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7/3実施 小6サピックス組み分けテスト 大問3「足の速いおじさん」解説

こんにちは。指導歴20年中学受験国語専門プロ家庭教師のヨッシーです。

夏期講習を目前として各塾の講習に向けた温度が高まっているのを感じます。講習前の組み分けテストも多く予定されていますね。

家庭教師としては各塾そして各学年のテストをすべて解いて指導していかなくてはならないので非常に大変ですが、塾で勤務しているときはほとんど自塾のテストしか解くことができていなかったので、非常に興味深く各塾のテストを解かせていただいています。

模試にはその塾の理念、思想が色濃く反映することを改めて実感しています。

その中でもサピックスのテストの印象はとにかく「濃密」。

毎回文章のテーマが奥深く、最新の話題が反映され、設問の意図が複雑です。

正直、今の時期の小6には濃すぎるよなぁ〜と感じることもありますが、これを振り返り復習を重ねていくことで着実に力をつけられるだろうなと感じるのも事実。

ただし、受けっぱなしでは何の意味もありません。サピックスのテストは振り返りをしてこそ受験した意義が生まれていくると言っても過言ではないでしょう。

そんなサピックスの夏期講習前の大事な組み分けテスト、大問3物語文を解説していきたいと思います。

出典 「足の速いおじさん」宮下奈都

宮下奈都さんの「遠くの声に耳を澄ませて」に所収の「足の速いおじさん」からの出題でした。

同書は過去に栄東や東洋英和女学院で出題されたことがあります。その他、宮下奈都さんの作品で注目すべきなのは「つぼみ」。2020年には麻布・武蔵、その前にも海城、横浜雙葉などで出題されたことのある注目作品です。

重要読解ポイント

P2 12行目

両親には事後承諾だった。仕事を辞めてきた、と告げると母は唇をきつく結び、そのまま何も言わなかった。次はない。いわれるまでもなく、私に次はない。何をしたいのか、どうやって生きていけば良いのか見当もつかなくなる。

→仕事を辞めた娘の報告を受けての母のマイナス反応。そして繰り返し登場する「次はない」という表現。ここは何らかの深い意味がありそうだと捉えてマーキングできると良いですね。ちなみに、8行目にも先輩から「次はない」と諭されていることにも注目です。

P4 12行目

「そうみたいだね、母方の家系はみんな足が速かったんだって」速かった、と過去形にすることに抵抗を感じないわけではなかった。繭子から見れば、私も過去形だ。当然だ。私にとっても私自身が過去形になりつつあった。

P5 2行目

弟がーあんたの叔父さんが、こういうの好きだったの。そうだ、あのときも過去形だった。私はそこに引っかかったのだ。だから覚えている。「こんな玉に夢中になっていたけど、けっこう偉い叔父さんだったのよ」

→主人公の私(七海)は周囲の人間が発する「過去形」の言葉に引っかかりを感じていることがわかりますね。これが本文の重要なテーマです。

それぞれ以下のように解釈ができていると素晴らしいです。

母方は足が速かった→足が速いのは学生時代など過去の話

繭子から見れば私も過去形・・・私が足が速かったのも過去の話

私にとっても私自身が過去形・・・「次はない」状態になった自分はまさに「過去」のものと感じている

あのときも過去形だった・・・叔父さんが過去形で語られている(偉い叔父さんだった・・)ことに自分が重なって感じられる

P8 23行目

次はある。強く信じさえすれば、次は必ずある。祖母が叔父の次を信じて今でも認めようとしているように。

このようにこの文章の主題は「次はない」と追い詰められた主人公が「過去形」で語られる叔父の存在を思いだし、自身も過去のもののように感じ始めたところに、叔父の幸せを信じる祖母との交流を通じて「次はある」と前向きな気持ちを取り戻す、という内容です。

キーワード「次はない」「過去形」「次はある」を意識して内容を深掘りできたかどうかが最大のポイントになります。

重要問題解説

問2 「首筋から背筋に満遍なく鳥肌が立った」のはなぜか?

イ:これまで以上に仕事が忙しくなって・・・この記述はないので×

ウ:望みは一年経ってもかなわないことがわかり・・・かなわないかどうかは自分次第だがやりきれる自信がないというニュアンスなので少しずれるため△

深い失望を感じた・・・「失望」とは落ち込む心理を示しているため「鳥肌が立つ」と合わないので×

エ:楽をすることを第一に考えるようになった・・・・他の仕事に追われて授業の質を保つことが難しくなっただけなので「楽をすること」を考えているわけではないため×

問3「私自身」が「過去形」になるとはどういうことか?

重要読解ポイントで示したキーワードのうち、「次はない」と「過去形」の関係性をつかむことができていれば正解できる問題です。逆にこれが意識できていないと何のことだかわからないでしょう・・・。

ア:中学生の頃のようには走れない・・・塾講師を辞めて次がない状態を「過去形」を表現しているので的外れで×

イ:塾講師を辞めた経験を昔のことだと割り切る・・・まるで辞めたことを前向きに受け止めているような記述なので七海の置かれた状態とは正反対で×

ウ:過去の栄光・・・「栄光」といえるほどの輝かしい経歴や実績があったことは書かれておらず×

問6「地下深くまでびっしり根を張る存在」とあるがどんな存在の言いたいのか?

祖母にとっての叔父の存在がどのようなものかを問う問題です。私(七海)が「次がない」状態から前向きな気持ちを取り戻すきっかけになっている部分であることがつかめていれば、祖母は叔父の幸せを信じている(=「次はある」)となる流れがわかると思います。この流れをつかめたかどうかが結果を左右する問題です。

ア:厄介な存在・・・祖母は「何度も悔やんだ」と言いつつも「表情が翳っていない」と表現されていることから少なくとも叔父の存在をマイナスには捉えていないはずなので×

イ:思い出を大切に生きていこう・・・一見前向きに見えるが、これでは「過去」にこだわっていることになり(叔父を過去の人物として片付けてしまっている)主題と合わないため×

エ:さびしい老後の生活を変えてくれる・・・自分がさびしいので自分のために帰ってきてほしいという自己中心的な考えはないので×

問7「私は祖母の表情が翳っていないことに気づく」とあるがここから祖母についてなにがわかるか?

ア:息子がスペインに行くのを応援・・・スペインに行くとは思っていなかったので×

ウ:後悔をつのらせながらもその思いを必死に抑え・・・祖母は最後のシーンまで叔父の幸せを信じているので後悔を必死に抑えているわけではなく×

エ:息子がアメリカに行ったのは間違い・・・アメリカではなくスペインに行ったらしいので×

問8「不意に胸がつーんとした」とあるがこのときの七海の様子はどうか?

イ:もし叔父が〜死んでいたら・・・このあと七海が前向きさを取り戻すことを考えたら死んでいる想像などしていないことは明らかなので×

ウ:これからは自分が優しくしてあげたい・・・もっともらしいが、祖母に対する思いやりについて記述がなく、祖母の叔父に対する思いが書かれているのみであるため△

叔父にも心の支えとなるような存在が近くにいるだろうかと心配している・・・「心配している」が七海の前向きな気持ちへの切り替わりと合致しないため×

エ:前向きに生きようとする自分を応援・・・前向きになってはいない状態で祖母に話を聞きに行っており前提がずれるので×

問9 「次はない」「次はある」とあるがこの違いから読み取れる七海の心情の変化を説明せよ

最後に主題に関わる問題。さすがサピックス。出題内容の深みが違いますね。

さてこれは冒頭の重要読解ポイントで示した内容をしっかり理解して解いていきたいところです。前提として繰り返し使われる象徴的・比喩的表現は主題・テーマと深い関わりがあると考えマーキングをしておく。本文を一読し終わってからそのキーワードを一度振り返りその意味をじっくり考えるというプロセスが非常に重要になります。

さらに「心情の変化」についての記述。これも書きにくいと感じる子が多いのではないでしょうか。よくありがちなのがいつもの型どおり「〜変化。」という文末にこだわってしまうこと。これだと非常にまとめづらくなります。

変化に関する記述は以下のようにまとめるとまとめやすいです。

【気持ちの変化ー記述の型】

①(以前は・はじめは)Aという気持ちだった

②逆接

③○○をきっかけに

④Bという気持ちになった

これに当てはめて解答を作ります。

①仕事を辞めて、この先どう生きれば良いかがわからなくなり、自分の未来に失望した気持ちだった

②が

③海外で連絡が取れずにいる叔父の幸せを信じ続ける祖母との交流をきっかけに

④自分自身の未来をの幸せを信じて前向きに生きていこうと前向きな気持ちになった

これで句読点入れて120字程度。普通の字の大きさなら解答欄にぴったりになるかと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?

サピックスの物語文は毎回非常に深いテーマを掘り下げることを求められる良問です。

かといってテストの現場でこれが完璧にこなせる子はこの時期かなり少数です。

これが今できていないことを悲観するのではなく、「なるほど、こういうテーマが隠されていたのか!」という深い気づきを繰り返し経験させることが今一番大切なことです。

この経験値は秋以降の得点力、そして入試本番での実力にもつながりますし、何より深く文章を読む経験から読書が好きな子が育っていきます。

「入試が終わったら思いっきりたくさん本を読みたい!」というモチベーションが受験勉強を通じて高まっていくことを願っています。

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