2026年2月1日(日)に実施された早稲田実業学校中等部 入学試験の国語を、YS中学受験国語力研究室が全問解説します。今年は津村記久子さんの短編「居残りの彼女」と、三浦哲哉さんの『自炊者になるための26週』という組み合わせ。物語文は「仲間はずれ」と「自分の好きなもの」をめぐる小学生の物語、説明文は食文化から現代社会を考える文章で、どちらも小学生の生活実感に届く良問でした。お子様の復習にぜひお役立てください。
出題構成と全体講評
- 試験時間は60分、100点満点。大問は三つでした。
- 大問一は物語文。津村記久子「居残りの彼女」から、グループから浮いてしまった五年生の女の子が、居残り授業で出会った六年生と心を通わせる場面です(記号7問構成)。
- 大問二は説明文。三浦哲哉『自炊者になるための26週』から、戦後アメリカの食の画一化と、それに抗した「新カリフォルニア料理」を論じた文章です(抜き出し・記述中心)。
- 大問三は知識問題。漢字の書き取り・読みが6問と、ことわざ・故事成語のパズル形式の問題が出ました。
今年の早実は、大問一がすべて記号選択、大問二がほぼすべて記述・抜き出しという、大問ごとに要求技能がくっきり分かれた構成でした。大問二の記述はいずれも「解答らんに合わせて」完成させる形式で、字数は十字から二十字と短め。書く力そのものよりも、本文のどこを切り取るかという「探す力」と「圧縮する力」が問われています。
また、大問三のことわざ問題は、空らんに入るひらがな六つを並べかえると四字熟語が現れるというパズル仕立て。知識を単に問うのではなく、知識を材料に頭を動かさせる早実らしい出題でした。
大問一 物語文 津村記久子「居残りの彼女」
出典と場面設定
津村記久子さんは芥川賞作家で、働く人や学校の中の「なんとなく居づらい」感覚を丁寧にすくい取る作風で知られます。「居残りの彼女」は短編集『うそコンシェルジュ』(新潮社)に収められた一編です。
主人公のさなえは小学五年生。クラスの五人の女子グループに属していますが、フードコートの水色のテーブルは四人がけ。いすを一つ余分に持ち込んで詰めて座る自分の居場所に、さなえはずっと違和感を抱えています。ある日、放課後の算数の居残り授業で堀内さんと出会います。学年もクラスも知らないまま一緒に帰るようになり、やがて堀内さんが実は六年生だと知ります。家庭科室で玉結びを教えてもらった帰り道、さなえは「また家庭科室に入っていってもいい?」と勇気を出して尋ね、二年生まで使っていたむらさきの色えんぴつを、グループの子たちにどんな目で見られても明日から使おうと心を決めます。
問1 語句の意味 a「のどがつまる」・b「口をついた」(記号)
本文中でどういう意味で使われているかを問う、語彙と文脈の複合問題です。aの「のどがつまる」は、声をかけようとして言葉がすっと出てこない場面での表現。息ができないという身体の話ではなく、気持ちが張りつめて言葉が出にくくなる様子です。bの「口をついた」は、考えて練り上げた言葉ではなく、思いが言葉になってひとりでに出てくることを表す慣用表現です。
問2 「おもしろがっているように見えた」から読み取れること(記号)
堀内さんが、自分が六年生であることや、六年生なのに面積を習い直しに来ていたことを打ち明ける場面です。深刻な告白になってもおかしくない内容を、堀内さんはむしろおもしろがっているように話します。聞き手のさなえにとって、この打ち明け方は「重く受け止めなくていいよ」という合図として働きます。
問3 「いつもより少し背すじを伸ばして」歩くさなえの様子(記号)
堀内さんの後ろ姿を見送ったあと、さなえがいつもより少し背すじを伸ばして家に帰る場面です。直前までの二人のやりとりがカギになります。六年生なのに下級生の居残り授業に出て面積を習い直す。周りにどう見られるかより、自分に必要なことを優先する。そういう堀内さんの姿勢に触れたさなえは、人の目を気にして縮こまっていた自分から、一歩踏み出そうとしています。
問4 空らんXに入る表現(記号)
フードコートの場面。四人がけの水色のテーブルに、いすを一つ持ち込んで五人で座るグループについて、さなえが考えるくだりです。グループのみんなにとって本当に大事なのはXであって、さなえがそこにいることではなかった、という文脈。つまり、グループが守ろうとしているのは「五人そろっていること」という形であり、さなえという一人の人間ではない、という気づきが入ります。
問5 「五時間目と六時間目はうわのそらだった」——あてはまらないものを二つ選ぶ(記号)
グループの誘いを「私は行かない」と断ったあとの場面です。さなえは平気なふりをしながらも、頭の中はこのことでいっぱいになっています。傷ついていなかったわけでも、何も考えられなくなっていたわけでもなく、これからのこと、堀内さんのこと、グループとの関係が自分にとって何だったのかを、ぐるぐると考え続けている状態です。
問6 「そうしようと思った」に込められたさなえの心情(記号)
物語の結末部です。さなえは、二年生まで使っていたむらさきの色えんぴつを、プリントの大事なところをかこむために明日からまた使おうと決めます。グループの子たちにどんな目で見られても、です。この決意の支えになっているのが堀内さんの存在。周りの目より自分に必要なことを選ぶ姿を見せてくれた人との出会いが、さなえに「自分は本当はどうしたいのか」を考えさせています。
問7 本文の内容に合致するものを二つ選ぶ(記号)
物語全体の流れを確認する内容合致問題です。序盤のさなえは、堀内さんと帰り道の方向がちがうと知ってほっとするなど、新しい人間関係に対して不安が先に立つ子として描かれています。また、グループの子たちは、さなえが誘いを断ったとき、思いがけずきっぱりしたその態度に拍子抜けしたような反応を見せています。この二点が本文と合致します。
大問二 説明文 三浦哲哉『自炊者になるための26週』
出典と論の骨格
三浦哲哉さんは映画研究者・批評家で、食についての著作でも知られます。『自炊者になるための26週』(朝日出版社)は、自炊をテーマに食文化を考える本です。本問はその中から、戦後アメリカの食をめぐる歴史を扱った部分が出題されました。
論の流れはこうです。第二次世界大戦後のアメリカでは、技術革新にともなう効率化と画一化が進み、「豊かな社会」が誕生した。しかしその豊かさの裏で、食は規格品化され、食卓から豊かな風味が失われていく。それに対する危機感から、1960年代以降、自然の風味を取り戻そうとする対抗運動が生まれ、「新カリフォルニア料理」が登場します。その象徴が、アリス・ウォータースがバークレーに開いたレストラン「シェ・パニース」。規格品的な食が広がるアメリカ西海岸の街のただ中に生まれた、フランス食文化の飛び地です。ただし筆者は、対抗運動が行きすぎると「料理の道徳化」——あれを食べてはいけない、これを使ってはならないというルールの厳格化——に陥ると釘を刺し、最後は、多様なルーツを持つ移民の食文化が折り重なるアメリカの都市の魅力へと視野を広げていきます。
問1 「豊かな社会」の誕生によって起こったこと(A・Bとも二十字以内で抜き出し)
説明文を完成させる形式です。「Aが進み、Bことに対する危機感が生まれた」という枠組みなので、Aには原因となる社会の動き、Bには危機感の中身が入ります。Aは「豊かな社会」を生んだ動きそのもの、Bはその結果として食卓に起こる事態です。
問2 「料理の道徳化」とはどういうことか(「ルール」を使って二十字以内)
「道徳化」という抽象的な言葉を、本文の具体例で説明させる記述です。本文には、対抗運動を代表する料理書に「白砂糖を使ってはならぬ」「電子レンジを使ってはならぬ」といった禁止項目が並ぶことが紹介されています。よい食を求める運動が純粋化しすぎると、何を食べてよいか・いけないかの決まりが厳しくなっていく。これが「道徳化」の中身です。
問3 「フランス食文化の飛び地」を比喩で表した部分(十五字で抜き出し)
シェ・パニースについて、規格品的な食が習慣になりつつある街のただ中に作られた「飛び地」だと述べた部分の言い換えを、後の本文から探します。同じ内容を、海と島のイメージで言い直した表現が見つかります。
問4 筆者は「風味」のどのような点を重視しているか(十字以内)
解答らんは「( )に触れさせてくれる点」。筆者にとって風味の価値は、おいしさや健康によいことだけではありません。ある土地の、ある文化の食の風味を味わうことは、自分の知らない世界に触れることだ——これが本文終盤の主張です。シェ・パニースの魅力も、単に素材がよいことではなく、異質な食文化の世界への入り口である点にありました。
問5 アメリカの近代都市の魅力(A・Bとも二十字以内で考えて書く)
「ロサンゼルスのようなアメリカの近代都市には、Aため、Bを楽しむことができるところ」という説明文を完成させます。本文終盤で筆者は、ロサンゼルスでの滞在経験をもとに、一つの都市の中に、地球上の異なる食環境にルーツを持つ移民たちの小世界がいくつも折り重なっていることを述べています。Aにはその理由(多様な移民の食環境があること)、Bには楽しめる中身(地域や時代の異なる食文化のちがい)が入ります。
大問三 知識問題 漢字とことわざパズル
問1 漢字の書き取りと読み
- ① 好きな果物をお皿にモる → 盛る
- ② 宝くじが当たったことをヒミツにする → 秘密
- ③ 仲間同士でギロンを尽くす → 議論
- ④ 恩師の教えを心にキザむ → 刻む
- ⑤ 日が暮れてきたので家路を急いだ → いえじ(読み)
- ⑥ 友達の車に便乗させてもらう → びんじょう(読み)
問2 ことわざ・故事成語のパズルと四字熟語
①から⑨のことわざ・故事成語の空らんにひらがなを入れて完成させ、そのうちAからFの六つのひらがなを並べかえると、ある四字熟語が現れるという構成です。使われたことわざは次のとおりです。
今年の早実から学ぶ対策
- 物語文は「変化の大きさ」を正確に読む。今年の問6のように、ささやかな決意を大げさな決意にすり替えた選択肢が誤答の軸でした。結末の心情は、本文の表現の強さと選択肢の言葉の強さを釣り合わせて選ぶ練習が有効です。
- 設問条件を指でなぞって確認する。問5の「ふさわしくないものを二つ」、問7の「合致するものを二つ」のように、選ぶ向きと個数が設問ごとに変わります。条件の読み飛ばしは実力と無関係な失点です。
- 抜き出し・完成型の記述は、解答らんの前後から逆算する。大問二はすべて「らんに合わせて」の形式でした。接続の言葉(〜が進み、〜ため、〜に触れさせてくれる点)を先に分析してから本文を探す手順を型にしましょう。
- ことわざ・慣用句・四字熟語は、意味とセットで音を覚える。パズル形式は、うろ覚えの知識では対応できません。「へきれき」「かすがい」のように、ひらがな部分こそ問われると心得ておきましょう。
- 説明文は「対比」と「行きすぎへの注意」に印をつける。画一化への対抗運動を評価しつつ、その道徳化には距離を置くという筆者の二段構えは、近年の入試論説文で頻出の構図です。
今年の早実の国語は、物語文・説明文ともに「自分のものさしを持つこと」という一本の糸でつながっていました。グループの目よりむらさきの色えんぴつを選ぶさなえと、画一化にもその行きすぎにもよりかからない筆者。過去問演習の際は、答え合わせだけでなく、文章そのものが投げかけるテーマについて親子で話してみることをおすすめします。
