2026年度 第2回 合不合判定テスト 国語 徹底解説
物語文『君の火がゆらめいている』×説明文「当たり前を問い直す」
四谷大塚 第2回 合不合判定テスト(2026年7月5日実施)/大問1・大問2の2文章を、構造図解つきで読み解きます。
2026年度・第2回の合不合判定テスト、国語の読解2題はどちらも「人の価値」や「当たり前」を問い直すという、いま中学入試で最も出題が増えているテーマでした。物語文は障害のあるきょうだいをもつ中学生の物語、説明文は「なぜ盗んではいけないのか」を哲学で考える文章です。一見まったく別の話ですが、根っこでつながっています。
この記事では、2つの文章を1本にまとめて、それぞれの本文構造を図解で整理し、主要な設問の解き方と、家庭学習でおさえたいポイントまで解説します。
今回の出題構成
大問は全部で4題。読解2題+知識2題という、合不合の標準的な構成です。
- 大問1 物語文:落合由佳『君の火がゆらめいている』(講談社)
- 大問2 説明的文章:戸谷洋志「当たり前を問い直す」(『高校生と考える AI時代の学びの力』左右社 所収)
- 大問3:熟語・語句(哲学を題材にした短文の空所補充など)
- 大問4:漢字の書き取り・読み(キショウ→希少、セントウ→銭湯、号泣→ごうきゅう など)
物語文は「障害のある人に生きる価値やメリットはあるのか」という問いに、説明文は「なぜ盗んではいけないのかという当たり前を、法律以外の根拠で説明できるか」という問いに向き合います。どちらも「当たり前を鵜呑みにせず、自分の頭で考え直す」姿勢を子どもに求める文章です。作問者の意図が一貫しているので、2題まとめて振り返る価値があります。
【大問1】物語文『君の火がゆらめいている』
出典と作品背景
落合由佳『君の火がゆらめいている』(講談社/2025年11月刊)
作者の落合由佳さんは、バドミントンに打ち込む中学生を描いた『マイナス・ヒーロー』でデビューした作家です。本作は、発達障害のある双子のきょうだい・菜々実をもつ中学2年生の葉澄(はすみ)を語り手に、「きょうだい児(障害のあるきょうだいをもつ子ども)」の揺れる心を描いた物語です。
場面設定と登場人物
葉澄には、発達障害があり特別支援学級に通う双子のきょうだい・菜々実がいます。そうした事情もあって、葉澄は障害のある子が通う特別支援学校とのクラス交流会のグループリーダーを押しつけられてしまいます。出し物は「織姫と彦星(七夕)」の劇。準備を進める中で、クラスメイトの柳沼くんが投げかける言葉が、物語の軸になります。
まずは人物関係を整理しておきましょう。
この物語のテーマ
物語の中心にあるのは、柳沼くんが放つ次のような言葉です。障害のある人について「生きてるメリットなんてない」「役に立たない」、そんな人たちと関わるのは「時間の無駄」だ――。あまりに露骨な差別的発言に、葉澄は反発します。しかし、いざ「役に立つってどういうこと?」と問い返されると、葉澄自身もはっきり答えられません。
ここから葉澄は、深い問いに沈んでいきます。人は、何かの役に立たなければ生きている価値がないのだろうか。障害のある子には特別な才能が必要なのだろうか。ただありのままに生きているのでは、だめなのだろうか。――答えの出ないこの問いこそ、作品全体を貫く主題です。
そして物語は、交流会の準備の場面で一つの「答え」に近づきます。葉澄が得意な髪結いを、双子の菜々実も手伝い、クラスの子たちと自然にふれあう。いつもは葉澄が間に入ってとりなしてきたのに、この日は葉澄がいなくても、菜々実は自分の力でみんなの輪に入り、楽しそうに過ごしていた。その光景を見て葉澄は、「こういう光景を、わたしは見たかったんだ。ずっと」と胸をあつくします。「役に立つ/立たない」という物差しの外に、確かな価値があることを、葉澄は光景として受け取るのです。
心情の流れを整理する
設問は葉澄と柳沼くん、二人の心情の動きを追えているかを問います。場面ごとに整理しましょう。
設問のポイント
傍線①(問一)柳沼くんの気持ちのぬき出し
柳沼くんが交流会に全くやる気がない理由を、本文の言葉でぬき出す問題です。「役に立つってどういうこと?」という葉澄の問い返しから「役に立つ」を、「そういうやつらに関わるなんて時間の無駄」という発言から「時間の無駄」を取り出します。あわせて、柳沼が差別的・攻撃的になる背景を選ぶ問題では、その態度の裏に本人の心の傷や、障害のある人を「うらやましい」と感じてしまう複雑な思いが隠れている、という読み取りが必要です。人物の言動の「裏」を読む典型問題です。
傍線②(問三)葉澄が考えたこと
葉澄が考え込んだ内容を二つ選ぶ問題。ここは前述の主題そのもので、「役に立たなければ生きる価値がないのか」「特別な才能がなければいけないのか」という自問を正確につかめているかが分かれ目です。柳沼への単純な反発ではなく、答えの出ない問いに向き合っている点を外さないようにします。
記述(問六)「こういう光景を、わたしは見たかったんだ」
今回の物語文で最も差がつく60字記述です。「こういう光景」の中身を明らかにして、葉澄の気持ちを説明します。解答の骨組みは次の3点です。
- 誰が:障害のある菜々実が
- どんな状態か:葉澄が間に入らなくても、みんなの中で問題なく楽しそうに過ごしている
- 葉澄の気持ち:その光景を見て喜んでいる
傍線あ(問九)「炎」は何を象徴するか
物語の終盤、障害のある子と関わる柳沼くんの、照れたような・恥じるような複雑な表情を見て、葉澄は「柳沼くんの目に炎が見えた」と感じます。この「炎」=柳沼の良心のゆらめきです。差別的にふるまってきた自分を、少し後ろめたく思い始めている――その心の動きを象徴しています。作品タイトル『君の火がゆらめいている』の「火」と直結するので、タイトルの意味を意識できると迷いません。
問十 4人の話し合い
春海・夏生・秋子・冬樹の4人が「柳沼は本当に変わったのか」を議論する、対話形式の設問です。「大きくは変わらないかもしれない」という慎重な見方と、「それでも少なくとも身近な世界は変わる」という前向きな見方の両方をふまえ、「いいほうに世界が変わる」という葉澄の考えを軸にまとめます。
【大問2】説明的文章「当たり前を問い直す」
出典と筆者
戸谷洋志「当たり前を問い直す」(『高校生と考える AI時代の学びの力』桐光学園大学訪問授業/左右社 所収)
筆者の戸谷洋志さんは、立命館大学大学院准教授で、専門は哲学・倫理学。「当たり前」を問い直す哲学は人生の可能性を広げる手段になる、と説く人気の哲学者です。この文章は高校生向けの講義がもとになっていますが、内容はきわめて明快で、中学入試の説明文としても頻出のテーマ(善悪の根拠・倫理)を扱っています。
文章の骨組み
話の出発点は、とても身近な問いです。「コンビニで食べ物を盗んではいけないのは、なぜか?」。多くの人は「法律で禁じられているから」と答えます。私たちの常識的な判断の多くは、法律を根拠にしています。ところが筆者は、法律のない「無人島」を想像させ、「法律がない場所でも、人を殴って食べ物を奪ってはいけないはずだ」と気づかせます。つまり善悪の根拠は、法律がすべてではない。ここから、法律以外の根拠を二つの哲学理論で説明していく、という流れです。
二つの立場を対比で整理する
説明文の核は、功利主義と義務論という二つの考え方の対比です。同じ「殴って奪うのは正しくない」という結論でも、たどり着く理由がまったく違うことをつかむのが読解の勝負どころです。
設問のポイント
問一 接続語の空所補充(A・B・C)
説明文の定番。前後の論理関係を見ます。「法律を根拠にしている」に対して「無人島では法律に当てはまらない」と続く空所は逆接。二つを並べて問う文脈なら選択、言いかえなら換言、と関係を一つずつ判定します。前後の文だけを見て決めるのがコツです。
問三 「られる」の識別
「罰せられる」の「られる」の意味を選ぶ、文法の識別問題です。助動詞「れる・られる」には受け身・可能・自発・尊敬の4用法があります。「罰せられる」は罰を受ける側なので受け身。「〜することができる」に言いかえられるかで可能を、「自然と〜」で自発を、敬意で尊敬を見分けます。
問六 「黄金律」とは何か
「黄金律」の意味を選ぶ問題。多くの宗教や倫理に共通して見られる「自分がしてもらいたい行為を、人に対してもせよ」という道徳の考え方です。筆者はこれを紹介したうえで「説得力としては弱い」と評価している点まで読めると、選択肢を正確に絞れます。
問七 功利主義の数値計算
幸福を点数で考える、功利主義の具体例をたどる問題。自分は食べ物が手に入って幸福が増える一方、殴られた相手は大きく減点されるので、二人分を合計すると全体の幸福は下がる、という論理を数字で追います。本文の各段階の点数を、順を追って当てはめるのがポイントです。
問八 義務論の推論を並べかえ
カントの考え方を、順序立てて並べかえる問題。「自分だけが嘘をつく」→「では全員が嘘をついてもよいとすると」→「誰も信用しなくなる」→「結局その行為は成り立たない」という論理の流れをつかめば解けます。「〜だとすると」「したがって」といった接続表現が、順序の手がかりになります。
記述(問十)と主旨(問十一)
問十は、二つの立場で判断が分かれる場合にどうすべきかを説明する記述。要点は「正しさの定義が違うので、どちらが確実に正しいかは決定できない。だから、より多くの人に納得してもらえる方法で説明することが必要だ」という筋です。問十一は文章全体の主旨で、「当たり前を問い直す」ことが必要な理由=グローバル化で価値観が多様になり、当たり前が通じない相手に、何が正しいかを自分で考えて自分の言葉で説明する力が要るから、という組み立てをおさえます。
2つの文章をつなぐ視点
最後に、なぜこの2題が同じ回に並んだのかをもう一度考えてみましょう。物語文の柳沼くんは「障害者に価値はない」という思いこみを当たり前のように口にし、説明文は「盗んではいけないのは法律があるから」という当たり前を疑うところから始まります。どちらの文章も、世の中の「当たり前」を鵜呑みにせず、自分の頭で問い直すという同じ姿勢を子どもたちに求めているのです。
物語文は「感情」を通して、説明文は「論理」を通して、同じ主題に迫ります。読解力とは、この2つ――心情を追う力と論理を追う力――の両輪だということを、今回のセットは教えてくれます。
家庭学習のポイント
- 物語文:指示語(「こういう」「そういう」)が傍線に含まれたら、記述では必ず中身を具体化する。今回の問六がまさにその型でした。
- 物語文:登場人物の「差別的な言動」は、そのまま受け取らず「裏の心情」を疑う。柳沼くんの傷や葛藤が読めると得点が伸びます。
- 説明文:対比が出てきたら「結論は同じでも理由が違う」パターンを意識する。功利主義と義務論は、その代表例として今後も出ます。
- 説明文:接続語・指示語・文法識別(れる/られる)は、落とすと差がつく「取り切りたい」問題。日々の演習で固めておきましょう。
- 知識:大問4の漢字(希少・銭湯・同窓会・自家製・遠浅・号泣 など)は標準レベル。読み書きの取りこぼしがないよう確認を。
