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2026年度 武蔵中 国語入試問題解説

2026年度 武蔵 国語 全問解説 朝比奈秋『植物少女』

2026年2月1日(日)に実施された武蔵中学校の国語(50分・100点)を、全問解説します。大問は二つで、大問一は朝比奈秋さんの小説『植物少女』(朝日新聞出版刊)、大問二は漢字の書き取り八問です。語り手は小学五年生の高梨美桜(たかなし みお)。出産のときの脳出血で植物状態になった母・深雪(みゆき)の病室に毎日通う「わたし」が、回診、家族の食卓、母の昔の写真、朝の病室を通して、「母」の見え方を変えていく物語です。この記事では、登場人物の関係と美桜の心の動きを情景アニメ入りの図解動画で整理してから、問一から問七までと漢字八問を、本文の根拠つきで解きます。なお、学校のサイトには問題冊子と解答用紙が公開されていますが、解答は載っていません。この記事の解答は学校の公式解答ではなく、解答例です。

武蔵中 2026 国語 全問解説のYouTube動画
YouTubeの全問解説動画(約17分)
大問一『植物少女』の問一〜問七と、大問二の漢字を、図解アニメと先生の声で一問ずつ解説しています。
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出題構成と講評

  • 大問は二つです。大問一は物語文(朝比奈秋『植物少女』)、大問二はカタカナを漢字に直す書き取り八問(①から⑧)です。
  • 大問一の設問は問一から問七までの七問で、問二だけ(1)(2)に分かれます。記述は、問一・問二(1)・問二(2)・問三・問四・問五・問七の七つ。記号選択は問六の一つで、「最も適当でないもの」を選ぶ形です。問題冊子に字数の指定はありません。
  • 本文の冒頭には「植物状態とは、意識がなく自分の意志で身体を動かせない状態をいう。いわゆる脳死のことではない」という注意書きがあります。この前提を押さえておかないと、「母は深く寝ているだけでは」という父の気持ちが読み取れません。
  • 記述の解答は、本文のどの場面の気持ちを問われているかで決まります。設問は本文の順に並んでいるので、場面と設問を対応させながら読むのが近道です。
今回のポイント
この物語では、同じ「母」が、人によって、時によって違って見えます。生まれたときから寝たきりの母しか知らない美桜、母が目を覚ますのではと思ってしまう父と祖母、目を開けて笑う写真の中の女性。この三つの「母」の見え方のずれが、問三、問四、問五、問六、問七の全部につながっています。

大問一 物語文 朝比奈秋『植物少女』

あらすじ 寝たきりの母と、写真の中の母

小学五年生の美桜(みお)の母・深雪は、美桜を出産したときの脳出血で植物状態になり、入院しています。美桜は母の病室に毎日通い、親しくなった看護師の吉田さんと一緒に過ごしながら、母に語りかけています。ある日、病室へ行くとカーテンが引かれていて、五人の医学生と吉田さん、遠藤先生、そして教授がベッドを囲んでいました。教授が母の掌に指を置くと、母の手は「食虫植物が虫を捕まえるみたいに」ふわりと閉じて指を包みます。学生が順番に指を置くと、母は全員の指を包み、学生たちは幸せそうな顔になります。美桜は母が誇らしくなり、自分も最後の学生の後ろに並びました。

教授たちが向かいのベッドへ移ると、美桜は母の手の甲をつねり、母が手を引くのを見て満足します。吉田さんは「みおちゃん、つねっちゃだめ」と止めながら、内出血になりにくい場所を教え、「つねっていいのは、みおちゃんだけ」と言います。向かいのベッドでは、みぃさんが「あたし、付き添いますからっ」と回診中も居座っていました。その夜、美桜がこの話をすると、父は嬉しそうにビールを呷り、祖母は満足げに頷きます。続けて、母の入院日が自分の誕生日と同じだったと話すと、父は不機嫌になり、寝室へ引っこんでしまいます。

翌朝、祖母は母の昔の写真を美桜に見せ、母の過去を語ります。写真の中の女性は、どの写真でもぱっちりと目を開けて立っていました。けれど美桜は、その女性を母だと思えません。朝の病室で父は「朝と夜は会いに来たくないわ」と打ち明けて去ります。美桜は母の顔と写真の特徴が一致することを、あらためて確かめます。以前は同じ人物だと感じられなかったのに、このときは写真の女性と母がうっすらと繋がりはじめ、母にもたれることができなくなって、父や祖母のようにパイプいすに座って母を眺めるようになります。しかし数か月もたたないうちに母はやはりいつもの母に戻り、美桜はふたたび母にもたれかかって、心の底から安心して体重を押しつけるのでした。

図解動画① 登場人物の関係(約30秒・音声つき)
図1 2026年度 武蔵中学校 大問一 人物相関図
美桜(みお)=わたし
語り手・小学五年生
母の病室に毎日通う
母 深雪(みゆき)
美桜の出産時に脳出血
植物状態で入院中
吉田さん
看護師
関西弁で「みおちゃん」と呼ぶ
父・祖母
美桜と暮らす家族
母が目を覚ますのではと思ってしまう
みぃさん
向かいのベッドの「あっ君」の母
回診中も病室に居座る
教授・医学生・遠藤先生
回診の場面に登場
母の反射を学生に見せる
美桜→母生まれたときから寝たきりの母しか知らない。写真の女性は「母」と呼べない
吉田さん→美桜「つねっちゃだめ」と止めつつ、つねっていい場所を教える
父・祖母→母「今のお母さんは深く寝てるだけ」と思ってしまう。回診のたびに廊下へ出される
みぃさん→回診「付き添いますからっ」と居座る。美桜の話を聞いた父と祖母が喜ぶ

人物は、母への向き合い方で整理すると読みやすくなります。美桜は「寝たきりの母」しか知らず、父と祖母は「昔の母」を知っています。吉田さんとみぃさんは、病室で母や患者に接する大人です。次に、場面の順番を確かめます。

図2 2026年度 武蔵中学校 大問一 場面の流れと設問
場面1
病室の回診。母が学生全員の指を包み、美桜は自分も並ぶ問一
▼
場面2
美桜が母をつねる。吉田さんが止め、場所を教える問二(1)(2)
▼
場面3
みぃさんの居座り。その夜、食卓で父が嬉しそうにビールを呷る問三
▼
場面4
誕生日の話で父が不機嫌に。翌朝、祖母が母の過去と写真を見せる問四
▼
場面5
朝の病室。父が「朝と夜は会いに来たくないわ」と言って去る問五
▼
場面6
写真と母がつながり、もたれられない。パイプいすで母を眺める問六
▼
結末
数か月もたたないうちに、母はいつもの母に戻る。後悔を感じない母に体重を押しつける問七

次に、美桜の気持ちが場面ごとにどう動くかを確かめます。前半は母が誇らしい気持ちから始まりますが、写真を見たところで母の見え方が揺らぎ、朝の病室でいちばん落ちこみます。最後は、揺らぎが消えて安心に着地します。設問はこの曲線の上に並んでいます。

図解動画② 美桜の心の動き(約31秒・音声つき)
図3 2026年度 武蔵中学校 大問一 美桜の心情変化
1
回診で、母が学生の指を包む
指を握られた学生は「みんな幸せそうな顔になっていく」
美桜 + 「母が誇らしかった」。自分も手を包んでほしくなる
対応する設問:問一
2
母の手の甲をつねる
教授や学生が去ったあと、美桜は何度も母をつねる。吉田さんが止める
美桜 ± 母が手を引くのを見て「満足げな気持ちでみんなを見上げた」。吉田さんには「ただの反射じゃないの」と言い返す
対応する設問:問二(1)(2)
3
食卓で、みぃさんの話をする
父は嬉しそうにビールを呷り、祖母は満足げに頷く。母の入院日が自分の誕生日と同じだと話すと、父は不機嫌になる
美桜 +から- 「母との結びつきを感じたわたしは嬉しくて」話すが、何がまずかったかわからず呼吸を続ける
対応する設問:問三
4
祖母が見せる写真
目をぱっちり開けて立つ女性。美桜は「一緒に写る女性を母として見たことがなかった」
美桜 ± 知らない女性のようで、母とは感じられない(★特に重要:「母」の二つの姿が出会う場面)
対応する設問:問四
5
朝の病室で、父の話を聞く
父は「朝と夜は会いに来たくないわ。会ってるときは嬉しいけどな」と言って立ち上がる
美桜 ± 黙って頷く。父の苦しさを受け止める
対応する設問:問五
6
写真と母がつながる
「うっすらと写真の女性と母が繋がりはじめていた」。母にもたれることができなくなり、パイプいすで眺める
美桜 ±から- 胸がぎゅっと苦しくなる。「もし、元に戻ったら」という期待と戸惑い(★特に重要:心情が揺れる場面)
対応する設問:問六
7
結末 母に体重を押しつける
数か月もたたないうちに、母はいつもの母に戻る。「みお、産まんかったらよかった?」と訊ねても、母は呼吸を続けるだけ
美桜 + 後悔の欠片を感じとれず、「心の底から安心して」体重を押しつける(★特に重要:主題の場面)
対応する設問:問七

比喩と表現に注意

  • 「食虫植物が虫を捕まえるみたいに」 母の把握反射を、植物にたとえた表現です。意識がなくても手が人の指を包むことを、動かないけれど生きている「植物」の姿として描いています。題名『植物少女』と、結末の「わたしも植物なんかも」につながります。
  • 「ブラックホールみたいな母の圧倒的な寡黙さ」 写真や動画の中の生き生きとした女性が、母の沈黙に吸いこまれて消えてしまう様子です。母の何も語らない存在の大きさを表しています。
  • 「初対面の人に会いに行く時の打ちかた」 写真を見たあと、病院へ向かう美桜の心臓の鼓動です。毎日会っている母に、知らない人に会うときのような緊張を感じています。
  • 「後ろ髪引かれるような足音」 父が病室を出ていくときの足音です。会いたくないと言いながら、母を残して去りがたい気持ちが足音に表れています。

設問解説

問一 「すぐに自分の手も包んでほしくなって、わたしは最後の学生の後ろに並んだ」のはなぜか(記述)

傍線部の直前に「母が誇らしかった」とあります。何が誇らしかったのかは、その前の場面にあります。教授が母の掌に指を置くと、母の手はふわりと閉じて指を優しく包みました。教授は「とても嬉しそうな表情」になり、学生が順番に指を置いていくと、母は全員の指を優しく包み、指を握られた学生は「みんな幸せそうな顔になっていく」のです。

意識のない母の手が、会ったばかりの人たちを幸せにする。それを見て、美桜は母を誇らしく思います。そして「自分の手も包んでほしくなって」列に並びます。並んだあと、母が手を包んでくれると「ふわりと包んでくれた母の手は温かくて、思わずお腹がくすぐったくなる」とあります。夕食の場面にも「母との結びつきを感じたわたしは嬉しくて」という表現があり、美桜が母とのつながりを実感したがっていることがわかります。

記述の組み立て
①意識のない母の手に指を握られた学生たちが、みんな幸せそうな顔になった
②それを見て、母を誇らしく思った
③自分も母との結びつきを感じたかった
「誇らしい」だけで終わると、「自分も並んだ」理由が説明できません。「誇らしさ」から「自分も」へのつながりを入れます。
解答例意識のない母の手で優しく指を握られた医学生たちがみんな幸せそうな顔になったのを見て母を誇らしく思い、自分も母との結びつきを感じたかったから。

問二(1) 吉田さんが「つねっちゃだめ」と言うのはなぜか(記述)

教授や学生たちが向かいのベッドに移ったあと、「一人ぽつんと残されて」美桜は母の手を何度もつねり、母が手を引くのを追いかけて強くつねります。母の首までつねる美桜に、吉田さんは「みおちゃん、つねっちゃだめ」「お母さん、嫌がってるから」と言います。「ただの反射じゃないの」と返す美桜に、吉田さんは「それでもいじめんといてあげて。この前も青アザできたでしょ」と重ねます。

吉田さんが具体的にあげている理由は「青アザ」です。つねると内出血がおき、母の体が傷つくからだめだ、というのが答えの中心です。「嫌がってるから」という言葉もありますが、美桜に「ただの反射」と返されたあとで、体に傷が残るという事実で止めています。

記述の組み立て
①母をつねると内出血をおこす
②母の体を傷つけることになる
「つねるのは悪いことだから」のような一般論では点になりません。「青アザ」という本文の根拠を、「内出血」「体を傷つける」の言葉で書きます。
解答例母をつねると内出血をおこし、体を傷つけることになるから。

問二(2) 吉田さんが「つねっていいのは、みおちゃんだけ」と言うのはなぜか(記述)

(1)で「つねっちゃだめ」と言った吉田さんが、同じ場面でこんな行動をとります。周りをうかがい、声を抑えて「どうしてもつねりたいときはここか、ここ」と、内出血になりにくい場所を指で数か所さし示すのです。美桜が「吉田さんも時々、ここつねってるん?」と聞くと、吉田さんは目を大きく見開いて、「つねっていいのは、みおちゃんだけ」と言います。さらに「わたし、お母さんとみんなが触れ合ってるん、好きやで」とも言っています。

ここから、吉田さんの二つの立場が読み取れます。一つは看護師としての立場です。看護している病人の体を痛めることは、本来してはいけません。だから自分はつねらない、という意味の「みおちゃんだけ」です。もう一つは、母と触れ合いたい娘の気持ちをくんでやりたいという立場です。内出血をおこしにくい場所なら、娘が母に触れることは認めてやりたい。(1)の「だめ」と(2)の「いい」は、「体を傷つけない範囲なら」という条件でつながっています。

記述の組み立て
①本来、看護している病人の体を痛めることはできない
②母と触れ合いたい娘の気持ちがある
③内出血をおこしにくい場所なら、認めてやりたい
「だめ」と言った人がなぜ「いい」と言えるのかを、看護師としての立場と娘への思いの二つで説明します。
解答例本来、看護している病人の体を痛めるようなことはできないが、母と触れ合いたい娘が、内出血をおこしにくい場所をつねるのは認めてやりたいと思うから。

問三 「父は嬉しそうにビールを呷り、祖母は満足げに頷いた」のはなぜか(記述)

傍線部の直前で、美桜は「みぃさんが回診時に病室に居座った話」をしています。向かいのベッドの前では、みぃさんが「あたし、付き添いますからっ」と声をあげ、教授は困り果てた顔で「回診中はどの家族にもでていってもらってるんだけどねぇ」と漏らしていました。

鍵になるのは、その場面での美桜の気づきです。「回診の時、父や祖母が悲しそうな息を吐いて廊下へ退場していくのを見ていた」。父と祖母は、母の回診のたびに廊下へ出されて、嫌な思いをしていたのです。そこへ、回診中も居座った人がいたと聞いた。自分たちの思いと重なる人がいた、という共感が、「嬉しそう」「満足げ」な反応になりました。

記述の組み立て
①母の回診のときいつも廊下へ退場させられて、嫌な思いをしていた
②回診時に病室に居座った人がいたと聞いた
③その人に共感を覚えた
「嬉しそう」という表情だけを見て「話がおもしろかったから」と考えると外れます。嬉しさの原因は、父と祖母の側の「廊下へ出される思い」にあります。
解答例母の回診のときいつも廊下へ退場させられることに嫌な思いをしていたので、回診時に病室に居座った人がいたと聞いて、共感を覚えたから。

問四 「わたし」が写真の「女性」を「母」と呼ばないのはなぜか(記述)

祖母が見せた写真の中で、父や祖母と一緒に写る女性は「どの写真でもぱっちりと目を開けて立っていた」とあります。美桜はそれを見ても、「父や祖母の若いころを楽しんでいただけで、一緒に写る女性を母として見たことがなかった」のです。

理由は本文にそのまま書かれています。母の昔の話は何度も聞かされたはずなのに、「寡黙な母と過ごしているとそんな話は母のどこにも繋がらないまま流れていって、気がつけば母は生まれた時からこういった状態なんだと無意識に思ってしまう」。美桜が知っている母は、ずっと目を閉じてベッドに寝ている母だけです。一方、アップで撮られた写真の女性は「瞳をこっちに向けていて、そこにはたしかな意志と感情があった」。この二つが結びつきません。

裏づけになる一文もあります。リビングの結婚式の写真だけは「全員が目を瞑ったように写っていて」、そこにだけ「少しシンパシー(共感)があった」と書かれています。本文は、それは「今の母が立っただけに見えたからかもしれない」と述べています。目の開き方が、美桜にとって母かどうかを分ける手がかりになっていると考えられます。

図解動画③ 問四 なぜ「母」と呼ばないのか(約27秒・音声つき)
記述の組み立て
①ずっと目を瞑ってベッドに寝たきりの状態の母しか知らない
②写真の女性は、たしかな意志と感情を示している
③だから、写真の女性は母とは感じられなかった
「写真の女性が元気そうだから」だけでは足りません。「寝たきりの母しか知らない」という美桜の側の事情と、「意志と感情がある」という写真の側の特徴を、対にして書きます。
解答例ずっと目を瞑ってベッドに寝たきりの状態の母しか知らない「わたし」にとって、たしかな意志と感情を示す写真の中の女性は母とは感じられなかったから。

問五 父が「朝と夜は会いに来たくないわ」と言ったのはなぜか(記述)

朝の病室には、先に父が来ています。美桜は父の隣に座り、寝息を立てて眠る母を黙って見つめます。それから父が「美桜、今はお母さん寝てるよな? 寝てる時の息やんな?」と聞き、寝息だけは変わっていないと言います。そのあとの父の言葉が、傍線部の理由そのものです。

  • 「お父さんとか、おばあちゃんはどうしても、今のお母さんは深く寝てるだけやって思ってしまうんや」
  • 「先生から、二度と元に戻ることはないって言われてもな、目ぇ覚まして普通に話しはじめるんちゃうかって、初めの五年くらいは毎日思ってた」
  • 「ただな、今でも、寝てるときに会ったらな、気ぃついたら、昔の深雪が寝てるだけなようにも見えてくるんや」

「朝と夜」は、母が寝息を立てて寝ている状態になる時間です。眠る姿を見ると、頭では二度と戻らないとわかっていても、「深く寝ているだけで、目を覚ますのでは」と思ってしまう。そう思ってしまうと、心が痛みます。だから、会っているときは嬉しいのに、朝と夜は会いに来たくないのです。「なぜ朝と夜なのか」を理由の中に入れることが大切です。

記述の組み立て
①朝と夜は、母が寝息を立てて寝ている状態になっている
②母が深く寝ているだけで、目を覚ますのではと思ってしまう
③そう思うと心が痛む
「会うのがつらいから」だけでは理由が薄すぎます。「寝ている姿を見ると目を覚ますのではと思ってしまう」という、父の幻想と痛みの関係を書きます。
解答例朝と夜には「母」は寝息を立てて寝ている状態になっているので、「母」は深く寝ているだけで目を覚ますのではないかと思ってしまい、心が痛むから。

問六 「パイプいすに座って母の少し前か後ろを眺めるようになった」ときの「わたし」の気持ちとして、最も適当でないもの(記号)

「適当でないもの」を選ぶ問題です。まず、「この時」がいつかを確かめます。写真と母が「うっすらと繋がりはじめて」、美桜は母が「いろんなものを失った人間に思えた」。胸がぎゅっと苦しくなり、母の横によっていったのに「もたれることができなかった」。そして「もたれることができなくなってから、父や祖母のようにパイプいすに座って母の少し前か後ろを眺めるようになった」とあります。パイプいすで母を眺めている時期の気持ちが問われています。

その時期の本文には、「永遠に目が覚めないだけで体の奥にかつての母が眠っている、と思いこんでいる時の父や祖母のあの、母の少し奥を見つめるような焦点のずれた目つき。そんな見つめ方を今、自分もしているのがわかった」とあります。「もし、元に戻ったら。という目つきで眺めていた」。そんな時は必ず、「仲良くできるかな、怒ったら怖いかな。あとは、休日どこかに連れて行ってくれるだろうか」という考えが浮かびます。選択肢を一つずつ、この時期の本文と照らします。

  • ア 自分を出産したことでいろんなものを母は失ったのではないかと心苦しく思う気持ち 「急に母がいろんなものを失った人間に思えた。胸がぎゅっと苦しくなって」に合います。適当です。
  • イ 動かず喋らない母こそよかったのに、元に戻ればどうなるだろうかという気持ち パイプいすで母を眺めている美桜は、父や祖母と同じ目つきで「もし、元に戻ったら」と思い描き、仲良くできるかな、どこかへ連れて行ってくれるかなと期待をふくらませています。「動かず喋らない母こそよかった」と、今のままの母がよいと考える方向の気持ちではありません。適当でないので、これが答えです。
  • ウ 父や祖母と同じ思いを共有できるようになって嬉しい気持ち 「そんな見つめ方を今、自分もしているのがわかった」とあるように、父や祖母と同じ目つきで母を眺める自分に気づいています。適当とされます。
  • エ 母が目覚めたら、一緒に何かしてくれるかと期待する気持ち 「仲良くできるかな」「休日どこかに連れて行ってくれるだろうか」に合います。適当です。
  • オ 今まで知っていた母と写真の女性とが繋がり、どのように母を見ていいのかわからない気持ち 「うっすらと写真の女性と母が繋がりはじめていた」「もたれることができなかった」に合います。適当です。
この問題の落とし穴
「動かない母がよかった」という気持ちは、本文にまったく無いわけではありません。傍線部の少し前、胸を抱えてうずくまった場面に「わたしの母は動かないし、しゃべらない。目も開けないし、笑わない。それがよかった」とあります。けれども、問われているのは、そのあとのパイプいすで母を眺めている「この時」の気持ちです。この時期の美桜は、目覚めた母との生活を思い描いています。「適当でないもの」を選ぶときは、選択肢の言葉が本文にあるかだけでなく、「いつの気持ちか」まで確かめます。
解答イ

問七 「母に体重を押しつける」ときの母は、「わたし」にとってどのような存在か(記述)

結末の場面です。写真や動画の中の女性は、「ブラックホールみたいな母の圧倒的な寡黙さ」に吸いこまれて消えてしまい、母はいつもの母に戻りました。ふたたび母にもたれかかれるようになった美桜は、「胸に湧きあがってきたもの」を母に話せるようになります。

そこで美桜は、「みお、産まんかったらよかった? 昔みたいに歩いたり、話したり、働いたりしてみたい?」と訊ねてみます。それでも、母は「ただ呼吸を続けるだけ」です。そして、「母の体のどこからも後悔の欠片を感じとれなくて、わたしは心の底から安心して、母に体重を押しつける」とあります。

ここから、母が美桜にとってどんな存在かがわかります。言葉を発さず、動くこともない。美桜を産んで植物状態になった後悔を感じさせない。そして、ただ寄り添って、安心させてくれる。本文はこのあと、呼吸のリズムが母とまったく同期し、美桜が「ママの娘やから」「わたしも植物なんかも」と心の奥でささやく場面へ続きます。

図解動画④ 問七 母に体重を押しつける(約29秒・音声つき)
記述の組み立て
①言葉も発せず、動くこともない
②「わたし」を生んで植物状態になった後悔も感じさせない
③ただ「わたし」と寄り添って、安心させてくれる存在
いちばん大切なのは②です。「寝たきりで何もしない母」で止めると、美桜が安心した理由が書けていません。「産まんかったらよかった?」に対する母の無反応を、「後悔を感じさせない」と読みかえます。
解答例言葉も発せず動くこともなく、「わたし」を生んで植物状態になった後悔も感じさせない、ただ「わたし」と寄り添って安心させてくれる存在。

大問二 漢字の書き取り(①から⑧)

大問二は、文中のカタカナを漢字に直す八問です。送りがなの「り」「む」「える」「め」は、解答用紙にあらかじめ印刷されています。

  • ① バイリンで知られる観光地 答えは「梅林」。梅の林のことです。
  • ② このアタりに熊がいる 答えは「辺(り)」。「この辺り」で、このあたり、このへんという意味です。
  • ③ 議案についてサンピが分かれる 答えは「賛否」。賛成と反対のことです。「否」は反対や打ち消しを表します。
  • ④ 夢をハグクむ 答えは「育(む)」。「はぐくむ」は、大切に育てることです。
  • ⑤ 方針に異議をトナえる 答えは「唱(える)」。「異議を唱える」で、反対の意見を主張することです。
  • ⑥ トロウに終わる 答えは「徒労」。「徒」は「むだ」の意味で、むだな苦労のことです。
  • ⑦ ツトめ先へ向かう 答えは「勤(め)」。会社などで働くことは「勤める」です。役目を果たす「務める」、努力する「努める」と書き分けます。
  • ⑧ 大コウドウは昭和三年に建てられた 答えは「講堂」。学校などで、大勢が集まって話を聞く大きな部屋です。

漢字八問は、一問ずつ確実に拾う問題です。「賛否」「徒労」「育む」「勤め」は、同じ読みの別の字や送りがなを間違えやすいので、見直しで確かめましょう。

解答一覧

  • 大問一 問一 (解答例)意識のない母の手で優しく指を握られた医学生たちがみんな幸せそうな顔になったのを見て母を誇らしく思い、自分も母との結びつきを感じたかったから。
  • 問二(1) (解答例)母をつねると内出血をおこし、体を傷つけることになるから。
  • 問二(2) (解答例)本来、看護している病人の体を痛めるようなことはできないが、母と触れ合いたい娘が、内出血をおこしにくい場所をつねるのは認めてやりたいと思うから。
  • 問三 (解答例)母の回診のときいつも廊下へ退場させられることに嫌な思いをしていたので、回診時に病室に居座った人がいたと聞いて、共感を覚えたから。
  • 問四 (解答例)ずっと目を瞑ってベッドに寝たきりの状態の母しか知らない「わたし」にとって、たしかな意志と感情を示す写真の中の女性は母とは感じられなかったから。
  • 問五 (解答例)朝と夜には「母」は寝息を立てて寝ている状態になっているので、「母」は深く寝ているだけで目を覚ますのではないかと思ってしまい、心が痛むから。
  • 問六 イ
  • 問七 (解答例)言葉も発せず動くこともなく、「わたし」を生んで植物状態になった後悔も感じさせない、ただ「わたし」と寄り添って安心させてくれる存在。
  • 大問二 ①梅林 ②辺(り) ③賛否 ④育(む) ⑤唱(える) ⑥徒労 ⑦勤(め) ⑧講堂

記述の解答は解答例です。学校の公式解答ではありません(学校のサイトには解答が載っていません)。記述は、解答例と同じ言葉をそのまま書くことより、記述の組み立てに示した要素が入っているかが大切です。

重要語句

  • 植物状態 意識がなく、自分の意志で身体を動かせない状態。本文の冒頭の注意書きにあるとおり、脳死ではありません。
  • 反射 意識や意志とは無関係に、一定の刺激に対して一定の反応を示すこと(本文の注)。美桜の「ただの反射じゃないの」と、吉田さんの「それでもいじめんといてあげて」の対比に注目します。
  • 把握反射 掌に触れたものを反射的に握る動き。本文では、新生児と同じだと教授が説明しています。
  • 拘縮(こうしゅく) 筋肉が縮んで、関節が固まって動かしにくくなること。教授は、植物状態の患者の手は普通強く閉じているが、美桜の母の手は開いたままで珍しいと言っています。
  • 寡黙(かもく) 口数が少なく、おしゃべりでないさま(本文の注)。「圧倒的な寡黙さ」は、母が何も語らないことを強調します。
  • シンパシー 共感(本文の注)。目を瞑ったように写る写真にだけ、美桜は少しシンパシーを感じます。
  • 呷る(あおる) 飲み物を勢いよく飲むこと。「ビールを呷り」は、父の嬉しさが表れた動作です。
  • 居座る(いすわる) 同じ場所から動かずにいること。みぃさんは回診中も病室から出ていきません。

この回から持ち帰るべき3つのこと

  • 同じ人物でも、「いつの」「だれから見た」姿かを分けて読む 母は、寝たきりの母、写真の中の女性、父や祖母が思い描く昔の母で、それぞれ別の姿に見えます。問四は美桜から見た母、問五は父から見た母と、視点を分けて答えます。
  • 「適当でないもの」は、選択肢の時期をそろえて確かめる 問六のイは、本文に近い言葉があっても、問われている「この時」の気持ちとはずれています。本文に言葉があるかではなく、いつの気持ちかで切り分けます。
  • 記述は、人物の表情や態度の裏にある理由まで書く 問三の「嬉しそう」、問二(2)の「つねっていいのは、みおちゃんだけ」のように、表に見える言動の裏には理由があります。その理由を、本文の根拠の言葉でつなぎます。