2026年度 市川中学校 第1回入試 国語 徹底解説|論説文×物語文の読解ポイント

2026年1月20日に実施された市川中学校第1回入試の国語を徹底解説します。

今回の試験は、大問一に竹端寛さんの『能力主義をケアでほぐす』(論説文)、大問二に伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』(物語文)が出題されました。どちらも「人間の弱さ」や「対話の大切さ」をテーマにした、深い内容の文章です。


試験概要

  • 試験時間:50分
  • 配点:100点満点
  • 構成:大問4題(論説文・物語文・融合問題・漢字)

【大問一】竹端寛『能力主義をケアでほぐす』(論説文)

文章の概要

この文章は、「ケアの倫理」という考え方を通して、現代社会の「業績評価主義」を批判的に考察した論説文です。

筆者は、子育ての経験を通じて「ケアの倫理」に気づいたと述べています。子どもが生まれる前は「業績評価主義」の世界で生きていた筆者が、子育てという「ままならないもの」に巻き込まれる中で、新しい価値観に出会っていく過程が描かれています。

筆者の主張(要約)

筆者の主張は次の3点に集約されます。

【主張1】人間は誰もが「脆弱性」を抱えている

人間の身体は脆弱性を抱えており、環境に左右されやすい存在である。これは赤ちゃんだけでなく、大人も同じ。

【主張2】努力の「前提」は平等ではなく千差万別

「努力すれば報われる」という考えは、努力できる前提条件が皆に等しく与えられていることを暗黙の前提としている。しかし実際には、経済状況、家庭環境、心身の状況など、一人ひとりの置かれた環境は千差万別である。

【主張3】対話的関係性から始めることが大切

自分の弱さや脆弱性を認め、その声を周りの人に伝えること。そして、身近な他者の脆弱性を理解しようと努めること。このような「対話的関係性」からしか、よりよい人間関係は始まらない。

重要な対比構造

この文章では、以下の対比が重要です。

段落構成

重要語句

  • 脆弱性(ぜいじゃくせい):もろくて弱い性質。英語では「vulnerability」
  • 個別性:一人ひとりが唯一無二(unique)であること。distinctive(別個の)とも表現される
  • ケアの倫理:フェミニズムの政治思想から生まれた概念。他者への配慮と対話を重視する
  • 業績評価主義:成果や実績を数値で評価し、それによって人の価値を測る考え方

【大問一】設問解説

問1 「業績評価主義」とはどのようなものか

正解:イ

「業績評価主義」の説明として適当でないものを選ぶ問題です。

本文では、業績評価主義について「評価の絶対主義」「簡単に手放すことができない」「目に見える結果を出せなければ評価されない」と説明されています。

各選択肢の検討:

  • ア「他者より良い評価を得ようとして努力を重ね、実績を求め続ける」→本文に合致
  • イ「自分がどんな状況に置かれたとしても、周囲の期待があるのならば、どんな努力もすることができる」→不適当。本文では「どんな事情を抱えていても、努力をしていないのだと見なす」と否定的に書かれている
  • ウ「客観的に優れた結果を残さなければ評価されない」→本文に合致
  • エ「どんな環境でも積極的に行動し続けれ、客観的な成果を上げられる」→本文に合致
  • オ「自分では努力していると思っていても、目に見える結果を出せなければ評価されない」→本文に合致

イは「どんな状況でも努力できる」と肯定的に捉えていますが、本文では業績評価主義の問題点として「努力の前提条件が異なる」ことを批判しています。

問2 「ある種の『契約関係』」とはどのようなものか

正解:ウ

本文では、夫婦関係が「ある種の『契約関係』で済まされていた」と述べられています。これは「以前に決めたことだから」「予定や予測はあくまでも『目安』」という文脈から読み取れます。

ウ「夫婦どちらも自律しており、夫婦間のやりとりを通して決めたことはおおよそ守られるという前提を共有している関係」が最も適当です。

これは「対話的関係」と対比される概念であり、相手の体調やニーズに合わせて柔軟に対応する関係ではなく、あらかじめ決めた約束を守ることを重視する関係を指しています。

問3 「自分の思い通りにしたい」という欲望の説明

正解:オ

本文では、筆者が「自分の思い通りにしたい」という欲望について気づいた経緯が書かれています。育児を通して家族全体のことを考えるようになり、「自分ひとりで家族をまとめられる」という考えが誤りだったと気づいたことが述べられています。

オ「育児を通して、家族全体のニーズに合わせて柔軟な対応をしていくなかで、自分が思い通りにしていたせいで家族の関係が悪化していたのだと考えるようになり、自分が家族全体のニーズを満たす責任を果たしていなかったことに気づいたから」が正解です。

問4 努力する「前提」は平等ではなく千差万別である理由(40字以内)

解答例:

経済状況や家庭環境、心身の状況など、一人ひとりの置かれた環境が異なるから。(37字)

解説:

本文では、努力の前提条件として「親の経済状況」「塾に通えるかどうか」「自分の親や祖父母の介護やサポート」「心身の状況」などが挙げられています。これらの条件が一人ひとり異なるため、「努力すれば報われる」という考えの前提である「平等な条件」は実際には存在しないと筆者は主張しています。

問5 「対話的関係性」とはどのようなものか(100字以上120字以内)

解答例:

対話的関係性とは、自分も他者も脆弱性を抱えた唯一無二の存在だと認め、自分の弱さを周囲に伝えるとともに、他者の脆弱性を理解しようと努め、その声を聴こうとすることで、言葉だけでなく触れ合いを通しても心を伝え合う関係性のこと。(109字)

解説:

問5では「正義の倫理」にもふれながら説明することが求められています。

「正義の倫理」は「強さ」を軸とした考え方で、脆弱性を「負け」と見なす傾向があります。一方、「ケアの倫理」から生まれる「対話的関係性」は、「弱さ」を基軸とし、互いの脆弱性を認め合うことから始まります。

本文の最後の段落「まず、虚勢をはらず、自らの脆弱性を認め、その声を聞くこと。自分の弱さを、周りの人に伝えてみること。そして、身近な他者の脆弱性をそのものとして理解しようと努めること」が、対話的関係性の核心です。


【大問二】伊吹有喜『雲を紡ぐ』(物語文)

あらすじ

主人公の真紀は、夫の広志と娘の美緒の三人で都内に住んでいました。高校生になった美緒は、学校での人間関係がうまくいかず不登校になります。ある日、口論の末に真紀は美緒をたたいてしまいます。

美緒は家出をして、岩手にある広志の父の家へ向かいます。心の支えだった赤いショールを捨てられたと思い込んでいた美緒でしたが、実はそのショールは広志の父が営む「山崎工藝社」で作られたものでした。

数か月後、広志と真紀は美緒を迎えに岩手を訪れます。本文は、広志の父と真紀が話をしている場面です。真紀は子育てに失敗したと自分を責めていますが、広志の父は美緒の作った花瓶敷きを見せながら、美緒が「美しいものを美しいと感じられる素直な心」を持っていることを伝えます。

登場人物

場面の変化

【場面1】真紀と広志の父の対話(真紀の疲労と自責)

広志の父が真紀に話しかけ、真紀は「もう疲れた」と本音を漏らします。

【場面2】沈黙の後の歌の紹介(「言はで思ふぞ」の和歌)

広志の父は、岩手県名の由来になった和歌を紹介します。「言葉にしないで思っている方が、言葉にするよりも気持ちが強い」という意味です。

【場面3】花瓶敷きを通じたやりとり

広志の父が美緒の作った花瓶敷きを見せ、真紀に「触ってみなさい」と促します。

【場面4】真紀の感動と広志の父の言葉

花瓶敷きに触れた真紀は、美緒の成長を実感します。広志の父は、美緒が絵本から学んだ「美しいものを感じ取る心」を育てたのは真紀だと伝えます。

【場面5】真紀の涙(唇が震える)

自分の子育てが認められ、真紀は深い安堵と喜びで唇を震わせます。

心情表現とその変化

比喩表現

「言はで思ふぞ、言ふにまされる」

岩手県名の由来となった和歌の一節。「言葉にしないで思っているほうが、言葉にするよりも気持ちが強い」という意味。この物語では、言葉だけでなく「触れること」で心を伝え合うことの大切さを象徴しています。

「心につながってはいる触感」

花瓶敷きの手触りを通じて、美緒の心が真紀に伝わることを表現しています。

「蒔かれた種は今、豊かに芽吹こうとしている」

真紀が美緒に与えた絵本や教育が、今になって美緒の中で花開いていることを表す比喩。

主題

この物語の主題は、「言葉にならない愛情と、親子の絆の再確認」です。

真紀は子育てに失敗したと自分を責めていましたが、広志の父との対話を通じて、自分が与えてきたものが美緒の中で確かに育っていることを知ります。言葉ではうまく伝えられなくても、日々の関わりの中で伝わっていく愛情があること。そして、「触れること」を通じて心が通い合うこと。これが物語の核心です。

また、大問一の「ケアの倫理」と呼応するテーマとして、「対話的関係性」の大切さも描かれています。広志の父は、言葉で直接伝えるのではなく、花瓶敷きに「触れさせる」ことで真紀に気づきを与えます。これは、相手の心に寄り添い、相手のペースで理解できるよう導く「ケア」の姿勢と言えます。


【大問二】設問解説

問1 真紀が広志の父に「何か……おっしゃってください」と言った理由

正解:ウ

真紀は、広志の父に美緒のことで悪いことをしたと自覚しており、謝罪の機会を作ってほしいと思っています。しかし同時に、広志の父から何も言われないことで、かえって気まずさを感じています。

ウ「真紀は、美緒をたたいてしまったことについて悪いことをしたとわかっていたが、意地になって黙ってしまい、謝罪の機会を作ってほしいと思ったから」が正解です。

「きっかけを見つけられないので、広志の父に謝罪の機会を作ってほしい」という心情が読み取れます。

問2 「私、もう疲れた……疲れました」のときの真紀の心情

正解:ア

真紀は、仕事と家庭の両立に疲弊しています。美緒の不登校問題を解決しようとしても何もうまくいかず、肝心の美緒とは冷静に話し合えない状況です。

ア「真紀は、仕事のためにも美緒の不登校を解決しようとしたものの、何をやってもうまくいかないとあきらめている」が正解です。

本文には「自分は仕事でも家庭でも何をやってもうまくいかない中で家族と話し合おうとしている」という状況が描かれています。

問3 「言はで思ふぞ、言ふにまされる」と「触ってみなさい」の関係

正解:イ

「言はで思ふぞ、言ふにまされる」は「言葉にしないで思っている方が、言葉にするより気持ちが強い」という意味です。広志の父は、言葉で説明するよりも実際に触れさせることで、美緒の心と成長を真紀に伝えようとしています。

イ「美緒は黙っているからといって相手を従わせようとしているわけではなく、人よりも様々なことに気を遣って何も言えなくなっているのではないかと広志の父は考えており、実際に美緒の作った作品に触れて美緒の気持ちが込められていることを確かめるこで、美緒の本当の思いに向き合ってあげてほしいということ」が正解です。

問4 「真紀の唇が震えた」ときの心情(100字以内)

解答例:

これまで子育てに失敗したと自分を責めていたが、自分がかつて与えた絵本を見返して感動する美緒の姿を見た広志の父から、美に感応できる豊かな心を見事に育てたとほめられ、深い安堵と喜びを覚えている。(95字)

解説:

真紀はずっと「子育てに失敗した」と自分を責めてきました。しかし、広志の父から「美緒は美しいものを美しいと感じられる素直な心を持っている」「それは真紀が絵本を与えてきたからだ」と言われ、自分の子育てが認められたことで、深い安堵と喜びを感じています。

「唇が震えた」という身体表現は、感動で涙がこみ上げてくる様子を表しています。言葉にならないほどの感情の高まりを示す表現です。

問5 広志の人物像

正解:オ

「えっ? 俺に聞くの?」という広志の発言から、広志が自分から意見を言うタイプではないことがわかります。

オ「自分の気持ちを言葉にするのが下手で配慮のない発言もしてしまうが、常に家族に寄りそう、情に厚い人物」が正解です。

本文では、広志は口数が少なく、家庭の問題に対しても積極的に発言しない様子が描かれています。しかし、「あと少しだけ。どうか見守ってやってくれ」「美緒は必死で、自分の道を探そうとしているんだ」という言葉から、美緒のことを深く理解し、見守ろうとしている姿勢が読み取れます。


【大問三】融合問題の解説

大問三は、大問一『能力主義をケアでほぐす』と大問二『雲を紡ぐ』を読んだ生徒たちの発言として適当なものを選ぶ問題です。

解答

  • ア:×(不適当)
  • イ:○(適当)
  • ウ:○(適当)
  • エ:×(不適当)
  • オ:○(適当)

各選択肢の検討

ア(×)

「『能力主義をケアでほぐす』の筆者は、家族のことを大切にして、個別に向き合おうとしつつも、娘に対して思わず業績を比較してしまう」

→本文では、筆者が娘に対して業績を比較している描写はありません。むしろ、業績評価主義を批判し、ケアの倫理を重視する立場です。

イ(○)

「『能力主義をケアでほぐす』で、家族は、よりよい関係のために対話を試みているけれど、言葉にすることが難しいと思ったな」

→本文で「対話は難しい」と述べられており、言葉だけでは伝わらないことがあることが示されています。適当です。

ウ(○)

「『能力主義をケアでほぐす』では、自分と他者がそれぞれ自らの弱さを認め、対話には言葉以外の要素も重要だね」

→「触感は偽れない、触れることで心が伝わる」という記述から、言葉以外の要素(触れ合い)の重要性が示されています。適当です。

エ(×)

「『雲を紡ぐ』では、どんな人も努力すれば報われると家族がうまくいくことが描かれている」

→『雲を紡ぐ』の主題は「努力すれば報われる」ではありません。むしろ、言葉にならない愛情や、触れ合いを通じた心の交流が描かれています。

オ(○)

「『能力主義をケアでほぐす』を読んで、自分の都合だけを優先させるのではなく、家族全体のことを考えながら対話していくことが、よりよい家族の形成につながるんだと思ったよ」

→本文の主張と一致しています。自分の都合ではなく、家族全体のニーズを考えることの重要性が述べられています。適当です。


【大問四】漢字の書き取り

1. イドウを調べる → 異同

「異同」は「違いと同じところ」という意味。「異」は「違い」、「同」は「同じ」を表します。

2. カホウは寝て待て → 果報

「果報は寝て待て」は、良い結果は焦らずに待っていれば自然に訪れるという意味のことわざ。「果報」は「良い報い」の意味。

3. オーケストラのエンソウを聴く → 演奏

「演奏」は楽器を演じ奏でること。音楽を表現すること。

4. キュウフの対象とならなかった → 給付

「給付」は金銭などを給え付けること。支給すること。

5. 命あってのモノダネ → 物種

「命あっての物種」は、命があってこそ何でもできるという意味のことわざ。「物種」は「ものだね」と読み、「事の起こる元」の意味。

6. エイセイ面に注意して食事を作る → 衛生

「衛生」は健康を守り、病気を予防すること。清潔さを保つこと。

7. エンジュクした演技をする → 円熟

「円熟」は人格や技術が十分に発達して、豊かな味わいがあること。熟達していること。


まとめ

2026年度市川中学校第1回入試の国語は、「ケアの倫理」と「家族の対話」という共通のテーマを持つ2つの文章が出題されました。

大問一の論説文では、「業績評価主義」と「ケアの倫理」という対比を理解し、筆者の主張を正確に読み取ることが求められました。特に「脆弱性」「個別性」「対話的関係性」といったキーワードの理解が重要でした。

大問二の物語文では、登場人物の心情変化を丁寧に追い、「言葉にならない愛情」がどのように伝わっていくかを読み取ることがポイントでした。「触ってみなさい」という言葉に象徴されるように、言葉だけでなく「触れ合い」を通じて心が通い合うという主題を理解することが大切です。

両文章に共通するのは、「対話の大切さ」と「言葉にならないものの価値」です。言葉で完璧に伝えようとするのではなく、相手の立場に立って寄り添い、時には言葉以外の方法で心を伝え合うこと。これが、両文章を貫くテーマと言えるでしょう。

受験生の皆さん、この入試問題から学べることは多くあります。国語の読解では、「筆者・作者が何を伝えたいのか」を常に意識しながら読むことが大切です。そして、自分自身の生活や人間関係についても、この文章から多くのヒントが得られるはずです。

頑張ってください!

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