「語彙が少ないので読解ができていない」「言葉を知らないので記述が書けない」。国語が苦手なお子さんについて、塾の先生からこう言われた経験のある保護者の方は多いと思います。実際、国語の成績が伸び悩む子の課題は、語彙力にあることがとても多いのです。
ところが、「語彙を増やしましょう」と言われても、具体的に何をすればよいのかはわかりません。「読書をさせてください」「辞書を引かせてください」と、家庭に任されて困っている方も少なくないはずです。
この記事では、国語指導歴20年の経験から、家庭で語彙力を伸ばす方法を、言葉を身につける「4つのプロセス」と、それを回し続ける「毎日の7つの習慣」に分けてご紹介します。学年別の進め方と、いま選ぶべき問題集もあわせてまとめました。
なぜ語彙力は家庭で伸ばす必要があるのか
塾の国語の授業は、読み方や解き方といった「技術」が中心です。言葉そのものを授業の中で教えられる量には限りがあり、テキストの語句のページは宿題に回されることがほとんどです。
一方で、入試の文章はどんどん大人向けになっています。2026年度の入試出典を約90校分集計したところ、中高生向けの新書や、大人向けのエッセイが上位に並びました。言葉そのものをテーマにした、歌人の俵万智さんのエッセイ『生きる言葉』は7校で出題されています。こうした文章を読みこなす語彙は、週に一度の授業だけでは身につきません。
語彙は、ふだん出会う言葉を一つずつ自分のものにしていくことでしか増えません。だからこそ、家庭での毎日の積み重ねが欠かせないのです。
語彙力を高める4つのプロセス
言葉は「拾う」「広げる」「深める」「分ける」の4つのプロセスを通って、使える語彙になっていきます。まずは図解動画で流れをつかんでください。
プロセス1 言葉を「拾う」
一つめは、毎日触れている大量の言葉の中から、知らない言葉を拾い上げることです。子どもが知らない言葉に出会うのは、読書、塾のテキストや問題集、テレビや動画、大人との会話といった場面です。
拾った言葉を書き留める「語彙ノート」を用意しましょう。持ち歩ける小さなメモ帳で十分です。大切なのは、書き留めるたびに辞書を引かなくてよいということです。毎回辞書を引くように言うと、書き留めること自体が面倒になってやめてしまいます。ある程度たまったら、週末にまとめて調べれば十分です。
たとえば、会話の中で「あの人は気が置けない友達だ」と耳にしたとします。「気が置けない」を「油断できない」という意味だと思っている子はとても多いのですが、本来は「遠慮しなくてよい、気楽につきあえる」という意味です。「気」を使った言葉は、ほかにも「気が引ける」「気が気でない」「気が済む」とたくさんあり、物語文の心情表現によく出てきます。一つ拾った言葉から、こうした言葉のグループに出会えるのも、語彙ノートのよいところです。
プロセス2 言葉を「広げる」
拾った言葉から、関連する言葉へ広げていくプロセスです。語彙ノートに書いた言葉の「対義語」(反対の意味の言葉)と「類義語」(似た意味の言葉)を書き加えていきます。いつも対義語と類義語を考える癖がつくと、言葉は2倍、3倍の速さで増えていきます。
ここでクイズです。次の言葉の対義語を考えてみてください。
①解散 ②前進 ③安物 ④尊敬 ⑤部分 ⑥平凡 ⑦原因 ⑧理想 ⑨親切 ⑩害虫
(答え ①集合 ②後退 ③上物 ④軽蔑 ⑤全体 ⑥非凡 ⑦結果 ⑧現実 ⑨冷淡 ⑩益虫)
類義語は、「どう違うのか」まで考えると力がつきます。「方法」と「手段」はどちらも似た意味ですが、「目的のためには手段を選ばない」とは言っても、「方法を選ばない」とはあまり言いません。こうした違いに気づけるようになると、選択肢問題の細かい言葉の差も見分けられるようになります。
プロセス3 言葉を「深める」
ここは少しまとまった時間が必要です。言葉の意味を辞書でしっかり調べて語彙ノートに書き、その言葉を使った短文をつくって、大人にチェックしてもらいます。
短文づくりが大切なのは、意味は合っていても使い方がずれている、ということがよくあるからです。たとえば「見え透く」は「本心や結果などがよくわかる」という意味ですが、「たくさん努力したので、合格は見え透いている」と書く子がいます。「見え透く」は、隠したい本心や、望ましくない結果が見えている場面で使う言葉なので、大人が読むと違和感があります。
もう一つ、大人でも迷うのが「おざなり」と「なおざり」です。「おざなり」は、その場しのぎでいいかげんに済ませること。「なおざり」は、いいかげんにして放っておくことです。一応は手をつけるのが「おざなり」、手をつけずに放っておくのが「なおざり」。この違いは、辞書の意味を読むだけではなかなか身につかず、短文をつくって初めてはっきりします。
語彙ノートは、次のような欄をつくっておくと、「拾う」から「深める」までを一冊で回せます。
| 欄 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 言葉 | 拾った言葉 | おざなり |
| 出会った文 | どこで、どんな文で出てきたか | 塾のテキスト「おざなりな返事をした」 |
| 意味 | 辞書で調べた意味(週末にまとめてでよい) | その場しのぎで、いいかげんに済ませること |
| 似た言葉・反対の言葉 | 類義語・対義語、まぎらわしい言葉 | なおざり(放っておく)との違い |
| 自分の短文 | 自分でつくった文。大人に見てもらう | 宿題をおざなりに済ませて、先生に注意された |
プロセス4 言葉を「分ける」
最後は、大ざっぱな言葉を細かく分けるプロセスです。「やばい」「エグい」「びみょう」。子どもたちは、いろいろな気持ちをひとくくりにした言葉で済ませてしまいがちです。
たとえば「今日のテスト、どうだった?」と聞いて「やばい」と返ってきたら、そこで流さないでください。
- 良い意味の「やばい」か、悪い意味の「やばい」かを聞く
- 悪い意味なら、どんな気持ちに近いかを考えさせる
- 言葉が出てこなければ、「焦っている」「後悔している」「悔しい」「やるせない」「情けない」などの候補を示し、いちばん近いものをいっしょに選ぶ
大ざっぱな言葉で考えるのをやめてしまうお子さんの思考を、一歩前に進める。この働きかけを大人が続けることが、実はいちばん効果のある取り組みかもしれません。いちばんふさわしい言葉を選ぶ感覚は、物語文で心情を読み取る力や、記述で気持ちを言葉にする力に直結します。気持ちを表す言葉の身につけ方は、「気持ちを表す言葉」の習得でも詳しくご紹介しています。
毎日の習慣にする7つの方法
4つのプロセスを回し続けるには、ふだんの生活の中に言葉に触れる習慣をつくることが大切です。今日から始められる7つの方法をご紹介します。どれも4つのプロセスのどこかにつながっています。
習慣1 ジャンルを広げて本を読む
読書は、言葉に出会ういちばんの機会です。物語だけでなく、科学の本やノンフィクション、中高生向けの新書にも手を広げると、説明文でよく使われる言葉に触れられます。入試によく出る本は、2027年度入試に向けた新刊の読書ガイドで紹介しています。読んでいて出会った言葉は、語彙ノートにメモしておきましょう。
習慣2 紙の辞書で「寄り道」する
紙の辞書は、調べる途中でほかの言葉が目に入ったり、コラムや挿絵にひかれて読んでみたりする「寄り道」ができます。この寄り道が、語彙を増やすうえでとても大きな役割を果たします。調べた言葉の類義語や対義語も、いっしょに確認しましょう。
おすすめは、小学館の『例解学習国語辞典』第十二版(2023年)です。三省堂の『例解小学国語辞典』第八版(2023年)も使いやすい一冊です。
習慣3 語彙カードで少しずつ復習する
語彙ノートから覚えたい言葉を選んでカードにし、くり返し見直します。一日5枚程度など、無理なく続く量にしましょう。表に言葉、裏に意味と自分の短文を書いておくと、使い方ごと記憶に残ります。
習慣4 定期的に語彙テストで確かめる
覚えたつもりの言葉が本当に身についているかを、週に一度は確かめましょう。語彙の問題集の確認テストを使うほか、語彙ノートやカードから保護者の方がクイズを出すのも効果的です。
習慣5 会話や作文で使ってみる
覚えた言葉は、使ってはじめて自分のものになります。家族との会話や日記で使ってみると、細かいニュアンスがわかり、記憶にも残ります。保護者の方が会話の中で少し難しい言葉を意識して使うのもおすすめです。
習慣6 漢字の意味から言葉を考える
熟語は、使われている漢字が意味を表していることがよくあります。「推」には「おしはかる」という意味があるとわかれば、「推測」「推察」「類推」の意味も見当がつきます。ときどき漢字辞典で漢字の意味を調べると、初めて見る熟語でも意味を推測できるようになります。
習慣7 ニュースや好きな分野で、知識ごと言葉を増やす
ニュースやドキュメンタリー番組は、社会や科学の言葉に触れる機会です。スポーツでも電車でも料理でもかまいません。お子さんが興味をもっている分野の、少し難しい本を読むのもおすすめです。好きな分野なら、専門的な言葉も自然と覚えられます。
おすすめの語彙の問題集
ここまでの取り組みと並行して、語彙の問題集を一冊決めて進めると、入試に必要な言葉を効率よく押さえられます。お子さんのレベルに合わせて選んでください。
中学受験国語の必須語彙2800(井上秀和)
難関校を目指すなら、いちばんのおすすめです。長年の指導経験から、中学受験に必要な言葉が重要度のランクごとに選び抜かれています。収録語数が多く、レイアウトも地味なので、とっつきにくく感じるかもしれません。それでも本気で取り組めば、最高の語彙力アップの道具になります。
中学入試 語彙力トレーニング1400プラス 1 基礎編/2 発展編(井上秀和)
『必須語彙2800』と同じ井上秀和先生による、問題を解きながら言葉を身につけるシリーズです(文英堂、2025年)。「覚える→あてはめる→使いこなす」の3ステップで、言葉の意味を覚えるだけでなく、文脈に合わせて使い分ける力まで練習できます。基礎編から始め、難関校を目指すなら発展編へ進みましょう。『2800』を読むだけでは覚えにくいと感じるお子さんは、このシリーズと組み合わせてください。
1日10分 小学生の言葉力1200(学研)
『必須語彙2800』は敷居が高いと感じる方や、4〜5年生で基本の語彙を固めたい方におすすめです。一日10分ずつ進められる構成で、毎日の習慣にしやすい一冊です。以前この記事で紹介していた『中学入試 言葉力1200』(2007年)は、現在は注文できなくなっています。
改訂第2版 中学入試にでる順 四字熟語・ことわざ・慣用句
四字熟語・ことわざ・慣用句を、入試によく出る順に押さえられる一冊です(2024年の改訂第2版)。5年生で慣用句やことわざを集中して固める時期や、6年生の知識問題の総仕上げに向いています。
学年別の進め方
| 学年 | 重点 | 家庭での取り組み |
|---|---|---|
| 1〜3年生 | 拾う・分ける | 会話の中で「やばい」を分ける。読み聞かせや読書で出会った言葉を、親子でクイズにする |
| 4年生 | 拾う・広げる | マイ辞書と語彙ノートを用意する。易しめの語彙問題集を毎日1ページ |
| 5年生 | 広げる・深める | 対義語・類義語を書き足す習慣をつける。慣用句・ことわざ・心情語を集中して固める |
| 6年生 | 深める・確かめる | 模試や過去問で出会った知らない言葉を語彙ノートに集約し、週1回テストする。問題集は頻出ランクの高い言葉を優先 |
語彙力が上がると、何が変わるか
語彙力が上がると、国語の読解問題や知識問題に強くなるのはもちろん、次のような変化も起こります。
- 算数の文章題や、理科・社会の説明文がよく理解できるようになる
- 読書が苦でなくなり、読める本の幅が広がる
- 気持ちや考えを言葉にするのが上手になり、記述問題が書けるようになる
入試のためだけでなく、人生を豊かにするためにも、ぜひ多くのお子さんに語彙力を高めてほしいと願っています。
よくある質問
語彙ノートは、書いたら毎回辞書を引くべきですか?
毎回でなくてかまいません。まずは気になる言葉を書き留める習慣をつけることが最優先です。週末などにまとめて調べれば十分です。
読書をしていれば、語彙力は十分につきますか?
読書は言葉に出会う最高の機会ですが、読むだけでは、知らない言葉を読み飛ばしてしまうことも少なくありません。読書で「拾った」言葉を、辞書や会話で「広げる・深める」ところまで進めると、語彙は確実に身につきます。
語彙の問題集は、何冊やればよいですか?
一冊を最後までやり切ることを優先してください。何冊も手を出すより、一冊を2周、3周して、間違えた言葉を語彙ノートに移すほうが確実に力がつきます。一冊を終えて余裕があれば、一段上のレベルの問題集に進みましょう。
辞書アプリや電子辞書ではだめですか?
調べる速さでは電子辞書やアプリが便利です。ただ、小学生のうちは、寄り道ができて、調べた跡が残る紙の辞書をおすすめします。6年生で調べる量が増えたら、電子辞書と使い分けてもかまいません。
まとめ
ご紹介した方法をすべてやり切る必要はありません。大切なのは、最初の一歩を踏み出すことです。語彙ノートを一冊用意する、問題集を一冊決める、お子さんの「やばい」を一度だけ聞き返してみる。その一歩から、言葉の力を育てる長い旅を始めてみてください。
語彙以外にも読解が苦手な原因があるかどうかは、中学受験国語の読解力を上げるには?苦手になる4つの原因と原因別の強化法で確かめられます。

