2026年2月2日(月)に実施された聖光学院中学校 第一回入学試験の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。今年は河邉徹さんの音楽小説『ヒカリノオト』と、村上隆さんの『文化財の未来図——〈ものつくり文化〉をつなぐ』という組み合わせ。さらに、なぞかけ形式で同音異義語を書かせるユニークな語彙問題も出題されました。お子様の復習にぜひお役立てください。
出題構成と全体講評
- 試験時間は60分。冊子は27ページで、大問は四つでした。
- 大問一は漢字の書き取り5問。すべて「万博」を題材にした文で統一されています。
- 大問二は言葉遊び(なぞかけ)形式で同音異義語を書かせる問題が5問。
- 大問三は物語文。河邉徹『ヒカリノオト』から、売れないミュージシャンとその担当マネージャーの場面です(記述4問・記号3問)。
- 大問四は論説文。村上隆『文化財の未来図——〈ものつくり文化〉をつなぐ』から、保存科学と文化財の「修理」「修復」を論じた文章です(記述3問・記号4問)。
今年の聖光学院は、記述量が例年どおり多く、四十字・六十字・八十字と字数の幅が広いのが特徴です。とくに大問三の問七と大問四の問七は、いずれも八十字で「変化」「文章全体を踏まえた定義」を書かせる総合問題。部分の読み取りではなく、文章全体を一本の線でつなぐ力が問われました。
もう一つ見逃せないのが、大問一・大問二の語彙分野です。漢字は「気高い」「無下」といった、文脈から意味を判断しないと書けない語が並び、大問二はなぞかけの答えを同音異義語から選び分ける形式。単純な暗記では歯が立たない、聖光らしい仕掛けでした。
大問一 漢字の書き取り
五つの例文がすべて万国博覧会(万博)に関わる内容で統一されています。文脈がつかみやすい反面、書くべき語そのものが難しいセットでした。
- ① ロンドン万博のクリスタル・パレスは、そのケダカい佇まいが語り草となっている → 気高い
- ② パリのエッフェル塔が万博のために作られたことは、シュウチの事実だ → 周知
- ③ 国際的なイベントのポスターのデザインを新進気鋭の芸術家にユダねる → 委ねる
- ④ テーマパークに行きたいという弟の希望をムゲにすることもできず → 無下
- ⑤ 一九四〇年の幻になった万博では、東京と横浜を予定地とした壮大なコウソウが練られていた → 構想
大問二 言葉遊び(なぞかけ)で同音異義語を書く
「AとかけてBと解きます。その心は……どちらも【○○】です」という、いわゆる「なぞかけ」の形式です。カギカッコ内の読みに合う二字熟語を二つ考え、そのうち――線部(前半のことがら)にあてはまる方を漢字で書きます。□の数は読みの文字数を表しています。
例題は「働き過ぎ」とかけて「野球のピッチャー」と解きます。その心は……どちらも【キュウソク】が大切です。キュウソクは「休息」と「球速」。前半の「働き過ぎ」に対応するのは「休息」なので、答えは休息となります。
- ① 「運動会」とかけて「宇宙ステーションとのやりとり」→ コウシン(行進・交信)→ 答え 行進
- ② 「スポーツ」とかけて「インフルエンザ」→ カンセン(観戦・感染)→ 答え 観戦
- ③ 「国会議員」とかけて「国民的アイドル」→ ニンキ(任期・人気)→ 答え 任期
- ④ 「エアコンの設定」とかけて「盆踊り」→ オンド(温度・音頭)→ 答え 温度
- ⑤ 「オーディション」とかけて「お墓参り」→ センコウ(選考・線香)→ 答え 選考
大問三 物語文 河邉徹『ヒカリノオト』
出典と場面設定
河邉徹さんは、バンド「WEAVER」のドラマーであり小説家でもある作家です。『ヒカリノオト』は音楽の現場を舞台にした物語で、本問はその一節。語り手の寺井(僕)は芸能事務所のマネージャー四年目で、担当するミュージシャン・染谷の人気は低迷しています。学生時代に染谷の音楽に救われた寺井にとって、染谷は憧れの人でもあります。
場面は大きく二つ。前半は、チーフマネージャーの北川と居酒屋で交わす会話。後半は、翌日に喫茶店で染谷と向き合う場面です。「憧れの人を売るために、憧れの人を否定しなければならない」という葛藤が、この文章の核心にあります。
問一 「僕は自分がズレた返事をしたことに気づいて恥ずかしくなった」とはどういうことか(四十字以内)
北川の質問は「将来の夢は何ですか」という昔ふうの問いではありません。本文で北川自身が言い直しています。「俺が聞きたいのは、キャリア設計の話だよ。これからこの会社でどういう立場になりたいのか、もしくはいつか転職したいって思ってるのか、そういう話だ」。つまり、この会社での立場や転職といった具体的な進路の話です。
ところが寺井が答えたのは「僕は音楽に救われた経験があります。だから、音楽に報いる仕事がしたい」という内容でした。志としては立派でも、問われた具体性には答えていません。そのズレに自分で気づいたから恥ずかしくなった、という構造です。
問二 北川が「変なタイミングでビールを飲んだ」のはなぜか(六十字以内)
直前で寺井は「必要とされてない音楽なんてあるでしょうか」と食い下がっています。北川はこの問いに答える形で、このあと「彼の音楽は、今の時代に必要とされている音楽じゃないんだよ」と言い切ります。ビールを飲んだのは、その言葉を口にする直前です。
本文にも「僕は彼の言葉の続きを待った」「重く冷たい言葉だった」とあるとおり、これは相手を深く傷つけかねない宣告です。担当マネージャーである寺井に向かって、その担当アーティストを否定しなければならない。ためらいがあり、それを振り切るための一拍が必要だった——ここを書きます。
問三 「北川さんは普段の落ち着いた雰囲気とは違って、自分の言葉に酔ったような目をしていた」ときの寺井の心情(記号)
この直前、北川は「染谷とMIRAIは比べなくていいと思ってるか? 違うんだよ。比べないのは逆に怠けてる」と語り、音楽に関わる者としての心構えを説いています。その語り口には、MIRAIを売った自分の成功への自負がにじんでいました。寺井はそれを「自分の言葉に酔ったような目」と冷ややかに見ています。
問四 「感情的になった僕は、なぜか目の奥が熱くなって、うっすら涙が出てきそうだった」のはなぜか(四十字以内)
直前で寺井は「染谷さんの音楽は、きっともっと多くの人に聴いてもらえる日がきます。まだ可能性があります」と言い返しています。相手は、売れることと会社の利益を基準に「売れないものは売れない」と語る北川。その現実論への反発と、憧れの人の音楽を守りたいという思いが一気にあふれた場面です。
問五 「店内のジャズの音量が、さっきよりも大きくなっているように感じられた」ときの寺井(記号)
寺井は喫茶店で、言葉を選びながら「デビュー当時のシンプルなサウンドの曲がいい」と伝えました。その直後に「少しの間、沈黙があった。僕が言った言葉の意味を、染谷さんが正確に理解しようとしているみたいな間だった」と続きます。ジャズが大きく聞こえたのは、沈黙に神経が集中しているからです。
問六 「染谷さんはこちらの反応を待たずに続ける」ときの染谷の心情(記号)
染谷はこのあと「人は十代の頃に聴いた音楽を一番心地よく感じるんだよな。どんな音楽もそれを超えることはできない」「誰のために? そんなもの、自分のために決まってるだろ。これは俺の作品なんだ。俺が納得するものを作る」と、一気に語り続けます。寺井の提案は、染谷にとってはすでに何度も考え尽くしたこと。反応を待つ必要すら感じていません。
問七 「いや、なんでもない。考えてみるよ」に至る、染谷の音楽に対する姿勢の変化(八十字以内)
変化前と変化後を対比して書く、典型的な「変化」の記述です。
変化前は明確です。「これは俺の作品なんだ。俺が納得するものを作る」「誰のために? 自分のために決まってるだろ」。自分が納得できる音楽を、自分のために作るという姿勢でした。
きっかけは寺井の言葉です。「僕は染谷さんが良い状況になるように考えてるんです。それに対して『余計なお世話』なんて言葉は、音楽とか、それ以前の問題です」「染谷さんに足りないのは周りを思いやる力ですよ」。この指摘のあと、染谷はいったん席を立ち、「すまん」と言い、伝票に手を伸ばしかけて「いや、なんでもない。考えてみるよ」と言い残します。
大問四 論説文 村上隆『文化財の未来図——〈ものつくり文化〉をつなぐ』
出典と論の骨格
村上隆さんは文化財科学(保存科学)の研究者です。本文は、文化財に自然科学の手法で迫るとはどういうことかを説き、後半で「修理」と「修復」という二つの言葉を整理していきます。
前半の主張はこうです。文化財の5W1H(いつ・どこで・誰が・どうやって作ったか)を解き明かす研究は「歴史のロマンに迫る」として大きく報道されますが、そこに捕らわれてはいけない。大切なのは「文化財の持つ情報」を引き出すことであり、しかもそれは非破壊で何でもわかる魔法のような方法では得られない。保存科学の本来の使命は、文化財を保存・継承することであって、華々しい発見はその副産物にすぎない、というのが筆者の立場です。
問一 A「喚起」・B「息の長い」と同じ意味の用例を選ぶ(記号)
本文のA「喚起しておくことにする」は「注意を呼び起こす」の意味。B「息の長い地道な作業」は「長く続く」の意味です。
問二 「非破壊で何でもわかるという魔法のような分析方法は存在しない」とはどういうことか(記号)
本文には「分析試料のサンプリングも困難な場合がほとんどである」「精度が高い分析値が保証されるものではない」とあり、正確な情報を得るにはサンプル(試料)の採取が避けられないことが述べられています。つまり、分析には文化財をわずかに傷つける行為が伴うということです。
問三 なぜ「副産物」と表現するのか(記号)
筆者にとって自然科学的アプローチの本来の目的は、文化財を保存・継承するための基本情報を得ることです。X線透過観察やX線CT観察は「われわれが健康維持のために臨床的に行う健康診断にたとえるとわかりやすい」と述べられており、あくまで日常的な健康チェックにあたる作業。その過程で大きな発見が生まれることはあっても、それは目的ではなく結果です。
問四 「活用」に対して「ドクターストップをかける」とはどういうことか(三十字以内)
本文における「活用」は、直前の「『公開・展示』するという大変大事な役割」を指しています。ドクターストップは医師が運動や仕事を止めること。つまり、保存科学者が文化財の状態を診断した結果、公開・展示を止めるよう意見することです。
問五 「修復」とはどうすることか(三十字以内)
本文は二つの語を次のように整理しています。「修理」は、腐食や劣化が進んでいてもまだ機能性を失っていないものに手を入れ、その機能性を回復させる作業。「修復」は、発掘された考古遺物のようにすでに機能性をなくしているものについて、何とか形を整え、次の世代に伝えていくためにとる作業です。
問六 「修理の倫理」とはどういう考えか(記号)
本文は「『修理』というのは、ただ形を戻す、使えるようになればよいという意味合いというよりは、もっと深いものがあるのではないか」「その倫理とは、文化財の価値を損なわない、すなわち文化財の持つ情報を攪乱しないということ」と述べます。形の回復だけでなく、受け継がれてきたものそのものを守る、という考えです。
問七 「有形文化財の維持には、修理は不可欠なのである」における「有形文化財の維持」とはどのようなものか(八十字以内・文章全体を踏まえて)
「文章全体を踏まえて」という条件がある以上、最終段落だけを写しても得点になりません。前半の「文化財の持つ情報」と、後半の「修理・修復」の議論を一本につなぎます。
本文最終部には、木材や紙などの有機質は腐食・劣化を避けられず、貴重な有形文化財は「姿かたちの維持」をしつつ情報を温存しながら保存・継承していかなければならないこと、傷んだ部分を取り除き「オリジナルに近い材料で補塡して、『ものづくり』によって定期的に連綿と続けられてきた」ことが述べられています。この三点(姿かたちの維持/腐食・劣化の理解にもとづく対応/伝統的な技術・材料による次世代への継承)を八十字にまとめます。
今年の聖光学院から学ぶ対策
- 語彙分野を軽視しない。漢字は意味を説明できる状態まで仕上げ、同音異義語は「読みが同じで意味が違う語」をセットで整理しておくこと。大問二のようななぞかけ形式でも、下地になるのは同音異義語の知識量です。
- 「間」「沈黙」「動作」の意味を問う設問に慣れる。大問三の問二・問五はいずれも、直接心情を述べない描写の意味を問うものでした。動作や感覚描写の前後の発言を必ず確認する練習が有効です。
- 変化の記述は「もとはA→きっかけ→今はB」の型で。とくに今回の問七のように、変わりきる前の段階で終わる文章では、文末表現の精度が問われます。
- 論説文では、筆者が定義し直している言葉に線を引く。今回の「修理」と「修復」のように、日常語をあえて区別して使う文章は聖光学院で頻出のタイプです。
- 字数の設計を先にする。四十字・六十字・八十字と幅がある以上、要素をいくつ入れるかを決めてから書き始めることが、時間内に書き切る最大のコツです。
今年の問題は、物語文が「憧れの人に厳しい現実を伝える葛藤」、論説文が「守ることと使うことの緊張関係」と、どちらも簡単な答えのない主題でした。過去問演習では、点数よりも「どの設問タイプで落としたか」を仕分け、次の一週間で埋める課題を一つに絞ることをおすすめします。
