2026年6月7日実施、小5「第1回 志望校診断サピックスオープン」国語の解説です。出題は漢字・語句の大問1、論説文の大問2、物語文の大問3という構成でした。

この記事では、読解の中心となる大問2(論説文)大問3(物語文)を取り上げ、文章の読み取り方と全設問のねらいを整理します。漢字・語句(大問1)は解説の対象外とします。

大問2/論説文今村翔吾『運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来る』

文章の出典と要約

出典:今村翔吾『運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来る ― 直木賞作家・今村翔吾が伝えたいこと ―』(岩波書店/岩波ジュニアスタートブックス)。直木賞作家である筆者が、自身の体験をもとに「本を読むこと」の意味を語った文章です。

要約:大人になると、すぐに役立つ自己啓発本やビジネス書ばかりが読まれ、小説を読む人は減っていきます。しかし筆者は、すぐに役立つ実用書はエナジードリンクや特効薬のようなもので、効果は一時的だと言います。一方の小説は漢方薬のように、すぐには効かなくても、長く付き合ううちに感受性や想像力を育て、いつか人生の役に立つ。そして、本を読んで頭の中に豊かなイメージを広げる力こそが脳の「パワーアップ」であり、さまざまな見方を身につけた「賢さ」につながるのだ、と主張しています。

筆者の主張をつかむ ― 段落構成

この文章は「本を読む意味とは何か」という問いかけから始まり、実用書と小説を比べながら、最後に小説を読む意義へとたどり着きます。話の流れを図で整理します。

大問2 論説文 ― 段落構成図
問題提起導入
本を読むことにどんな意味があるのか。大人になると小説より実用書が読まれ、小説を読む人は減っていく。
実用書の側面具体
自己啓発本・ビジネス書はすぐ役立つが、短期間で忘れてしまう。エナジードリンク・特効薬のように効果は一時的。
小説の側面対比
小説はすぐには役立たない。漢方薬のように、長い目で付き合うことで感受性や想像力を育てる。
筆者の主張結論
本と対話し、想像力で物語の世界を再現することで頭の中に豊かなイメージが広がる。それが脳の「パワーアップ」であり、広い見方を持つ「賢さ」につながる。

読み取りの軸 ― 対比構造

論説文を正確に読むコツは、筆者が何と何を比べているか(対比)を見抜くことです。この文章では「すぐ役立つもの」と「すぐには役立たないもの」が、たとえを使って対比されています。

大問2 論説文 ― 対比構造図
自己啓発本・ビジネス書
  • すぐに役立つ(即効性)
  • 短期間で忘れてしまう
  • 効果は一時的
  • たとえ=エナジードリンク・特効薬
小説
  • すぐには役立たない
  • 長く付き合ううちに効いてくる
  • 感受性・想像力を育てる
  • たとえ=漢方薬
筆者の立場 → 小説を読み続けることで「賢さ(広い見方)」が育つ
たとえ表現に注目 実用書を「エナジードリンク・特効薬」、小説を「漢方薬」とたとえている点が、この文章の最大の手がかりです。すぐ効くが一時的か、遅く効くが長続きするか。この対比をつかめば、記述問題の答えも組み立てやすくなります。

重要語句

  • 俗っぽい:ありふれていて、品がなくつまらない感じ。問二aで意味が問われました。
  • ダイジェスト:要点を短くまとめたもの。問二bで意味が問われました。
  • 倍速視聴:動画を通常より速い速度で見ること。すき間時間を効率よく使う見方の象徴として登場します。
  • タイムパフォーマンス(タイパ):かけた時間に対する効果・満足度のこと。「時短」を重視する考え方です。

設問解説(大問2)

問一 空欄A〜Cの接続語

解答
A…イ B…ウ C…オ

前後の文がどうつながるかを考えて接続語を選ぶ問題です。実用書の話から小説の話へ話題が移る場面(一方)、前の内容を受けて条件を示す場面(それなら)、言いかえや選択を示す場面(もしくは)など、文と文の関係を一つずつ確かめます。空欄補充は、入れた言葉を実際に当てはめて読み直すと確実です。

問二 ことばの意味(a「俗っぽい」/b「ダイジェスト」)

解答
a…ウ b…イ

「俗っぽい」は、ありふれていてつまらない感じを表します。「ダイジェスト」は、内容を短くまとめたものという意味です。語彙の問題は、知識として知っているかどうかに加え、本文の文脈に合うかどうかでも確かめられます。

問三 抜き出し(小説が「〜もの」につながる十字)

解答
いますぐに役立たない(十字)

大人が小説を読まなくなる理由は、小説が実用書とちがって「いますぐに役立たない」ものだからです。抜き出し問題は、まず探す内容の見当をつけ、次に本文中の場所を特定し、最後に指定字数で確定するという三段階で取り組みます。ここでは「十字」という条件が決め手になります。

問四 記述(②「答え」とはどのようなものか・四十字以内)

模範解答
すぐに役立てられるが、短期間で忘れてしまい、効果は一時的でしかないもの。(36字)

ここでの「答え」は、自己啓発本やビジネス書が示すすぐ役立つ答えを指します。本文ではそれをエナジードリンクや特効薬にたとえ、「すぐ元気になるが維持できない」と説明していました。記述では「①すぐ役立つ → ②しかし短期間で忘れる → ③効果は一時的」という三つの要素を入れてまとめます。

記述のコツプラスの面(すぐ役立つ)だけでなく、マイナスの面(一時的で忘れる)まで書ききることで、筆者の言いたい「答え」の正体が伝わります。

問五 記述(③「長い目で見て、長く付き合って」心がけること・四十字以内)

模範解答
すぐに役立たなくても、いつか役立つと思って小説を読み続けること。(32字)

「長い目で見て、長く付き合って」は、小説との向き合い方を表しています。目先の利益を期待せず、いつか役立つと信じて読み続ける――この姿勢を字数内でまとめます。問四(実用書=すぐ役立つが一時的)と対になる内容だと意識すると、書く方向がはっきりします。

問六 ④「本と対話をしている」のたとえ

解答

「本と対話する」とは、書かれていることをただ受け取るのではなく、内容を自分に置き換えて考え、深く味わうことのたとえです。本文の「書かれていることを自分に置き換える」という表現が手がかりになります。なお、置き換える対象を「過去の自分」だけに限定した選択肢は、本文の趣旨より狭くなるため不適切です。

問七 ⑤「倍速視聴」「タイムパフォーマンス」の良さと反対の良さ

解答

倍速視聴やタイパの良さは、すき間時間を効率よく埋められる手軽さにあります。その反対にある良さとは、本文によれば「読んでいて、自分の感情に応じて一時停止できる」こと、つまり自分のペースでじっくり味わえる良さです。効率の良さと、立ち止まって深く味わう良さを対比的にとらえる問題でした。

問八 ⑥筆者の考える「賢さ」

解答

傍線部の直前で筆者は、本を読むことで多様な考え方が生まれてくると述べています。つまり筆者の言う「賢さ」とは、さまざまな立場や考えを知り、広いものの見方を身につけていることです。単なる知識量や難問を解く力ではない点に注意します。

問九 記述(⑦「パワーアップさせていく」とはどういうことか・五十字以内)

模範解答
すぐれた想像力を活用して本の描く世界を再現することで、頭の中に豊かなイメージを広げること。(45字)

筆者は、最新の映像技術(4K・8K・VR)でも、人間の脳が想像力で描くイメージにはかなわないと述べています。本を読み、すぐれた想像力で物語の世界を頭の中に再現することで、豊かなイメージが広がる――これが脳の「パワーアップ」です。「想像力を使う → 物語の世界を再現する → 豊かなイメージが広がる」という流れでまとめます。

大問3/物語文久門麻耶海「ゲンジ」

文章の出典と要約

出典:久門麻耶海「ゲンジ」(『日本児童文学』第66巻第5号〈2020年9〜10月号〉所収/日本児童文学者協会編・刊)。

要約:母を事故で亡くした「ぼく」(哲)は、ショックで仕事に行けなくなり会社をやめた父とともに、東京を離れ、父の親友ゲンジが住む田舎へ移り住みます。知らない土地での生活に不安を抱える「ぼく」は、父を気づかって自分の悲しみをおさえていました。ある夜、クマのように大きく豪快で優しいゲンジと二人で山に登り、満天の星を見上げます。母のことを「ちっぽけじゃない」と思わず叫んでしまった「ぼく」に、ゲンジは「無理するな、悲しんで悲しんで、ゆっくり起き上がってこい」と語りかけます。父に気がねしてこらえていた「ぼく」は、ゲンジの優しさにふれて涙し、母を失った悲しみと向き合い始めます。

登場人物と人物像

大問3 物語文 ― 人物相関図
ぼく(哲)
主人公。母を亡くし、父を気づかって悲しみをこらえている小学生。
父さん
母の死にショックを受け会社をやめる。故郷の田舎へ移住を決める。
ゲンジ
父の親友。クマのように大きくひげ面。豪快で優しい。田舎でログハウス暮らし。
母さん
事故で亡くなった。お菓子作りが得意で明るい人。回想の中に登場。
父さんゲンジ幼なじみで親友。親より長く一緒にいた
ぼく(哲)父さん親子。互いに悲しみを気づかい合う
ゲンジぼく(哲)温かく迎え、悲しみを受け止める
母さんぼく・父さん心の中に生き続けている存在
主人公
家族
父の親友
回想の人物

心情の変化を追う

この物語の読みどころは、父に気がねして悲しみをこらえていた「ぼく」が、ゲンジとの夜を通して少しずつ心を開いていく過程です。場面ごとの心情を、プラス・マイナス・混在で整理します。しぐさや情景描写(暗い空、満天の星など)も、心情を読み取る手がかりになります。

大問3 物語文 ― 「ぼく」の心情変化表
場面
出来事・きっかけ
±
心情(手がかり)
田舎へ移住
父の決断で、知らない土地へ引っ越す(問二)
知らない土地への不安。→「でも、とにかく、父さんが動いた」と前向きに受け止めようとする
ゲンジと山へ
ゲンジが手をにぎる。焼きたてパンを思い出す(問三)
大きくて優しいゲンジへの安心。→ パンのように優しくにぎり返す
満天の星
山の上で空いっぱいの星を見上げる(問五)
壮大な星空に心を打たれ、解き放たれる感覚。情景描写が心の動きを映す
思わず叫ぶ
母を「ちっぽけじゃない」と叫び、すぐ謝る(問六)
±
★特に重要 母への強い思いと、罪のないゲンジに感情をぶつけた後悔が入りまじる。
星がにじむ
こらえていたがんばりをゲンジが認める(問七)
±
★特に重要 理解されたうれしさと、おさえていた悲しみがこみ上げ、涙が出そうになる。
悲しみと向き合う
「無理するな、悲しんでいい」と言われる(問八・九)
こらえた気持ちを解放し、前を向き始める。悲しみを受け止めた上での前向きさ
+プラス心情
-マイナス心情
±混在(★特に重要)
±が入れかわる場面が問われやすい プラスとマイナスが混ざり合う「思わず叫ぶ」「星がにじむ」の場面は、記述問題(問七)の中心になりました。うれしさと悲しみが同時にこみ上げるといった複雑な心情こそ、入試で最も問われやすいポイントです。

比喩・情景表現

  • ゲンジはクマみたいに大きかった:直喩。ゲンジの体の大きさと、包み込むような頼もしさを印象づけます。
  • 温かくて柔らかいパン:焼きたてのパンは優しくさわらないとつぶれてしまう。ゲンジの手や、傷つきやすい心のたとえとして働き、「優しく接しよう」という気持ちにつながります。
  • 雲のような川のような大きな流れ:天の川を、雲や川にたとえた表現。空いっぱいの星の壮大さを描き、「ぼく」の心が解き放たれる様子と重なります。
  • 心の中の黒い霧:母を失った悲しみや不安のたとえ。星空の下で一度は晴れかけ、また込み上げる――心情の揺れを情景に重ねています。

主題

この物語の主題 父を気づかって悲しみをこらえていた「ぼく」が、父の親友ゲンジの大きな優しさにふれ、母を失った悲しみと素直に向き合っていく。悲しみを受け止めることが、前を向いて生きる第一歩になるという、家族の再生と心の成長を描いた物語です。

設問解説(大問3)

問一 空欄A〜Cに入る音・様子(擬音語・擬態語)

解答
A…ウ B…エ C…ア

場面の動作や心情に合う擬音語・擬態語を補う問題です。心臓が高鳴る「とくん」、力が抜けて垂れ下がる「だらん」、ぐっと飲み込む・うなずく「ごくん」など、それぞれの音や様子が、その瞬間の体の動きや気持ちを表しています。空欄補充は、選んだ言葉を当てはめて前後と自然につながるかを必ず読み直して確かめます。

問二 ①「でも、とにかく、父さんが動いた」から読み取れる気持ち

解答

直前までの「ぼく」は、田舎へ移るという父の決断に対し、知らない土地での生活に不安を感じていました。それでも「父さんが動いた」のだから「なにか変わるかも」と思おうとしています。つまり、不安をかかえながらも父の決断を前向きに受け止めようとして、自分の気持ちをおさえているのがこの場面です。

問三 ②「焼きたては優しくさわらないととつぶれてしまう」を思い出してどうしようと思ったか

解答

ゲンジに手をにぎられた「ぼく」は、焼きたての温かく柔らかいパンを思い出します。パンは優しくさわらないとつぶれてしまう。そのことから「ぼく」は、ゲンジの手を優しくにぎり返しています。荒っぽく見えても本当は優しいゲンジを受け入れ、自分も優しく接しようという気持ちが読み取れます。

問四 ③に関する読み取り

解答

暗くなっていく山道をゲンジと歩いていく場面に関わる設問です。解答はイ。情景の変化(夕焼けから暗い空へ)と、ゲンジに連れられて山へ向かう「ぼく」の気持ちの動きを、本文の流れに沿って確認しましょう。

問五 ④空いっぱいの星をあらわす漢字一字(□天の星)

解答
満 (満天の星)

「ものすごい数の星が光っている」様子を四字の慣用的な表現で言い表す問題です。空全体に星が満ちている様子なので「満天の星」。語彙・慣用表現の知識が問われました。

問六 ⑤「ごめんなさい」は何を謝ったのか

解答

星空の壮大さを前に、ゲンジは「いろんなことがちっぽけにみえないか」と語りました。「ぼく」は思わず「母さんのことは、ちっぽけなことじゃない!」と叫んでしまいます。けれどゲンジは母を軽んじたわけではありません。母の死について何の罪もないゲンジに、自分の感情をぶつけてしまったこと――それを「ぼく」は謝ったのです。

問七 記述(⑥「見上げていた星がにじんだ」のはなぜか)

模範解答
母の死を悲しむ父を気づかい自分自身は悲しみをおさえていたつらさをゲンジに理解してもらえてうれしく思うとともに、おさえていた感情がこみ上げて泣きそうになったから。

「星がにじんだ」は、涙で視界がぼやけた、つまり泣きそうになったことを表します。理由は二つ重なっています。一つは、父に気がねして悲しみをこらえてきた自分のがんばりを、ゲンジが認めてくれたうれしさ。もう一つは、こらえていた悲しみがこみ上げてきたこと。この二つを両方書ききることが大切です。

記述のコツ「うれしい」と「悲しい」という一見反対の感情が同時に押し寄せている場面です。どちらか一方だけでは不十分。±混在の心情をていねいに言葉にしましょう。

問八 ⑦ゲンジが「泣け、泣け」と言ったのはなぜか

解答

ゲンジは「哲、無理するな……悲しんで悲しんで、ゆっくり起き上がってこい」と言います。これは、父に気をつかって悲しみをおさえようとする「ぼく」に、悲しみとしっかり向き合うことで立ち直ってほしいという思いからの言葉です。我慢させるのではなく、思いきり泣くことをすすめている点をつかみます。

問九 記述(このあと「ぼく」がどうなっていくか)

模範解答
母の死を素直に悲しみ、受け止めたうえで、新しい土地で父と支え合いながら前向きに生きていく。

ゲンジの優しさにふれ、こらえていた気持ちを表に出した「ぼく」は、悲しみと向き合う一歩を踏み出しました。物語の最後で「死んだら星になるんだよね。父さん知ってるかなあ」と語り、母の存在を父にも伝えたいと感じています。ここから、悲しみを受け止めたうえで、この土地で父とともに前を向いて生きていくという方向でまとめます。問七・問八で読み取った「悲しみと向き合う」流れと結びつけるのがポイントです。

今回のテスト全体のまとめ

第1回志望校診断サピックスオープンの国語は、性質の異なる二つの長文で構成されていました。大問2の論説文は「小説を読む意味」をめぐる抽象的な議論で、筆者の主張と具体例(比喩)を整理しながら読み進める力が問われました。大問3の物語文は、母を亡くした「ぼく」が田舎での新しい暮らしのなかで悲しみと向き合っていく物語で、登場人物の心情の変化を場面ごとに丁寧に追うことが求められました。

論説文では、「すぐに役立つもの」と「すぐには役立たないもの」という対比を軸に、筆者が小説(=すぐには役立たないが、いつか役立つもの)の価値をどう語っているかを押さえることが最大のポイントでした。記述問題(問四・問五・問九)は、この対比構造をふまえて要素を組み立てると書きやすくなります。

物語文では、父に気がねして悲しみをこらえてきた「ぼく」が、ゲンジの優しさにふれて感情を解き放つという心情の流れをつかめたかどうかが分かれ目でした。問七の記述では「うれしさ」と「悲しみ」が同時に押し寄せる±混在の心情を、両方とももらさず書ききることが大切です。

論説文の「対比をとらえる」力、物語文の「心情の変化を場面で追う」力――どちらも今後の読解の土台になります。間違えた問題は、本文のどこを根拠にすればよかったのかを確認しながら、もう一度解き直しておきましょう。