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【徹底解説】2022年 麻布 国語入試問題 解説 |丁寧な分析と解説!

こんにちは。大手塾国語科講師のヨッシーです。今回はいよいよ首都圏男子御三家の一角「 麻布 」の解答解説です。麻布の国語は例年物語の読解一本。ただし一つひとつの描写の意味を深く読み取り、ストーリー全体を通した主題を感じ取る読解力と、それをわかりやすく簡潔にまとめ上げる記述力が求められる高度な出題内容です。

麻布中のHPはコチラ☟

https://www.azabu-jh.ed.jp/

問題は四谷大塚さんのHP(↓コチラ)から入手可能です(会員登録が必要です)。

https://www.yotsuyaotsuka.com/chugaku_kakomon/

それではさっそく解いていきましょう!

全体所感

出典はくどうれいんさんの「氷柱の声」。ちなみに同日の海城も同じ出典になりました。震災後の社会に翻弄されながらも自分の描きたい絵を追求する高校生の話。

ただ震災の被害者側の視点ではなく、また被災地を支援する側でもない。世の中で起きている事象を客観的、かつ冷静ににとらえ、自分は自分として社会に迎合せずに自分の道を究めていこうという視点。これはなかなか小学生男子には捉えづらいかもしれません。

一般的な道徳論では語りきれない若者の純粋な思いや心情が理解できるかどうか。がんばって読み進めていきましょう!

問一

漢字の書き取り問題。

解答 a:自負 b:謝罪 c:写実 d:金管

問二

傍線①「『大丈夫大丈夫』と独り言を繰り返した」の理由を答える問題。

傍線部を含む一文と前後の文を丁寧に確認します。

30行目:頭では必死に冷静なことを思っても、鼓動が耳のそばでばくばくと聞こえた。揺れが収まった後もしばらくどきどきして、「大丈夫大丈夫」と独り言を繰り返した。不安、恐怖【A】

【ワンポイントアドバイス】

気持ちに関連する表現(人物の表情・しぐさ・言動、情景など)を心情語(=気持ちを表す言葉)に置き換える練習をしてきましょう。

※鼓動が耳のそばでばくばくと⇒「不安、恐怖を感じていた」と表現する

また、40行目の母の「大丈夫だからね、大丈夫。」と大丈夫を2回繰り返すセリフも母子で同じように「大丈夫」を繰り返していることから解答のヒントになりそうだと考えます。

43行目:母の大丈夫、は私に言っているのではなく自分に言い聞かせているようだった【B】

また、少しさかのぼってこのような焦り・不安・恐怖を感じた原因となる場所も探しておくと良いでしょう。

29行目:あまりにも普通ではない揺れだったので【C】

ここで挙げた本文表現の赤字の部分が解答として使えそうです。ただ闇雲につなぎ合わせるのではなく、解答の方針(=大まかな解答の形)を決めてから書き始めます

【C】普通ではない揺れ ⇒【A】不安・恐怖 ⇒【B】自分に言い聞かせる

このような形で答えるのが良いでしょう。

解答例:地震の普通ではない揺れに対する恐怖や不安を収めるため、大丈夫だと自分に言い聞かせたかったから。

問三

傍線②「うそじゃん。と声が出た」このときの私の気持ちを答える問題。

傍線を含む一文と前後の文を丁寧に確認します。

すぐにテレビをつけると、そこに流れたのは、真っ黒い波がいくつもの家を飲み込む映像だった。うそじゃん。と声が出た。うそじゃん。と声が出た原因。

CGか、映画かと思った。波があまりに大きくて遠近感が良くわからない映像だった。現実感がない、信じられない気持ち

解答例:真っ黒な波が家を飲み込む映像が現実のものと受け止められず信じられない気持ち。

問四

傍線③の表現の時の「私」の気持ちに関する正しい文を選択する問題。

傍線③を含む一文を丁寧に確認します。

A:分のからだの中に一本の太い滝を流すような】【B:絵の中の音を描き出すような】、豪快で、繊細な不動の滝で、【C:必ず賞を獲りたい。獲る。】

この傍線③の表現を部分(A~C)ごとに以下のように解釈できます。

A:自分の中の強いこだわり、ゆるぎない信念(=太い滝)

B:滝の激しい音が伝わるほどに勢いのある絵

C:必ず人から評価をされたい

これらを踏まえたうえで、選択肢を見ていきます。

ア:優しい滝の絵・・・「繊細な」というやさしさに通じる表現があるものの「一本の太い滝」「豪快で」などが優しいだけでは表現が足りないので×

イ:○

ウ:現実を忘れさせてくれるような幻想的な・・・「絵の中の音」が聞こえるほど写実的(=リアルな)とあるので×

エ:恐ろしい経験をしたので、それが相手に伝わるような・・・この時点で津波(=恐ろしい体験)と滝を結び付けてはいない。滝を通じて恐ろしさを伝える意識はないため× 

解答:イ

問五

傍線④「……描いた方がいいですか」といった態度を「私」が示す理由を選択する問題。

ここまでの「顧問のみかちゃん」と「私」のやり取りを確認しておきましょう。

67行目:「やる気、ある?」みかちゃんは、懇願のようなシャザイのような何とも複雑な表情をしていた。・・・・「私」がこの依頼について気乗りしないであろうことを「みかちゃん」は感じていたことがわかる。

75行目:「はあ」

79行目:「絆って、何なんですかね。~」

81行目:「ちょっと電気が止まったくらいの私が『応援』なんて、~」

85行目:「じゃあ、何を描けば」

これらの「私」の会話内容や反応をよく確認してから選択肢を吟味していきましょう。

ア:冷たく厳かな滝・・・本文の表現と少しずれる△   自信が持てなかったから・・・「絆」をテーマに被災者を「応援」することに抵抗があるのであって、「自信がない」からではないので×

イ:被害を受けなかったからこそ滝の絵を描く・・・そのようには判断していない、現に家族を亡くした高校生が絵を描いて優秀賞を受賞しているので×

ウ:○

エ:怒りを感じた・・・「はあ」「じゃあ何を描けば」などの態度は戸惑いやうんざりした気持ちを表しますが「怒り」とまでは言えないので×

正解:ウ

問六

傍線⑥ 傍線⑤に関して記者の筆が進まないのはなぜか記述する問題。

102行目:この人たちは、絵ではなくて、被災地に向けてメッセージを届けようとする高校生によろこんでいるんだ。⇒記者(=この人たち)は絵そのものに関心はなく【A】高校生が被災地に応援メッセージを送る姿」を書きたがっているのだという失望を表しています

104行目:記者はいますぐ走り書きができるようにペンを構えて、期待を湛えてこちらを見ている。⇒前の【A】高校生が被災地に応援メッセージを送る姿」に期待をして待ち構えている様子。

106行目:わたしはすこしライフラインが止まったくらいで、たくさんのものを失った人に対して、絆なんて、がんばろうなんて、言えないです⇒記者の期待する【A】高校生が被災地に応援メッセージを送る姿」とは【B】かなり違った内容だったことがわかると思います。

これらを参考に解答方針(=大まかな答案の形)を決めてから書き始めましょう。

【A】を期待していたが【B】であり、戸惑ったため」というような形が良いでしょう。

解答例:高校生が被災地を応援するメッセージを送る姿を期待していたが、期待に反し応援に否定的な態度をとられて戸惑ったため

問七

傍線⑦に関して、「私」は「この絵」について、どのような点をほめてほしかったのか記述する問題。

傍線⑦直前、顧問のみっちゃんが絵を評価する発言をしているのでそこはしっかり確認しましょう。

118行目:「このさ、見上げるような構図。木のてっぺんから地面まで平等に、花が降っているところがすごい迫力んだんだよね。光の線も、やりすぎじゃないのにちゃんと光として見える、控えめなのに力強くてさ(略)」

ここで「見上げるような構図」という表現をどこかて見たな、と気が付けるといいですね。そこで「私」がこの絵を描いているシーンを見直します。

94行目:あまりの花の多さに、花が降るたびに顔をあげてしまう顔をあげるから前向きな絵、と思ったが

95行目:まぶしい光の線を描き足し、タイトルを「顔をあげて」とした

解答例:見上げるような構図が前向きさを表している点。

問八

1

ニセアカシアの絵のことを考えるとからだも頭も重くなるのはなぜか記述する問題。

「からだも頭も重くなる」に近い表現がこれより前に合ったことを思い出しましょう。そう、記者からコメントを求められたあのシーンです!

102行目:この人たちは、絵ではなくて、被災地に向けてメッセージを届けようとする高校生によろこんでいるんだ。そう思ったら胃の底がぐっと低くなって、からだにずっしりとした重力がかかっているような気がしてきた

このシーンから、自分の絵はどうでもよくて被災地の人を応援する姿を記事にしたいという記者の姿勢が「わたし」の心を傷つけていることがわかりますね。これを解答欄に合わせてまとめていきます。

解答例:自分ががんばって描いた絵ではなく被災地の応援をする姿だけが評価されることに失望しているから。

2

この時の「私」にとって「滝の絵に没頭」することの意味を考えて記述する問題。

これは傍線直後に大切な表現が書かれていますので丁寧に読み込んでおきましょう。

131行目:光をはらんだ水しぶきに筆を重ねるごとに、それは【A】ほとばしる怒りであるような心地がした。流れろ。流れろ。念じるように水の動きを描き加えるこの心につかえる黒い靄を【B】すべて押し流すように真っ白な光を、水を、描き足した。

解答例:失望や怒りなどの感情を滝の絵を描くことで押し流すという意味。

問九

傍線⑨「彼女の言葉は不動の滝の絵を描いていた時の自分と重なるものがある」について「彼女」と「私」の重なる点について記述する問題。

まず「不動の滝を描いていたときの自分」はどのような状況だったかを考えます。これは問八で解答した通りで「失望や怒りを押し流す」ような思いで描いていたわけです。

それに対して「彼女」の状況は傍線⑨の少し前の部分から読み取れます。

148行目:暗いがれきの中で泣いて、怒って、悲しんでいたはずの、どこに向かえばよいかわからなくなっていたわたしは、それでも最後にこの双葉を気が付いたら、描いていました。

はい、これでわかりますね。「私」の感じていた怒りや悲しみの感情と「彼女」の感じていたものが重なり、それを絵を描くことでその怒りや悲しみの感情と向き合っていったという点が共通しているということです。

解答例:自分の中にある怒りや悲しみなどを整理できずにいたが、絵を描くことで自分の気持ちと向き合えた点。

問十

傍線⑩に関して、滝の絵が賞を獲れなかった理由を「私」がどう理解したのかを記述する問題。

問題のポイントは「私」がどう理解したのか が問われている点。「私」が「なるほどね」と感じたきっかけとなる出来事に注目します。

このシーンは脇役(失礼!)の榊という先生からかけられた言葉をきっかけとしたものですね。ですからこの何気ない榊先生の言葉が実は重要なんです!

169行目:「CGみてえな絵だな、これ、リアリティがよ。部員が描いたのか?」

171行目:「ちょっと、今このご時世で水がドーンって押し寄せてきて、おまけにタイトルが『怒涛』ってのは、ちょっときつすぎるけど ~ 」

さらに

177行目:さっき榊が言っていた言葉を何度も頭の中で繰り返した。

この表現から榊の言葉を受けて「なるほどね」との思いにつながっていったことは明白ですね。

解答例:水が押し寄せる様子がリアルに描かれていることや「怒涛」というタイトルが津波を連想させるから。

問十一

傍線⑪の時の「私」について述べた正しい文を選択する問題。

傍線⑪の「この絵を見て~頑張ろうって思ってもらえたらうれしいです」というお手本のようなコメントを述べた後の「私」の行動に注目。

185行目:蹴とばそう、と思った。こんなもの、こんなものこんなもの!私は思い切り右足を振り上げて ~略~ 蹴ろうとした。

この動作から「私」は傍線⑪のお手本のようなコメントを否定する気持ちを持っていることがわかりますね。これを参考に選択肢を見ていきます。

ア:○

イ:絵で誰かを元気づけたかった・・・「がんばろうなんて言えない」(107行目)などから絵で人を励ますことに否定的とわかるので×

ウ:自分が受賞できた時のことを具体的に思い浮かべている・・・そのように感じさせる記述が一切なく×

エ:これからは人に評価される絵を描こう・・・最後に評価されなかった滝の絵を抱きしめていることから人から評価されなくても自分の描きたい絵を描こうという意志が見えるので×

解答:ア

問十二

1

傍線⑫の表現に関連して、「私」の震災後の滝の絵に向かう姿勢の変化を二つの段階に分けて記述する問題。

「変化」したということは、変化前と変化後の分かれ目がどこにあるのかを考える。この分岐点となる部分はストーリーの中でも重要な場面であるはずです。

ニセアカシアの花の絵が入賞した際、「自分の絵ではなく被災地を応援する姿だけを評価されている」と感じたことが大きな変わり目になっていることに注目しましょう。

【変化前】【A】

震災後の四月、新学期が始まってから「私」が滝を描き始めた時の様子が書かれている部分。

61行目:私は改めて、集大成の滝を描こうと思った。

63行目:自分のからだのなかに一本の太い滝を流すような、絵の中の音を描きだすような、豪快で、繊細な不動の滝で、必ず賞を獲りたい。獲る

【変化後】【B】

ニセアカシアの花での入賞で自分の絵を評価されていないことに失望感を感じ涙を流した後に「私」が滝の絵を描き始めた部分。

133行目:亡くなった祖母のことや賞のことは、もはや頭になかった。私は気持ちを真っ白に塗り直すように、絵の前に向かった。

【A】だったが【B】となった」というように、問題に指定された「二つの段階」が明確にわかるように記述することを心がけましょう。

解答例:震災後、新学期が始まってからは自分の集大成として豪快で繊細な滝を描き、賞を獲りたいという気持ちを持っていたが、ニセアカシアの花の絵の入賞で絵そのものが評価されないことに失望してからは、人のために描くのではなく自分の感じるままに絵を描こうと決意した。

2

傍線⑬「ひとしきり、私は私の滝を抱きしめていた」が表していることを記述する問題。

「ひとしきり」・・・しばらくの間盛んに続くさま。ひとりっきり。

こちらの意味も抑えておきましょう。

傍線⑬の直前の絵を蹴ろうとしたシーンに注目。

185行目:こんなもの、こんなものこんなもの!私は~勢いよく蹴った。

⇒被災地を応援するコメントをつぶやき、滝の絵を蹴ろうとしました。ここでは結局被災地を応援するような絵でないと評価されない。つまりこの「滝」の絵は評価されることがないという失望、怒りを表しています。

186行目:絵を蹴ることができなかった。

188行目:私は倒れこもうとする滝へ駆け寄った。

⇒「滝」の絵が評価されないことへの失望や怒りをぶつけようとしたがやはり自分が描いた「滝」は否定する気持ちにはなれない。自分が純粋に描きたいものを表現「滝」を大切にしたい=自分の感じるままに描くことを大切にしたい、と改めて感じた。

このような観点で解答をまとめていくとよいでしょう。

解答例:自分の描いた絵が周囲から評価を得られなかったとしても、自分の描いてきたものを否定する気持ちになれず、自分の感じるままに全力で描いた絵をいとおしく感じているということ。

まとめ

いかがだったでしょうか?

物語の主題を深いレベルで理解するとともに人物の細かな言動から心情の動きを読み取るスキルが求められます。人物の一挙手一投足に何らかの思いが隠されているのではないか、よく考えながら読み進めることが大切です。

今回のテーマである、芸術作品の世間一般の評価と製作者の思いのズレというのは良く起きていることではありますが、小6がどこまで理解できるかは、それまでの読書経験や実際の経験に左右される部分があるでしょう。

こうした完成は読書の幅を広げていくことで補完できます。受験勉強の合間に多くの本に触れて感性を磨いていくことも大切なことです。

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