2026年7月20日(月祝)に実施された早稲田アカデミー「第3回 NN開成中オープン(開成中オープン模試)」の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。今回は歌人・伊藤紺さんのエッセイと、一穂ミチさんの物語文という、開成らしい「言葉そのもの」を問うセットでした。お子様の復習にぜひお役立てください。
出題構成と全体講評
- 試験時間は50分、合計85点満点です。
- 大問一は随筆文。伊藤紺『わたしのなかにある巨大な星』から、A「言葉の箱」・B「足りない言葉」の二つの文章を読み比べる形式です(63点)。
- 大問二は物語文。一穂ミチ『前夜』から、ほぼ会話文だけで構成された短い場面です(22点)。
- 記述は全7問中6問。漢字の書き取りが3問です。
今回の最大の特徴は、大問一が「AとBの二つの文章をつなげて読む」出題だったことです。単独の文章の読解にとどまらず、二つの文章に共通する筆者の考え(言葉とはどういうものか)を自分の言葉でまとめ直す力が求められました。また大問二は本文が非常に短く、会話の行間から状況を推理するタイプで、直接書かれていない情報をどこまで論理的に補えるかが差になりました。どちらも「たくさん読ませて削る」のではなく「少ない材料から深く考えさせる」、開成の本試験を強く意識したセットです。
大問一 随筆文 伊藤紺『わたしのなかにある巨大な星』
出典について
筆者の伊藤紺さんは歌人です。出典の『わたしのなかにある巨大な星』は、言葉と創作について自身の経験をもとにつづったエッセイ集で、本問ではA「言葉の箱」とB「足りない言葉」の二編が出題されました。Aは、街の情報サイトでライターをしていた二十三、四歳のころ、会議で連発される「おもしろい」という言葉に覚えた違和感から、「言葉というのは箱のようなものだ」という考えに至るまでの文章。Bは、ギターを弾く後輩の「わざと自分で弾けないフレーズを作る」という話と、祖父を亡くした祖母が書いた「ありがとう」とだけ記された手紙から、「足りない言葉」にこそ宿る真実について考える文章です。
問一 「言葉が細い矢のようにわたしに刺さった」のはなぜか(心情理由・12点)
傍線部の「言葉」とは、初めて会議に参加した元芸人の編集部員が発した「会議でみなさんが言っていた『おもしろい』ってなんですか? あれって『おもしろい』んですかね」という二つめの質問を指します。ここを取り違えて「先輩の言葉」などとすると得点できません。
筆者はこのとき、自分のネタを本当におもしろいと思っていたわけではないのに、会議の間じゅう「おもしろい」と言い続けていました。「仕事だから」「若くて何もできないんだから」と自分をかばいながらも、大事な言葉を適当に使っている自分に、すでに違和感を覚えていたのです。そこへ核心を突く質問が飛んできたため、後ろめたさが「細い矢」となって刺さった、という構造です。
問二 「足りなさというのは、その性質上、ちゃんとやらなければ、甘さや実力不足にしか見えない」とはどういうことか(換言・12点)
「足りなさ」とは、後輩のギターでいえば「曲を作るときにあえて作る、自分に弾けないフレーズ」、筆者の作歌でいえば「あえて平易な言葉で止めておくこと」。つまり、わざと不十分な表現をすることです。ただし不十分である以上、「そのほかの力量で、一発で貫かなければいけない」と筆者は述べます。足りない部分以外の構成や韻律に、足りなさを最大限いかすだけの力がなければ、その表現はただ稚拙で平易なだけに見えてしまう。この二段構えをまとめます。
問三 「それだけが本当の手紙に見えた」のはなぜか(具体化・15点)
「祖母の手紙」とは、亡くなった祖父に宛てて便箋の中央に細い文字でたった一言「ありがとう」とだけ書かれた手紙です。筆者は、ぎゅうぎゅうに文字を詰めた自分の手紙より、この一言だけの手紙を「本当」と感じました。
本文後半で筆者は、「ありがとう」以上書いたら内容が規定されて、本当の気持ちからずれてしまう気がしたのではないか、何十年も一緒にいて数えきれないほど口にしてきた「ありがとう」という言葉の中に、祖父と祖母だけが入れるこの世にひとつだけの部屋があったのではないか、と考えています。言葉を尽くさないからこそ真意がずれず、月並みな一言に二人だけが分かり合えるメッセージが宿る。ここが「本当」の中身です。
問四 A・Bの文章を通じて、筆者は「言葉」をどのようなものとして捉えているか(要旨・15点)
「A・Bの文章を通じて」という条件がある以上、どちらか片方の内容だけでは不十分です。二つの文章の共通点を抽出します。
問五 漢字の書き取り(各3点)
- a ヨウミャク は「葉脈」。生きいきとした言葉のたとえとして使われていました。
- b シテイ は「師弟」。「師弟の絆」という文脈です。
- c カヘン は「可変」。「可変であるといい」という文脈で、語彙レベルの高い一問でした。
「欠片(かけら)」など、文脈だけで判断して別の語を書いてしまう誤答が出やすいセットです。カタカナ部分の前後を読み、熟語の意味が文に合うかを確かめてから書く習慣をつけましょう。
大問二 物語文 一穂ミチ『前夜』
出典と本文の状況
一穂ミチさんの『前夜』から、二人の人物がほぼ会話だけで進める短い場面が出題されました。おでんの次の日のカレー、お雑煮の味つけといった「家庭ごとの食文化」の違いから始まった会話は、「完ぺきな円満な家庭などない」という話題へ、そして最後は「一緒にどんな『うち』を作るんだろう」という言葉と「あしたから、よろしく」で締めくくられます。地の文がほとんどなく、語られない情報を会話の端々から推理させる、開成が好む形式です。
問一 「完ぺきな『円満』なんてないんだよな」とはどういうことか(換言・12点)
直前で二人は自分の父親について語っています。きちんとしたスーツを着て働く父が欲しかった人と、家にいてくれる父が欲しかった人。互いに「ないものねだり」をしていますが、「仮に取り替えてもそれで円満っていうわけじゃない」と続きます。さらに後の会話には、外では平気な顔をして苦しさやつらさを我慢している人がきっといっぱいいる、とあります。よそから満ち足りて見える家庭にも、外からは見えない苦しさやつらさがある、という内容をまとめます。
問二 「『うち』で過ごす最後の夜」とはどのような夜か(換言・10点)
本文のどこにも「引っ越し」「結婚」という言葉は出てきません。しかし、家庭の象徴として語られてきたおでんやカレーの味を「一緒に」作っていくこと、「わたしの家でもあなたの家でもないものになっていくはず」という言葉、そして最後の「あした、よろしく」。これらを重ねると、二人が明日から一緒に新しい生活を始めること、つまり傍線部の「うち」は今住んでいる実家であり、今夜がそこで過ごす最後の夜だと分かります。タイトルの『前夜』もヒントになります。
今回の模試から学ぶ開成対策
- 複数テクスト読解に慣れること。A・B二つの文章の共通点を自分の言葉で言語化する練習は、要約学習の延長線上にあります。
- 換言記述では、傍線部の言葉を一語ずつ「本文の言葉」に置き換える意識を持つこと。比喩・曖昧表現を残さないのが原則です。
- 会話文中心の短い物語では、直接書かれない設定を複数の根拠から推理すること。一つの根拠だけで飛びつかないことが大切です。
- 漢字は「記号として覚える」学習から「意味をおさえる」学習へ。葉脈・師弟・可変は、いずれも意味が分かっていれば書ける問題でした。
第3回NNオープンは、夏期講習前の弱点洗い出しに最適な素材です。答案が返却されたら、点数よりも「どの設問タイプで失点したか」を仕分けし、夏の学習計画に反映させましょう。
