物語は、戦時中の中学生ひさしの視点から描かれています。ひさしと同級生たちは、軍の命令で島に連れて行かれ、そこで土砂を運ぶ作業に従事します。沈黙の中で不安と期待が交錯する舟の中、ひさしはその日の出来事について考えます。戦時中の様子を描いていることもあり文中に使われる言葉がイメージしづらい生徒も多かったと思います。大学附属中や一部の進学校でこういったやや時代背景の古い文章が出題されますので、わからなかったり、あいまいだったりする言葉は一つ一つ丁寧に調べて自分のものにしておきましょう。
この物語の主題は、戦時中の若者たちの葛藤と成長です。ひさしと仲間たちは、不安や恐怖を抱えながらも、与えられた任務をこなし、少しずつ成長していきます。筆者は、この過程を通して、戦争の悲惨さと、そんな中でも希望を見出そうとする若者たちの姿を描いています。
「穏やかな海面に明けきらぬものの気配」とありますので表面上穏やかでありながらも「明けきらぬ」(この場合は「穏やか」の反対で「不穏な」ものととらえましょう)ものに対する不安を読み取ります。
本文中で「そのどっちつかずの感じは、今日これからのことが分からない自分そのままだと思われた。」という記述があります。この文からわかるのは、ひさしが「今日これからのことが分からない」という不安な状況に置かれているということです。「わずかな屈託を覚えていた」という表現が、この不安感を表しており、選択肢イが最も適切です。
この選択肢は、「戦争が続いていることを思うと穏やかな気持ちではいられなかった」と述べていますが、本文には戦争についての直接的な記述やその影響を示す文は見当たりません。このため、この選択肢は本文の内容とは一致しません。
本文には「夜が明けている時刻なのにまだ夜が明けたという気配がなく」という記述がありますが、それが「不愉快だった」とは書かれていません。むしろ、その曖昧さが「今日これからのことが分からない自分そのままだ」と思わせる要素となっているため、この選択肢は適切ではありません。
この選択肢も本文の内容と部分的には一致していますが、「不満とともに不安を感じていた」という表現は本文中にはありません。本文では「わずかな屈託を覚えていた」という表現が使われており、「不満」という言葉は適切ではありません。このため、この選択肢は適切ではありません。
比ゆ表現は常に意識して線引きをしておくと答えが見つけやすくなります。物語における比ゆは「おおむね現実には起こりそうもないこと」をチェックすると見つかりやすくなります。
今回は「その上を歩いてでも渡れそうに思わせた」という部分が【現実には起こりそうもない】比ゆ的な表現だと気づければ正解できます。
工: 私語を禁止され苛立っている様子だった忠也の苦痛を少しはからすことができただろうと思ったから。
直前の表現「自分の苦痛とは感じないものの、彼のためにも船が速く目的に着くと良いと思っていた」という内容からひさしは忠也の苦痛を気にしており、彼の苦痛が和らいだと感じたことに「ほっとした」という状況がわかります。
ア: 私語禁止で苛立っていた忠也が水鳥によって目的地が近いことを知り、落ち着くだろうと思ったから。
この選択肢は、「目的地が近いことを知り、落ち着くだろうと思った」としていますが、本文にはそのような記述はありません。目的地についての情報が「落ち着く」理由にならないため、この選択肢は適切ではありません。
イ: 沈黙の苦痛から解放されることだけを願っているようだった忠也にも水鳥に驚く余裕があったから。
この選択肢は、「水鳥に驚く余裕があった」としていますが、これは本文の記述と一致していません。本文では、忠也の苦痛を和らげたと感じたことが「ほっとした」理由であり、「驚く余裕」があったこととは関係ありません。
ウ: 日頃から元気のよい忠也にとって私語禁止は苦しいだろうと同情する気持ちは不要だとわかったから。
この選択肢は、「同情する気持ちは不要だとわかった」としていますが、本文ではそのような記述はありません。ひさしが「ほっとした」理由は、忠也の苦痛が和らいだと感じたことに関連しています。同情する気持ちが不要かどうかは関係ありません。
将校が直接中学生たちに語りかけ、彼らに対して明確に命令を伝える場面からさがし出しましょう。抜き出し問題は難しいですが、やみくもに探すのではなく①内容に見当をつけること②探す場所に見当をつけること の2点について事前よく考えてから探し始めることが重要です。
エ: 軍の作業に疑問を抱いても抗えず、中学への期待感も失った自分の現状に失望と絶望を覚えている。
本文では、「ひさしは、ピタゴラスの定理というものを初めて数わった時、人間とはすごいものだと思った。しかし、今世界に通用している定理とか法則の中には、いっかそれは違う言い出す人が出てきて、あっけなく力を失ってしまうものがあるのではないかとも思っている。」という部分があります。この部分から、ひさしが中学で学ぶことへの期待を持っていたが、それが軍の作業によって失われてしまったことが読み取れます。また、「自分達のしていることが、自分進にもよく分らない。なるな。しゃべるな。確かなことは、日時などいっこうに分からなくても、やめらとと言われるまで土を掘り出さなければならないということ。」という部分から、軍の作業に対して疑問を抱きつつも抗えない自分に対する絶望感が描かれています。
ア: 意味を見出せない軍の作業によって中学で学ぶことへの期待感をつぶされた怒りをひた隠している。
この選択肢は、「怒りをひた隠している」としていますが、本文にはひさしが怒りを感じているという描写はありません。むしろ、失望と絶望を感じていることが描かれています。
イ: 戦争が早く終わることを願いながら、中学で学ぶことへの期待と希望を抱き続けようと決意している。
この選択肢は、「中学で学ぶことへの期待と希望を抱き続けようと決意している」としていますが、本文にはそのような決意が描かれていません。ひさしはむしろ、中学への期待感を失っていることが描かれています。
ウ: 目的も意味もわからない軍の命令に対して反発しながらも抗えない自分の弱さに落胆している。
この選択肢は、「反発しながらも抗えない自分の弱さに落胆している」としていますが、本文にはひさしが反発しているという描写はありません。むしろ、ひさしは抗えない現状に失望していることが描かれています。
「どういうことですか」と問われる問題は意味を変えずに表現をわかりやすくしてまとめます。特にわかりづらい部分に注目します。
①「ぼくらの穴掘りや土運び」→これらについてどのような思いでいたかを説明する
登場人物たちが感じている無力感、無意味さ、あるいは徒労感などを感じ取り答案に反映させましょう。
②「この法則」→直前にある「質量保存の法則」であることがわかります。
③「辻褄が合いそうな気がする」→物質が消えてなくなることはないということから目的のわからない作業にも意味が生まれるかもしれない、と考えるようになったことを表しています。
このように元の文を細かく分けて考えることでまとめやすくなりますし、部分点も獲得しやすくなります。