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2026年度 武蔵中国語 入試問題解説
今回は2026年度 武蔵中学校 入試の国語 大問一を解説します。朝比奈秋の小説『植物少女』から出題されました。模範解答(問四〜問七)に完全準拠した解説です。
植物状態の母と向き合う少女の心情が複雑に描かれており、武蔵らしい本格的な文学読解が求められる一問でした。図解も使いながら、丁寧に解説していきます。
📖 文章の概要
- 出典
- 『植物少女』(朝日新聞出版刊)
- 著者
- 朝比奈秋(あさひなあき)
- 主人公
- 高梨美桜(たかなしみお)小学5年生
- 内容
- 出産時の脳出血で植物状態になった母と毎日向き合う少女が、「動かない母」と「写真の中の生き生きとした母」という二つの像の間で揺れながら、母の存在の意味を見出していく物語。
「母とは何か」「自分と母の関係とはどういうものか」という問いを軸にした、自己と他者のアイデンティティの発見。「動かない母」と「写真の母」の二つが同一人物だと気づいたとき、美桜の世界は大きく揺れ動く。
👥 登場人物と人物像
| 人物 | 立場 | 人物像 |
|---|---|---|
| 高梨美桜(わたし) | 主人公・語り手 小学5年生 |
生まれた時から植物状態の母しか知らない。毎日病室を訪れ、母に語りかける。まっすぐな感性を持つ。 |
| 深雪(母) | 美桜の母・入院中 | 美桜出産時に脳出血を発症し植物状態に。意識はないが、把握反射・痛みへの反射は残る。美桜にとって安心の根源。 |
| 吉田さん | 看護師 | 美桜と親しく、やさしく見守る存在。「つねっていいのは、みおちゃんだけ」という言葉に、母娘の絆を大切にする思いが表れる。 |
| 父 | 美桜の父 | 「母は深く寝てるだけ」という幻想を捨てきれず、朝と夜は会いに来ることができない。現実と幻想の間で苦しむ。 |
| 祖母 | 美桜の祖母 | 穏やかで家族を支える存在。美桜に母の過去を伝え、写真を見せる。 |
| みぃさん | あっ君の母 | ヒステリックとも見える強さで回診中も病室に居座る。父・祖母とは対照的な「親」の姿を体現する。 |
登場人物には丸をつけ、人物像のわかる表現に線を引きながら読みましょう。特に父・祖母・みぃさんの「母への向き合い方」の違いが、美桜の心情変化の背景として重要です。
🗺️ 場面の変化
💭 心情変化表
| 場面 | 出来事・きっかけ | ± | 心情表現・しぐさ・情景 | 直接的な心情 |
|---|---|---|---|---|
| 場面① 回診 |
把握反射で母が学生全員の指を握る。自分も列に並んで握ってもらう。 | + | 「母が誇らしかった」「すぐに自分の手も包んでほしくなって」「お腹がくすぐったくなる」 | 誇り・うれしさ |
| 場面② 一人残される ★ |
全員に顔を逸らされ、一人残されてしつこく母をつねる。 | ± | 「満足げな気持ちでみんなを見上げた」「ただの反射じゃないの?」としつこくつねり続ける | 孤独感+確認したい気持ちが混在 |
| 場面③ 夕食 |
入院日と誕生日が同じと気づき、語り続ける。 | + | 「母との結びつきを感じたわたしは嬉しくて」「その偶然を語り続けた」 | 喜び・結びつき感 |
| 場面④ 父が不機嫌 |
父が突然不機嫌になり部屋に引きこもる。 | - | 「まずいことを言ったと気がついたものの、何がまずかったかまったくわからない」「母のようにただ呼吸を続けた」 | 混乱・不安・沈黙 |
| 場面⑤ 写真と母が重なる ★ |
写真の女性と目の前の母が同一人物だと実感する。 | ± | 「急に母がいろんなものを失った人間に思えた」「胸がぎゅっと苦しくなって」「もたれることができなくなった」 | 喪失感・胸の痛み・距離感 |
| 場面⑥ 父が去る |
父が「朝と夜は会いに来たくない」と言い残して去る。 | - | 「後ろ髪引かれるような足音だけが遠ざかっていった」(情景描写) | 取り残された感・孤独 |
| 場面⑦ 安心・一体感 |
写真の母のイメージが消え、いつもの母に戻る。 | + | 「後悔の欠片を感じとれなくて」「心の底から安心して、母に体重を押しつける」「ただ黙って一緒に呼吸するだけになる」 | 深い安心・一体感 |
± がついた行が入試で特に問われやすい場面です。「うれしいのに苦しい」「反射だとわかっているのに確認したい」という複雑な心情を正確に言語化できるかがポイントです。
⭐ 比喩表現とその解説
「食虫植物が虫を捕まえるみたいにふわっと閉じて」
母の「把握反射」の動きを食虫植物にたとえた表現。無意識の生理的反応でありながら、どこか生命の力強さを感じさせます。作品タイトル『植物少女』とも深く呼応する比喩です。
「ブラックホールみたいな母の圧倒的な寡黙さ」
写真や動画の「生き生きとした母」のイメージが吸い込まれて消えてしまう様子を「ブラックホール」にたとえた表現。言葉も音もない母の存在感がいかに強大かを示しています。
「後ろ髪引かれるような足音だけが遠ざかっていった」
父が去る際の足音を描写した情景表現。去りがたい気持ちを抱えたままの父の心情を、足音という音の描写によって間接的に表現しています。
直接「悲しい」「嬉しい」と書かれていない場合でも、情景描写や行動の描写は心情の言い換えです。「なぜ〜したのか」「〜はどういう気持ちを表しているか」と問われたら、行動・情景の奥にある心情を言語化しましょう。
「初対面の人に会いに行く時の打ちかただった」
写真の「知らない女性」に会いに行くような感覚で病院に向かう朝の、心臓の高鳴りを表現。これまで「当たり前」だった母に会うことへの緊張と不安が凝縮されています。
📝 設問解説
提供された解答PDFには問四〜問七と漢字問題の模範解答のみが記載されており、問一・問二・問三の模範解答は含まれていませんでした。誤った解説を載せることを避けるため、問一〜問三の解説は省略しています。模範解答が入手できましたら追記いたします。
問四(記述)
設問:「父と祖母と一緒に写っている女性は、どの写真でもぱっちりと目を開けて立っていた」とあるが、「わたし」がこの「女性」を「母」と呼ばないのはなぜですか。
ずっと目を瞑ってベッドに寝たきりの状態の母しか知らない「わたし」にとって、たしかな意志と感情を示す写真の中の女性は母とは感じられなかったから。
この問題のポイントは、「美桜が知っている母」と「写真の女性」のギャップを正確に押さえることです。
美桜は生まれた時からずっと、目を瞑り・ベッドに寝たきりの状態の母しか見てきていません。植物状態の母が「普通の状態」として体に染みついているのです。
そこに突然現れる「ぱっちりと目を開けて立っている女性」。しかもその女性は「瞳をこっちに向けていて、そこにはたしかな意志と感情があった」と本文に描かれています。美桜が日々接してきた「意識のない母」とは、あまりにも違いすぎる存在に見えたのです。
答案には次の2点を必ず盛り込みましょう。
① 「わたし」が知っている母の様子——「目を瞑ってベッドに寝たきりの状態の母しか知らない」
② 写真の女性の特徴——「たしかな意志と感情を示す女性」
この2点をつなぐ形(「〜しか知らない自分にとって、〜な写真の女性は母とは感じられなかった」)で書きましょう。
問五(記述)
設問:「朝と夜は会いに来たくないわ」とあるが、父がこのように言ったのはなぜですか。
朝と夜には「母」は寝息を立てて寝ている状態になっているので、「母」は深く寝ているだけで目を覚ますのではないかと思ってしまい、心が痛むから。
父は「お父さんとかおばあちゃんはどうしても、今のお母さんは深く寝てるだけやって思ってしまうんや」と語っています。これは父が「母はいつか目を覚ますのではないか」という幻想を捨てきれていないことを示しています。
特に「朝と夜」は、母が寝息を立てて寝ている時間帯です。眠っている姿は「ただ深く眠っているだけ」にしか見えません。そのため父は「目を覚ますんちゃうか」という気持ちに引き戻されてしまい、「会えば嬉しい、でも会えば苦しくなる」という矛盾した感情で心が痛むのです。
「なぜ朝と夜なのか」をきちんと説明することが重要です。「母が寝息を立てて寝ている」という状況が「目を覚ますかもしれない」という幻想を呼び起こす——この因果関係を明確に書きましょう。
問六(選択)★★★
設問:「もたれることができなくなってから、父や祖母のようにパイプいすに座って母の少し前か後ろを眺めるようになった」とあるが、この時の「わたし」の気持ちの説明として最も適当でないものを一つ選び、記号で答えなさい。
| 選択肢 | 内容 | 判定 |
|---|---|---|
| ア | 自分を出産したことでいろんなものを母は失ったのではないかと心苦しく思う気持ち。 | 本文「急に母がいろんなものを失った人間に思えた」「胸がぎゅっと苦しくなって」に合致。○ 適当 |
| イ | 動かず喋らない母こそよかったのに、元に戻ればどうなるだろうかという気持ち。 | 「動かない母こそよかった」という気持ちは、この時点ではまだ描かれていない。最終場面で「それがよかった」と感じるが、写真の母が重なって揺らいでいるこの時期には当てはまらない。× 適当でない → 答え |
| ウ | 父や祖母と同じ思いを共有できるようになって嬉しい気持ち。 | 「そんな見つめ方を今、自分もしているのがわかった」とある。父・祖母と同じ目で眺めるようになったことへの気づきが含まれる。○ 適当 |
| エ | 母が目覚めたら、一緒に何かしてくれるかと期待する気持ち。 | 「仲良くできるかな、怒ったら怖いかな。あとは、休日どこかに連れて行ってくれるだろうか」という具体的な期待が描かれている。○ 適当 |
| オ | 今まで知っていた母と写真の女性とが繋がり、どのように母を見ていいのかわからない気持ち。 | 「うっすらと写真の女性と母が繋がりはじめていた」「もたれることができなくなった」と一致。○ 適当 |
「適当でないもの」を選ぶ問題では、その場面の時点での心情かどうかを確認することが最重要です。イの「動かない母こそよかった」という感情は、物語の最終場面(再び母にもたれかかれるようになった後)に初めて描かれます。この選択肢は時系列がズレているために「適当でない」のです。
問七(記述)★★★ 最重要問題
設問:「母に体重を押しつける」とあるが、ここでの母は「わたし」にとってどのような存在ですか。
言葉も発せず動くこともなく、「わたし」を生んで植物状態になった後悔も感じさせない、ただ「わたし」と寄り添って安心させてくれる存在。
この問いは物語全体の主題と直結する最終問題です。
「母に体重を押しつける」直前の場面を確認しましょう。美桜は母に「〝みお、産まんかったらよかった?〟」と問いかけます。しかし母はただ呼吸を続けるだけで、「後悔の欠片を感じとれません」。そこで美桜は「心の底から安心して、母に体重を押しつける」のです。
この問いには次の3要素が必要です。
① どんな存在か(外見・状態)——「言葉も発せず動くこともなく」
② 安心の根拠——「自分を産んで植物状態になったことへの後悔を感じさせない」(ここが最重要)
③ 美桜にとっての役割——「寄り添って安心させてくれる存在」
②の「後悔を感じさせない」という点を書き忘れると大きな減点になります。
📝 問二:漢字問題
| 問 | カタカナ | 解答 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | バイリン | 梅林 | ウメの林。 |
| ② | アタ〔り〕 | 辺〔り〕 | 「この辺り」で「このあたり・この周辺」の意味。 |
| ③ | サンピ | 賛否 | 「否」は「ひ・いな」と読み否定の意味。「賛否両論」の形で覚えよう。 |
| ④ | ハグク〔む〕 | 育〔む〕 | 「はぐくむ」=大切に育てること。 |
| ⑤ | トナ〔える〕 | 唱〔える〕 | 意見を主張する・声に出して言う。 |
| ⑥ | トロウ | 徒労 | 「徒」はむだ・いたずらの意。「徒労に終わる」でむだな苦労。 |
| ⑦ | ツト〔め〕 | 勤〔め〕 | 「勤め先」=職場・会社のこと。 |
| ⑧ | コウドウ | 講堂 | 学校などの大きなホール。「講」は話す・教えるという意味。 |
「賛否」は「賛成と否定(反対)」を一語にまとめた熟語。「徒労」は「徒=むだ」という意味を覚えると応用が利く。「育む(はぐくむ)」は訓読みと意味をセットで覚えよう。
🔍 重要語句・表現まとめ
🔑 読み取りのポイント(入試対策)
「反射」という言葉の二重性
この文章で繰り返し登場する「反射」という言葉は物語の核心に関わります。教授が「反射は意識とは無関係」と説明する一方、美桜は「ただの反射じゃないの?」と言いながら母の反応を確認し続けます。吉田さんは「お母さん嫌がってるから」と言い、「反射」を超えた何かを母に見ています。「反射」をめぐる登場人物ごとの見方の違いが、人物の心情を読み取るカギです。
「もたれる」という行為の変化
「もたれる」という言葉は、美桜と母の関係性を象徴する行為です。最初は当たり前のようにもたれていた美桜が、写真の母と出会うことで「もたれることができなくなる」。そして最終的に再びもたれかかれるようになる。この変化が物語全体の心情の軸となっています。
主題
この物語の主題は「母とは何か」という問いをめぐる、自己と他者のアイデンティティの発見です。「動かない母」こそが美桜の「母」であり、安心の源であるという気づきは、「普通に生きていた母」との出会いを経ることで、より深い確信として生まれます。
末尾近くの「わたしも植物なんかも」という一節が示すように、「動かない母」と「動いている美桜」の境界が溶けていく感覚。これが作品全体を貫くテーマです。
まとめ
武蔵中学校2026年度の国語は、「表面と本質の違いを読み取る力」が問われました。
問四では「知っている母と写真の女性のギャップ」、問五では「会えば嬉しい、でも会えば苦しい」という矛盾した感情、問六では時系列を追った心情の変化、問七では「安心の根拠」を問う主題問題。これらすべてが、表面的な言動ではなくその奥にある心の動きを丁寧に読み解くことで初めて答えられる問いでした。
「なぜその人はそう感じたのか」「その言動の奥に何があるのか」を常に問いかけながら読む習慣。それが武蔵国語の、そして中学受験国語の本質です。一緒に頑張りましょう!







