2026年度の桜蔭中学校・国語入試は、大問二題構成でした。大問一は藤原辰史氏へのインタビュー記事(説明的文章)、大問二は木村綾子「月の子」からの出題(物語文)です。どちらも記述問題中心の本格的な出題で、桜蔭らしい「読んで考え、自分の言葉で表現する力」が問われました。
大問一|藤原辰史氏へのインタビュー(説明的文章)
文章の概要
ミシマ社による藤原辰史氏(京都大学・歴史学者)へのインタビュー形式の文章です。藤原氏は著書『捨てる』のテーマである「ものを捨てる行為」について語っています。
話題は金継ぎの技術から始まり、日本古来の修復文化、上勝町のゼロウェイスト運動、そして現代の大量消費・大量廃棄社会の問題へと展開されます。「捨てる」という行為を見直すことで、環境だけでなく人間の生き方そのものを問い直す、深い内容のインタビューです。
筆者(藤原氏)の主張の構造
この文章は、具体的なエピソードを積み重ねながら筆者の主張を浮かび上がらせる構成になっています。以下の段落構成図で整理しましょう。
桜蔭 2026 大問一 ― 文章構成図
説明的文章
導入
テーマ提示 ― 「捨てる」とは何か
藤原氏の著書『捨てる』の紹介。出版業界で「売れない本は捨てる」現実から、金継ぎの「壊れたものに新しい価値を生む」逆転の発想へ。日本古来の美意識(漆・金)と修復文化。
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具体例①
「ゴミ」のカテゴライズ
「クズ」「ポロ」「ガラクタ」…ゴミには蔑称が多い。ものに「役立たず」のレッテルを貼ることで簡単に捨てられる仕組み。食べ物の「野菜クズ」「肉のクズ」という分類への疑問。
具体例②
上勝町ゼロウェイスト
かつて産業廃棄物を燃やしていた町が、45種類分別・リサイクル率80%超の先進地に変貌。住民の意識変革と「ちゃぶ台」「くるくるショップ」などの取り組み。
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主張
「捨てる」ことの見直しは人間の生き方の問題
壊れたものを簡単に捨てるシステムは、やがて人間すら「不要」として捨てることにつながる。不完全さを受け入れ、価値を見出す姿勢こそが、地球環境のなかで生きるための基本である。大量生産・大量廃棄の経済を見直し、生存環境を少しずつ整えていくしかない。
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対比構造 ― 「捨てる」社会 vs「生かす」姿勢
この文章の根幹にある対比構造を図解します。藤原氏は「大量消費・大量廃棄の仕組み」と「壊れたものに価値を見出す姿勢」を対照的に描いています。
考え方
壊れたもの・使えなくなったものは「ゴミ」としてすぐ処分する
言葉の仕組み
「クズ」「ポロ」「ガラクタ」など蔑称でカテゴライズし、捨てやすくする
行き着く先
大量生産・大量廃棄。やがて人間にも「役立たず」のレッテルを貼り、切り捨てる社会に
考え方
壊れたものを修復し、元とは異なる新しい価値を生み出す(金継ぎの発想)
実践例
上勝町のゼロウェイスト運動:45種分別・再利用・「ちゃぶ台」で再販売
目指す未来
不完全さや傷を受け入れる。生存環境を少しずつ整えていく姿勢
筆者の主張 → 「捨てる」を見直し、不完全さを受け入れることが、地球で生きるための基本姿勢
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重要語句・表現
- 金継ぎ ― 割れた陶器を漆と金で修復する日本の伝統技術。壊れたことを隠さず、むしろ新たな美として見せる発想がポイント。
- ゼロウェイスト ― ゴミをゼロにする取り組み。上勝町(徳島県)は日本初のゼロウェイスト宣言をした自治体として知られる。
- SDGs ― 持続可能な開発目標。注釈として文中に説明あり。
- カテゴライズ ― 分類・区分すること。ここでは「ゴミ」として名前をつけて捨てやすくする行為を批判的に指す。
- 密閉(問二の注に関連) ― 完全にふさぐこと。
設問解説
問一 漢字(A・B・C)
カタカナを漢字に直す問題です。
A:模様(もよう)
B:重油(じゅうゆ)
C:無敵(むてき)
漢字のポイント
「模様」の「模」は「木へん」であることに注意。「重油」は燃料の名前として覚えておきましょう。「無敵」は「敵」の字をていねいに書くこと。
問二 「逆転の発想」の説明
線部Aとはどのような「逆転の発想」ですか。文中の具体例をふまえて説明する問題です。
破損したものを修復の技術によって直すことで、もとの状態とは違った風合いや、これまでにない価値を備えたものに変えることができるという、発想の転換のこと。
解法のコツ
「逆転」が何から何への逆転なのかを明確にしましょう。ふつうは「壊れた=ダメ」ですが、金継ぎでは「壊れた=新しい美の始まり」になります。この「マイナスからプラスへの転換」を説明できるかがカギです。
問三 空欄補充
(②)に入る言葉を文中から抜き出す問題です。
すきま
問四 上勝町について説明
線部Bに関連し、上勝町のゴミ分別の取り組みとその変遷について説明する問題です。
かつて上勝町では、外部から持ち込まれた産業廃棄物を住民たち自身が焼却するという、大がかりな環境汚染が日常的に行われていた。そうした時代を経験した「おじさん」たちからすると、45種類にも及ぶゴミの分別は当初たいへんな手間だったが、習慣になるにつれて苦労は軽くなり、現在では主体的に「ゴミ処理」に参加することで、先進的な環境保全に携わっているという誇りを持つに至っている。
差がつくポイント
この問題では「変化の過程」を書くことが重要です。①かつての環境破壊の実態 → ②分別導入時の苦労 → ③現在の自負心、と三段階で説明しましょう。単に「ゴミを分別するようになった」だけでは不十分です。
問五 「捨てる」ことと人間の関わり
線部③④に関連し、「捨てるシステム」が人間にどうつながるか、藤原氏の主張を説明する問題です。
傷ついたり壊れたりしたものを簡単に切り捨てる仕組みは、やがて生き物や、その延長にある人間をも安易に排除することにつながる。「不要」というレッテルで分類するのではなく、不完全さや傷・ゆがみをそのまま受け止め、そこに新たな意味を見出すことこそ、この地球上で共に暮らしていくために欠かせない根本的な態度である。
記述のポイント
二段構成で答えましょう。前半で「捨てるシステム→人間を捨てることにつながる」という危険性を示し、後半で「不完全さを受け入れることの重要性」という藤原氏の前向きな主張を書きます。
問六 文章全体の趣旨
藤原氏の主張を全体的にまとめる記述問題です。
地球規模での環境破壊はすでに深刻な段階に達しており、一挙に状況を好転させることは現実的ではない。環境破壊を引き起こしている原因のひとつである「捨てる」という行為を改めること、つまり「ゴミ」と分類されたものに再び用途を与えることを通じて、大量に作り大量に捨てることで成立している経済の仕組みを少しずつ改め、自分たちの暮らす環境を地道に回復させていくほかに、私たちの進む道は残されていない。
最高得点のために
この問題は文章全体の論旨を凝縮する総合問題です。①現状認識(絶望的な環境破壊)→ ②具体策(「捨てる」の見直し・再利用)→ ③目指す方向(経済の修正・生存環境の整備)という三層構造で論理的に書きましょう。
大問二|木村綾子「月の子」(物語文)
作品情報
木村綾子「月の子」より出題。作中に登場する「はてしない物語」はミヒャエル・エンデの有名なファンタジー小説(上田真而子・佐藤真理子 訳、岩波書店)です。
文章の概要
語り手の「私」は小学五年生の女の子。クラスで無視(いじめ)を受けて孤立し、図書室で「はてしない物語」を読みふけります。作中のバスチアンと自分を重ね合わせ、ファンタジーの世界に希望を求める「私」。一方、クラスには「イトケ」(伊藤ケイ子)という、体臭を理由にクラスメイトから避けられている女の子がいます。
やがてクラスでの無視が解け、友達の輪に戻れた「私」ですが、イトケとの関係や自分の本心をめぐって、物語は複雑な心理を描き出します。卒業後も「私」の記憶のなかにイトケの姿は消えず、物語は「私」に自分自身と向き合うことを問いかけ続けます。
登場人物と関係性
「私」
小5女子/語り手
天邪鬼・寂しがり
クラスで無視される
図書室で読書
イトケ
伊藤ケイ子
体臭で避けられる
誰も寄せつけない
「私」の分身的存在
バスチアン
「はてしない物語」
の主人公
望みを叶えるたび
記憶と自分を失う
「私」
→
イトケ
似た者同士だが、孤立をなすりつけた
イトケ
→
「私」
身勝手さを見抜き、軽蔑・憎悪
「私」
→
バスチアン
自分を重ね合わせ、ファンタジーに没入
クラスメイト
→
イトケ
悪意を押しつけて排除
©EduShift 中学受験 国語専門
心情の変化
「私」の心情は、クラスでの孤立→ファンタジーへの没入→無視の解除→新たな不安、と大きく揺れ動きます。特に「+とーが入れ替わる瞬間」が入試で狙われます。
場面①
孤立
クラスで無視されて孤立。図書室で一人「はてしない物語」を読む
-
孤独・つらさ・居場所のなさ→ 現実世界に希望が見いだせない
問四に関連
場面②
没入
バスチアンの物語に自分を重ね、望みどおりの世界を夢見る
+
希望・憧れ・逃避的な安心感→ ファンタジーが唯一の心のよりどころ
問四に関連
場面③
解除
クラスでの無視がなくなり、友達の輪に戻れる
±
安堵の一方で、バスチアンのように孤立するのでは…という不安→ ★+とーが混在する最重要場面
問四(中心)
場面④
イトケ
「べつに全然臭くない!」とイトケを庇うが、本心は自分の存在への苛立ち
±
表面的な正義感 vs 内面の身勝手さ→ ★イトケに見抜かれていた
問五(中心)
場面⑤
回想
卒業後も記憶のなかのイトケの姿が消えない
-
後悔・自問・本心と向き合えない苦しさ→ 「自分が本当に望んでいることは何か」
問六(中心)
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比喩表現・象徴
- 「はてしない物語」のバスチアン ― 望みを叶えるたびに記憶を失い、孤立していくバスチアンの姿は、「私」自身の運命を暗示する象徴です。ファンタジーの世界=逃避先であると同時に、「望みを叶えれば孤立する」という警告でもあります。
- 記憶のなかのイトケ ― 実在のイトケであると同時に、「ありえたかもしれない孤立した自分」の姿。卒業後も消えないイトケの記憶は、「本心と向き合えているか」という問いかけの象徴です。
- 「アウリン」「宝のメダル」 ― 「はてしない物語」に登場するアイテム。注釈では「女王の代わりに記憶が消えていく者」の象徴として登場。
主題
この物語の主題
人は孤立を恐れるあまり、自分の本心を偽ったり、弱い立場の他者を犠牲にしたりしてしまうことがある。しかし、そうして避けた「もう一人の自分」は記憶の中に残り続け、「本当の自分と向き合えているのか」と問い続ける。自分自身の弱さや矛盾を直視することの大切さを描いた物語。
設問解説
問一 漢字(A・B・C)
カタカナを漢字に直す問題です。
A:独特(どくとく)
B:刷ら(すら)
C:興奮(こうふん)
漢字のポイント
「刷る」(する)は「印刷」の「刷」。「摺る」(する)とは別の字です。「興奮」の「興」は画数が多いので、とめ・はね・はらいを丁寧に。
問二 漢字の意味選択
「天邪鬼な」の意味を次から選ぶ問題です。
2(意地悪な、の意味)
問三 空欄補充
線部①にあてはまる漢字二字の言葉を考えて答える問題です。
罪悪(感)
ヒント
文脈から「悪いことをしている」という後ろめたさを表す言葉を推測します。「□□感」の形に入る二字熟語で、イトケに対する「私」のうしろめたい気持ちにあてはまるのは「罪悪」です。
問四 「私」の心情変化
線部③のイトケの言葉を「私」はどのように受け止めたのか、理由を含めて説明する問題です。
クラスで仲間はずれにされていた「私」は、バスチアンと同じように、思い描いたとおりの世界が目の前に現れる力を手にして、望みのない現実を一変させたいと切望していた。ところが、無視が解かれていざ友達の仲間に戻ると、今度はバスチアンが望みを叶えるたびに孤独に陥っていったことが頭をよぎり、再び友人たちの中に受け入れられた自分もまた、同じように独りぼっちになるのではないかという恐れが膨らんだから。
差がつくポイント
この問題では「バスチアンとの重ね合わせ」が必須要素です。①「はてしない物語」のバスチアンと自分を重ねていたこと → ②バスチアンが望みを叶えるたびに孤立したこと → ③それが自分にも起きるのではという不安、と論理をつなげましょう。
問五 イトケとの関係
イトケが「私」を軽蔑し憎んでいた理由を、二人の共通点と「私」の行動から説明する問題です。
「私」が「べつに臭くなんかない!」と声を上げたのは、イトケのためではなく、孤立している自分自身の存在に対する苛立ちからだったことを、イトケは恐らく見透かしていた。イトケは周囲を寄せつけない空気をまとっていたが、「私」もまた孤独を引き寄せる性分で、ひねくれ者であり、人に疎まれる一面を持っていた。根が似ている二人だからこそ、孤立への恐怖からクラスメイトの敵意をイトケに押しつけ、自分は知らないふりをしていた「私」のことを、イトケは心の底から見下し、恨んでいたのだろう。
解答の骨格
三つの柱で組み立てます。①「私」の発言の本当の動機(自分への苛立ち)→ ②二人の類似性(天邪鬼・孤立を引き寄せる性格)→ ③似ているがゆえの軽蔑(「私」が孤立をイトケに押しつけた卑怯さへの怒り)。
問六 物語全体のテーマ
線部⑤とはどういうことか。物語全体をふまえて説明する問題です。
「私」の記憶に残り続けるイトケの姿は、現実の世界で孤立していたかもしれない「もう一人の私」の姿でもある。「私」は孤立することを恐れるあまり、イトケに疎外の役割を背負わせて図書室に逃げ込んだり、本心を隠して周囲と調子を合わせて友人の中に身を置いたりしていた。今のあなたは自分の本心にきちんと向き合えているのか、心の底から求めていることが何なのかわかっているのか――記憶のなかのイトケは、今でも「私」に問い続けているのである。
最難関の記述問題
問六は物語全体のテーマを凝縮する問題です。①「記憶のイトケ=孤立した自分の姿」という象徴的な意味 → ②「私」が本心を偽ってきた具体的な行動 → ③「本心と向き合えているか」という問いかけ、の三点を盛り込みましょう。
まとめ
2026年度 桜蔭中 国語のポイント
大問一は「捨てる」という日常的な行為を通じて、環境問題から人間の生き方まで問う骨太なインタビュー文。大問二は、いじめ・孤立という身近なテーマを「はてしない物語」のファンタジーと重ね合わせ、人間の弱さや自己欺瞞を描いた繊細な物語文でした。
いずれの大問も、表面的な読解にとどまらず「筆者や登場人物の言葉の奥にある真意」を読み取り、自分の言葉で再構成する力が求められています。日ごろから「なぜそう考えるのか」「本当に言いたいことは何か」を考えながら文章を読む習慣をつけましょう。