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2022年度 駒場東邦 国語 過去問解説

こんにちは。指導歴20年中学受験国語専門プロ家庭教師のヨッシーです。

7月。いよいよ夏本番ですね。毎日暑いですがいかがお過ごしでしょうか。

巷では突然の梅雨明けそして熱中症患者の増加などが話題に上がっていますが、受験生の皆さんは大丈夫でしょうか?学校、塾、家庭の往復でハードな毎日を過ごしていますから、しっかり栄養と睡眠をとって体調には気をつけてほしいものです。

さて、今回はすっかりご無沙汰してしまいましたが、過去問分析。ずっと書きたいと思っていて書けなかった「駒場東邦」の問題分析です。

出典紹介

2022年度入試で話題になった相沢沙呼さんの「教室に並んだ背表紙」からの出題です。

前年秋のサピックスオープンに出題されたり、その前の入試でも相沢沙呼さんの作品は注目されていましたが、予想通り今回取り上げる駒場東邦や慶應普通部などで入試問題に採用されました。

この作品、中学校の図書室を舞台に女子中学生たちが本との関わりを通じて成長をしていく短編ストーリー集です。

全編を通じて本の素晴らしさを実感できるとともに、女子ならではの繊細な心のやりとりを感じ取ることができる内容です。少し読書が苦手な子、女子の心情把握が苦手な男子、などにおすすめしたい一冊です。

特にこの駒場東邦で取り上げられた本作の中の短編「やさしいわたしの綴り方」は内容が秀逸。感動します。クライマックスは本入試問題に出題されたとおりですが、全編通して一度お読みになることをおすすめしたい作品です。

本文の読み方

物語文で大切なのは「人物像」の把握です。ここでいう「人物像」とはその人物の人となりだけでなく、その人物が置かれる環境まで含めたあらゆる情報のことです。これを理解しないと話の全体像がつかめず、主題と取りこぼしますので確実に理解をしたいところ。

この物語の主人公「あかね」の人物像が読み取れる箇所(P2〜3より)

ネットテレビの恋愛リアリティーショーは〜あたしってそういうのに弱いんだ。

暗いリビングの電灯をつけて、自室のベッドに寝転んだ。〜夕飯はピザの残りをチン。

あたしは、もう長いことテレビを観た記憶がない。あたしの部屋にはないし、リビングで観るには、あそこはなんだか、広すぎるような気がして。

そもそもお母さんもテレビを観ないから、リビングに置いてあるあれって、ただのでかい置物だ。昔はこうじゃなかったのになと思った。お父さんがいた頃は、お母さんとお父さんに挟まれて、ソファに座っていた気がする。

これらの表現から以下の人物像を割り出します。

・女子中学生

・恋愛ものが好きであこがれている、スマホでネットテレビを観ることが多くテレビは観ない

・親は離婚(別居?死別?)していて母と二人暮らし。母は帰宅が遅く一人で夕飯を食べる。父と暮らしていた頃の記憶は薄い。かなり昔の話。

よく刑事ドラマなんかで犯人をプロファイルするシーンが出てきますが、そんなノリで楽しみながら人物像を固めていけるようになると読解も楽しくなります。とにかく主要な人物の人物像に関わる情報であれば線を引いて注目しておくことが大切です。

重要問題解説

問4 「リビングで観るには、あそこはなんだか、広すぎるような気がして」とはなぜか?(記号選択)

人物像のイメージがある程度作り上げてあればこの問題は難しくないはず。

傍線部②の直前で友人のアイルーが母親と一緒にテレビを観ていることを聞いて、自分自身は長いことテレビを観ていないと実感したことにも注目をして「あかね」の心理を意識しながら選択します。

ア:リビングで一人でいると不安を感じ体がすくんでしまう・・・家族団らんをはっきり覚えているわけではないですから体がすくむほど不安や恐怖を感じることはあり得ないですから×

イ:自分の家のテレビの画面が小さい・・・テレビの画面の大きさには触れていないですし、あかねの心理とは全く関係ないので論外で×

ウ:画面の小さいスマホをベッドで観る習慣・・・リビングが大きく感じるあかねの心理とは無関係なので×

エ:リビングは最低限のスペースがあれば十分なので〜遠慮している・・・寂しさを感じているのであって「遠慮をする」という気持ちはないので×

問5「風船がしぼんでいくような感じがした」とはあかねのどのような気持ちを表しているか?

「風船がしぼむ」という比喩表現を一般的な言い方に直すだけでなく、その対比的な表現に注目します。少し前の表現「息をいっぱい吸い込むみたいに、胸の中が膨れ上がっていく。」という表現。これが「風船がしぼむ」と対照的ですね。ここに注目できるかどうか、そしてそれに関連した心情表現を押さえられるかどうか、が本問の最大のポイントでしょう。(下図参照)

◆「息をいっぱい吸い込むみたいに胸が膨れ」・・・一人で家にいることが多い少女が推理小説について母親と話そうと胸を膨らませる(=母との会話を楽しみにしている)状態です。胸が「膨らむ」という表現にぴったり合うのは「期待」という表現ではないでしょうか。

◆「どうしてだろう胸が冷える」・・・母の「じろり」とした視線に嫌な予感を感じます。そして案の定、携帯電話の料金について叱られます。

◆「風船が、しぼんでいくような感じ」・・・先ほどまで楽しみにしていた母との会話が実現できず、失望する様子です

解答のポイントとしては「期待していた」⇔「失望した」この2つの心情ギャップが表現できているかどうかです。

【解答例】

母と小説について話ができるのではないかと期待を膨らませていたが、携帯電話料金のことで叱られたことによって期待が外れたと感じ、失望した気持ち。(69字)

問11 あかねが「最後の短編」を気に入らなかったのはなぜか?

この問題、先生が勧めた「短編」の内容に関する表現がほとんど見当たらないので苦労する子も多いのではないでしょうか?

あかねがこの短編の内容について先生に聞かれると、強いマイナス感情を示しますのでその反応や心理から短編の内容を推測していく必要があります。

拳を作って、それをかたく握り締めながら。〜いらいらする。腹が立つ。苦しさが溢れて、うめくみたい言う。・・・この表現からこの短編に対してあかねは強い不快感を持っていることがわかります。ではなぜそこまで不快に思うのか理由を探りながら読み進めます。

「主人公の、女の子が、お母さんと仲良くて」・・・これが大きなヒントになります。ここまでの話の流れや設問で問われたことを振り返りましょう。あかねは母と二人暮らしでその母は仕事が忙しく、友人のアイルーがお母さんと楽しくテレビを観ているのをうらやましく思っていました。この短編にも母と子の仲が良い様子が描かれており、自分の置かれている孤独と対照的に感じてしまい、寂しさが深まっているのでしょう。

なんで、眼、熱いんだろう。〜原稿用紙に、何かが落ちて、染みを作った。・・・涙を流していることは理解できますね。涙が流れるぐらいの辛い思いを抱えていた、しかし普段本を読まないあかねは語彙に乏しくうまくその思いを表現できないできた、ということがわかります。

ああそうか、そうだったんだって思った。〜たぶんきっとそう。あたし、ずっとずっと、さびしかったんだ。・・・これまであかねは自分の気持ちが整理できずずっと人に伝えることができないでいました。しかし、先生とのやりとりを通じて自分が「さびしい」という気持ちをずっと抱き続けていたことに気づくのです。

(下図参照)

ここまでの内容を理解したうえで指定字数にまとめあげていきます。

【記述のポイント】

1.「解答の核」・・・問の中心に注目します。この問題で問われている内容の中心は「『最後の短編』を気に入らなかったのはなぜですか」という部分です。これに一言で簡潔に答えます。ポイントはあかねの「気持ち」を理由に混ぜ込むこと。物語文で理由の記述を求められる場合ほとんどのケースにおいて「気持ち」の記述が必要になると考えておきましょう。ここで外してはいけないのがあかねが最後に気づいた自分の「さびしい」という気持ちですね。

→「さびしい思いが強くなるから。」これを解答の最後に配置します。

2.「原因」・・・解答の核が決まったらその原因についての説明を上乗せしていきます。ここでは「さびしい」思いになる理由です。これはここまで解説してきたとおり、自分が母親とうまく話せない関係であることが仲の良い母子を目の当たりにすることで実感してしまうからですね。これを指定字数にまとめます。

→「仲の良い母子の話を読むと、反対に母親とうまく話せない自分を意識してしまい、

【解答例】

仲の良い母子の話を読むと、反対に母親とうまく話せない自分を意識していまい、さびしさが強くなるから。(49字)

問12 あかねがお母さんに話をしようと思ったのはなぜか?

「本文全体をふまえ」という条件があるとおりこの物語文全体の主題を捉えて答えなくてはいけない問題です。今回解説した問4および問11の内容がきちんと理解できていれば適切に解答できるはずです。ただし、指定字数が多いので書き始める前に答案全体の構成をきちんと考えてから書き始めることは必須です。

80字を超えるような長文記述問題は以下のようなパターンでまとめるとスマートです。

A【解答の核】

B【Aの原因】

C【Aと対比的な内容】

この3つの要素をまとめ、C→B→Aの順で配置します。

例えば今回の問題ですと以下のような形になります。

A:お母さんに自分の気持ちを素直に伝えたり、自分からいろいろな話をしたりしようと思ったから。

B:しおり先生に言われて感想文を書いたことで、自分が今までずっとさびしい思いを抱えていたことに気づいたため、

C:家で孤独に過ごすことが多いうえに、お母さんとうまく話すことができないでいたが、

これらをつなぎ合わせ、字数におうじて詳しい説明を付け加えることで適切な解答が作れるでしょう。

【解答例】

家で一人で過ごす時間が長く、仕事で忙しい母と話をしてもうまく気持ちが伝えられなないでいたが、しおり先生に言われ感想文を書いたことで、ずっとさびしい思いしていたことに気づき、母に自分からいろいろなことを話したり気持ちを素直に伝えたりしてみようと思ったから。(127字)

まとめ

いかがだだったでしょうか。言葉をうまく紡ぐことができず気持ちの整理がつかない少女が読書を通じて一歩成長する・・・良いお話ですね。読書があまり得意でない子にもおすすめしたい一冊です。

そしてその主題を的確についてくる良質な問題。さすが駒東です。

テーマを深掘りする精密な読解力と適切に表現をまとめる記述力。両面が求められるハイレベルな出題です。できるだけ多くの過去問に取り組み、物語の主題の把握練習をしておきたいですね。

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