っている」という意味から転じて、今のところ(人間には)まだ分からないことを表す言い回し。問七で問われています。
6. 設問解説(大問3|川原繁人『言語学者、生成AIを危ぶむ』)
論点①「身体性の欠如」に関する問い
意味段落①(はじめ〜45行め)の冒頭に注目します。「生成AIは身体を持っていないので、感情や欲求もない」「身体が存在しないやりとりから、コミュニケーション能力を学べるのか」といった部分から、空欄に合う言葉を字数どおりに探します。
2 身体感覚(4字)
3 感情や欲求(5字)
子どもは「コミュニケーション能力」を学ぶ際に、手や口・鼻などから得る「身体感覚」や、そこから生じる「感情や欲求」をもとにしている――生成AIにはそれらが欠けている、という流れです。
──線②「それ」が指す内容は、すぐ前の一文にあります。「生成AI」と「おかえりなさい」という二つの言葉を必ず入れ、文末を名詞で止めて答えます。
「短歌を引用して筆者が何を言いたいのか」を問う設問です。ですから、短歌そのものの近くではなく、その前後(18〜27行め、または33〜38行め)から探します。短歌の「生きる」「手をのばす」「指がつかむ」が、本文の「成長の過程」や「身体性」に対応している点がヒントです。
論点②「五感への刺激」に関する問い
意味段落②(46〜90行め)が手がかりです。赤ちゃんは「聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚すべてを駆使して世界を体験している」とあり、言語学・心理学の観点からも五感すべてが重要だと述べられています。その理由は「私たちは五感があたかも独立して働いているかのように考えがちですが、まったくそんなことはありません」(58〜60行め)。
ア(75〜83行め)・イ(86〜90行め)・ウ(46行め=身体性の観点)は、いずれも本文の内容と合っているので、適切な理由です。
接続語の問題は、前後の文がどんな関係でつながっているかを考えるのが鉄則です。選択肢は「また/しかし/つまり/例えば/ところで/なぜなら」。それぞれの空欄の前後の関係を確認しましょう。
- A(=エ):逆接……前は「人間の五感は互いに影響し合っている(=豊か)」、後は「生成AIが提供するのは音声情報などに限られる(=乏しい)」。豊かさと乏しさが対立するので、逆接の「しかし」が入ります。
- B(=イ):例示……前の「単純化されたもの」を、後で「連続的な線を点の集合で表したものに過ぎない」と具体的に言いかえています。具体例を示す「例えば」が入ります。
- C(=ア):添加……「点の集合に過ぎない」に加えて「高い周波数の音も捉えていない」と欠点を付け足す流れ。付け加えの「また」が入ります。
- D(=ウ):言いかえ……「(嗅覚や味覚は)感情価が高い」を「感情との結びつきが強い」と言いかえています。要約・言いかえの「つまり」が入ります。
論点③「非言語的コミュニケーション」に関する問い
意味段落③(91〜157行め)に注目します。俳優の「相手と向き合って流動する」とうまくいく、という言葉から何が分かるでしょうか。「やり取りする情報は音声だけではない」「表情や手ぶりがあってこそ伝わる気持ちがある」「身体感覚すべてを伴ったコミュニケーションがとれる」といった部分をまとめます。
- コミュニケーションは言葉・音声だけではない(限界がある)
- 対面する相手の表情や手ぶり=身体感覚がある
- その身体感覚を通じてこそ、感情や意見が伝わる
「神のみぞ知るところです」の意味を選びます。「神様だけが知っている」=今のところ(人間には)まだ分からない、という意味です。
ここでは、これからどうなるか分からない=現時点では結論が出ていない、というニュアンス。「だれにもわかりません」「知る方法がありません」のように永遠に不可能と決めつける言い方ではなく、また「将来はっきりするでしょう」のように断定する言い方でもない点に注意します。
──線⑦の一文はやや分かりにくいのですが、要は「自分の思い・気持ちをすべて言葉にできるわけではないが、気持ちを伝える手段は言葉以外にもある」ということです。設問文の指示に従い、[1]は──⑦の前の俵万智さんの言葉から、[2]は──⑦の直後から、字数どおりに書き抜きます。
2 言語以外を表す
「落ち込んでいる子には、言葉で説明するより抱きしめてあげる方が効果的な場合がある」のはなぜか。「コミュニケーションは五感をフルに活用した表現方法で、言語だけに偏るのはよくない」「言語化する以前の感覚や、言語以外の表現方法も重要」といった部分が根拠になります。
論点④「他者理解(共同注意・心の理論)」に関する問い
意味段落④(158〜216行め)をよく読みます。「共同注意」や「経験の共有」は、他者が何を考えているかを理解する「心の理論」の土台になる、と説明されています。子どもは生成AIとは一緒に体験を共有できない――この点を中心にまとめます。
- 子どもは生成AIと一緒に実際の体験(共同注意・経験の共有)ができない
- 共同注意や経験の共有は、相手の気持ちを察する力(心の理論)の基盤になる
- だから、生成AIとのやりとりでその基盤を育てられるか疑問だ
──線⑩「後者」は、直前に挙げられた二つのうち後の方を指します。「〜こと」につながる形で、十五字以内で書き抜きます。
論点⑤「誤情報・偏見のリスク」に関する問い
意味段落⑤(217行め〜最後)が手がかりです。「生成AIが偏見や誤情報を人間に信じ込ませる可能性」が、子どもの言語獲得においてどんなリスクになるかを問うています。人は自信ありげに話されると情報を信じやすく、とりわけ判断力が未発達な子どもは、確信度や不確実性が伝わりにくい生成AIの出力をそのまま信じてしまう恐れがあります。
──線⑫「この点」が指す内容を答えます。筆者は、今後の生成AIや音声アプリには「情報の確信度」を表現する能力を持たせてほしいと述べています。「子どもにとって理解しやすい形で不確実性が伝えられている」「確信がなさそうに話すこと」(255〜259行め)を手がかりにまとめます。
- 子どもが理解しやすい形で
- 不確実性(確信度の低さ)が
- 伝えられていない、という点
全体構成をとらえる問い
生成AIのリスク5点を、本文に出てくる順に並べます。「3. 文章全体の構造」で確認した5つの論点の順番がそのまま答えです。
長い文章でも、最初に意味段落の切れ目をつかんでおけば、こうした並べ替え問題は確実に得点できます。
7. まとめ
今回の読解のポイント
この文章は、「人間の言葉・対面の関わり」と「生成AI」の対比を軸に、生成AIのリスクを5つの論点で順に論じる構成でした。①身体性、②五感、③非言語、④共同注意・心の理論、⑤誤情報――この流れを最初に押さえれば、書き抜きも記述も並べ替えも、手がかりの場所がすぐに見つかります。
論説文では、マガーク効果やサリー・アン課題のような具体例に引きずられず、「その例で筆者が何を言いたいのか(=抽象)」を取り出す読み方が得点につながります。記述では、模範解答を「3つの要素」に分けて、自分の答えに同じ要素が入っているかを確認する習慣をつけましょう。
©EduShift 中学受験 国語専門