早稲田アカデミー NN早稲田中コース 第3回オープン模試(2027年度入試 第1回想定)/国語 60点満点
今回の第3回は、大問一が江國香織『川のある街』の物語文、大問二が養老孟司『ものがわかるということ』の説明的文章という構成でした。
大問一は「認知症が進みつつある伯母と、日本から様子を見に来た姪」という、感情が表に出にくい難度の高い場面。大問二は「わかる/わからない」を意識と無意識の関係から説き起こす、抽象度の高い論説です。どちらも早稲田中の出題傾向をよく踏まえた良問でした。
試験全体の構成と配点
- 大問一(物語文)… 30点 問1が各2点×2、問2・問3・問5A・問5B・問7が各4点×5、問4・問6が各3点×2
- 大問二(説明的文章)… 30点 問1が各2点×3、問2・問5・問7が各3点×3、問3が4点、問4Aが2点、問4Bが5点、問6が各2点×2
注目したいのは記述の配点の重さです。大問一の問5(A・B)で8点、大問二の問4(A・B)で7点。合わせて15点、全体の4分の1が記述に振られています。選択肢問題を丁寧に取り切ったうえで、記述で半分以上を確保できるかが分かれ目になります。
もう一点、今回は「ふさわしくないものを選べ」という設問が3問(大問一 問2、大問二 問2・問7)出ています。早稲田中が近年好んで出す形式です。設問文を読み飛ばして「合っているもの」を選んでしまう事故が、毎年一定数起こります。
大問一 江國香織『川のある街』(朝日新聞出版)
どんな場面か
オランダに移住し、同性のパートナーである希子と暮らしてきた伯母・芙美子。その芙美子に「惚け」の症状が出ている、と日本の家族が気づきます。電話中に長く黙り込む、脈絡のないことを口走る、メイルの返信がない。伯母の親しい友人デルクに確認すると、記憶の混乱に加えて徘徊癖もあり、迷子になって警察に保護されたこともあるという。
そこで姪の澪が、伯母の現状を確認し、必要なら帰国を促すというミッションを帯びてオランダへ渡ります。本文は、その滞在中の夕食から帰り道までを描いた場面です。
読み取りの難しさは、視点が澪と芙美子のあいだで移動する点にあります。冒頭は澪の側から書かれていますが、途中から芙美子の内面へと軸が移っていく。「誰の目から見た文章なのか」を意識しながら読む必要がありました。
オランダ在住
記憶の混乱・徘徊
2001年に同性婚
すでに他界
様子を見に来た
芙美子を「二人目の
母親」と思っている
気づく/父が説明役
場面の流れをつかむ
この文章は現在の出来事と回想が細かく入れ替わる構造をとっています。とくに芙美子の意識が過去へ滑り落ちていく場面(問6周辺)は、どこからどこまでが回想なのかを切り分けられないと、心情の把握が難しくなります。
伯母の異変に家族が気づく。澪がオランダへ渡ることになる(傍線部1「日本はあの人には窮屈なんだよ」)
澪から見た伯母の記憶。カードや贈り物、独立独歩の生き方、恋人と暮らすために国を出た勇気
姪との夕食のため芙美子が着替えを繰り返す。ここから視点が芙美子側へ移る(傍線部2「たえまなく変化していて」)
希子と過ごした日々。二人静、ひじき、休日じゅう台所にいた希子。希子の死後、生活が味気なくなった
「こっちに来て何年になるの」。同性婚が認められた2001年、行政より民度(傍線部3)。「日本が恋しくなったりしない?」に「そうねえ」とごまかす(傍線部4)
周囲の喧騒が遠のき、自分がどこにいるのかわからなくなる。両親の姿、レオという犬、少女時代の断片(空欄X直前)
ひとりで街を歩き、道に迷ったような気がする。しかし銀行の裏にアパートを見つけ「この街が芙美子をだますはずがないのだった」(傍線部5)
芙美子の心情はどう動くか
この文章の心情は、激しく振れるのではなく、静かに沈み、最後にわずかに浮上するという動き方をします。派手な感情表現がないので、行動や情景描写から読み取る力が試されました。
設問別の解説
a「一筋縄ではいきそうもない」 「一筋縄」とはもともと一本の縄のこと。そこから「ふつうのやり方」を指します。したがって「ふつうの方法ではうまくいきそうもない」が正解です。
b「心許なかった」 「たよりなく不安で落ち着かないさま」という意味です。「心を許す」という表現につられると「イ 心を許せる人がほしかった」を選んでしまいますが、これは別語です。
「心許ない」は現代語の感覚から外れた語で、正答率が下がりやすい問題でした。語彙は「漢字の見た目」ではなく「意味のかたまり」で覚えることが大切です。
傍線部1「日本はあの人には窮屈なんだよ」は澪の父の発言です。これを受けて澪がどう理解していたかが問われています。傍線部1の後を精読しましょう。
- 「女性は結婚して子供を育てるのがあたり前とされていた時代」→ アは本文に合う
- 「独身をつらぬいて女性の恋人を持つのは大変なことだっただろう」→ ウは本文に合う
- 「恋人と暮すために国をとびだすような、勇気と情熱、決断と行動の人」→ エは本文に合う
残るイは「独立独歩」という人物像自体は適切なのですが、「海外の方が活躍できる」という理由づけが本文にありません。芙美子が国を出たのは活躍のためではなく、恋人と暮らすためです。
傍線部2「世のなかはたえまなく変化していて、芙美子はときどきそれを腹立たしく思う」。
ここは対比で考えるのが定石です。世のなかは「変化している」。腹を立てるということは、芙美子自身は「変化していない」。ではなぜ変化がないのか。希子を亡くして以来、生活に何の変化もなく、味気ない日々を送っているからです。
ア・イ・ウはいずれも本文中の別の出来事を持ってきた選択肢です。傍線部の「たえまなく変化」という語に正面から対応しているのはエだけでした。
傍線部3「行政より民度の方が、はるかに早く成熟するのだ」。「民度」とは国民の生活や進歩の程度のこと。「成熟している」の言い換えを探します。
同じ段落に「性的マイノリティに対して寛容なことで知られるこの国」とあります。「心の成熟」「心が広い」と捉えられることばは寛容です。つまり「同性婚に対しての考え方や捉え方が、国政よりも国民の方が寛容である」ということ。
傍線部4「でもね、の続きが言葉にならない」。芙美子が澪に伝えたかった内容を書く設問です。
解答欄外のことばが最大のヒントになります。
「芙美子は、両親や日本で住んでいた家や街は【A】しないうえ、【B】と思っていること。」
Aの探し方 「〇〇しない」という形で終わるので、末尾は「存在」あたりだと見当がつきます。傍線部3と傍線部4のあいだに「両親」や「当時住んでいた家や街」への言及があります。「恋しいものはもちろんあった」「家族で食事をした」とあり、しかし「それらはもうどこにも存在しないものだ」と続く。ここをまとめます。
Bの探し方 傍線部3の直後「この国の、そういうところが芙美子は気に入っていた」、そして文章末の傍線部5「この街が芙美子をだますはずがないのだった」。核になるのは「この街が好きだ」。ただし希子との関連づけを必ず入れましょう。この街は、希子と一緒に暮らしてきた街だからです。
解答例
A(15字) 楽しくて好きだったが、もう存在
B(21字) 希子と住んできたこの街が何よりも好きなのだ
通してみると──芙美子は、両親や日本で住んでいた家や街は楽しくて好きだったが、もう存在しないうえ、希子と住んできたこの街が何よりも好きなのだと思っていること。
A・Bで計8点。Aは「もう存在(しない)」に着地させる形が見抜けるかどうか、Bは「希子」を入れられるかどうかが得点差になりました。
空欄Xの直前にある「周囲の喧騒」に着目します。傍線部4の後、澪が「おばちゃん?」と声をかけると、芙美子は「周囲の喧騒が遠のき、自分がどこにいるのかわからなくなる」状態に陥り、さまざまな回想をします。そして「おばちゃん? 大丈夫?」と重ねて呼びかけられ、我に返る。
つまり遠のいていた喧騒が「戻ってくる」のです。
傍線部5「この街が芙美子をだますはずがないのだった」。読み進めると、芙美子が希子と過ごしたこの街を深く好んでいることがわかります。
アパートまで送ってもらった後、「ほんのすこしおもての空気を吸うだけのつもりで」外へ出て、運河や川に沿って歩き、道に迷いつつも、そのうちアパートまで戻れるだろうと信じている。実際、銀行の裏にアパートを見つけて「やれやれ」と全身の緊張がほどけます。
ここに表れているのは慣れ親しんだ街に対する安心感・信頼感です。
アは「人々との深い交流」が本文から読み取れません。イは「悪人などいない」まで言っていません。エは「匂い」という表現自体はありますが、「具体的に何かの匂いがしたわけではなく」とあるので不適です。
大問二 養老孟司『ものがわかるということ』(祥伝社)
筆者の論調をつかむ
「他人が自分を理解してくれない」「他人のことがわからない」──多くの人が抱えるこの悩みの原因を、筆者は「前提が違うことを理解していないからだ」と説明します。
そのうえで話は「意味」へ、さらに「意識と無意識」へと展開していきます。抽象度が高く、段落ごとに話題が移るように見えますが、実は一本の筋が通っています。
この文章の対比構造
説明的文章を読むときの最短ルートは対比を見つけることです。この文章には、大きな二項対立がはっきり置かれています。問1bの漢字「対照」がヒントになっているのも面白いところでした。
「前提」から「謙虚」までの論理展開
設問別の解説
早稲田中の漢字問題は、小学校配当漢字だけでなく中学校配当漢字からも出題されます。今回もその傾向どおりでした。
a トウワク → 当惑 「事情などがわからなくてどうすればよいか困ること」。「惑」は小学校では習いませんが、「惑星」「戸惑う」などで見覚えのある字です。
b タイショウ的 → 対照 同音異義語に注意。「対象」「対称」と書き分けます。ここでは「違いがはっきりしている」の意味なので「対照」。
c 驕り → おごり 読みでの出題。難度は高いですが、「いい気になって謙虚な気持ちをなくすこと」という意味です。
設問をよく確認しましょう。「前提」をふまえないとどうなるか、その「ふさわしくない」ものが求められています。
- ア 「住んでいるところが違うから仕方ない」ということを前提にすればハードルが下がる、とあるので、前提をふまえなければハードルは下がらない。合っています
- ウ 「外国のいいところは、通じないという前提から始まること」。「通じない」を前提にしないと「なかなか通じない」と悩む。合っています
- エ ネコが苦手な人はネコを面白いとは思わない。ネコに対する前提が異なる。合っています
- イ 「お互いの『わかってほしい』度合いがぐっと上がってくる」というのは、家族の場合の前提そのものを指しています。前提をふまえない結果ではありません
脱文挿入は、まず脱文そのものを徹底的に確認するのが鉄則です。
冒頭が「だから」という順接で始まっている。ということは、直前には「原因・理由」が来るはずです。「(必ずしも)人は自分の意図で何かをしている」わけではないことの原因が述べられている箇所を探します。
コップで水を飲む具体例の部分──脳が先に水を飲むほうに動き、その後に「水を飲もう」という意識が起きてくる。その続きに「意識は脳がその方向に向かって動いた後から遅れて出てくる。」とあります。ここが原因・理由です。
「直前の六字」なので、句点も一字として数えて書くことを忘れずに。ここで句点を落として五字+αにしてしまう誤答が毎年出ます。
この文章の要旨にあたる部分を記述で問う設問です。大問一の問5と同じく、解答欄外のことばがヒントになります。
「人はみんな『意味』を求めるが、世の中も脳も【A】が大半を占めているのに、【B】と考えるのは謙虚な姿勢ではない。」
Aの探し方 「世の中も脳も」大半を占めている何か、です。傍線部2の前に「意味のないもののほうが大きな割合を占めています」とあります。ここからそのまま取れます。
Bの探し方 「と考えるのは謙虚な姿勢ではない」に続く形。漢字読み取りcの「驕り」の直前に「私は『人間はもっと謙虚になれ』といつも言います」とあり、その前後に材料があります。「自分の行動は、すべて自分でコントロールできていると思っている」という部分と、指定語句「意識」を含む「そもそも意識がすべてをコントロールできると考えるのが間違いです」という部分を組み合わせてまとめます。
解答例
A(7字) 意味のないもの
B(26字) 自分の行動が意識によってすべてコントロールできている
通してみると──人はみんな「意味」を求めるが、世の中も脳も意味のないものが大半を占めているのに、自分の行動が意識によってすべてコントロールできていると考えるのは謙虚な姿勢ではない。
Bは5点。指定語句「意識」を必ず入れること、そして「すべて」という限定を落とさないことがポイントです。
空欄Xの前に「そういう議論」とあることに着目しましょう。どういう議論か。付き合うハードルが上がった状態、家族や夫婦になると「なんでわからないんだ」と相手の意見を直したくなる、結果として大ゲンカになる、という議論です。
つまり筆者が「わかった」のは、自分の意見が変えられないことはもとより、相手の意見を変えさせるのは難しいということ。
エ「自分の意見を変えるのはたやすいことではない」がまぎらわしい選択肢です。それも事実ではありますが、筆者が「わかった」ことの中心は相手の側にあります。
傍線部3「『なんとなく』のコミュニケーション」の直前に「そういう」という指示語があります。指示語の内容を確認できれば答えられる問題です。
連歌の説明部分に「どんな句が詠み継がれるかは、その場の空気や雰囲気しだいです」とあります。
今回3問目の「ふさわしくない」問題。最終設問ではありますが、ていねいに確認しましょう。
ウの選択肢「いまの子供は無意味なものに囲まれ感覚が劣化している」がおかしい。筆者の主張は「意味のあるものばかりに囲まれていては感受性が鈍る」であって、無意味なものはむしろ必要だと述べています。まったく逆になっています。
ア・イ・エ・オはすべて本文に合致します。とくにエ(コップの水の実験)は問3で扱った箇所なので、確認しやすかったはずです。
今回おさえておきたい言葉
- 一筋縄ではいかない ふつうのやり方ではうまくいかない
- 心許ない たよりなく不安で落ち着かないさま
- 独立独歩 他人にたよらず、自分の信じる道を進むこと
- 民度 国民の生活や進歩の程度
- 寛容 心が広く、他人の考えや行動を受け入れること
- 当惑 事情がわからず、どうすればよいか困ること
- 対照 二つを並べたとき、違いがはっきりしていること
- 驕り いい気になって謙虚な気持ちをなくすこと
- 喧騒 人声や物音でさわがしいこと
- 連歌 何人もが句を次々に詠み継いでいく日本の伝統的な文芸
この回から学ぶ3つのポイント
ポイント1 「ふさわしくないもの」を落とさない
今回は60点満点中、「ふさわしくないもの」を選ぶ設問が3問(大問一 問2の4点、大問二 問2・問7の各3点)で計10点ありました。全体の6分の1です。
この形式で失点する子の多くは、実力不足ではなく設問文の読み落としです。対策は単純で、設問を読んだ瞬間に「ふさわしくない」に印をつけ、選択肢一つひとつに丸とバツをつけながら消していくこと。頭の中だけで処理しようとせず、手を動かすことが確実です。
ポイント2 記述は「解答欄外のことば」から逆算する
大問一の問5も、大問二の問4も、解答欄の外にあらかじめ文の骨組みが与えられている形式でした。これは早稲田中とNN模試で繰り返し出る形です。
この形式では、本文を漠然と探すのではなく、まず外枠を読んで「どんな品詞・どんな内容が入れば文が通るか」を決めてしまう。大問一の問5Aなら「◯◯しない」で終わる名詞、大問二の問4Bなら「◯◯と考えるのは」につながる内容。ゴールの形を決めてから本文に戻ると、探す範囲が一気に狭まります。
ポイント3 物語文は「変化していないもの」に目を向ける
大問一の問3は、「世のなかはたえまなく変化していて、それを腹立たしく思う」という一文から心情を読み取る問題でした。ここで必要なのは、傍線部の裏返しを考える発想です。
世のなかが変化して腹が立つ。ということは、自分は変化していない。ではなぜか──希子を失ってから、生活に何の変化もない。この一往復ができるかどうかで、正解にたどりつけるかが決まりました。
物語文では、書かれていることと同じくらい書かれていないこと(対比の相手側)が問われます。傍線部を見たら「その反対は何か」を反射的に考える習慣をつけておきましょう。
※本記事は問題冊子および模範解答・解説をもとに作成しています。解答・配点は配布された模範解答に準拠しています。
