麻布中学校 国語
文章の概要
本文は柊サナカ(ひいらぎさなか)さんの物語「七十八年目の手紙」です。小学五年生の主人公越智仁美の、病気で入院しているひいおばあちゃん(君枝)のもとに、昔の友達マサコからの手紙が、「天国宅配便」という遺品宅配業者によって届けられます。
手紙は見たことのない文字で書かれていて読めません。仁美は町の外国人たちに協力してもらい、さらにアメリカに住むマサコの孫ヤギとのウェブ会議を通じて、ひいおばあちゃんとマサコが第二次世界大戦中、日系人強制収容所で同じ暗号の手紙をやりとりしていたことを知ります。戦争によって引き裂かれた友情と、国境や言葉を超えて手紙を届けようとした人々の思いが描かれます。
同時に、仁美自身も友達の花と喧嘩をしており、手紙を通じて仲直りするという並行するエピソードが描かれています。戦時中の友情と現在の友情が重ね合わされる構成が特徴的な作品です。
登場人物
ひいおばあちゃんのお見舞いに行く
マサコの幼なじみ・元教師
戦後もアメリカに残り日系二世として暮らした
すでに亡くなっている
絶交したが手紙で仲直りする
強制収容所の歴史を説明する
本文ではマサコの孫(語注では「娘」)
ウェブ会議で事情を説明
人物相関図
暗号の手紙(戦争で離別)
場面の変化
マサコからの手紙が「天国宅配便」で届くが、見たことのない文字で読めない。仁美は隣町の外国人たちを訪ねてまわるが、どの国の言葉でもなかった。夏休み、母とひいおばあちゃんのお見舞いに行き、協力してくれた人たちのメッセージを読み上げる。
「おばあちゃんの授業、思いだしちゃったな」と母が、ひいおばあちゃんが教師時代にクラスでやったカードゲームの話をする。配られたルールは「数字が上の人が勝ち」「下の人が勝ち」の二種類で、話すことは禁止。ルールが違うと知らされないまま、クラスは険悪になった。
ひいおばあちゃんはゲームの意味を「語学です」と語る。意識が遠のきそうになり、仁美は右手を、母は左手を握って「ひいおばあちゃん!」と呼びかける。ひいおばあちゃんは「……たいね……」とつぶやいて眠りにつく。
手紙の内容はわからずじまいだったが、仁美は協力してくれた外国人たちにお礼の手紙とお菓子を届ける。最初は怖かったが、話してみればみんなひいおばあちゃんを気遣ってくれた。もっと世界のことを知りたいと思うようになる。
マサコの孫ヤギ(アメリカ生まれの四世、日本語が流暢)とウェブ会議。物置の小箱から日記が見つかり、「日系人強制収容所」という言葉が出てくる。仁美は「アンネの日記」を思い出し、「なんで日本人が?」と戸惑う。日記に貼られた手紙は1943年を最後に途絶えていた。
仁美は絶交中の花に手紙を書き、花の家の郵便受けに入れる。翌日、花が星の形に折った手紙を持って家に来て、どちらも「ごめんね」と言い合う。「ふたりともちょっと涙が出た」。
母が日系人強制収容所のことを説明する。真珠湾攻撃のあと、日系人は収容所に入れられた。収容所の中では「自分は日本人だ」と考える人と「アメリカ市民としてアメリカに忠誠を誓う」と考える人に分かれ、ひいおばあちゃんの家族はツールレイク収容所へ移された。
花の星形の手紙がヒントになり、暗号の正体がわかる。ひらがなを斜め三角に折ったときに見える上半分だけを続け字で書いたもので、縦に読むと「きみえちゃん ありがとう きのぶらんこに またのりたいね だいすきだよ ずっとともだち まさこ」。マサコが出せずにいた最後の手紙を持って、仁美は病院へ急ぐ。
心情変化表
| 場面 | 出来事・きっかけ | ± | 心情表現(本文の手がかり) | 対応する設問 |
|---|---|---|---|---|
| 手紙の到着 | マサコからの手紙が届く | ± | 手紙の内容がわからず戸惑う/興味を持つ | ― |
| ゲームの授業 | 二種類のルールを知らされずにゲーム | - | 「仁美は驚いた」「みんな怒り出したり」(母が語る昔の授業) | 問一・問九 |
| ゲームの意味 | ルールの違いが喧嘩の原因と気づく | ± | 「わかったんじゃないかな」→ 気づき | 問九 |
| ひいおばあちゃん眠る | 最後の言葉を残して眠る | - | 右手をぎゅっと握り「ひいおばあちゃん!」と叫ぶ | 問二 |
| お礼の旅 | 外国人たちへ感謝を伝える | + | 多様な文化に触れて視野が広がる | 問三 |
| 日記の発見 | 暗号手紙の存在を知る | ± | 驚き+歴史への興味「なんで日本人が?」 | 問四 |
| 花との手紙 | 手紙で仲直り | + | 「ふたりともちょっと涙が出た」→ 安堵・喜び | 問六・問七 |
| 強制収容所の話 | 日系人の歴史を知る | - | 「怖い、と思うかもしれない」→ 衝撃・悲しみ | 問八 |
| 暗号の解読 | マサコの手紙=友情のメッセージ | + | 「身体がガクガクする」→ 深い感動・震え | 問十 |
| 七十八年の返事 | 返事を届けられる喜び | + | 「返事が来たんだよ!」→ 返事を届けられる喜び | 問十一 |
比ゆ表現・重要表現
「天国宅配便」は、亡くなった人の遺品を届ける宅配業者の名前です。亡きマサコが生涯出せずにいた最後の手紙が、七十八年の時を超えて届くことの象徴になっています。
収容所で日本語は禁じられていなかったのに、二人は手紙をあえて暗号で送りあっていました。ひらがなを斜め三角に折ったときに見える上半分だけを、くずし字のように続け字で書き、縦に読む暗号です。家どうしの考えが分かれても、辞書を使わずに二人だけでやりとりできる、友情の証でした。
ひいおばあちゃんが教師時代にクラスでやったカードゲームは、二種類の異なるルールを知らせないままプレイさせるものでした。「配られたルールはどちらも正解だった。そこに正義も悪もない」。話し合えないと、どちらも正しいのに対立してしまうという教訓を、戦争に重ねて伝えています。
マサコの暗号手紙を解読したとき、花からの手紙と同じ友情のメッセージであることに気づいた仁美の感動を表す身体的表現(しぐさ表現)です。
設問解説
問一「なんでわざわざそんなことしたんだろう」
クラスでゲームをするとき二種類の異なるルールで行い、そのことをゲームする生徒には知らせないこと。
指示語の問題です。「そんなこと」の内容を直前の文脈から読み取ります。10〜18行目に、クラスでカードゲームをすること、配られたルールは「数字が上の人が勝ち」「下の人が勝ち」の二種類あること、そのことはゲームする人には知らされていないことが書かれており、これをまとめます。
問二「誰に会いたいと願ったのだろう」
幼なじみのマサコ
眠りにつく前、ひいおばあちゃんは「……たいね……」とつぶやき、仁美は「会いたいね」と聞き取ります。届いた手紙の送り主は、隣に住んで姉妹のように育ったマサコ。設問は「関係がわかるように」なので、名前だけでなく「幼なじみの」まで書きます。
問三「みなさん」に対する仁美の感じ方(最初の五字)
最初は、外
「みなさん」に対する仁美の感じ方の変化を追います。60行目付近に「最初は、外国人がいっぱいいるアパートに近づくのもなんだか怖かった」とあり、この冒頭の五字「最初は、外」が答えです。
問四「祖母たちのことを調べていて、わかったこと」
ひいおばあちゃんとマサコが、戦時中の日系人強制収容所で、今回マサコから届いた手紙と同じ暗号で手紙をやりとりしていたこと。
物置の小箱から出てきたマサコの日記には、ひいおばあちゃんからの暗号の手紙が貼ってあり、日付は1943年を最後に途絶えていました。二人が日系人強制収容所で、数回にわたってこの暗号でやりとりしていたとわかります。ポイントは「今回届いた手紙と同じ暗号で」やりとりしていたという発見です。
問五「時代が時代って」(113行目)の説明として最もふさわしいもの
エ
ヤギは暗号を使った理由を「時代が時代でしたから」とにごしました。収容所で日本語は禁じられていなかったのに、なぜあえて暗号で送りあったのか。仁美の興味が「手紙に何が書いてあるか」から「なぜ暗号を使ったのか」へ広がったと読めます。正解のエは「これまでは手紙の内容自体が気になっていたが、暗号を使った背景についても気になり始めている」。ア(外国人労働者の苦労)・ウ(通信手段の変化)は本文の関心とずれ、イは関心の中心が「暗号を使った理由」であることをとらえていません。
問六「ふと、手紙か……」
言葉ではうまく言えない、花と仲直りしたい気持ちを、手紙ならちゃんと伝えられるのではという期待。
仁美は親友の花と絶交したまま。ずっと手紙のことを考えていた仁美は、「言葉ではうまく言えなくても、手紙なら、ちゃんと言えそうな気がする」と思い当たります。「言葉ではうまく言えない」+「手紙なら伝えられる」の二重構造と、「花と仲直りしたい」という中身を答えに含めることが大切です。
問七「ふたりともちょっと涙が出た」(135行目)
お互いに謝りたいという気持ちを伝え合い、仲直りできたことを喜び、安心する気持ち。
涙の理由は「悲しみ」ではなく「安堵と喜び」です。仁美の手紙を読んだ花が、翌日、星の形に折った手紙を持って家に来て、結局どちらも「ごめんね」と言い合いました。「仲直りできた喜び」と「相手も同じ気持ちだった安心」の両方を書くことがポイントです。
問八強制収容所の中で「違う考えの人が出てきた」(163行目)
ひいおばあちゃんの家族のようにアメリカに暮らしていても自分たちは日本人だと考える人と、マサコの家族のように自分たちはアメリカに忠誠を誓うアメリカ市民であると考える人の断裂が生じたということ。
この問題は麻布らしい社会的テーマを含む記述問題です。「日本人アイデンティティ」と「アメリカ市民アイデンティティ」の対立を、ひいおばあちゃんの家族・マサコの家族という具体例と結びつけて説明する必要があります。同じ日系人でも立場の違いによって分断が生じたことを押さえましょう。
問九ルールの違うゲーム(186行目付近)
イ
仁美は「配られたルールはどちらも正解だった。そこに正義も悪もない」と気づきます。話し合えないと、誰も間違っていないのに敵と味方に分かれてしまう。その苦しみを知るひいおばあちゃんは、対話ができることの素晴らしさを子どもたちに伝えたかった、というイが正解です。ウの「親友と憎しみあってしまった」は本文にない言いすぎ、アの「マサコと絶交してしまった」、エの「敵視しあうようになってしまった」も本文の内容と合いません。
問十「身体がガクガクする」(223〜225行目)
解読できた戦時中のマサコからの手紙が、隣に置いた花からの手紙と同じく、友情を確かめ合うものだったとわかり、強く心を動かされている。
「身体がガクガクする」はしぐさ表現で、強い感動を示しています。ポイントは、マサコの暗号手紙(七十八年前)と花からの手紙(現在)がどちらも友情を確かめ合う内容であり、それが並んでいたことに仁美が深く心を動かされたという構造です。過去と現在の友情の重なりを指摘することが得点のカギです。
問十一(1)七十八年前の返事が届かなかった事情
お互いの家族が敵味方の立場に分かれ、手紙を出せずにいるうちに、ひいおばあちゃんの家族が収容所を移されて離ればなれになってしまったから。
問十一(2)「返事が今、自分の手の中にある」仁美の気持ち
花に仲直りの手紙を送り、手紙の返事をもらう幸せを知ったことで、七十八年も伝えることができなかったマサコの友情を深く感じとり、国境や言葉の違いを超えて手紙を届けようとしてくれた人びとの思いとともに、ひいおばあちゃんに届けることができる喜びを覚えている。
この問題は本文全体のテーマを集約する総合問題です。次の3つの要素を盛り込む必要があります。
① 花との手紙体験 → 手紙で気持ちが伝わる幸せを自分自身が知っている
② マサコの七十八年越しの友情 → 時を超えても変わらない思い
③ 多くの人々の協力 → 国境・言葉の壁を超えた善意のリレー
これらをひいおばあちゃんに届けられる「喜び」としてまとめるのがポイントです。
問十二漢字の書き取り
a. 険悪(ケンアク)/b. 感心(カンシン)/c. 複雑(フクザツ)/d. 模様(モヨウ)
この作品の主題
「手紙」が結ぶ友情 ― 時代も国境も超えて
本作品は「手紙」を通じて、三つの層の友情を描いています。
第一層:仁美と花の喧嘩→手紙で仲直り(現在の日常)
第二層:ひいおばあちゃん(君枝)とマサコの友情(戦時中の断絶と、七十八年越しに届いた返事)
第三層:手紙を届けるために協力した世界中の人々の善意(天国宅配便)
「ルールの違うゲーム」のエピソードは、文化や立場の違いが対立を生むことの寓話であり、それでも「手紙」=相手を理解しようとする努力によって、分断は乗り越えられるというメッセージが込められています。
出典:柊サナカ「七十八年目の手紙」(『天国からの宅配便 あの人からの贈り物』所収)
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