サピックス小学部の10月度マンスリー実力テスト(6年生・国語)を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。150点満点・時間50分で、大問は四つです。大問1は漢字(読み2問・書き取り8問)、大問2は言葉の知識(語句の空らん補充5問・ことわざ5問)、大問3はせやま南天さんの『パルティータを鳴らすまで』(朝日新聞出版)からの物語文、大問4は櫻井武さんの『意識の正体』(幻冬舎)からの論説文でした。里親のもとで育ち、半年後に実の母親のもとへ戻ることが決まっている中学2年生の拓実の物語と、AIに意識は生まれるのかを問う論説文。ふたつの文章を図解動画と文字の図解で整理し、全38問の答えの組み立てを根拠つきで示します。記述の解答は、解答例です。
出題構成と全体講評
- 大問は四つ、配点は計150点です。大問1(漢字)が20点、大問2(言葉の知識)が20点、大問3(物語文)が55点、大問4(論説文)が55点です。物語文と論説文で110点を占め、読解が点数の中心です。
- 大問1・2は、全部で20問、各2点です。大問1は読み2問と書き取り8問で、6番(収まった)と9番(厳か)は送りがなまで書きます。大問2は、問1が語句の空らん補充(5問)、問2がことわざ(5問)です。ことわざは、空らんの生き物の名前と、意味の記号の両方が合って、1問です。
- 大問3の物語文は、設問が9問、記述は問二(8点)と問九(12点)の2問です。ほかに、記号選択が6問(問三は、ふさわしいものをすべて選ぶ形式)、抜き出しが1問(問四)あります。5点の記号選択は、選択肢が長く、本文と一か所だけ違う誤りが並びます。
- 大問4の論説文は、設問が9問、記述は問六(14点)の1問です。問一は、空らんA〜Cに接続語を入れる問題(各2点・計6点)、問三は、十五字以上二十字以内で探す抜き出し(はじめと終わりの三字)です。残りは5点の記号選択で、問八は(い)(ろ)に入る言葉の組み合わせを選びます。
- 記述は3問で、合わせて34点です。大問3の問二(8点)・問九(12点)、大問4の問六(14点)です。どれも、気持ちや結論の「一言」を決めて、答えの最後に置く型で書けます。この記事では、各設問の解説に、答えの組み立てをまとめました。
- 物語文と論説文は、「人間とAI」ではなく、「人間の幸せ」と「人間の意識」を考える点でつながっています。物語文は、決められた別れを前に、自分なりの幸せを見つけようとする拓実の物語。論説文は、生き残るために意識をかたちづくってきた人間と、そうではないAIを比べ、人間そのものを見つめ直すことを呼びかける文章です。
大問1 漢字(読み2問・書き取り8問)
大問1は、線部の漢字をひらがなに直す読み2問と、ひらがなを漢字に直す書き取り8問で、各2点、計20点です。「必要な場合は送りがなも書くこと」とあるので、6番と9番は、送りがなまで書いて正解になります。
問題1〜10 漢字の読みと書き取り各2点(全10問)
設問 次の1〜10の——線の漢字はひらがなに、ひらがなは漢字に直して答えなさい。必要な場合は送りがなも書くこと。
答えの組み立て 読みは、①熟語の意味を思い浮かべる、②その意味に合う読みを選ぶ、の順で考えます。書き取りは、①文の意味から熟語を一つ決める、②熟語を、部首ごとに分けて書く、③できあがった字を、見慣れた別の熟語に入れて字形を確かめる、の順です。送りがなのある語は、送りがなから先に決めておきます。
- 1 語学では彼に一日の長がある。(読み) = いちじつ 「一日の長」は、経験や知識などが、他の人より少しまさっていること。「いちにち」と読まないように注意します。
- 2 過去の失敗が成功の喜びを際立たせる。(読み) = きわだ 「際立つ」は、ほかのものとくらべて、はっきりと目立つこと。線部は「際立」の二字なので、答えは「きわだ」です。
- 3 志望校のえんかくを知り理解を深める。 = 沿革 沿革は、物事の移り変わりのこと。「沿」は、さんずいで、右側には「船」と同じ形が入っています。
- 4 ちょすいちで遊ぶのは危険だ。 = 貯水池 貯水池は、水をためておく池。「貯」は、貝へんで、右側は「宁」(うかんむりに丁)です。「池」は、さんずいに「也」です。
- 5 かんけつな説明を心がける。 = 簡潔 簡潔は、短く、要領よくまとまっていること。「簡」はたけかんむり、「潔」はさんずいです。
- 6 彼の一言で混乱がおさまった。 = 収まった 送りがなは「まった」です。同じ読みの「治まる」「納まる」「修まる」と区別します。混乱や事態が落ち着くときは「収まる」と書きます。
- 7 飼い主にだけはじゅうじゅんな犬。 = 従順 従順は、逆らわずに、素直に言うことを聞くこと。「従」はぎょうにんべん、「順」は「川」と「頁」です。
- 8 ふるすのチームに戻って練習する。 = 古巣 古巣は、以前いた場所や、以前に所属していたところ。「巣」は、上から「巛」「田」「木」の形です。
- 9 おごそかな雰囲気の式典。 = 厳か 送りがなは「か」です。厳かは、重々しく、立派で近寄りがたいようす。「厳」だけでは、誤りになります。
- 10 ととうを組んで反抗する。 = 徒党 徒党は、同じ目的のために集まった仲間のこと。「徒党を組む」は、仲間をつくる、という意味です。「徒」はぎょうにんべんに「走」です。
1 いちじつ / 2 きわだ / 3 沿革 / 4 貯水池 / 5 簡潔
6 収まった(送りがな「まった」) / 7 従順 / 8 古巣 / 9 厳か(送りがな「か」) / 10 徒党
漢字は、字形が一画違うだけで×になります。書き取りは、間違えた字を何度も書き写すだけでなく、「どの部分を間違えたのか」を一言でメモすると、身につきます。たとえば、「収まったの送りがな」「厳かの送りがな」のように、間違えた場所を言葉にして残してください。
大問2 言葉の知識(語句の空らん補充・ことわざ)
大問2は、問1が語句の空らん補充(5問)、問2がことわざ(5問)で、各2点、計20点です。問1は、ア〜コから選ぶ形式で、同じ記号は一回しか使えません。問2は、空らんにあてはまる生き物の名前をひらがなで答え、あとのア〜クから意味を選びます。名前と意味の両方が合って、1問です。
問1 語句の空らん補充(□にあてはまる言葉をア〜コから選ぶ)記号選択・各2点(5問)
設問 次の(1)〜(5)の□にあてはまる言葉をア〜コの中から一つずつ選び、記号で答えなさい。(同じ記号は一回しか使えません。) ア 手前味噌/イ かたず/ウ むしろ/エ 羽目/オ きびす/カ 皮肉/キ もっけ/ク 食指/ケ 老婆心/コ 苦虫
答えの組み立て 空らんの前後を見て、「〜ながら」「〜なものだ」「〜が動かない」「〜をのむ」「〜をかみつぶしたような」のように、決まった言い回しになっていないかを探します。言い回しが決まれば、一つの語に絞れます。選んだ記号は消して、残りから次の空らんを考えます。
- (1) □ながら、きちんと持ち物がそろっているか確認したほうがいいと思うよ。 = ケ(老婆心) 「老婆心ながら」は、必要以上に世話を焼いてしまうかもしれないが、と前置きして、相手を思って言う言い方です。
- (2) 良かれと思って手伝ったのに、私のミスのせいで手間が増えたとは□なものだ。 = カ(皮肉) 「皮肉なものだ」は、期待や予想と逆の結果になったことを言います。手伝ったのに、かえって手間が増えた、という文に合います。
- (3) 値段は安いが色合いが自分の好みでなかったので□が動かない。 = ク(食指) 「食指が動く」は、ほしい、やってみたいという気持ちになること。「動かない」と打ち消すと、ほしいと思わない、という意味になります。
- (4) 同点のまま試合時間はわずかとなり、□をのんで試合を見守る。 = イ(かたず) 「固唾をのむ」は、どうなるかと緊張して、成りゆきを見守ること。「かたず」は、かなで書かれています。
- (5) 失敗をみんなの前で指摘された彼は□をかみつぶしたような顔になった。 = コ(苦虫) 「苦虫をかみつぶしたような顔」は、とても不機嫌な顔つきのことです。
使わなかった言葉 残りの5つは、次のとおりです。ア「手前味噌」は、自分で自分のことをほめること。ウ「むしろ」は、二つを比べて「どちらかといえば」と言う言葉。エ「羽目」は、「〜羽目になる」と言う、困った状況に追い込まれること。オ「きびす」は、かかとのことで、「きびすを返す」と言います。キ「もっけ」は、「もっけの幸い」と言う、思いがけない幸運のことです。どれも、問1の文の言い回しとは合いません。
(1) 老婆心ながら / (2) 皮肉なものだ / (3) 食指が動かない
(4) 固唾をのむ / (5) 苦虫をかみつぶしたような
問2 ことわざ(□の生き物の名前と、ことわざの意味)記述(ひらがな)+記号選択・各2点(5問)
設問 次の(1)〜(5)のことわざの□にあてはまる生き物の名前をひらがなで答え、あとのア〜クから、ことわざの意味を一つずつ選び、それぞれ記号で答えなさい。
答えの組み立て まず、ことわざ全体を思い出して、生き物を決めます。次に、そのことわざの意味を、選択肢から選びます。意味の選択肢はア〜クの8つで、使わないものが3つあります。名前と意味の両方が合って1問なので、片方だけ合っていても点にならないと考えて、両方を確かめます。
- (1) □の頭も信心から = いわし・イ 意味は、信じているものは、どんなものでもありがたく見えること。いわしの頭のようなつまらないものでも、信じる人には、ありがたく感じられる、というたとえです。
- (2) □に引かれて善光寺参り = うし・キ 意味は、偶然のきっかけで、よい結果になること。自分から出かけるつもりはなかったのに、牛に引かれていくうちに、善光寺に参ることになった、という話からできたことわざです。
- (3) □の穴から堤もくずれる = あり・ウ 意味は、わずかな不注意が、大きな失敗につながること。小さな蟻の穴が、やがて堤全体をくずしてしまう、という意味です。
- (4) 柳の下にいつも□はいない = どじょう・オ 意味は、同じ方法が何度も通用するとは限らないこと。一度、柳の下でどじょうがとれたからといって、いつもそこにいるとは限りません。
- (5) □には乗ってみよ人には添うてみよ = うま・ア 意味は、経験してみなければ、本質はわからないこと。「添う」は、そばに寄りそって、いっしょに暮らす、という意味です。
使わなかった意味 使わない意味は、エ(これ以上上手の打ちようがないこと)、カ(他人のつまらない言動でも役にたつこと)、ク(一人の人間にいくつもの才能があるわけではないこと)の3つです。(1)〜(5)の意味は、ことわざの全体を思い出して、選択肢から一つずつ選びます。
ことわざ全体から、□の生き物を決める(ひらがなで書く)
意味を、選択肢から一つ選ぶ(使わない意味が3つある)
名前と意味の両方が合って、1問です。
大問3 物語文 せやま南天『パルティータを鳴らすまで』
あらすじ 里子の拓実が、「一歩外に出られた」と気づくまで
時本拓実は中学2年生です。4歳のとき、バイオリン工房を営む岸根央太朗・麻衣夫妻に、里子として引き取られました。ただし、はじめから、十年後には実の母親のもとに戻ることが決まっていて、その期日が半年後に迫っています。新しい生活の準備のために、週末を実の母親の家(時本の家)で過ごした拓実は、翌日、登校したところで、幼馴染の果鈴に呼び止められます。果鈴も、橘義哲・純夫妻に引き取られた里子です。
渡り廊下で、果鈴は「週末、泊まったんでしょ?あの人の家に」と聞きます。拓実は、「じゃあきっと、時本でも暮らせるよ、仲良く。なにも今と変わらない」と答えます。それを聞いた果鈴の表情が、めずらしく曇ります(問一)。果鈴は、「たっくんには、央太朗さん達しかいないのかなって、ずっと思ってきたから」と言い、拓実は、央太朗達のことを「ただの他人だよ」と返します(問二)。果鈴が、「私とパパとママだって、血はつながってない。だけど、私のパパとママは、あの二人しかいないって思ってるよ」と言うと、拓実は、そんな風に思えるなんて羨ましい、と思いながらも、別れなんて想像したこともないやつの言葉だ、と感じます(問三)。「何?それって僕への当てつけ?」と、激しく怒った拓実は、持っていたものを足元に投げつけ、「違わないだろう!」と叫びます。拓実は心の中で、「いつか別れる日が来る」と何度も言い聞かされてきた、そんな相手に運命を感じてしまったらどうする、と思います。
本文は、ここで中略されます。拓実は、同級生の八木沢の励ましもあり、岸根の家を離れる前に、お世話になった人たちに、自分の演奏を聴いてもらうことを決意します。バイオリニストである、央太朗の父(じいちゃん)の演奏会に参加することになり、果鈴たちを招待しようと、アスパラ(橘夫妻が営むレストラン)にやってきました。
そのあとの会話で、果鈴は、「私、あれから考えたんだよね」と話しはじめます。そして、「でも、気づいたんだよね」と続け、「私の幸せは、私が決めるんだし!」「私を幸せにするのは、私だわ!」と、照れくさそうに笑います(問四)。拓実は、「いいんじゃないかな。参考にさせてもらうよ」と答えます(問五)。果鈴は、空に向かって、子ども達みんなが幸せに暮らせる手伝いができる仕事につけたらいいなぁ、と呟きます。拓実は、「どこまで強いのだろう、果鈴は」と思います(問六)。
もう一度、中略があります。拓実は、八木沢にも演奏会の件を報告し、一か月後の演奏会に向けた体力作りのために、八木沢と一緒にランニングをすることになりました。待ち合わせ場所には、八木沢が先に来て、準備運動をしています。八木沢は、金髪に目をやる拓実に、「この髪はさ、かあちゃんに無理やり染められてんの。ずっとだよ。保育園の頃から、ずうっと金髪」と言います。拓実は、屈伸する体勢のまま、間の抜けた顔を八木沢に向けます(問七)。
走り始めて五分もたたないうちに、拓実は遅れ始めます。八木沢は、何度も拓実を追い抜き、そのたびに「いけいけ」「やるじゃん」と声をかけてくれました。拓実は、その度に、一人じゃなかったと思い出して、背筋をめいっぱい持ち上げます(問八)。夜がだんだん明け、拓実は、央太朗(父さん)を思い出します。「あの家で、工房で、十分にあたたまることができたんだ。」「あたたまった体で、僕は今、この寒くて暗い中を走る。もう十分、あたたまった。だから、一歩外に出られたんだ。」(問九)。公園の池の向こうの木々の上に、朝陽が昇ってきます。拓実は、パルティータの七楽章すべてを全力で弾き切り、父さんや、見守ってくれた人達に聴いてもらおう、と思います。
4歳から里子として育つ
半年後に実の母親のもとへ戻る
拓実は「父さん」と呼んでいる
妻は麻衣
橘義哲・純夫妻に引き取られている
「私の幸せは、私が決める」
演奏会に向けた体力作りのランニングに付き合う
期日は半年後に迫る
その演奏会に拓実も参加する
この物語は、時間の順に進みますが、途中で2回、本文が中略されています。設問の根拠を探すときは、「どの場面か」を先に確かめましょう。場面の並びを整理しておきます。
-=否定的な心情 / ±=複数の気持ちが重なる転換点 / +=肯定的な心情
問一 線①「そうなんだ、と言った果鈴の表情がめずらしく曇った」 なぜか記号選択・5点
設問 線①「そうなんだ、と言った果鈴の表情がめずらしく曇った」とありますが、なぜですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 果鈴の表情が曇った理由を選ぶ問題です。「なぜ曇ったのか」は、曇る直前の会話と、そのあとに果鈴が自分で説明した言葉の中にあります。
答えの組み立て まず、曇る直前に、拓実が何と言ったのかを確かめます。次に、果鈴が、そのあとで自分の思いを説明した言葉を探します。最後に、二つを一つの文にまとめた選択肢を選びます。
本文の根拠 果鈴が「週末、泊まったんでしょ?あの人の家に」と聞き、拓実は「じゃあきっと、時本でも暮らせるよ、仲良く。なにも今と変わらない」と答えます(冊子p.4)。そのあと、果鈴の表情が曇ります。果鈴は、その理由を「だって。たっくんには、央太朗さん達しかいないのかなって、ずっと思ってきたから」と話します。果鈴は、里親の央太朗達と暮らすことが拓実の幸せだと信じていたので、拓実のそっけない言い方が、悲しく思えたのです。
選択肢の検討
- ア 時本の家で暮らすようになれば、央太朗達の存在は、拓実にとっては重要なものではなかったことに気づかされ、これまで拓実を支えてきた央太朗達の気持ちを思うといたたまれなくなったから。 果鈴が、央太朗達は拓実にとって重要でなかった、と気づいたとは書かれていません。悲しくなったのは、拓実が央太朗達に対して、そっけなかったからです。
- イ 時本の家で暮らすようになれば、央太朗達だけでなく自分との関係も切れてしまうのに、そのことを拓実が全く気にしていないようだったので、がっかりしたから。 果鈴が口にしたのは、拓実と央太朗達のことだけです。自分との関係が切れることを気にしていたとは、本文から言えません。
- ウ 里親である央太朗達と暮らすことが拓実の幸せだと信じていたため、拓実が央太朗達に対してそっけない発言をしたことが悲しく思えたから。 「央太朗さん達しかいないのかなって、ずっと思ってきた」(信じていた)と、拓実の「なにも今と変わらない」(そっけない発言)の両方が、本文に合っています。 これが正解です。
- エ 拓実は時本の家になど行かずこのまま央太朗達と暮らしたいはずなのに、自分の前では本音を言わず強がっているのではないかと思い、同じ里子として切なくなったから。 果鈴が、拓実は強がっているのではないかと考えた、とは書かれていません。果鈴が言ったのは、央太朗達しかいないと思ってきた、という自分の思いです。
① 果鈴は、里親の央太朗達と暮らすことが拓実の幸せだと信じていた
② 拓実が、「なにも今と変わらない」と、央太朗達にそっけない発言をした
③ それが悲しく思えた
問二 線②「ただの他人だよ」 拓実が央太朗を「他人」と言った理由(記述)記述・8点
設問 線②「ただの他人だよ」とありますが、拓実が里親の央太朗についてこのように言うのはなぜですか。説明しなさい。
何を答える問いか 里親を「他人」と言う拓実の本心を説明する問題です。言葉の表面の意味ではなく、拓実がなぜそう言う必要があったのか、を答えます。
答えの組み立て 気持ちを一言で決めて、答えの最後に置く まず、拓実の気持ちを一言で決めます。拓実は、「別れがつらくならないようにしたかった」のです。この一言を答えの最後(文末)に置き、その前に、状況を並べます。状況は二つです。(1)央太朗達と、いつか別れるとわかっていること。(2)だから、かけがえのない存在だと思う気持ちをおさえていること。
本文の根拠 激しく怒った拓実は、「違わないだろう!」と叫び、心の中で、「いつか別れる日が来る」って何度も言い聞かされてきた、と思います(冊子p.5)。そして、そんな相手に運命を感じてしまったらどうする、とも思います。別れが決まっているから、央太朗達を、この人しかいない、と思ってはいけない。拓実は、そう自分に言い聞かせて、気持ちをおさえてきたのです。「ただの他人だよ」は、本心ではなく、別れがつらくならないための言葉です。
① 状況 央太朗達と別れるとわかっていた
② 行動 かけがえのない存在だと思う気持ちをおさえている
③ 気持ちの一言(答えの最後に置く) 別れがつらくならないようにしたかったから
書く順番は、①→②→③です。
解答例の組み立て 解答例は、「〜とわかっていたため、〜気持ちをおさえることで、〜ようにしたかったから」という一文です。「わかっていたため」で状況、「おさえることで」で行動、「したかったから」で気持ちの一言を、文末に置いています。
失点しやすい書き方
- 「他人だから」「関係が薄いから」と、言葉の意味を言いかえるだけ 「なぜ、そう言うのか」の理由が書けていません。拓実は、央太朗達を大切に思っているからこそ、そう言っています。
- 「央太朗達が嫌いだから」「感謝していないから」と書く 拓実の気持ちとは正反対です。かけがえのない存在だと思う気持ちが、前提にあります。
- 出来事で終わって、気持ちの言葉で結んでいない 「いつか別れる日が来ると言い聞かされてきたから」で終えると、「だから、どうして、他人と言ったのか」が書けていません。「別れがつらくならないようにしたかったから」と、気持ちの一言で結びます。
問三 線③「私とパパとママだって〜」 拓実はどのようなものに感じているか(すべて選ぶ)記号選択(すべて選ぶ)・5点
設問 線③「私とパパとママだって、血はつながってない。だけど、私のパパとママは、あの二人しかいないって思ってるよ」とありますが、この言葉を拓実はどのようなものに感じていますか。ふさわしいものをすべて選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 果鈴の言葉を、拓実が「どう受け取っているか」を選ぶ問題です。拓実の受け取り方は、一つとは限りません。「すべて選ぶ」とあるので、二つ以上あると考えて探します。
答えの組み立て 拓実が、果鈴の言葉を聞いたあとに考えたことを、二つの方向から探します。(1)果鈴の言葉の中身について、どう感じたか。(2)自分の立場から見て、どう感じたか。この二つが書かれた選択肢が、正解です。
本文の根拠 拓実は、果鈴の言葉に対して、「そんな風に思えるなんて、羨ましい」と思います(冊子p.4)。これは、里親への深い愛情と、きずなを感じているからです(ウ)。ところがすぐに、「別れなんて想像したこともないやつの言葉だ」と感じます。拓実は、これから里親と別れなければなりません。その自分への配慮がない、無神経な言葉、とも感じたのです(オ)。
選択肢の検討
- ア 里親への愛情を素直に示せない自分への批判を隠そうともしない、率直なもの。 果鈴は、拓実を批判してはいません。「批判」とは書かれていません。
- イ 同じ里子でも拓実と異なり大切にされていることを誇示しようとする、幼稚なもの。 拓実は、果鈴の言葉を、誇示(見せびらかし)だとは感じていません。「羨ましい」と感じています。
- ウ 大切に育ててくれた里親への深い愛情ときずなを感じさせる、純粋なもの。 「羨ましい」と思うほどの、里親への深い愛情を、拓実が感じ取っています。 これが正解です。
- エ 里親と里子という関係がどういうものであるかを理解していない、浅はかなもの。 果鈴も里子です。里親と里子の関係を、理解していないわけではありません。
- オ これから里親と別れて生活する拓実への配慮が感じられない、無神経なもの。 「別れなんて想像したこともないやつの言葉だ」と、拓実は感じています。 これが正解です。
① ウ 果鈴の里親への深い愛情・きずなを感じる(羨ましい)
② オ 別れる自分への配慮がない(別れなんて想像したこともないやつの言葉だ)
ウとオは、順不同です。
問四 線④「でも、気づいたんだよね」 果鈴が気づいたこと(抜き出し)抜き出し・5点
設問 線④「でも、気づいたんだよね」とありますが、果鈴はどのようなことに気づいたのですか。次のようにまとめたとき、□にあてはまる言葉として本文中から五字以上十字以内で探し、ぬき出して答えなさい。「周りの状況にとらわれることなく、自らの手で□を引き寄せるべきだということ。」
何を答える問いか 果鈴の気づきを、設問の文の言い回しに合わせて、本文から探し出す問題です。字数が五字以上十字以内と決まっているので、字数でも絞ります。
答えの組み立て ①設問の文の「引き寄せる」を、本文では別の言い方で書いていないかを探す。②見つけた箇所の「何を」にあたる語を、本文から抜き出す。③字数(五字以上十字以内)に合っているかを数える。
本文の根拠 果鈴の気づきは、「私の幸せは、私が決めるんだし!」「私を幸せにするのは、私だわ!」(冊子p.7)です。ここから、「幸せ」が答えのもとになる言葉だとわかります。ただし、そのままでは、字数(五字以上)に合いません。「私の幸せ」も、四字で、足りません。そこで、設問の「引き寄せる」の言いかえを探します。冊子p.11で、拓実は、「果鈴も、八木沢も、懸命に前を向こうとしているんじゃないか。自分なりの幸せを、自分で手繰り寄せようとしているんじゃないか」と考えます。「手繰り寄せる」が、設問の「引き寄せる」と同じ意味で、その直前の「自分なりの幸せ」が、□に入る言葉です。七字で、字数にも合います。
① 設問の「引き寄せる」を、本文の「手繰り寄せる」に言いかえる
② 「手繰り寄せる」の目的語を探す = 「自分なりの幸せ」
③ 字数を数える = 七字(五字以上十字以内)
問五 線⑤「いいんじゃないかな。参考にさせてもらうよ」 そう言えた理由記号選択・5点
設問 線⑤「いいんじゃないかな。参考にさせてもらうよ」とありますが、拓実が果鈴に対してこのように言えたのはなぜだと考えられますか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 拓実が、果鈴の言葉を、素直に受けとめられた理由を選ぶ問題です。問三で、「別れなんて想像したこともないやつの言葉だ」と怒っていた拓実が、なぜ、変わったのかを考えます。
答えの組み立て ①拓実が、果鈴の言葉を聞いて、どう感じたかを探す。②拓実が、果鈴のことを、どう思ったかを探す。③二つを合わせた選択肢を選ぶ。
本文の根拠 果鈴の言葉を聞いて、拓実は、「果鈴の言葉は、僕の胸の真ん中にズシンと響いた」と感じます(冊子p.7)。そして、「果鈴だって今、悩んでるのかもしれない」と考えます。果鈴は、このまま養育里親のもとで育ち、十八歳で橘の家を去るのか、養子縁組をして、この先もずっと親子としていられるのか、どちらにしても選べない、拓実と同じ立場にいます(冊子p.8)。そんな果鈴が、「私が私を幸せにするしかない。してみせる!」と、前向きに言ったのです。同じ状況でも前向きに考える果鈴の言葉に、心を動かされ、素直に受けとめたことが、「参考にさせてもらうよ」につながっています。
選択肢の検討
- ア 里子としての将来に悩み落ち込んでいる様子の果鈴を見て、果鈴を傷つけてきたことを反省し、果鈴の思いと真剣に向き合うことができたから。 果鈴は、落ち込んでいるのではなく、前向きに話しています。また、拓実が、果鈴を傷つけてきたことを反省した、とも書かれていません。
- イ 自分と同様の不安定な状況にあっても前向きに考えることのできる果鈴の言葉に心を動かされ、素直にうけとめることができたから。 「同様の不安定な状況」(里子として、将来を選べない)、「前向きに考える」、「心を動かされ、素直にうけとめた」の三つが、本文に合っています。 これが正解です。
- ウ 果鈴も里子という立場で将来について悩みながらも自分を応援してくれていることがわかり、自分も果鈴を励ましたいと思えたから。 果鈴が話しているのは、自分自身の気づきで、拓実を応援する言葉ではありません。また、「果鈴を励ましたい」という気持ちも書かれていません。
- エ 果鈴の力強い言葉に勇気づけられ、今はまだ精神的に弱い自分だが少しずつでも果鈴を見習っていきたいと前向きになれたから。 拓実が言ったのは、「参考にさせてもらう」です。「自分は精神的に弱い」と認めたことも、「見習っていきたい」と決意したことも、本文にはありません。言いすぎです。
① 果鈴も、将来を選べない、自分と同じ不安定な状況にいる
② その中で前向きに考える果鈴の言葉に、心を動かされた
③ 素直に受けとめることができた
問六 線⑥「どこまで強いのだろう、果鈴は」 果鈴の「強い」ところ記号選択・5点
設問 線⑥「どこまで強いのだろう、果鈴は」とありますが、拓実は果鈴のどのようなところを「強い」と感じているのですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 拓実が、果鈴を「強い」と感じた理由を選ぶ問題です。「強い」の中身は、果鈴の言葉の直前にあります。拓実自身と比べて、どこが強いのかも考えます。
答えの組み立て ①線⑥の直前の、果鈴の言葉を見つける。②果鈴の言葉から、「何を」「どう」しようとしているかを一言で決める。③それを、拓実と比べて、「違うところ」として言いかえた選択肢を選ぶ。
本文の根拠 線⑥の直前で、果鈴は、空に向かって、子ども達みんなが幸せに暮らせる手伝いができる仕事につけたらいいなぁ、と呟きます(冊子p.8)。果鈴も、将来を選べない立場です。それでも、先行きのわからない未来に向けて、前向きで、しかも、自分だけでなく、他の人の幸せまで願っています。一方の拓実は、半年後に迫った別れに苦悩して、自分のことしか考えられませんでした。この対比が、「強い」と感じた理由です。
選択肢の検討
- ア 現実に苦悩して自分のことしか考えられなかった拓実とはちがって、先行きのわからない未来に向けても前向きで、他者の幸せを願うことができるところ。 「先行きがわからなくても前向き」「他者の幸せを願う」「自分のことしか考えられなかった拓実との対比」の三つが、すべて本文に合っています。 これが正解です。
- イ 将来に不安を抱えるなかで余裕を失ってしまった拓実とは対照的に、自分の将来を楽観的にとらえて、自分と他者が共に幸せになる方法を模索するところ。 果鈴は、自分の将来を「楽観的に」とらえているわけではありません。選べない立場だとわかっていて、それでも前向きなのです。「方法を模索」も、本文にはありません。
- ウ 周囲の大人に依存して精神的に自立ができていない拓実とは異なり、将来の自立に向けて具体的な展望を描き、それに向かって突き進もうとしているところ。 果鈴が言ったのは、「仕事につけたらいいなぁ」という呟きです。「具体的な展望を描き、突き進む」ほどの、はっきりした計画ではありません。
- エ 自由に生きたくとも生きられない現実に苦しんでいる拓実とは反対に、苦しくとも希望を捨てることなく誰もが幸せになれる未来を思い描いているところ。 拓実の苦しみは、別れが決まっている現実への苦悩で、「自由に生きたくとも生きられない」という説明は、ずれています。
① 果鈴は、先行きがわからなくても前向き
② 自分だけでなく、他の人(子ども達みんな)の幸せまで願う
③ 現実に苦悩して自分のことしか考えられなかった拓実との対比
問七 線⑦「間の抜けた顔を八木沢に向けた」 そうなった理由記号選択・5点
設問 線⑦「僕は屈伸する体勢のまま、間の抜けた顔を八木沢に向けた」とありますが、拓実が「間の抜けた顔」になったのはなぜですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 拓実が、ぽかんとした顔になった理由を選ぶ問題です。「間の抜けた顔」は、予想外のことを聞いて、おどろいたときの顔です。直前に、何を聞いたのかを探します。
答えの組み立て ①直前に、八木沢が何と言ったかを探す。②拓実が、それまで八木沢の家族をどう思っていたかを探す。③「予想」と「現実」の差を、一つの文にした選択肢を選ぶ。
本文の根拠 八木沢は、「この髪はさ、かあちゃんに無理やり染められてんの。ずっとだよ。保育園の頃から、ずうっと金髪」と言います(冊子p.9)。拓実は、八木沢の家族を、「ふつうの、理想の家族」と想像していました(冊子p.10)。拓実自身は、「僕が選ぶものについて『こうしろ』と強制されたことはない」と思っています。自分の意志で金髪にしていると思っていた八木沢が、実は、親から無理やり染められていた。この予想外の事実に、拓実は、おどろいたのです。
選択肢の検討
- ア 母親に金髪にすることを強制されていると話す八木沢がいつもどおりの元気な声とは裏腹に落ち込んでいる様子だったので、どう接すればよいか戸惑ってしまったから。 八木沢は、いつもどおり明るく話しています。落ち込んでいる様子は、本文にありません。
- イ 華やかな八木沢への劣等感から金髪がルール違反であることを指摘したが、母親に無理やり染められていたことがわかり、深く聞いてよいものかどうか迷っていたから。 拓実が、金髪はルール違反だと指摘した場面は、本文にありません。
- ウ 子どもの意志を尊重するような理想的な家庭に育ち、自分の意志で金髪にしたと思っていた八木沢が、実は親から強制されて髪を染めていると知って驚いたから。 「理想的な家庭」と思っていたこと、「自分の意志」だと思っていたこと、「親から強制されていた」と知った驚きの三つが、本文に合っています。 これが正解です。
- エ 悩みが全くないと思っていた八木沢が自分と同じように家族との関係で悩んでいることがわかり、これまで抱いていた警戒心が解けて気が抜けたから。 「間の抜けた顔」は、予想外のことを聞いておどろいた顔で、気が抜けた顔ではありません。「警戒心」を抱いていたとも、書かれていません。八木沢も自分と同じように悩んでいるのかもしれない、と拓実が考えるのは、そのあと、走り出してからです(冊子p.11)。
① 拓実は、八木沢の家族を、ふつうの、理想の家族だと思っていた(自分の意志で金髪にしていると思っていた)
② 実は、母親に無理やり染められていたと聞いた
③ 予想外のことで、おどろいた
問八 線⑧「その度に、一人じゃなかったと思い出して〜持ち上げる」 拓実の様子記号選択・5点
設問 線⑧「その度に、一人じゃなかったと思い出して、前屈みでフラフラになっていた背筋を、めいっぱい持ち上げる」とありますが、このときの拓実の様子として、最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 背筋を持ち上げる拓実の「様子」を選ぶ問題です。何が、拓実の支えになっているのかを、本文から探して、言いかえます。
答えの組み立て ①「その度に」の「その」が指す内容を、直前から探す。②「一人じゃなかった」の意味を、考える。③それを、「支え」と「走り続ける様子」の二つに言いかえた選択肢を選ぶ。
本文の根拠 走り始めて五分もたたないうちに遅れ始めた拓実を、八木沢は、何度も追い抜かし、毎回「いけいけ」とか「やるじゃん」とか声をかけてくれました(冊子p.11)。その度に、拓実は、一人じゃなかったと思い出します。八木沢が、そばにいて、励ましてくれることが、拓実の心の支えとなって、苦しみに耐えて走り続けることができているのです。
選択肢の検討
- ア 八木沢がいることで、発表会の体力作りのために走っていることを再認識できている。 「一人じゃなかった」と思い出すことは、体力作りの目的を再確認することではありません。
- イ 八木沢にほめられることで、投げ出してしまいたいという気持ちがおさえられている。 八木沢の声は励ましで、ほめているわけではありません。「投げ出したい」という気持ちも、書かれていません。
- ウ 八木沢の声によって見られていることを意識するため、手が抜けなくなっている。 拓実は、見られているから頑張っているのではなく、一人じゃなかったと思い出して、支えられているから頑張れているのです。
- エ 八木沢の存在が心の支えとなり、苦しみに耐えて走り続けることができている。 「八木沢の存在が心の支え」と、「苦しみに耐えて走り続ける」の両方が、本文に合っています。 これが正解です。
① 八木沢が、何度も声をかけてくれる
② 一人じゃなかったと思い出す(八木沢の存在が心の支え)
③ 苦しみに耐えて走り続けている
問九 線⑨「あたたまった体で〜一歩外に出られたんだ」 どういうことか(記述)記述・12点
設問 線⑨「あたたまった体で、僕は今、この寒くて暗い中を走る。もう十分、あたたまった。だから、一歩外に出られたんだ。」とありますが、どういうことですか。説明しなさい。
何を答える問いか 「あたたまった体」と「一歩外に出られた」の二つの表現を、それぞれ本文の言葉に言いかえて、一つの文にまとめる問題です。「寒くて暗い」も、たとえ(比喩)として読みます。
答えの組み立て 結論を一言で決めて、答えの最後に置く まず、結論を一言で決めます。拓実は、「前向きな気持ちになれた」のです。この一言を答えの最後に置き、その前に、きっかけと状況を並べます。きっかけは、「あたたまった」=央太朗達に大切に育ててもらえたこと。状況は、「寒くて暗い」=別れのさびしさや、将来への不安があること。この二つを、「〜からこそ、〜があっても、〜になれた」とつなぎます。
本文の根拠 あたたまった 線⑨の直前に、「父さんがいなければ、きっと走りだすことなんて、できなかった。とても臆病だったから。初めから一人きりだったら、外は寒くて、暗闇が怖くて、ブルブル震えることしかできなかった。あの家で、工房で、十分にあたたまることができたんだ。」とあります(冊子p.12)。「あの家で、工房で、十分にあたたまることができた」とは、央太朗達に、大切に育ててもらえたことのたとえです。
本文の根拠 一歩外に出られた 「寒くて暗い」外は、別れのさびしさや、将来への不安のたとえです。拓実は、その中に出ていっても、自分なりの幸せを見つけようと、前向きな気持ちになれた、ということです。果鈴の「自分の幸せは自分で決める」(問四)や、八木沢の存在(問八)も、この気持ちを支えています。
① きっかけ 央太朗達が大切に育ててくれた(あたたまった)
② 状況 別れのさびしさや、将来への不安がある(寒くて暗い)
③ 結論の一言(答えの最後に置く) 自分なりの幸せを見つけようと前向きな気持ちになれた
書く順番は、①→②→③です。
解答例の組み立て 解答例は、「〜からこそ、〜があっても、〜になれたということ」という一文です。「からこそ」で、きっかけを前に置き、「があっても」で状況を置き、「前向きな気持ちになれた」で、結論の一言を文末近くに置いています。設問が「どういうことか」なので、文末は、「ということ」で結びます。
失点しやすい書き方
- 「体があたたまった」と、文字どおりに書く 「あたたまった体」は、比喩です。央太朗達に、大切に育ててもらえたことを表しています。
- 「一歩外に出られた」を、「外に出た」と書き換えるだけ 外は、「寒くて暗い」(さびしさや不安がある場所)なので、そこに出ていく意味を、前向きな気持ちとして書く必要があります。
- 央太朗達への感謝だけで終わる 「感謝した」は、きっかけの一部ですが、結論ではありません。「前向きな気持ちになれた」まで書きます。
- 出来事で終わって、気持ちの言葉で結んでいない 「走った」「朝陽が昇った」などの出来事で終えると、設問の「どういうことか」に答えていません。
大問4 論説文 櫻井武『意識の正体』
要旨 意識は、人間が生き残るためにかたちづくった戦略。AIにその理由はあるのか
この文章は、神経科学の知見をもとに、「意識」とは何か、そして「AIは意識をもつのか」を考える論説文です。筆者は、まず、私たちが当たり前だと思っている、「自分の行動は意識して選んでいる」という直感が、必ずしも正しくないことを示します。ある実験では、特定の視覚刺激に反応して脳が活動を始める時間は、被験者がその刺激に「気づいた」と報告する時間よりも先でした。つまり、私たちが「今決めた」と感じるより前に、脳はすでに結論を出しています。意識は、多くの場合、脳が下した判断の「事後報告」にすぎない、というのです。
次に、筆者は、無意識を、膨大な情報を瞬時にふるいにかけて、必要なときに意識へ送り出す巨大なフィルターだと整理します。そして、意識と無意識の境目をもたないAIはどうなのかを考えます。人間は、処理能力や記憶容量に制限があるので、「意識」というスポットライトを必要とします。一方、AIは、ほぼ無制限の舞台照明で、すべてを照らしているようなものです。もし意識が、制限された処理能力の中で、何を選び、何を捨てるかを担う機構であるなら、AIには、それをもつ理由がない、と筆者は考えます。
ただし、もしAIに、「何を見ないか」「何を忘れるか」「あえて曖昧なまま保持するか」という選択の機構を与えたら、AIは、単なる入力と出力の機械ではなくなるかもしれません。人間は、そこに「個性」や「意図」を感じ始めるだろう、と筆者は述べます。そのうえで、筆者は、人間の意識や感情が、進化の過程で、生き残るための戦略としてかたちづくられてきたことを確かめます。AIは、こうした進化的な圧力を経験していません。身体をもたず、死の恐怖もなく、代謝や生殖といった生命活動からも無縁です。すべての行動は、外部から与えられた目標関数に従うだけなので、その達成に感情的な必然性は伴いません。
最後に、筆者は、意識とは、計算能力ではなく、世界と自分の間に意味の橋を架ける営みであり、その橋を築くには、進化がもたらした動機と制約が不可欠だ、とまとめます。意識をもつAIの未来像は、楽観的にも悲観的にも描けます。だからこそ、私たちは、「AIが意識をもつかどうか」という問いを、単に技術的な課題としてではなく、人間とは何かを問い直す鏡として捉える必要がある、と呼びかけて文章を結びます。
対応する設問:問一(A・B)・問二
対応する設問:問一(C)・問四
対応する設問:問五
対応する設問:問三・問六
対応する設問:問七・問八・問九
問一 空らんA〜C 接続語空らん補充・各2点(計6点)
設問 A〜Cにあてはまる言葉として、最もふさわしいものを次の中から選び、それぞれ記号で答えなさい。(ただし、同じ記号は一回しか使えません。) ア なぜなら/イ では/ウ つまり/エ たとえば
何を答える問いか 空らんの前後が、どんな関係でつながっているかを見分ける問題です。接続語は、前の内容と後の内容の関係を表します。「言いかえ・まとめ」なら「つまり」、「例」なら「たとえば」、「話題を変える・問いかける」なら「では」、「理由」なら「なぜなら」です。
答えの組み立て 空らんごとに、①空らんの前の内容を一言で言う、②空らんの後の内容を一言で言う、③二つの関係(言いかえ・例・話題転換・理由)を決めて、接続語を選ぶ、の順に考えます。選んだ記号は消して、残りから次を考えます。
- A = ウ(つまり) 空らんの前は、実験の結果(脳の活動は、「気づいた」と報告する時間より先だった)。後は、「私たちが『今決めた』と感じるその瞬間より前に、脳はすでに結論を出している」。実験の結果を、日常の感覚で言いかえてまとめています。
- B = エ(たとえば) 空らんの前は、日常生活の中に、この事実を裏づける例は枚挙にいとまがない、という内容。後には、歩くとき、自転車、ピアノ演奏者といった、具体的な例が並びます。例を示す「たとえば」です。
- C = イ(では) 空らんの前までは、人間の意識と無意識の話です。後は、「意識と無意識の境目をもたないAIはどうだろう」と、AIの話に移り、問いかけています。話題を変える「では」です。
使わなかった言葉 ア「なぜなら」は、前の文の理由を、あとから説明するときに使う言葉です。A・B・Cの前後には、理由を説明する関係がないので、使いません。
A 実験の結果→感覚で言いかえてまとめる = つまり
B 日常の例を示す = たとえば
C 人間の話→AIの話に移る(問いかけ) = では
問二 線①「この事実」 どういうことか記号選択・5点
設問 線①「この事実」とありますが、どういうことですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 指示語「この事実」の内容を、言いかえて選ぶ問題です。「この」が指す内容は、直前にまとめられています。
答えの組み立て ①「この事実」の直前の文を探す。②その内容を、一文でまとめる。③まとめた内容に合う選択肢を選ぶ。範囲が狭すぎる選択肢と、言い切りすぎの選択肢は、外します。
本文の根拠 実験では、脳が活動を始める時間は、被験者が「気づいた」と報告する時間よりも先でした。つまり、私たちが「今決めた」と感じる瞬間より前に、脳はすでに結論を出しています。意識は、多くの場合、脳が下した判断の「事後報告」にすぎません。線①の「この事実」は、これを指しています。まとめると、人間の行動の多くは、意識に先行する脳の決定に基づいている、ということです。
選択肢の検討
- ア 視覚刺激に対する反応は直感より先に脳によって決定されているということ。 「視覚刺激」は、実験の一例にすぎません。「この事実」は、日常生活の行動にも広がる内容です。範囲が狭すぎます。
- イ 意識より先に脳が判断することで人間は筋肉を適切に動かしているということ。 筋肉の動きは、B以降の具体例の一つで、事実そのものではありません。
- ウ 人間の行動の多くは、意識に先行する脳の決定に基づくものだということ。 「多くは」「意識に先行する脳の決定」の二つが、本文の内容に合っています。 これが正解です。
- エ 人間は自分の行動を意識して決めることはできず脳に頼るしかないということ。 本文は、意識は「多くの場合」事後報告だと述べています。「決めることはできず」は、言い切りすぎです。
① 実験で、脳の活動は、「気づいた」と報告する時間より先だった
② 意識は、多くの場合、脳の判断の事後報告にすぎない
③ 人間の行動の多くは、意識に先行する脳の決定に基づく
問三 線②「意識」 何のために発展してきたか(抜き出し)抜き出し・5点
設問 線②「意識」とありますが、進化の過程において、人間の「意識」は何のために発展してきたのですか。本文中から十五字以上二十字以内で探し、はじめと終わりの三字をぬき出して答えなさい。
何を答える問いか 意識が何のためにあるのか、という「目的」を、本文から抜き出す問題です。「何のために」とあるので、「〜ため」で終わる表現を探します。字数が十五字以上二十字以内と決まっているので、字数でも絞ります。
答えの組み立て ①「進化の過程」「意識」が出てくる箇所を探す。②「〜ため」で終わる表現を、全部書き出す。③字数(十五字以上二十字以内)に合うものだけを残す。④はじめの三字と終わりの三字を書く。
本文の根拠 冊子p.17の14行めに、「人間の意識や感情は、進化の過程で生き残るための戦略としてかたちづくられてきた」とあります。この「生き残るための」は、六字で、字数が足りません。つづく文(15〜16行め)に、「これらは単なる感情ではなく、生命を維持し、種を存続させるための高度な意思決定システムの一部である」とあります。「生命を維持し、種を存続させるため」は、読点を含めて十六字で、字数に合います。はじめの三字は「生命を」、終わりの三字は「るため」です。
① 「何のために」=「〜ため」で終わる表現を探す
② 字数(十五字以上二十字以内)で絞る = 「生命を維持し、種を存続させるため」(十六字)
③ はじめと終わりの三字を答える
問四 線③「AIはほぼ無制限の舞台照明ですべてを照らしているようなものだ」 どういうことか記号選択・5点
設問 線③「AIはほぼ無制限の舞台照明ですべてを照らしているようなものだ」とありますが、どういうことですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 比喩(たとえ)の意味を、言いかえて選ぶ問題です。「舞台照明」は、直前の「スポットライト」との対比で使われています。何が何のたとえなのかを、まず決めます。
答えの組み立て ①「スポットライト」が何のたとえかを決める(人間の「意識」)。②「ほぼ無制限の舞台照明」が何のたとえかを決める(AIの処理)。③対比の中身(人間は「制限があるので選ぶ」・AIは「制限がないので選ばない」)を、一文にした選択肢を選ぶ。
本文の根拠 人間は、処理能力や記憶容量に制限があるので、「意識」というスポットライトを必要とします。何を照らし、何を照らさないか(何を選び、何を捨てるか)を決める必要があるからです。一方、AIは、能力にほぼ制限がありません。だから、情報を取捨選択せずに、すべてを照らす(そのまま処理する)ことができます。
選択肢の検討
- ア AIは情報を選別する能力が高いため、意識の機構に頼ることなく膨大な情報を処理できているということ。 「選別する能力が高い」とは書かれていません。AIは、取捨選択をせずに、すべてを照らします。
- イ AIは処理能力や記憶容量にほとんど制限がないため、外界の変化に柔軟に対応することができるということ。 「外界の変化に柔軟に対応する」は、本文にありません。「制限がない」ことの結果は、取捨選択をしないことです。
- ウ AIは情報を処理し保存する能力が高いため、大量の情報を取捨選択せずにそのまま対応できるということ。 「能力が高い」「取捨選択せずに、そのまま対応」の二つが、本文の対比に合っています。 これが正解です。
- エ AIは情報の処理を意識と無意識の両方で一緒に行っているため、迅速な出力が可能になっているということ。 本文は、AIは「意識と無意識の境目をもたない」と言っています。意識と無意識の両方で処理している、ではありません。「迅速な出力」も、書かれていません。
① 人間 処理能力に制限があるので、スポットライト(意識)で選ぶ
② AI 制限がほぼないので、舞台照明のように、すべてを照らす(取捨選択せずに処理する)
問五 線④「選択の機構を与えたら、何が起こるだろうか」 筆者の考え記号選択・5点
設問 線④「もしAIに『何を見ないか』『何を忘れるか』『あえて曖昧なまま保持するか』という選択の機構を与えたら、何が起こるだろうか」とありますが、どのようなことが起こると筆者は考えていますか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 問いかけの形の文の、「答え」にあたる部分を、本文から探して選ぶ問題です。線④の直後に、筆者の答えが書かれています。
答えの組み立て ①線④の直後の、筆者の答えを探す。②答えが二つの内容に分かれていないかを確かめる。③「だれが」「何を感じるのか」を、主語まで確かめて、選択肢と照らし合わせる。
本文の根拠 筆者は、「AIは、もはや単なる入力―出力の機械ではなくなるかもしれない」と述べます。そして、AIが自ら気づいていない情報や、忘れたはずの記憶を保持し、それが行動や応答に影響を与えるようになれば、人間は、そこに「個性」や「意図」を感じ始めるだろう、と続けます。ここで「感じ始める」のは、人間です。AI自体が、人間のようになる、と言い切っているわけではありません。
選択肢の検討
- ア AIを情報処理のための便利な入出力の機械に過ぎないと考えていた人間が、AIにそれぞれ異なった行動傾向や特性を見出すようになる。 「入出力の機械ではなくなる」と、人間が「個性」「意図」を感じ始める、の両方が、言いかえられています。 これが正解です。
- イ データ圧縮を行わなくなり情報選択の際に欠落や曖昧さが生じるようになったAIは、人間にとって便利な機械とは言えなくなってくる。 「データ圧縮」は、本文にありません。また、「便利でなくなる」とも書かれていません。
- ウ AIが感情的なバイアスなどの影響で情報の選択が「省エネ」化されて便利になり、入出力の機械ではなく人間と同等の存在だと認識される。 「人間と同等の存在だと認識される」は、言い過ぎです。人間が感じるのは、「個性」や「意図」です。
- エ 人間の脳内で行われている作業を行うようになることで、AIの内部に個性などの人間らしさが生まれていき、機械というよりも人間に近い存在になっていく。 主語が違います。本文で「個性」や「意図」を感じ始めるのは人間で、AI自体が人間に近づく、とは言っていません。
① AIは、もはや単なる入力―出力の機械ではなくなるかもしれない
② 人間は、そこに「個性」や「意図」を感じ始める(感じるのは人間)
問六 線⑤「その達成に感情的な必然性は伴わない」 AIについて言えるのはなぜか(記述)記述・14点
設問 線⑤「その達成に感情的な必然性は伴わない」とありますが、AIについてこのように言えるのはなぜですか。人間との違いをふまえて説明しなさい。
何を答える問いか AIには「感情的な必然性」がない理由を、人間と比べて説明する問題です。「人間との違いをふまえて」という条件があるので、人間はどうなのか、AIはどうなのか、の両方を書きます。
答えの組み立て 理由を一言で決めて、答えの最後に置く まず、理由を一言で決めます。AIは、「外部の指示に従って行動するだけ」だからです。この一言を答えの最後(文末)に置き、その前に、人間との違いを並べます。(1)人間は、生き残るために、感情をかたちづくってきた。(2)AIは、身体をもたず、生命活動とも無縁で、生き残るという目的がない。この二つを、「〜と異なり、〜には〜がなく、〜だから」とつなぎます。
本文の根拠 人間の意識や感情は、進化の過程で、生き残るための戦略としてかたちづくられてきました(冊子p.17の14行め)。一方、AIは、「こうした進化的圧力を経験していない」と書かれています。身体をもたず、死の恐怖もなく、代謝や生殖といった生命活動からも無縁です。そして、「すべての行動は外部から与えられた目標関数に従うだけであり、その達成に感情的な必然性は伴わない」と続きます。この「外部から与えられた目標関数に従うだけ」が、理由の一言にあたる部分です。
① 人間との違い 人間は、生き残るために感情をかたちづくってきた
② AI 身体をもたず、生命活動とも無縁。生き残るという目的がない
③ 理由の一言(答えの最後に置く) 外部の指示(目標関数)に従って行動するだけだから
書く順番は、①→②→③です。
解答例の組み立て 解答例は、「〜と異なり、〜には〜がなく、〜だから」という一文です。「異なり」で、人間との違いを前に置き、「目的がなく」でAIの状況を置き、「外部の指示に従って行動するだけだから」で、理由の一言を文末に置いています。「人間との違いをふまえて」の条件は、「人間と異なり」と書くことで満たしています。
失点しやすい書き方
- 人間のことだけ、AIのことだけを書く 設問に「人間との違いをふまえて」とあります。人間は生き残るために感情をつくった、AIは身体をもたず生命活動と無縁、の両方を書きます。
- 「AIは感情をもたないから」と、言いかえるだけ 「感情をもたない」は、設問の「感情的な必然性は伴わない」の言いかえにすぎず、理由になっていません。「なぜ、もたないのか」まで書きます。
- 「外部の指示に従うだけ」を書かずに終わる 本文で、線⑤の直前に書かれている理由です。これを答えの最後に置くと、本文の根拠にそった答えになります。
- 「生き残るという目的がない」を、「死なないから」と書く 本文は、「死の恐怖もなく」と書いていますが、理由の中心は、「生き残るという目的がなく、外部から与えられた目標関数に従うだけ」であることです。
問七 線⑥「世界と自分の間に意味の橋を架ける営み」 どのような営みか記号選択・5点
設問 線⑥「世界と自分の間に意味の橋を架ける営み」とありますが、これはどのような営みですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 比喩(意味の橋を架ける営み)を、これまでの内容をふまえて言いかえる問題です。「意識とは何か」の、筆者のまとめを選びます。
答えの組み立て ①「意識とは何か」について、本文で述べられていることを集める(問三・問四・問六)。②線⑥の直後の「解釈と物語」の意味を考える。③集めた内容を、一文にまとめた選択肢を選ぶ。
本文の根拠 意識は、生き残るための戦略として、かたちづくられました(問三)。人間は、処理能力に制限があるので、必要な情報を取捨選択します(問四)。そして、行動や記憶を方向づけます(問六)。さらに、橋を渡るために必要なのは、速度ではなく、解釈と物語だとあります。つまり、制約の中で、情報を整理して、自分なりに解釈して、生き残ってきた、ということです。「生存」「制約」「情報の整理」「自分なりに価値を見つける」の四つが入った選択肢を選びます。
選択肢の検討
- ア 人間として生きる意味を見つけるために、大量に発生する外界の情報から有益なものだけを選択していくという営み。 「生存」という目的が、ありません。「生きる意味を見つける」ことが目的だとは、書かれていません。
- イ 様々な制約があるなかで生存という目的の達成に向け情報を整理し、自分なりに価値を見つけ出していくという営み。 「制約」「生存という目的」「情報の整理」「自分なりに価値を見つける(解釈と物語)」の四つが、本文に合っています。 これが正解です。
- ウ 生存競争を有利にするため、資源や寿命が限られている状況でどのような判断をすべきかを検討していくという営み。 「どのような判断をすべきか検討する」では、「解釈と物語」の部分が、言いかえられていません。
- エ 外界の情報を適切に処理することで、生存という目標を設定するとともに能力などの制限を克服していくという営み。 「生存という目標を設定する」「制限を克服する」が、本文とずれます。生存は、もともとの目的で、制限は、克服するものではなく、前提です。
① 制約(処理能力・寿命・資源の限り)があるなかで
② 生存という目的の達成に向けて、情報を整理し
③ 自分なりに価値を見つけ出す(解釈と物語)
問八 空らん(い)・(ろ) 入る言葉の組み合わせ記号選択・5点
設問 文中の(い)・(ろ)に入る言葉の組み合わせとして、最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 「意識をもつAIの未来像は、(い)にも(ろ)にも描くことができる」の、(い)と(ろ)が、どんな関係の言葉かを見つける問題です。空らんのあとに、それぞれの具体的な内容が書かれています。
答えの組み立て ①(い)にも(ろ)にも、の「にも」は、対になる二つを並べる言い方だと気づく。②空らんのあとの文を読み、二つの未来像が、「明るい」内容か「暗い」内容かを見分ける。③対になる語の組み合わせを選ぶ。
本文の根拠 あとに、「共感や理解を共有できるパートナーとしてのAIは、人類の知性と感性を拡張する存在になりうる」という、明るい内容が書かれています。次に、「一方で」と変わって、制御できない異質な知性として立ちはだかるかもしれない、という暗い内容が続きます。明るい見方は「楽観的」、暗い見方は「悲観的」です。
選択肢の検討
- ア (い)…主観的 (ろ)…客観的 「主観的・客観的」は、見方の立場を表す言葉です。明るい・暗い、の関係ではありません。
- イ (い)…楽観的 (ろ)…悲観的 明るい内容が「楽観的」、暗い内容が「悲観的」で、本文に合っています。 これが正解です。
- ウ (い)…主体的 (ろ)…受動的 「主体的・受動的」は、行動の姿勢を表す言葉で、未来像の明暗とは関係がありません。
- エ (い)…具体的 (ろ)…抽象的 「具体的・抽象的」は、内容の分かりやすさを表す言葉で、未来像の明暗とは関係がありません。
① (い)のあと 明るい内容(人類の知性と感性を拡張する) = 楽観的
② (ろ)のあと 暗い内容(制御できない異質な知性として立ちはだかる) = 悲観的
問九 線⑦「人間とは何かを問い直す鏡として捉える必要がある」 筆者が言いたいこと記号選択・5点
設問 線⑦「私たちは『AIが意識をもつかどうか』という問いを、単に技術的な課題としてではなく、人間とは何かを問い直す鏡として捉える必要がある」とありますが、ここで筆者が言いたいこととして、最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。
何を答える問いか 文章全体の主張を、「鏡」という比喩を手がかりに言いかえる問題です。「技術的な課題」と「鏡」が、どう対比されているのかを考えます。
答えの組み立て ①「鏡」は、何を映すものかを考える(人間そのもの)。②全体の前提(意識は、人間が生き残るためにかたちづくった戦略)を確かめる。③「AIの意識を考えること」が、「人間を見つめ直すこと」につながっている選択肢を選ぶ。AIの側の話だけの選択肢は、外します。
本文の根拠 意識は、人間が生き残るためにかたちづくった戦略です。生命をもたないAIは、本来、意識を必要としません。それでも、AIが意識をもちうるかを考える。それは、技術の課題を解くためではなく、意識とは何かを理解し、意識を必要としてきた人間そのものを見つめ直す機会にするためです。「鏡」は、AIを映すものではなく、人間を映すものです。
選択肢の検討
- ア 意識は情報処理の能力ではなく、生存のために世界をどのように解釈していくかにかかわる機構であるため、AIに意識をもたせるには、人間がどのように世界を解釈し、生き残ってきたかをふりかえるべきだということ。 「AIに意識をもたせるには」と、AIに意識をもたせる方法の話になっています。筆者が言いたいのは、AIの意識を考えることで、人間を見つめ直すことです。
- イ AIが計算能力を高めることにとどまらず意識をもそなえることで人間との対立につながる恐れもあるため、AIの能力をどこまで高めるべきかは現状の人間の能力を把握し直したうえで決定すべきだということ。 AIの能力をどこまで高めるべきか、という、AIの側の話になっています。
- ウ AIに意識をもたせ人間と心が通い合うようにすることは確かに価値があるが、進化の過程で意識を身につけた人間同士でいまだに価値観の違いから対立が起きているという現実をまず受けとめるべきだということ。 人間同士の価値観の対立は、本文にありません。「鏡」の説明にもなっていません。
- エ 生存のために世界と自分を結びつける必要のないはずのAIが意識をもちうるかを考えることを通じて、意識について理解するとともに進化の過程で意識を形成してきた人間とはどのような存在かを考えるべきだということ。 「AIが意識をもちうるかを考えること」から「意識の理解」と「人間とはどのような存在か」へ、という流れが、本文の主張に合っています。 これが正解です。
① 前提 意識は、人間が生き残るためにかたちづくった戦略(AIは、本来、必要としない)
② AIが意識をもちうるかを考える(技術の課題としてではなく)
③ それを通じて、意識とは何か、進化の過程で意識を形成してきた人間とは何かを考える(鏡)
二つの文章が響き合うところ
大問3は、拓実が、決められた別れを前に、自分なりの幸せを、自分で手繰り寄せようとする物語です。大問4は、人間が、生き残るために意識をかたちづくり、その意識を通して、世界と自分の間に意味の橋を架けてきた、と述べる論説文です。当研究所は、二つの文章に、次の共通点を見ました。どちらも、「与えられた状況」の中で、「自分で選び、自分で意味を見つける」ことの大切さを書いている、という点です。拓実は、里子という、選べない状況の中で、「自分なりの幸せ」を見つけようとします。論説文の筆者は、制約の中で、情報を整理し、自分なりに解釈する営みを、意識と呼びます。ただし、これは当研究所の読み方で、本文が二つを結びつけているわけではありません。
物語文は、登場人物の気持ちを、行動やたとえ(「あたたまった体」「寒くて暗い」)から読み取る力を、論説文は、比喩(「舞台照明」「意味の橋」「鏡」)を、本文の言葉で言いかえる力を、それぞれ試しました。どちらも、「たとえ」を、本文のほかの箇所の言葉に置きかえて読む、という共通の読み方で解けます。
この回から持ち帰るべき3つのこと
- 記述は、気持ち・結論・理由の「一言」を決めて、答えの最後に置く 大問3の問二は、「別れがつらくならないようにしたかったから」を文末に置き、前に「別れるとわかっていたため、かけがえのない存在だと思う気持ちをおさえることで」を並べました。問九は、「前向きな気持ちになれた」を文末近くに置き、前に「大切に育ててくれたからこそ、別れのさびしさや将来への不安があっても」を並べました。大問4の問六は、「外部の指示に従って行動するだけだから」を文末に置き、前に人間との違いを並べました。材料を並べて一文にまとめるのではなく、先に一言を決めてから、前を作る練習をしてください。
- 抜き出しは、設問の言い回しを、本文の別の言い方に言いかえて探す 大問3の問四は、設問の「引き寄せる」を、本文の「手繰り寄せる」に言いかえて、直前の「自分なりの幸せ」を見つけました。大問4の問三は、「何のために」を「〜ため」に言いかえて探し、十五字以上二十字以内の字数条件で、答えの範囲を決めました。字数は、候補を絞る、いちばんたしかな手がかりです。
- 記号選択は、本文と一か所だけ違う選択肢を、根拠で消す 大問3の問七(ア・イ・エは、八木沢の様子や拓実の気持ちが、本文と合わない)、大問4の問五(エは、「感じるのは人間」という主語が違う)、問九(ア・イ・ウは、AIの側の話になっている)は、前半がもっともらしく、一か所だけが本文とずれていました。「なんとなく合っている」で選ばず、本文の言葉を指さして、「ここが違う」と言えるまで消していきます。
大問1・2の知識問題は、1問2点で、合計40点です。これは、150点のうち、約27パーセントにあたります。読解の問題に入る前に、確実に取れる点数です。「一日の長」「老婆心」「固唾」のような言い回しは、意味と短い用例をセットで、ことわざは、生き物と意味をセットで覚えておきましょう。漢字は、間違えた場所を言葉にしてメモする習慣が、点数の安定につながります。
