文学的文章(物語・小説)

皆さんは物語・小説の読解は得意でしょうか?

私の実感では、おおむね以下の2つのパターンに分かれるようです。

①説明文よりイメージしやすく読みやすいと感じているから得意

②設問のヒントが文中に書いてないことが多くてどう答えればいいかわからないから苦手

①のパターンは物語・小説に日ごろから慣れ親しんでいるため、心情やその原因を

自然に理解して解けてしまう子、

②のパターンは塾などで教わったテクニックを駆使して

説明文は解けるようになったが、物語・小説だと本文にヒントが少なく難しく感じている子、

が多いように感じます。

いずれも陥りやすいのは「物語・小説は『勘』や『センス』で解くもの」

という認識を持ってしまい、得点が安定しないという状態です。

この状態ですと学年が上がって受験が近づいてくると、物語・小説が

得意だと思っていた子ですら得点の振れ幅が大きくなってしまいます。

こうなってしまうのはブレない解き方の「軸」(=読解の型)がないから。

今回はこの「物語・小説を読解するためのをご紹介していきます。

物語・小説読解の「型」とは?

物語・小説の本質は作者が創作したストーリーを「楽しむ」ために読むものです。

つまりはエンターテインメントの世界に位置するジャンル。

そのことからどうしても理論や型に当てはめず、自由に楽しみながら読むという

意識が働きやすいもの。

しかし、入試問題においては「自由に楽しむ」だけでは正解を導くことができません。

物語・小説、つまり代文学」が立ち上がった明治時代から長い年月を経て積みあがった

文学を読むための「常識」を身につけ、正しく味わうためのスキルが存在します。

入試ではそれらが問われるわけです。そんな常識・型をご紹介していきます。

人物をつかむ

「登場する人物をつかむ」というのはどんな国語教師(学校でも塾でも)でも必ず指導する

内容ですが、「人物をつかむ」とは具体的にどうすることなのか?を体系化できている

教師は少ないように思います。

おさえるべきポイントは3点。

「誰がでてくる?」「どんな人物?」「どんな関係?」

この3点を正しく理解することで物語・小説を正確に読み進められるようになります。

誰が出てくるか?

入試問題ではほとんどが物語の途中から文章を読まされます。冒頭から読んでいれば

登場した順に人物を把握していくことができますが、ある程度シナリオが進んだ状態の

途中から読まされるために、登場した人物が「誰」なのか部分に

強く意識を置いて読む必要があります。

特に人物の呼称が変化する場合は要注意です。

例えば次のようなケース。

 その時、太郎はテストの答案を見て思わずつぶやいた。

 「ハナ・・・ずいぶん国語ができるようになったんだな。」

 花子はそのつぶやきを聞くと笑顔を浮かべ答えた。

 「うん、パパが勧めてくれた問題集が良かったみたい!」

 「いや、お前の努力だよ。えらいな。」

このやりとりからでてくるのは二人であること、

そしてその二人は太郎という父親と花子という娘であることをつかむ必要があります。

ここで人物をつかむ作業としては以下の2点。

①人物を指す単語を丸で囲む

②同一人物を指すと思われるものは線で結ぶ

①は比較的容易にできますが②は注意が必要です。

今回は

「太郎」=「パパ」  

「花子」=「ハナ」=「お前」

この関係を理解する。さらに二人は親子関係である、というところまで整理しておく必要があります。

このような「誰」が出てきているのかを整理することで誤読が極端に少なくなります。

この作業こそが物語・小説読解の第一歩と言えるでしょう。

どんな人物か?

いわゆる「人物像」の把握です。

人物像というとぼやけてしまいますが、具体的にはその人物の「生い立ち」「性格」「立場」

「行動様式」「考え方の傾向」「価値観」・・・等々。

ちょっと難しく感じる方もいるかもしれませんが、簡単に言えば「人物の特徴」を表すものと

考えてください。これらを表す部分には線を引いておくようにしましょう。

具体的に線を引くのは以下のような個所です。

直接的に人物を説明している箇所(例「花子は小学5年生。学校では目立たないタイプだった。」)

人物の行動や態度、発言内容

例えば発言で「・・・」が多いようであれば引っ込み思案で自信を持てない性格、「!」が多いようで

あれば積極的で自己主張が強い性格なのではないか、と想像できます。

こういった人物の特徴が読み取れそうな部分には必ず線を引くようにしておきましょう。

また、ここで特に注意してほしいことは「思い」と「行動」が

一見かみ合わないよに思える「裏腹」状態。

定番パターンは2つ。

【裏腹になる人物定番パターン】

①引っ込み思案系

 言い出したいけど言えない、思いとは逆の行動をとってしまうおとなしめの子

 仲良くなりたいのに踏み出せない、好きな子に冷たくしてしまうなど。

②頑固おやじ系

 昔気質の職人さん、古いタイプのお父さんなど、弟子や子供に深い愛情を

 持っていながらも普段は厳しい態度を取るタイプ。やさしさを表現できない不器用さをもつ。

こういった「裏腹」パターンは表面上の発言や行動だけを汲み取ると誤まった人物像を

つかまされる可能性があるので注意が必要です。

どんな関係か?

人物同士の関係性にも丁寧に注目をする必要があります。

例えば親子関係に関する記述は読書等の経験が乏しい受験生だと自分と重ね合わせて

しまうことが多く、そのために誤読をしているケースがあります。

例えば親子関係と言っても子供たちの周りで生じる確率が低いような

以下のような関係性は理解が難しいでしょう。

幼いころに生き別れになった親との関係

直接血のつながりのない養父・養母との関係

暴力的な親、育児放棄気味なの親など親として未成熟な大人との関係

身体的・精神的疾患を患った親とヤングケアラーとしての子の関係

こういったケースにおいて自分の経験範囲での親子関係に当てはめて読むと誤読します。

誤読を防ぐためにも二人以上の人間同士の関係性を表す表現についても必ず線を引き、

客観的に読み取るようにしましょう。

心情をつかむ

物語・小説の最も重要なポイントは人物の「心情」です。

心情が変化すること人間模様が色鮮やかになり、そこに隠されたテーマが

浮き彫りになってきます。

入試問題でも当然、心情にまつわる問題が重視されることが非常に多くなります。

その心情を正しくつかみ、物語・小説を正しく理解するための方法をご紹介していきます。

心情(≒気持ち)とは

何かに接することで動く心の内側の様子のことを指します。

人の心の内は形にすることができませんし、正確な心の内は当の本人にしかわからないので、

本来は「この人物の気持ちを答えよ」という問題には正解がなく、適切ではありません。

しかし物語・小説においては作者が創作した人物に抱かせた心情を読者がわかるように

様々な言葉を使って表現しています。

入試問題というのは創作上の人物の心の内をどのように

表現しようとしているのかといった作者の思惑

正確に捉えるスキルを試していると考えるとよいでしょう。

「他人の気持ちなんて正確に理解できるわけない!」と切り捨てるのではなく、

作者が文中にちりばめている心情変化のヒントを拾い上げていくつもりで読んでいくことが

大切です。

心情表現の種類

心情とは非常に移ろいやすく繊細なものですから、表現も繊細になりやすくなります。

また表現の仕方も作者の作風によって大きく異なるため、一定の経験を踏んでいく必要があります。

心情表現には大きく分けると二つあります。

直接的心情表現

嬉しい、悲しい、といった「心情語」(=気持ちを表す言葉)を使ったストレートな表現が

使われるケースです。こちらは非常にわかりやすく見落とすことも少ないでしょう。

ただし、少し難易度の高い言葉を使った表現には注意をしておきましょう。

【やや難しい心情語(中学・高受験レベル)】

・あざける・いたたまれない・おどける・やり場のない・切ない・屈託ない・心もとない

・思い上がる・憧憬・殊勝な・気もそぞろ・涙ぐましい・焦燥感・畏敬の念・罪悪感

・羨望・自責の念・躊躇・苦々しい・狼狽・柔和・敬虔な・憤慨する・怯む

上記のような言葉が心情を表していることに気付くことが重要。

上記の言葉の中で意味があいまいだったりわからないものがあれば辞書で調べさせておきましょう。

間接的心情表現

こちらが重要です。

日本人は国民性や風土から言外の諸条件から気持ちを察することを美徳としてきた背景があり

小説・物語にはその影響が色濃く表れており、また入試問題でもそういった「察する力」を

重視する問題が多く出題されれます。

以下のようなものに注目して線を引きながら読むとよいでしょう。

人物の行動・態度 (例)一目散に駆け出した、うつむいたまま目を合わさず返事をした、

人物の表情 (例)一瞬彼の表情が曇った、目を輝かせて答えた、

人物の発言内容 (例)「わかったよ、宿題やるよ・・・」「うん!わかった宿題頑張るね!」

情景描写  (例)雲一つなく澄み渡った空がどこまでもつづいていた、冷たい雨がとどまることなく地面をたたきつけていた

特に意識すべきは物語・小説は作者の創造した世界でありすべてのものに意味が隠されている

という点です。天気一つとっても人の心を反映させている可能性が高い、という意識は

持って読み進めましょう。

心理と心情

態度や行動、発言などから気持ちを察するのが難しい、というお子さんもいらっしゃると思います。

そういう場合は「心理」(=心の内なる言葉)を考えるようにするとよいでしょう。

簡単に言えば「この瞬間この人物はこのとき何を思っていたか」を

言葉にするということです。

例えば以下のようなシーン。

「お母さん時間がないから、太郎ちょっとスーパーでお醤油買ってきてよ!」

太郎はため息をつきながら母の手から千円札をふんだくり、黙って家を出た。

「ため息をつき」「ふんだくり」「黙って」というところから買い物に行かされるのが

不満であることがわかるシーンですが、仮にそこに反応できなかった場合は、

太郎の心理を「なんで自分が買い物に行かなきゃいけないんだよ、面倒くさいな」と

言葉にしてみると太郎のうんざりした気持ちが理解しやすくなります。

態度、表情、発言から「人物の心の声」を言語化する練習をしてみましょう。

原因を探す

心情を正確に把握するためにはその心情に至った原因を見逃さないことも重要です。

何の理由もなく心情が動くことはありませんから、必ずどこかに心情を動かした原因が

あるはずです。

そしてその原因は心情表現の直前に書かれていることが非常に多いです。

前述の心情表現を見つけ出したら、その直前からさかのぼって心情変化の原因を見つけ出し、

線を引いておく癖をつけておくとよいでしょう。

全体像をつかむ

ここまで見てきたように丁寧に細部にわたって読み進めることはとても重要です。

そのうえで、文章全体の構造を俯瞰して捉える力も必要になってきます。

場面の変化

場面の切れ目は「時」「場所」「人」「できごと」の変化に注目すべし、とい指導どこでも

されているかと思います。

「この文章を3つの場面に分けたら2つ目と3つ目の場面はどこか。それぞれ最初の○文字を~」

というような場面分け問題については当然これら四項目を意識しなくては解けません。

特に「時」の変化には注意をしましょう。

文章の中間で「回想シーン」が織り込まれてくることも珍しくありません。

この回想が理解できなくて誤読をしてしまうケースも非常に多く生じています。

時の変化を表す表現については常に意識をして読み進めるようにするとよいでしょう。

心情のアップダウン

ひとつひとつの表現を丁寧に追いかけていると見過ごしがちなのが文章全体を

俯瞰した心情変化の波の把握です。

主要な登場人物の心情がどんな浮き沈みをしているのか、文章を読み終わった後に

振り返る癖を付けましょう

定番の心情変化の波は以下のようなパターンが多いですから抑えておくとよいと思います。

(【プラス心情】⇒)【問題や事件が発生】⇒【マイナス心情

⇒【苦悩の上、今まで気づかなかったことに気付く】⇒【心の成長】

⇒【プラス心情

このようにプラスとマイナスの心情に分けることで浮き沈みを明確にする

文章全体の流れがつかみやすくなります。是非チャレンジしてみてください。

作者の考えをつかむ

物語・小説の読解は【一つひとつの表現を丁寧に拾い上げ】ながらも【全体像を把握する】

ことで理解が進むということがお分かりいただけたでしょうか。

特に序論・本論・結論と明確になりやすい説明文・論説文と比べて物語・小説は

全体像を把握する】ことを忘れやすい傾向になります。

しかし、前にも述べた通り全体を見渡して作者の思惑に気付くことで

文章の理解度は格段に高まります。

・なぜここで心情がマイナスに落ちるようにに仕掛けたのか?

・なぜここで心情がプラスに転じるような演出をもってきたのか?

自分自身が小説家になったつもりで作者の思惑に気付けるようになると

読みが深まり、物語・小説文の得点力は安定していきます。

まとめ

ここまでいかがだったでしょうか?

「物語・小説はセンス次第」などでは全くなく、正しい読み方の「型」を

持つことで必ず得点力を上げることができます。

テストで点が取れるだけでなく、読書が楽しくなり、映画やドラマを深く理解し

味わうことができるようになります。

このことは豊かな人生を送っていくうえではとても大切なことだと感じます。

また、心情に対する繊細な感覚が身につきますので、現実の対人関係能力の向上にも

きっとプラスの作用があると思います。

是非、「センス」や「勘」ではなく、

安定した「スキル」で物語・小説に取り組んでいきましょう。

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