【第3回 女子学院中オープン模試】国語 徹底解説 ― 「将軍」と「一兵卒」、そして「ごめんなさい」から学力を読む
早稲田アカデミー主催「第3回 女子学院中オープン模試」の国語を、大問一から大問三まで通しで解説します。今回は、歌人・伊藤紺さんの初エッセイと、国語科教育学が専門の小学校教諭・岸圭介さんの新書という、いずれも「ことば」と「向き合い方」を主題にした新しい文章が並びました。女子学院の入試そのものが「筆者の比喩を、自分のことばで具体に置き直せるか」を問い続ける学校ですから、この模試はまさにその予行演習になっています。
1. 全体構成と配点
- 大問一(47点) 随筆・エッセイ|伊藤紺『わたしのなかにある巨大な星』|記述4問(4点×2・6点×2・8点×1を含む)
- 大問二(43点) 説明的文章|岸圭介『学力は「ごめんなさい」にあらわれる』|記述2問(6点・9点)
- 大問三(10点) 漢字の書き取り5問(2点×5)
記述の配点だけで合計47点。100点満点の約半分が記述に振られている構成です。記号問題を全問正解しても、記述が白紙なら50点前後で頭打ちになります。女子学院型の答案では、「比喩を外して、本文のことばで言い直す」という作業が得点の中心になることを、まず押さえてください。
2. 大問一|伊藤紺『わたしのなかにある巨大な星』
著者の伊藤紺さんは1993年生まれの歌人。歌集『気がする朝』『肌に流れる透明な気持ち』『満ちる腕』で知られ、本書は「言葉と創作」をめぐる初のエッセイ集として2026年4月に刊行されたばかりです。刊行から数か月での模試出題ですから、読んだことのある受験生はまずいないと考えてよい素材でした。
2-1. 文章の骨格 ― 仕事を「国と国」にたとえる
筆者は、仕事の場面を一貫して戦国的な比喩で語ります。自分は自分の国を背負う「将軍」であり、相手もまた相手国の「将軍」である。だから打ち合わせは、国と国とが誇りと責任感を持ち寄って向き合う場になる。逆に、その自覚を欠いた相手は「一兵卒」と呼ばれます。
この比喩の全体像をつかめるかどうかが、大問一の全設問の土台になります。まず対比を図で確認しましょう。
果たすべき目的を心に置いた一定の緊張感
相手を「相手国の将軍」だと信じる
責任感も緊張感も持っていない
リスペクトを欠く
2-2. もう一つの軸 ―「守るべき大切な国」とは何か
比喩の中で、もっとも読み取りにくいのが「守るべき大切な国」です。ここは筆者が作家であるという事実に立ち返らないと、正しい換言ができません。論理の流れを整理します。
2-3. 設問別解説
設問形式は「もし筆者が( 1 )状態で仕事をすれば、( 2 )可能性があることを十分に覚悟しているということ。」という一文の空欄を、本文をふまえて埋めるものでした。
解答例1=相手にも目的があることを忘れ、責任感や緊張感を持たない
2=双方の合意が成り立たず、仕事がなくなったり成功しなかったりする
「首を取られる」は本来、戦で負けること・手柄を取られることです。それを仕事の話に戻せば、「仕事がうまくいかない」「よい仕事ができない」「仕事が打ち切りになる」という言い換えになります。1には、傍線①の二行前にある「自分の国を背負っているという責任感」「果たすべき目的を心に置き」「ある一定の緊張感をもちながら話し合いたい」を、否定形にして入れるのがコツです。
解答低(「腰が低い」)
傍線②を含む一文に「話し下手で言いたいことをうまく言えず」「相手の顔色を窺って常にヘラヘラ笑い」とあります。相手に対してへりくだっている様子ですから「腰が低い」。身体語彙の慣用句は女子学院型の定番です。
解答ア
「ぐう」という声すら発せない、つまり何も言い返せない状態。しかもそれは、相手から反論の余地のない正論を突きつけられたときに生じます。この「正論を突きつけられて」という条件までセットで覚えておくと、選択肢が一発で切れます。
解答例作家である筆者にとって、自分の作品は心と体が常に豊かで幸せな状態でいるために生み出しているもので、人生と深く結びついていて切り離せないものだから。
傍線④の周辺だけでは比喩が解けません。傍線①を含む段落まで視野を広げると「自分の人生と作品というのはきわめて分かち難く、作品は自分のもっとも深い場所に根ざしている」という説明にたどり着きます。図2の流れをそのまま記述に落とせば満点答案になります。「国民=いろいろな心や体」の要素まで入れられると理想的です。
解答ウ
「一兵卒」は「将軍」と相反する存在として置かれています。ポイントは、ウが述べる「故意に」という要素。本文からは、真剣さを欠く相手がわざとそうしているとは読み取れません。「本文に書いていない条件を足した選択肢」を切る、典型的な消去問題です。
解答イ
傍線⑥を含む段落に、「心意気や利益が一致する」「相手のふるまいや要望を寛大に受け入れられる」という好条件が示されています。それらがそろって初めて「いい仕事」が成立する。つまり好条件があまり存在しないからこそ「奇跡」なのです。「必要不可欠」「運次第でしかない」といった誇張表現の選択肢は、その時点で不適と判断できます。
解答X=エ(前代未聞) Y=ア(右往左往) Z=カ(百戦錬磨)
語群は右往左往・付和雷同・猪突猛進・百戦錬磨・意気消沈・切磋琢磨・前代未聞・十中八九の8つ。8択から3つを選ばせる形式で、消去法が効きにくいのが厄介なところです。
- 前代未聞(X)… これまでに一度も聞いたことがないほど、めずらしいこと。
- 右往左往(Y)… うろたえて、あちこち動きまわること。うまく立ちまわれない自分を筆者が自嘲している場面に対応します。前の問二で「腰が低い」を選ばせた、あの「話し下手で相手の顔色を窺ってしまう」自分と地続きです。
- 百戦錬磨(Z)… 多くの経験を積んで鍛えられていること。筆者は「将軍はみんな同じ」とは考えておらず、「その有能さも経験値もまるでちがう」と述べています。経験値の差という一点に気づけば、ここは迷いません。
四字熟語の空欄補充のコツ 意味を思い出す前に、まず「空欄の前後がプラスの文脈かマイナスの文脈か」を判定します。Yの周辺は明らかに自嘲=マイナス、Zの周辺は相手の力量を認める=プラス。これだけで候補が半分に絞れ、残りを意味で決めれば済みます。
解答ウ
傍線⑦を含む段落に「わたしは決して『将軍はみんな同じ』とは思っていない」「その有能さも経験値もまるでちがう」とあります。つまり筆者の使う「将軍」は、あくまで役割・立場(位)を表すための言葉であって、能力の高さを意味しません。「身分が高い自分」としたアは、比喩の意味を取り違えています。
解答例本業以外の仕事では責任感や誇りが足りないと自覚するふがいない自分に対して、それでも敬意と緊張感をもって接してくれた相手への申し訳なさを感じ、早く成長しなければならないと意気込んでいるということ。
本問が大問一の最高配点(8点)です。難しいのは、筆者は「将軍を自認している」はずなのに、自分の中に「一兵卒」がいると言っているという矛盾をどう処理するか。傍線⑧を含む段落まで戻ると「本業の短歌以外の仕事の場合、自分がまだまだ将軍に足りないというか、至っていないと感じ、つらくなる日もある」という一文があり、これが謎を解く鍵になります。
答案に必ず入れる3要素 ①将軍に至っていない未熟な自分への自覚(ふがいなさ)/②それでも将軍として接してくれた相手への申し訳なさ/③「いつか将軍になる」という決意・意気込み。この3つが立っていないと部分点止まりです。
解答例相手にも仕事をするうえでの背景や目的があることを忘れず、互いに相手が誇りや責任感をもって自分と向き合っているのだと信じる気持ちをもつこと。
傍線②を含む段落の最後に「その人の背負っている背景があり、目的があるということをお互いに忘れないということが大事」「自分が将軍であるということ以上に、相手を相手国の将軍だと信じる気持ちをお互いに持ち続けたい」と、答えがほぼそのまま置かれています。「大事」「〜したい」という筆者の願望表現は、記述の材料が埋まっている場所です。傍線の近くだけを見ていた受験生ほど落としたはずです。
3. 大問二|岸圭介『学力は「ごめんなさい」にあらわれる』
著者は1979年横浜市生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科を卒業し、同大学院教育学研究科の博士後期課程を修了。専門は国語科教育学で、博士(教育学)。早稲田大学系属早稲田実業学校初等部の教諭です。まさに小学生を教えている国語の専門家が、ことばの意味と価値を論じた本で、出題箇所は第1章「ことばの意味と価値」にあたります。
3-1. 文章の骨格 ― A・B・Cの三つの段落群
本文は【A】【B】【C】の三つのまとまりに分けられ、問九ではそれぞれの小見出しを選ばせます。この構成をつかめば、問九だけでなく他の設問の答えの在りかも見えてきます。
3-2. 最大の山場 ―「うざい」をめぐるボタンのかけ違い
9点という大問二最高配点の問五は、同じ一語が、送り手と受け手でまったく別の重さを持ってしまうという事態を説明させる問題でした。ここは対比で整理するのが最短です。
特に配慮することなく、ごく普通のことばとして口にしている
文字通り「めざわりで邪魔な存在」と言われたように感じる
大勢の前でぞんざいに扱われたと受け取っている
3-3. 設問別解説
解答例一回のことばを真剣に届けようとする姿勢を持ち、ことばをていねいに選びながら話し、口にしたことは必ず守り、守らせることで発することばの価値を高める。
要素は本文に散らばっています。①「一回のことばを真剣に届けようとする姿勢」(傍線①の二行後)、②「ことばをていねいに選びながら話す」(六行後)、③「口にしたことは、必ず守る・守らせるということが、ことばの価値を高める」(傍線①の四行後)。傍線の前後10行を必ずスキャンするという原則どおりに拾えば満点です。
解答エ
直後に「もしここで全員がこちらを向く前に話をしてしまえば、子どもは『言っていることとやっていることが違う』と即座に判断して」とあります。つまり子どもは、教師の言動が一致しているか、本当に真剣なのかを確かめている。「本気度を測る」=「確かめている」という換言に至れるかどうかがすべてです。
解答ア
傍線③の二行前に「子どもに注意をするとき、できるかぎり一度でそのことを止めさせるように大人は努めるべきです。自分自身のことばに重みをもたせることにつながるからです」とあります。「何回言えばわかるの」は、この「一度で止めさせる」ことと正反対の効果を持ち、発した人間の側に「わからせる力」が備わっていない状態をつくってしまう。ここまで踏み込めた受験生は多くなかったはずです。
解答④客観 ⇔ 主観 ⑤具体 ⇔ 抽象 ⑥形式 ⇔ 内容(実質)
「形式⇔内容」は取りこぼしが出やすい一組です。「実質」でも可とされています。対義語は語彙集で機械的に覚えるより、説明文の中でセットで使われている場面ごと記憶したほうが定着します。
解答例「うざい」ということばを、注意をうながす程度の意味で使った人と、自分をぞんざいに扱うことばと受け取り傷ついた人との間で、ことばが持つ意味に対する認識が大きく異なっているということ。
図4の左右をそのまま日本語にすれば答案になります。採点上のポイントは、「誰と誰の間で」「何がずれているのか」を明示すること。「認識のずれ」「すれ違い」という抽象語だけで終わらせると、9点のうち半分も入りません。送り手の軽さと受け手の深刻さ、両方を書き切ってください。
解答X=ア(とうとうと) Y=イ(真顔で)
Xの前後は「重い口を開いて、ずっと我慢をしてきたこと」「いかに相手が自分を傷つけてきているかということについて X 語る」。長く我慢したことを一気に話す様子ですから、休みなく自分の思いを語るときに使う「とうとうと」。Yは「自分には、そんなつもりは全然なかった」と返答する場面で、悪意がなかったことを真剣に伝える「真顔で」が入ります。副詞・オノマトペの空欄は、話者の心情ではなく「動作の様子」を先に確定するのがコツです。
解答エ
「うざい」の例が示していたとおり、ある言葉にどんな意味や重みを与えるかには個人差があります。「凝り固まる」とは、成長とともにその意味が固定化し、柔軟な使い方ができなくなること。エの「ことばに自分が身につけた意味以外は与えられなくなる」が最も適切です。アの「一つの意味でしか扱えなくなる」は、問題の所在が「自分が決めた意味に固定される」ことである点を外しています。似た2択を、本文が問題視している角度で切り分ける——女子学院が最も好むタイプの設問です。
解答エ
ア「ことばの意味は、その人の生きた道のりと切り離せないものだから」、イ「ことばは、発するその人がどのような教えを受けてきたかを反映するから」、ウ「ことばが、その人がことばをどう伝えてきたかをも包含して表現するから」は、いずれも本文と合致します。本文には「ことばの意味は、常に自分の経験と隣り合わせで決まっていきます」「『ごめんなさい』を教えた人のことばの重み ― ことばは、こうした一つひとつが絡み合って伝わります」「たった一言の『ごめんなさい』から、伝わる情報は実に多いのです」とありました。
これに対しエは「ことばひとつが他者に伝える情報からわかることは極めて多いから」という理由づけ。「情報が多い」ことと「その人をあらわす」ことの間に、直接の因果関係はありません。設問の条件が「適切でないもの」である点にも注意してください。
解答A=ア B=ウ C=カ
選択肢は次の6つでした。
- ア ことばの価値は聞き手が決める ← A
- イ ことばの軽重は存在するか
- ウ ことばに「悪意がない」という罪 ← B
- エ ことばを介した数々のトラブル
- オ 「ごめんなさい」が持つ価値
- カ 「ことばの教育」の重要性 ← C
じつはこの6つ、原著『学力は「ごめんなさい」にあらわれる』第1章の小見出しから採られています。小見出し選択は、その段落群で繰り返し出てくるキーワードを1つ拾えば決まります。Aなら「聞き手」「届く」、Bなら「悪意」、Cなら「教育」。読みながら段落の脇に一語メモを残す習慣をつけておくと、この種の設問が作業問題に変わります。イとエは、本文にそういう見出しを付けるほどのまとまりがないため外れます。
4. 大問三|漢字の書き取り(2点×5)
- 1 家のマドから外を見る。 → 窓
- 2 大学で言語学をセンモンに学ぶ。 → 専門
- 3 ギュウガワでできた靴を買う。 → 牛革
- 4 メイロのように入り組んだ駅。 → 迷路
- 5 川でサキンを採取する。 → 砂金
配点は10点。ここを2問落とすと、記述1問分(4〜6点)に匹敵する失点になります。漢字は「知っているか」ではなく「毎日書いているか」で差がつく領域です。
5. この模試から持ち帰るべき3つのこと
その1|比喩は「外して」書く
大問一は全編が比喩でできていました。「将軍」「一兵卒」「国」「首を取られる」。記述で求められたのは、これらを比喩のまま繰り返すことではなく、仕事の話に戻して書き直すことです。答案に「将軍」という語をそのまま残した受験生は、ほぼ確実に減点されています。「たとえを、たとえていないことばに置き換える」——この一手を訓練してください。
その2|答えは傍線の「段落の端」にある
大問一の問十も、大問二の問一も、答えの材料は傍線のすぐ隣ではなく段落の最後や、数行離れた場所にありました。特に「〜が大事だ」「〜したい」「〜べきです」という筆者の主張表現は、記述の材料が集まる目印です。傍線を引いたら、まずその段落の頭とお尻を確認する。これだけで記述の得点は変わります。
その3|「送り手」と「受け手」を分けて考える
大問二の中心は、同じ一語が立場によって別の重さを持つという話でした。これは説明文読解の汎用スキルでもあります。登場する立場が二つ以上あるときは、必ず「どちらから見た話か」を欄外にメモする。図4のような表を自分の手で書けるようになれば、この種の文章は怖くありません。
今回の2本は、どちらも刊行されたばかりの新しい本からの出題でした。初見の文章を、その場で構造化して読む力——女子学院が求めているのは、結局のところそれに尽きます。日々の読解演習では、解き終わったあとに「この文章の対比は何と何だったか」を一言で言わせる、という一手間を加えてみてください。

